3歳から始めるめざせポケモンマスター!   作:たっさそ

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3歳児のカントー地方編
第1話 3歳児は転生を果たす


 目の前に神様が居た。

 

「時間がないから手短に説明するぞい。お前はついさっき儂のミスで雷に打たれて死んでしまったがお詫びとしてお主を異世界に転生させることになったのだが、お主が一番好きなゲームの世界に転生させることにしたので、その世界で好き勝手に過ごしてほしいのじゃ。それでは、夢と冒険の世界に、レッツゴー!」

 

 

 と思ったら早口で何事かをまくし立てられて、俺の身体(なぜか半透明だった)は神々しい光に包まれて俺の意識は遠くなった

 

 せめて、『なんでやねん』の一言くらい言わせてくれてもいいじゃないか

 

 

 

 

                  ☆

 

 

「くぁあ………なんだったんだよ、あの神とかいう奴………」

 

 

 伸びをしながら布団から起き上がると

 

「ピッピィ!」

「そして、なんだよ、この変な鳴き声の動物(いきもの)………」

 

 

 目の前にピンク色の未確認生物らしきものがいた

 

「にゃーご!」

「それで、なんでこの猫は額に小判なんか付けているんだ?」

 

 さらには俺の布団の中に変な猫も入り込んでいた

 

「きゃーう」

「そんで、全身が水色の毒々しいトゲを持ったこの生き物もなんなんだか」

 

 

 と、言いつつ。俺の中の冷静な部分がその正体を見破っていた

 

 俺は先ほどの神との会話を思い出す。

 俺の一番好きなゲームに転生させると。

 

 なんだか俺の身体が縮んでいるような気がしていて、ふと鏡が目に入ったので、自分の姿を見てみると、3歳程幼い少年の姿を捕えた

 

「………これが俺か。ずいぶん小さいな。」

 

 俺はこの世界にくる前は20歳を過ぎた普通の社会人だった。

 それがどんな因果か、一番好きなこのゲームの世界に入り込んでしまうとはな。

 ため息を吐きながら頭をガリガリと掻く。

 

「ピィ………」

 

 そんな俺を心配したのか、ピンク色の生き物が不安そうに俺に寄り添ってきた。

 その生物の名は―――

 

「心配いらないよ、ピッピ」

 

 『ピッピ』という“ようせいポケモン”であった。

 

 ぽむっとピッピの頭を撫でると、ピッピは気持ちよさそうに目を細める。

 こいつめ、図鑑の説明でペットにしたい人が多いと書かれるだけのことはあるな。

 かわいいじゃねーか

 

「………というか、ここは何処なんだろう?」

 

 

 それはさておき目下気になっていることはそこであった。

 

 早口の神によると、俺はポケモンの世界に転生してしまったらしい。

 赤ん坊からスタートというわけではないみたいだが、3歳児からのスタートだ。

 どうしようもないぞ。

 

 それに、どことも知れない布団で目覚め、目の前には生きて目の前で動いている『ニャース』『ニドラン♀』『ピッピ』が居るという摩訶不思議な状況。

 

 ………いや、待てよ。

 この組み合わせはどこかで見たことがあるぞ。

 

 たしか………

 

 思考を巡らせたその時。俺が居る部屋の扉がゆっくりと開いた

 

「おや、目が覚めたのかい? ほら、暖かいお茶でも飲んでゆっくりしなさい」

 

 その扉の奥からは、おばあちゃんが出てきた。

 

「ああ、ありがとうございます」

「いいよ。ほれ、おじやも作ってあげたから、食べなさい」

「それじゃ、遠慮なくいただきます………アチッ!」

 

 

 お茶をすすったら熱かった。

 どうやらこのおばあちゃんが俺の保護者らしいな

 そもそも、この世界の俺はいったい誰で何者なのだろう。

 

 

「………おまえさん、この『タマムシマンション』の前で倒れておったぞ。おぼえておらんか?」

 

 おばあちゃんは俺の血縁者ですらなかった、だと!?

 じゃあ俺の両親は何処だ、誰なんだ!?

 

 くそう、倒れていたっていっても全く身に覚えがない。

 だが、『タマムシマンション』か。

 

 その言葉に、カチリと記憶のピースが嵌る音が聞こえた。

 

 

 『タマムシマンション』

 それは初代ポケモン。『赤・緑シリーズ』や『ファイヤーレッド・リーフグリーン』の舞台に登場するタマムシシティに存在するマンションだ。

 

 そして、このおばあちゃんは、そのマンションで『ピッピ』と『ニャース』『ニドラン♀』を飼っていた覚えがある。

 

 このおばあちゃんはそのひとなのだろう。

 

「………まったく覚えていないんだ。助けてくれてありがとうね」

 

「なるほど。それはたいへんだったのう。身分証もなにも持っていなかったようじゃしな。せめておまえさんが10歳を過ぎていたら、トレーナーカードをポケモンリーグ協会からもらえるはずなんじゃが」

 

 顎に手を当てて考え込むおばあちゃん。

 俺はおじやの入った器をおばあちゃんに渡し、お茶をすする。

 

 やっぱり熱いや。

 

 そうか。そういやポケモンの世界では10歳でポケモン図鑑を貰えて旅に出るんだったっけか。

 あれ? それはアニメの話しか。でも10歳でトレーナーカード………つまり身分証がもらえることになる。

 

 といっても、まるっきり三歳児の俺はそんなことできないし、かといってここで世話にになるわけにもいかない。

 

 ん?

 

 

 なにやら服のポケットに違和感を感じた。

 

「もうすこし、ここでゆっくりしていきなさい。すぐにおうちに帰るんだよ?」

 

 そう言って、おばあちゃんは食器を下げた。

 

 おばあちゃんが自分がいる部屋から出ていくと、それを見計らって、ポケットからあるものを取り出す。

 

 四角いボディに黒々とした面。指を触れると光を放つそれは―――スマホだった

 

 実は俺はガラケー派だったんだがな。

 スマホをいじったことは一度もない。

 

 しかし、いま俺が持っているアイテムは、『お茶』と『スマホ』しかないのだ。

 ならば、必然的にこの『スマホ』に頼らざるを得ない。

 

 

 ポチッとな。

 

 電源を入れると、画面に文字が映し出された。

 

『いきなりこの世界に呼び出されて困っているだろう。それもこれも、あの天照(アマテラス)のババァがいきなり喧嘩を吹っかけてきたのがいけないんじゃ。その余波で一般人―――お主を巻き込んでしまったらしい。申し訳ないが、お主が一番好きなゲームの世界に転生させることにした。元の世界、地球にに戻りたいと思っても、すぐには無理じゃ。一度世界に固定した魂を再び分離するには時間がかかるので、条件を定めた。この世界のポケモン図鑑を完成させれば、地球の子供としてもう一度転生させることを約束しよう』

 

 

「はぁ?」

 

 正直言って、意味不明。

 よくわからんが、図鑑を完成させれば地球に帰れるかもしれないらしい。

 それも、元の人生ではなく、新たな生命として。

 

 まぁ、俺はポケモン好きだし、前いた世界に思い残すことはあまりないし?

 この世界で生きて行こうと思うけどさ。

 せっかくこの世界で生きているんだ。図鑑のコンプはしたいだろ。地球に帰るかどうかは置いておいてさ。

 

 別に、この世界では金を稼ぐ手段は簡単だから気にしていない。

 生きていくだけなら簡単だろう。

 

 なぜなら、ポケモン勝負で勝てば相手から金を巻き上げることができるのだから。

 

「そんじゃ、この世界で生きていく覚悟を決めますか。」

 

 よっこらしょ、と布団から起き上がる。

 

 しかし、そのためにはポケモンが必要だ。

 ポケモンが必要ということは、モンスターボールが必要ということだ。

 

 

『PS. お主のポケモン図鑑を用意しておいた。そのスマホじゃ。ポケモン転送装置も兼ねているからパソコンの前に立たなくてもそこからポケモンを手持ちから交換できるぞい。ただし、ポケモンセンターに入らねばその操作はできないがのう』

 

 

 その他、長ったらしい神様(?)の愚痴を無視して追伸を読む

 なるほど。それは便利な機能だ。マサキも真っ青だな。

 自分のパソコンを開こうと思ったのだが、どういう訳か『名前を設定してください』と出ている。

 

 え、どうしよう。本名でする必要はないよな。

 いつもポケモンをするとき、主人公の名前って『てめぇ!』にしてたんだけど。

 

 

 だってそうするとみんな主人公のことを『てめぇ!』って呼ぶからなんかシュールで面白かったんだよな。

 しかし、さすがにポケモンの世界が現実になればそう言うことは出来ないだろう。

 自分で名前を設定できるとすれば、………『きさまァ!』とか………

 もっとダメか。

 

 ええい、ネタネームから離れよう。

 マサラタウンぽい名前にしておこう。

 

 あれ? 主人公の名前は『サトシ』? それとも『レッド』?

 ライバルだってよくわからないな。でもライバルの姉の名前は『ナナミ』だったよな。

 だったら日本語か?

 

 オーキド博士だって『オーキド』は名字で大木戸だろ?

 

 だったらライバルは『大木戸グリーン』っていうのはおかしいよな。

 ならやっぱり『大木戸シゲル』っていう方がしっくりくる。

 

 よし、じゃあ決めた。俺の名前は『レンジ』だ。

 なぜって?

 

 よく聞けよ。頭の髪の色がオレンジ色だったからだ。

 なんとまぁ不思議な髪の色だこと。

 ゲームの世界だと言われなければ納得できませんよこんなもの。

 

 蓮司(レンジ)………。

 

 いい名前じゃないか。よし、コレで行こう。

 

 『レンジのスマホ』を開くと、そこには『ポケモン』というアイコンと『どうぐ』というアイコンがあった。

 

 なるほどね。ポケモンがいわゆる『マサキのパソコン』道具が『レンジのパソコン』と思えばいいはずだ。

 

 とりあえず『どうぐ』のアイコンをタッチすると

 

 

 

 ―――きずぐすりが入っていた。

 

 

「………。」

 

 

 せめてモンスターボールを入れて置いてくれよ………。神様ぁ!

 

 

                   ☆

 

 

 

 さて、これからの行動を整理しよう。

 

 俺はスマホから取り出したきずぐすりを手に目を瞑って考える。

 

 まずは、ポケモンをゲットしなければ何も始まらない。

 そのためには、モンスターボールを手に入れなければならない。

 

 モンスターボールは買わなくてはならない。200円だ。

 

 しかし、モンスターボールは買えない。お金を持っていないから。

 

 お金を手に入れるためには、ポケモンバトルで勝たなくてはいけない。

 ポケモンバトルをするためには、ポケモンが必要である。

 

 しかし、ポケモンがいない。袋小路だ。

 

 

 むんむんと悩んでいると、無邪気にもニドラン♀が俺の膝の上に顎を乗せてすやすやと寝息を立てていた。

 ニャースも俺の右となりで丸くなってゴロゴロと喉を鳴らせている。

 癒しのピッピも、俺が寝ていた布団でうつらうつらとオネムのようだ。

 

 そんな三匹を順繰りに撫でてあげる。

 

「くぅ………」

「ゴロゴロ………」

「くぴぃ………」

 

 

 かわいいなおい。

 三匹のかわいい様子にほっこりだ。

 

「………(ふんす)」

「気分はどうかね?」

「おっと?」

 

 そんな中、おばあちゃんが様子を見に部屋に入ってきた。

 大丈夫かな。鼻息とか荒くなってたような気がする。

 だってこんなに可愛いもふもふが近くにいるんだよ? 興奮しない方がどうかしていると思うな、俺。

 

「だいぶ良くなったよ、おばあちゃん」

「そうかい、それはよかった」

 

 柔らかく微笑むおばあちゃん。

 このおばあちゃんは一応本編ストーリーにも関わるおばあちゃんで、たしか主人公にお茶を渡して、そのお茶を警備員に渡したらヤマブキシティに行けるようになるんだっけ。

 

「おばあちゃん、僕、もう行くよ。助けてくれてありがとうね。またここに来てもいい?」

 

「いいよ。いつでも来なさい。」

 

 おばあちゃんは笑って俺を見送ってくれた。

 

 タマムシマンションからのスタートだ。気合を入れて行こう

 

 まず必要なものは、ポケモンとモンスターボール

 

 10歳からトレーナーの資格を得るというこの世界で、はたしてお店でモンスターボールを購入することができるだろうか。

 

 もしかしたら、お使いかと思われて買わせてくれる可能性もあるだろう。

 しかし、タバコと同じように年齢確認の為にポケモン図鑑を掲示しなくてはならなかった場合は?

 

 その場合は、詰みだ。

 

 生きてゆく術がなくなる。

 

 一応、お金を捻出するだけならば、神様からの選別で手に入ったこのきずぐすりを売るだけでいい。150円で売れるはずだ。

 そしたらフレンドリーショップでおにぎりくらいは買えるだろう。

 

 しかしそれは最終手段。

 できることから始めよう。

 

 

 今、俺にできることといえば。

 

 

 

「待ってろイーブイ!! 今! ナウ! 俺が行くからな!!!」

 

 タマムシマンションの裏口から手に入る、イーブイの確保であった。

 

 

 

 

 


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