やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。 青春よりゲームだ! 作:kue
バレンタインチョコのイベントは無事に終わり、奉仕部の面々は解散となり、二人は電車、俺は自転車を使って家路についていた。
二月も半ばになれば若干、温かくなるかと思ったがそんなことは無く、未だにマフラーなんかが無ければバカみたいに震えてしまう。
「あぁ、寒い寒い」
「そうだね~。こういう寒い日は温かいコタツに足を突っ込んでお鍋でも食べたいね」
「…………何でいるんですか」
「いや~ちょっと追いかけたくて」
大魔王はランダムエンカウントどころかどうやら俺のHPがレッドゾーンに入っている時にはマストエンカウントという最悪のエネミーらしい。
あぁ、マジでシノビダッシュが欲しい。
「で、何の用ですか」
「ちょっとお話しでもしようよ……色々とね」
そう言いながら俺の自転車の荷台に無理やり乗り込み、俺の方を軽く見てくるので仕方なく自転車に乗り、適当に走らせて近くの喫茶店へと向かう。
色々と話と言ってもどうせ俺達が名前で呼び合うようになったことだろう。
あの時は何とか切り抜けたけど今回は切り抜ける気がしないし、そのまま押し倒されるかもしれない。
それに小町はバレンタインの日に受験が当日を迎えるので俺という存在は遅く帰った方が彼女の為にもなるのだ。
グイグイとマフラーを引っ張られ、そっちの方を見て見ると喫茶店を見つけたのでハンドルを切り、そっちの方向へと向かっていく。
こんな時間にもなるとほとんど人はおらず、喫茶店に入っても暖房の温かさだけしか感じれず、人の温もりという奴はほとんど感じられない。
奉仕部で色々とあり過ぎたせいかそんな違和感が気持ち悪く感じてしまう。
「比企谷君は何がいい? お姉さんが奢っちゃうぞ~」
「別にいいですよ。家に帰ったら晩飯ありますし」
「とか言って雪乃ちゃんと一緒にいたら何か食べるんでしょ?」
「……何が言いたいんですか」
そう尋ねた瞬間、店員が近寄ってきてメニューを尋ねてくる。
陽乃さんは適当に頼むが俺は何もいらないことを伝えるとメニューを復唱し、奥の方へと戻っていった。
「雪乃ちゃんってね、昔から私のしてきたことを見て自分を決めてたんだ~」
「そりゃ貴方みたいな人がいて積極的に表に出されてちやほやされていれば妹はそれをお手本にするでしょうよ。兄弟なんてそんなもんですよ」
俺の場合、反面教師になったから小町は全く逆の方向に行ってしまったがな。おいおい、悲しいね。
「分かってないな~……あの子に自分なんてないんだよ。昔から決められたことをしてきただけ」
「……」
「でも……最近はよく自分を出すようになってきたかな? この前なんかね、お母さんと珍しくかる~い言い合いなんかしてたんだから」
「十七、もうすぐ十八にもなれば親と言い合いするでしょ」
「言いあいの内容はね~最近、夜遅くまで出歩いていたりしたこと」
彼女の近況など知らないがもしかしたら夜遅くまで奉仕部の活動で起きていることがあり、もしかしたら由比ヶ浜に呼ばれていったりしているかもしれない。
でもそんなことは許容の範囲内であって……いや、今までの彼女からすれば許容外かもしれない。
「雪乃ちゃんの帰る場所なんて一つしかないのにどうしてそれを壊すようなことするんだろ」
「……帰る場所は一つとは限らないでしょ」
「要するに雪乃ちゃんには別の居場所があると……それが君の言う本物かい? じゃあ、君は雪乃ちゃんが君の下に帰ってきたら受け止められるの? 何も言わずに抱きしめてあげられるの? 何も他のことを考えず、自分のことを騙さずに」
彼女が俺を頼ることは滅多に無いだろう。
だがゼロではない。
もしも彼女が俺に頼ってきたとき、俺は何も言わずに陽乃さんの言うように彼女を受け止められるのだろうか。
もしそうなった時、今の俺では無理だろう。
自分が抱いている物を隠し続けている今の俺では。
「今私ね、お母さんに言われて雪乃ちゃんの家に住んでるんだ。失敗だったんだって……お母さんの今までのやり方は……お父さんは雪乃ちゃんに甘いけどお母さんは私よりも厳しいよ? それでも君は雪乃ちゃんを抱きしめてあげられるの?」
「…………抱きしめられるかはともかく…………奉仕部という関係は無くなりませんよ」
「それは要するにこれ以上の進展はないと?」
「逆ですよ。最低でも……奉仕部という関係があるという事ですよ。もう過去の雪ノ下に戻ることはありませんよ」
そう言い切ると陽乃さんは少し驚いたような表情を浮かべるがすぐに表情を変え、カップに砂糖を入れるとカラカラと音を立てながら軽くかき混ぜ始める。
「ふふっ、そういうこと……進展の余地はある。でも後ろは奉仕部しかない……前に出たもんだね」
「由比ヶ浜も同じこと言いますよ、多分……これ以上、後ろに下がることは無いって」
「ふ~ん……」
陽乃さんはそう言いながら若干、冷めかかっているコーヒーに口をつけた。
俺もそろそろ自分自身に答えを出さなければいけない時期に差し掛かっているのかもしれない。
このまま自分に嘘をつき続けてしまえば迷惑を被るのは自分自身ではなく、雪ノ下雪乃なのだから。
―――――――☆―――――――――
バレンタインイベントから幾何が経過したある日の放課後、その日も空模様は微妙で天気予報によれば荒れ模様になるかもしれないらしい。
奉仕部の部室にはヒーターが設置されているので外に比べれば幾分かは温かいがやはり天下のコタツ様に比べればまだまだ寒い。
明日はバレンタインデーであり、小町の受験日だ。
ハァ。小町のバレンタインチョコをちょっと期待していたのでワクワクしながらゲームのバレンタインランキングをリビングでやっていたが気づいたら夜中の三時だった。
小町ちゃんなら前日に用意しているかなと期待していたがやはり受験勉強が優先されたようだ。
だが一番納得がいかなかったのは夜中の三時にカマクラがやってきてふっ、と呆れたように鼻で笑われた気がした。いや、あれは明らかに俺をバカにした笑い方だったね。
「小町ちゃん、明日だよね」
「ん? あぁ、そうだな。明日受験だな。とりあえず街を破壊して合格祈願のメールを送っておいた」
「あら、あなたにしては気が利くのね。ゲーム谷君」
「どれどれ? 見せてよ~」
そう言われ、由比ヶ浜にスクショを見せてやると一瞬、すげー! と言いたげな表情をするがすぐにうわぁ、みたいな表情で俺を見下してきやがった。
この街並みをつくるのに三時間はかかったんだぞ! 小町から既読つかなかったけど。
「明日だね~」
由比ヶ浜のその一言に雪ノ下が若干、反応を見せた気がした。
いや、気のせいだろう。彼女がそんな浮ついたイベントに反応を見せるなんて……あまつさえ、それに期待している俺なんていやしない…………。
「ヒッキー」
「ん?」
後ろを振り返ると満面の笑みを浮かべている由比ヶ浜がおり、彼女のその手には綺麗に包装がされている小さな箱が握られていた。
「そ、その……い、一日早いけどバ、バレンタイン」
「…………」
「な、何固まってんの?」
「あ、い、いや」
「食べて」
そう言われ、どぎまぎしながら包装を破るとそこには若干、歪な形をしているハートのような形になっているチョコレートがあった。
ハートというか真ん中の谷間のところが深すぎてうさ耳にしか見えない。
前科もあるので恐る恐るかじってみるとほのかな甘さが広がり、その後に若干の苦さが残る。
「どう……かな?」
「由比ヶ浜、お前いつの間にメガ進化したんだ? いや、これは覚醒進化。お前のトレーナーはそれは腕の立つマサラタウンのトレーナーだったんだな」
「なんかバカにされてる気がする」
「安心しろ。バカにしてる」
「ヒドッ!?」
「冗談だ。前に比べたら十分上手い」
「そ、そっか……へへっ」
由比ヶ浜は照れくさそうに小さく笑うとそのまま視線を雪ノ下へと向け、俺もそれにつられてそっちの方へと視線を送ってしまう。
「ゆきのんは……作ってないの?」
「…………」
部室に少し奇妙な沈黙が流れ始める。
「ゆきのん……あたしね。もう逃げないことに決めたんだ……誰かの顔色も窺わない……あたしは全部が欲しいの。この関係もあの関係も……この奉仕部の関係ってある意味危ういよね……だってあたしたちの悩みっていう紐で結ばれているだけだもん……ゆきのんも……あたしも……ヒッキーも」
俺は平塚先生にほぼ強制的に入れられ、厚生を目的としている。
由比ヶ浜はクッキー作りから始まった。
ならば雪ノ下は何に悩んでいるのだろうか。
俺はそれを陽乃さんから聞いた、由比ヶ浜はこれまでの雪ノ下の行動や話で、そして今までの関わり合いの中で薄らと気が付いた。
そう。俺達は所詮、奉仕部という柱にひもで結ばれているだけ。
「あたしはそんなの嫌だ……あたしは……欲しいの。全部……だからもうあたしは」
そう言いながら由比ヶ浜は俺の腕を取るとそのまま抱き付いてくる。
一瞬、言葉を吐きだしそうになるが由比ヶ浜の真剣な横顔の前に俺は口を開けなかった。
「迷わないよ……ゆきのんはそのままでいるの?」
由比ヶ浜はそんな紐だけで結ばれている関係では嫌だと言った。
なら俺はどうする? 彼女はどうする?
いや、そこに彼女なんて言葉はいらない。
比企谷八幡はどうするんだ。
紐で結ばれ続けているだけでいいのか?
「俺は……少なくともこの関係は残る……残って欲しい。過去に戻ることも無く、前に進むことが無かったとしても俺はこの関係だけは残って欲しい……それが俺の本物……なんだと思う」
「ゆきのんは……どうあって欲しいの? どうなって欲しいの?」
「…………私は」
雪ノ下は静かにカバンから包装されている物を取り出すとゆっくりと俺に渡してくる。
これが答えなんだろう。彼女なりの。何物にも囚われていない彼女自身の。
陽乃さんは言った。彼女には自分なんてものは無いと。ずっと私の後ろを歩いてきただけだと。
でも陽乃さんは知らない。雪ノ下が奉仕部で過ごしてきた日々を。
「どう……かしら」
「……やっぱお前は上手いな。何事においても」
「…………由比ヶ浜さんが顔色を窺わずに全部を欲しいというのなら……私も欲しいものがあるの」
「何?」
「でもそれを手に入れるには一つ……解決しなければいけないことがあるの……紐ではなく、確かなもので繋がれるために……一つだけ……私の依頼、聞いてもらえるかしら」
雪ノ下は恥ずかしそうにそう言うと一歩、俺達に近づいてきた。
ここから先の彼女は陽乃さんすら知らない。
俺達しか知らない雪ノ下雪乃。
「うん、聞かせて」
答えて由比ヶ浜はさらに一歩、彼女に近づいて彼女の手を優しく取る。
形作られた歪な形が薄らと雲から顔を覗かせている太陽の光によって照らしだされる。
俺達は最後の仕上げに入る。
紐で結ばれただけの関係ではなく、確かなもので繋がるために。
あれだけ曇天模様だった空には徐々に雲の切れ目ができ、そこから太陽が顔を覗かせていた。
最近、俺ガイルの情報でませんね~。12巻で終わるのか。それともその間に11.5巻が挟まるのか。それでは。