やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。 青春よりゲームだ! 作:kue
問題です。学校内で一番、ボッチにとって邪魔を受けない場所はどこだと思いますか?
正解は…………屋上です。
大体の学校は屋上は立ち入り禁止になっているかもしれないがうちの学校は……どうなんだろ。
その真意を確かめるべく、俺は屋上へと繋がる階段を上がっているのだが物置場と化しているのかさっきから使われてない机や壊れた椅子が乱雑に置かれており、人一人通るのもやっとの狭さだ。
そのやっとの狭さを通り、屋上へと繋がる扉の前に立つと鍵をかけていたであろう南京錠がぷらーんと宙に浮いているではないか。
「ふぅ……いざ」
ボッチのボッチの為だけの楽園へ足を踏み入れた瞬間、地面に人の影があるのに気付き、上を向いてみると給水塔に長く背中にまで垂れかかっている青みがかった髪に覇気のない目、リボンはしておらず開放感満載の胸元をしている女子生徒がもたれ掛っていた。
一瞬、女子生徒と目が鵜が俺はなんのその話しかけることもせずに入り口近くの壁にもたれ掛り、ポケットからPFPを取り出し、電源をつけてゲームを起動させる。
ふふん。やはり誰にも邪魔されない空間はいいものだな……誰にもゲームをしていることについて文句を言われない。
「邪魔」
やる気のない気だるさMaxの声が聞きえ、顔を上げるとさっきの女子生徒が帰ろうとしているのか俺の目の前に立っていた。
何も言わずに横にずれようとしたその時、一陣の風が吹いた……ちなみにスカートも吹いた。
女子生徒は顔を赤くして慌ててスカートを押さえつけるがその間に俺はPFPの画面に視線を落とし、1つのバトルを終わらせてしまった。
女子生徒は怒っているのかカツカツとわざと音を立てながら出ていった。
「…………黒のレース」
ボソッとそう呟いたのは俺しか知らない。
『ゲーマーは職業である。チェスや将棋、カジノに代表されるようなメジャーなゲームから携帯用ゲーム機一つで億単位の金を稼ぐ人もいるし、広告塔として会社と契約をする人だっている。そんな中で俺は在宅アルバイトとしてBテスターをいくつもこなしており、給料もいくらか貰っています。さらに動画でお金も稼いでおりますので将来はこれを発展させ、家にいながら億単位の金を稼ぐ仕事をします。そんなわけで私は職場である自宅へ職業見学へ行きたいと思います。あとできればゲーム制作会社なども見たいです』
職員室には応接間がある。そこは分煙がなされているので今となっては教師たちの喫煙場所となっているのだがそこに俺は呼び出されていた。
もちろん相手は平塚先生だ。
女性でパンツスーツを着こなす人は少ない。すらっと伸びた足に引き締まった腰回り、そのまま視線を上へ向けると二つの山が見える。これこそパンツスーツを着こなす女性の見本である……多分。
そんな綺麗な女性に御呼ばれした俺だがキョロキョロと視線を動かしながら平塚先生と目が合うのを必死に避けている。
何故か…………首から上は大魔王・サタンだからだよ。
「比企谷。私が言いたいこと分かるな?」
「さ、さあ」
こんな状況でゲームをするほど俺はバカじゃない。
い、いつワールドエンドを撃たれるかビクビクする……この人、スキルマに合わせてスキブ20個くらい搭載してるからな。開始と同時にキュイーンだ。キュイーン。
先生は鬼の表情のまま指を順番に折っていき、関節を鳴らしていく。
「この小指がおられた時、貴様は」
「すみませんでした! 書き直して提出します! ていうか提出させてください!」
「当たり前だ。奉仕部で過ごす日々は有象無象の日々だったのかね」
「お、俺はアブソーバー・ボディチップをつけているのでどんな衝撃が来ようかふきとばないんっすよ。だから奉仕部の日々なんてただの日々でしかないというか」
「衝撃のぉぉぉ! ファーストブリットぉぉぉっぉ!」
「ぐおおぉ!」
グ、グジャットフィストだけでは飽き足らずにス、スクライドまで手に入れたとは。
「次は……殺す」
「す、すみません」
「まったく。私の心を傷つけたとしても開票作業を手伝いたまえ」
というわけで美人女教師とドキッ! もしないただただ工場の単純作業のような作業を行う。
はぁ…………もうすぐゲリラが来るんだけどな~。
職業見学なる行事がわが校にはあるのだがそれが行われるのが中間試験が終わった直後だ。
まったくもって迷惑以外の何物でもないな。ゲームができないではないか。
「なんでこんな面倒くさい行事があるんでしょうかね」
「曰く三年次における進路選択のためだ。漠然と試験を受けるのではなく将来を見据えて試験を受けろということだ。比企谷は文系に行くのだろう」
「もちろんです。理系なんて人間がやることじゃないです」
そうはっきり言い切ると先生は額を抑えて深くため息をついた。
できれば文系もしたくないんだがとりあえずは言わないでおく。撃滅されそうだ。
「終わりました。ゲリラゲリラ」
「うっほん!」
「……っと失礼。では」
スマホを取り出そうとしたところで全力の咳払いが聞こえ、慌ててスマホをポケットへと仕舞い、職員室から出てからゲリラへと潜入する。
正直、学校にも来ずにゲームをやっていたいのだがそれをやると本格的にニートになってしまいかねないのでとりあえずはちゃんと大学も行く。そしてそのあとはフリーダムな生活が待っているのだ。
「おっ。チョキ遭遇。幸運なり幸運なり」
「あっ! ヒッキーやっと見つけた!」
「出たな、データブレイカーめ」
そういうが由比ヶ浜は何言ってんのこいつ、なんかキモイと言いたげな表情で俺を見てくる。
「で、何の用だよ」
「人と話す時くらいは顔を見るのがマナーじゃないかしら」
冷たい声音が聞こえ、視線だけを向けると想像通り、雪ノ下雪乃が由比ヶ浜の後ろに立っていた。
「ちょっとたんま。今いいところ……ん。で、どうかしたのか?」
「あなたが部活に来ないから探しに来たのよ、由比ヶ浜さんが」
「とりあえず倒置法での自分は違うっていう否定は止めろ。わかってるから」
「ヒッキーってなんで名前知られてないの? みんな誰それって言ってたし」
だろうね。他人と喋るよりもゲームを優先する俺がクラスの奴らに名前を憶えられているはずがない。おそらくゲームばかりしている引きこもり程度しか認識されていないだろう。
「だ、だからさ……そ、そのヒッキーの携帯番号教えてほしいというか……ほ、ほら! 部活とかで入れ違いになったときとかにいろいろと連絡とかややこしいじゃん」
「え、今? 今勘弁。今ちょっとゲリラ」
とりあえず由比ヶ浜の頼みをいったん下げておき、ゲリラに集中する。
マジで最近、育成計画が遅れに遅れてるからな。ここで遅れを取り戻さねえと。
「終わった……で、なんだっけ」
「だから携帯番号とメアド」
「ん。連絡帳から打っといてくれ」
「え、普通人に渡す?」
「俺、妹とマクドとアマゾンからしか来ねえし。あ、あとゲーム屋とかしか」
「うわっほんとだ!」
由比ヶ浜は俺のメール履歴を見ながらそう叫ぶ。
履歴を見ていいとは言った覚えはないんだがな。
由比ヶ浜もデコデコにデコレーションされた携帯を取り出して結構な速度で俺のメアドと携帯番号を打ち込んでいく。
「貴方、悲しい携帯ね」
「うるせ。それに機種変してから親と妹以外に電話したことないからな」
「それは自慢できることなのかしら」
悲しみの自慢だ。
「完了。空メール送っといたから登録していてね」
「へいへい」
受信履歴欄を開くと確かに見たことのないアドレスからメールが届いており、それをアドレス登録するがその際にどんな名前で登録するか迷った。
…………データブレイカーでわかるか。
彼女には見えないようにそう打ち込んだ。
「じゃ、部活行こうかゆきのん!」
「そうね」
そういい、二人は先に歩き始める。
このまま帰ってもばれないかと思い、静かに後ろを振り返った瞬間、職員室の扉が開いてひょこっと平塚先生の顔が出てきた。
「あ、焦った」
「ん? あぁ、すまない。忘れていたが職業見学は3人1組だ。好きな奴と組むようにな」
「え~。俺の自宅にクラスの奴らが来るなんで嫌です」
「まだ言うかね……ともかく、用紙は提出しなおしだからな」
そういい、平塚先生は職員室の中へと戻った。
特別棟の4階に奉仕部の部室はある。
ちょうどグラウンドを眺めることができる位置にあるが正直、うるさい。
今日も今日とて俺はPFP、由比ヶ浜は携帯をポチポチ、雪ノ下は革のブックカバーをかけた文庫本を読んでおり、すでに二冊目なのか机の上に一冊置かれている。
さて……ここで儀式召喚か、それとも1ターン待ってからか……ん~。奴が伏せたカードが気になるな……大体、あれは奈落の落とし穴なんだよな……よし。セットしよう。
「どうかしたの?」
その時、雪ノ下の声が聞こえたが無視してPFPに集中する。
ん~。なるほどそう来るか……ならばここで発動じゃい!
「ううん。ちょっと変なメール来たの」
「卑猥な内容は送らないほうがいいわよ、比企谷君」
「おい。なぜ俺が犯人だ。ていうか何の話だ」
「あら、恍けるつもりかしら? 貴方、由比ヶ浜さんに卑猥な写真を送り付けたのでしょう?」
「送らねえよ。そもそも俺は生まれてこの方、そういう画像は保存していない」
「たぶん、ヒッキーじゃないと思うよ。なんかクラスのことについてだったし」
いや、俺もあなたと同じクラスなのですがねぇ。
「そう。なら仕方がないわね」
「うおっほぃ。証拠能力認めちゃったぞ」
「最近、たまに来るけど無視してるからいいや」
そういい、由比ヶ浜が携帯をポケットに直して背もたれにもたれ掛ったので俺もPFPに意識を戻し、次の一手を必死に考える。
さて……ここは召喚か、もしくはステイか……ん~。迷うぜ。
必死に考えている時にふと良い匂いがしたのでそっちの方向を向くとまたもや由比ヶ浜が俺のしているゲーム画面をのぞき込んでいる。
なんでこうもリア充はボディータッチを好むのかね。
「あれ? この前とは違う奴じゃん」
「当たり前だろ。古今東西いろんなゲームをしているんだよ。トランプ、チェス、オセロ、将棋、囲碁などのスポーツものからバスケ、サッカー、野球、テニス、そしてRPG、ギャルゲー色々なものだ。ちなみにこれはTCGゲームだ」
「へぇ~。なんだかおもしろそう」
「やめておきなさい、由比ヶ浜さん。それと同じ未来を歩むことになるわよ」
「おい、いつからお前は未来予知をできるようになったんだ?」
「あら、未来予測の間違いよ」
予測も予知もほとんど同じようなものだろうが。だが由比ヶ浜がゲームに興味を示すとは……こいつがいない間に由比ヶ浜もゲームの沼に落としてみるか。
「でもあたし、お金ないからいいや」
「レンタルするぞ。1作品クリアするまで」
「でもお高いんでしょ?」
「おぉ~。そんなことありませんよ。なんと……タダ! タダですよ」
「あ、もしもし? 警察ですか? 変態が健全な女の子を洗脳しようと」
「すみませんでした! 警察は勘弁してください!」
反射的に土下座をし、雪ノ下に許しを請うとあっさりと許してくれたらしく、携帯電話をポケットの中に戻した。
ちっ。やはりこいつがいない間でないと邪魔が入るな。
「あ、そうだゆきのん! 勉強会しようよ!」
「なぜ?」
「ゆきのんって頭いいじゃん! だからお食事会しながら勉強会しようよ! ファミレスで!」
もちろん、その中に俺は入っていない。これこそ俺のクオリティー。
「あ……はぁぁぁぁぁー。レアエネミー!」