やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。 青春よりゲームだ! 作:kue
四カ月ほど待たせてしまって済みませんでした!
二月も入ってからしばらく経ったということもあり、窓は結露し、夜は暖房をつけなければ寒すぎて永遠の眠りにつくんじゃないかと思うくらいに寒くなってしまった。
俺はもちろんゲームする際はまずは風呂桶を用意し、そこに温かいお湯を半分ほどまで入れ、ビニール手袋をした状態で指先を五分ほど温める。意外とこれが温かくて気持ちいいのだ。
そして俺のウォーミングアップは終了し、いつも通りにゲームを行うのだ。最近のゲーム行事としてはランキングがあったんだがそれは今日から始まった。そう。そのランキングのタイトルは題してバレンタインランキング。もうすぐ世の男子どもがそわそわして仕方がない日が来るという事でバレンタイン使用の武器や防具が一色配られるのだ。しかも一位には全ステータスをカンストできるほどの量が配られるというのでみんな頑張ってスコアを稼いでいるのだが誰も一位はなれていない。
何故かって? 俺が一位に決まってるからだろ。ランキングが始まるのは0:00ちょうど。その五分前からさっき言ったウォーミングアップを行い、指を万全の状態にしてランキングに臨むのだ。
驚いただろうな。なんせスコアがカンストしたのだから。
「っべー。なんか甘いもの喰いたいわー」
「それな」
「ほんと」
イヤホンをしている状態でも聞こえてくる戸部の大きな声に思わず反応してしまい、チラッとそちらの方を向くといつもの葉山グループが見えるが葉山以外の男子はそわそわしている。
そりゃ、そうだ。もうすぐバレンタインデーだもの。まぁ、俺は関係ない
―――――比企谷君
「……はっ」
バレンタインデーのことを考えた瞬間に俺の名前を呼ぶあの女の子の顔が思い浮かび、自嘲の念を込めて自分に対してエンハンスとリバース・グラフティーと灼熱の一撃をぶつけるくらいの威力で打ち出す。
最近の俺はおかしい。バレンタインデーなどというものはお菓子企業の策略としか考えず、その日一日をゲームで普通に潰していたのにも拘らず、最近はチョコのことを気にかけてしまう。何故だろうか? Why?
「チョコっと甘いもの食べたくない?」
「…………あ?」
そんなクソ寒いギャグを言った瞬間、三浦からの軽い舌打ちと睨み、そしてあからさまに鬱陶しそうな声というトリプルコンボを食らい、戸部は撃沈した。
どこの魔進さんのトリプルチューンだよ。タイヤカキマゼールでも良いな。
「そう言えばもうそんな時期か」
「隼人君はいいじゃん。いっぱいもらえるし」
「いや実は貰わない様にしてんだよな。隼人君」
大岡の発言を掻き消すように戸部が話を割り込ませる。
大体、葉山のようなイケメンリア充は共通してチョコを貰わないと言い張っている奴を多く見る。大体、そういう奴は昔、チョコ関係とか恋愛関係で泥沼劇を目撃、もしくは経験したことがある連中だ。
恐らく葉山も同じようにそんな経験をしたのだろう。俺? 俺は逆に泥沼劇ではなくサラサラ劇を見たことがあるぞ。うん。罰ゲーム……いや。卒業間近の折本からのチョコは除外したとしても大概の女子から義理チョコなどスルーされている。まぁ、ゲームをし続けていたという事もあるが。
今もこうしてゲームをしているので誰にも話しかけられず、気にも止められない。強いて言えばキモイと言った目線を送られることだろう。
「間に合わないよこんなのー!」
クラスカースト二番目、三番目くらいの女子が必死にチクチク毛糸でマフラーを編んでいるが一割も完成していない様子なのでおそらく間に合わないだろう。
一度、小町に手伝えと言われた時以来、あぁいうのは見たくもない。あの時、一種のゲームと捉え、指をコントローラー、糸を追跡者としてチクチクやっていたら小町よりも早くできてしまい、ぼろ糞に怒られた。激おこ小町丸が誕生した瞬間だ。何故に?
「……ま、手作りとか今更重すぎるし売ってある物ちょちょっと改良すればいいし」
「そっか……重い……よね」
「大切なのは形じゃなくて気持ちなんじゃないかな」
三浦の一言で落ち込んだ由比ヶ浜を励まそうとしているのか葉山が優しく声をかける。
三浦よ。その発言が裏目に出たな。
でもあの連中は楽しいと感じているのだろう。何も変わらないことを望んだ結果、今の状況に不満を抱いているものなどいない。
何も変わらず、誰も傷つかない普段通りの関係。人はそれを冒険心がないだのビビり過ぎだの言うが要は現状維持だ。何もおかしな選択肢じゃない。
もうすぐ冬が終わり、春がやってくるように彼ら彼女らにも自ずと変化はやってくるはずだ。
特別棟へ向かう廊下はこの時期になると非常に寒く、いつものPFPをしながらのスマホゲームをするという行動をすると指が悴んでその後のゲームに支障をきたすのでやらないようにしている。
ふと窓を見てみると室内と室外の温度に差があるらしく、窓のガラスには結露が見られるがそんなことはどうでもいい。まぁ、PFPの画面が結露したら速攻で拭くけどな。
それにしても最近、とあるスマホゲームのランキングイベントはどうなっているのかね。どれもこれも特定のキャラでしかクリアできない様になっているし、代替えしようにもまず倍率が足らないからな。
ま、そんなことなどこの俺には関係なくカンストするくらいの数値を叩きだしているがな。
「ヒッキー」
「おぅ」
「なんで先行くし」
「いや、待ち合わせなんてしてねえだろ」
「それはそうだけどさ……なんか待っててくれてたっぽいし」
「…………待ってねえし」
実はいうと待っていた……なんてことはない。あれはただ単に葉山達のグループがどうなっていたかを観察していただけであって断じて待っていた訳ではない。
まぁ、ほとんど観察なんてせずにゲームしてたけど。
「……と、ところでさヒッキー」
「ん?」
由比ヶ浜の方を向くと彼女は少し考えているような表情を浮かべ、俺から目を逸らすがすぐにこっちの方を向き、小さく笑みを浮かべて少し歩く速度を上げた。
「やっぱりなんでもない。行こ、部室」
「……おぅ」
いつもの廊下、いつもの時間、そしていつもの部室。それは俺が欲していた本物に最も近いものであるかもしれないしまったく遠いものかもしれない。
別にあの2人と俺はゲームで喋りまくっているわけじゃないし、材木座と話している時の様に小説の話が出てくるわけじゃない。
でもいつもいるあの場所にいると俺は――――――。
「やっはろ~!」
「こんにちは、由比ヶ浜さん、比企……八幡」
あ、そういや付き合ってるって設定なんだっけか。
「別に部室くらいは良いだろ」
「それもそうね。ゲーム谷君」
「わざわざ言い直すなよ」
そんなやり取りをしながらいつもの席につき、由比ヶ浜は雪ノ下の方を向き、俺はいつもの様にPFPを再開させ、えっちらほっちらとゲームを始める。
今やっているのはVS:バースト・ストラトスというロボゲーだ。女性にしか動かせないヴァーストストラトスを男でありながら起動した男子が主役のラノベ原作だ。
ルールは簡単。ただひたすら戦うだけ。別に何か要素があるわけじゃないが最近、俺はこれをしている。まぁ、今現時点で所有しているゲームの全ての要素をクリアしたからこれしかやるものないんだけどな。
「ちょっとみんなして私を無視しないでくださいよー!」
「あ、いたんだ」
「ちっ」
「あ、今舌打ちしたー! 舌打ちしましたね先輩! 可愛い後輩が先輩に会いに来てあげたっていうのに舌打ちは酷過ぎます~! そりゃ私よりも可愛い雪ノ下先輩と付き合っているから私の事なんかどうでもいい」
「一色さん。用がないなら帰ってちょうだい」
うわぁ、すげえ冷たい笑みと言葉。俺だったら恐怖のあまり敬語になりながら謝って帰るわ。流石はエターナルブリザードを使える雪のん。最強キャラだな。
「あ、あははっは~。実は用があるんですよね~」
一色は雪ノ下の冷たい言葉にやられたのか少し棒読みだ。
「それって生徒会関係?」
「実は私って最近、暇じゃないですか~」
「知らねえよ」
一色が暇なことなど知る由もないし、知る気もないし、知りたくもない。まぁ、この時期は大きな行事もないし、生徒会としてもやることは小さなことだし、こいつのことだから細々としたことは副会長とかに任せて自分は『葉山せんぱ~いきゃるる~ん☆!』みたいなことしてるんだろうけど。
「あれ? いろはちゃん、サッカー部のマネージャーもしてなかったっけ?」
「……最近、サッカー部って寒いじゃないですか~? 葉山先輩以外に素足見せたくないんですよね~」
「ジャージ着ろよ」
「ジャージ着たらダボダボして足が太く見えるじゃないですか」
一色の言葉に由比ヶ浜も頷く。
そういうものなのか? というかそもそもジャージってダボダボする物だろ。ぴちぴちのジャージとかそれこそダサくて着たくないわ。
「アハハ……それで用って?」
由比ヶ浜の質問に一色が来ると半回転し、俺の方を見てくるが嫌な予感しかしないので俺もそれに合わせてくるっと椅子ごと半回転して窓の方を見るが誰かに椅子ごと再び半回転させられ、一色に向けさせられる。
由比ヶ浜さ~ん? どうして貴方はそんなに私の命を削りに来るんですか? 死神ですか? ブレイクアップしちゃうんですか?
「ところで先輩って甘いもの好きですか?」
「ゲームは好きだ」
「……甘いものは好きですか?」
おっと。とうとう、俺の渾身のボケも無視されるようになったか。
「彼は甘すぎる物は嫌いよ」
「さっすが先輩の彼女さん! 何でも知ってるんですね~」
一色の”彼女”という言葉に俺も雪ノ下も以前、間違って入ったお店でこっ恥ずかしいカップルセットでのあの時の光景を思い出してしまったのか同時に顔を赤くしてしまう。
あ、あの時の雪ノ下も俺も少しおかしかったしな。うん、おかしかった。
「二人ともうぶですね~」
「いろはちゃん。用件はそれだけ?」
「へ? あ、い、いや、えっとですね」
由比ヶ浜の妙に低い言葉と笑みのダイレクトアタックを喰らい、一色はしどろもどろに陥る。
もう止めて! 一色のライフはもうゼロよ!
「も、もうすぐバレンタインデーですから葉山先輩に上げたいんですけど男子ってどのくらいの甘さが好きなのかなって」
「……おい、それ要するに俺の基準=葉山の基準になってないか?」
「…………先輩、そんなにナルシストだったんですね。ごめんなさい、私が悪かったです」
「くすん。もう良いし」
結局、俺は今年もバレンタインデー記念ステージでリア充共を抹殺する様子を思い浮かべながら無双しまくってチャットでぼろ糞に叩かれるのさ。
「冗談ですって。男子の平均的なところを知りたかったんですよ~」
「でも男子って甘すぎるの嫌いな感じするかも。ほら、ホイップクリーム吸うのだって男子ってうわぁ、みたいな顔するし」
「あ~。でもそれ途中で飽きるんですよね~」
やったのかよ。
「分かる~」
お前もやったんかい。
「とりあえずさっさと生徒会なりサッカー部なりに戻りなさいな。今、俺は超忙しい」
「ゲームしてるだけじゃないですか~……男子は甘すぎず、程々の甘さと。じゃ、失礼しました~」
一色が部室から出ようとした矢先、奉仕部の扉がそれよりも早くに軽くノックされた。