やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。 青春よりゲームだ! 作:kue
アポを取り終えた一色と共にコミュニティセンターに隣接している市立の保育園へと向かう。
市立と言う事で学校からの提案に快く乗ってくれたらしく、こんな時間にアポを取ってもむしろウェルカムな状態だったらしい。
保育園の門にあるインターホンを押し、事情を話すとすぐさま中に通される。
既に業務は終わっているのか職員さんたちは園児たちと砂場で遊んだり、小さな教室で積み木なんかをしたりして遊んでいるがさっきからどうも保育士さんたちにもなんかヒソヒソされてるし。
「なんか俺、歓迎されて無くない?」
「先輩、目がやばいですもんね……」
まぁ、園児からすれば制服着たお姉さんお兄さんは怖いんだろうがそれでもこれはねえだろ……せめて俺に見えるような位置でヒソヒソしないでくれよ。
「とりあえずここで待ってるわ」
「そっちのほうがよさそうですね」
そう言い、一色は少し先にある職員室らしき場所へと入っていった。
壁にもたれ掛り、そのまましゃがみ込んでPFPをしようと思ったが傍から見れば怪しさMaxにしか見えず、警察を呼ばれても嫌なので結局、立ったままPFPをすることにした。
やっぱりPFPは良いよね。心を癒してくれる。でも保育園か…………まったく記憶がねえ。その頃はゲームにのめり込んでいないちゃんとした普通の子だったのにまったく記憶がない……あれぇ?
必死に保育園の記憶を引っ張って来ようと奮闘しながらPFPをしている時、服の裾をクイクイっと引っ張っらえ、ふと顔を上げると青みがかった髪を二つに分け、シュシュでまとめている女の子がいた。
「あ。京華……ちゃんだっけ」
「うん。ぬいぐるみのお兄ちゃん久しぶり」
確か川崎の妹だったよな……そっか。ここの保育園に通っていたのか……ていうか年の差半端なくね? 10年以上開いてるじゃん。
「さーちゃんこないの」
「そうか。さーちゃんはもうすぐ来ると思うぞ」
「……おなまえなんていうの?」
「八幡」
「はーくんだ!」
何故、この子は名前の1文字を取って君をつけたがるのだ……別に良いっちゃ良いけどはーくんなんてあだ名つけられたの初めてだぞ。
「あのねあのね」
グイグイと引っ張ってくるので仕方なくPFPの電源を落とし、ポケットに直して京華ちゃんの相手をするべくくるっと彼女の方を向いた。
「さーちゃんがね。はーくんのこといっぱいいってたよ」
「へー。どんなこと」
まぁ、大体予想はできるがな。あんな人を見ちゃいけません! ゲームに感染して最後は殺されるからね! みたいなことを言っているのだろう。別にいいさ……悲しくなんかないもん!
「んーとね。かっこいいって!」
思わずズルッと滑ってしまった。
えらい斜め上な発言が来たもんだ。キモイと言われるならばまだしもまさかその正反対で一生言われることが無いであろうと思っていた言葉を言われるとは……ていうかあいつ、家で俺のことなんて教えてんだよ。
「さーちゃんね。ぬいぐるみさんのことぎゅってしてるの!」
「へー」
まさかあいつにそんな趣味があったとは……怖い顔の裏は可愛い顔ってやつか。
「けーちゃん」
「あ、さーちゃん!」
そう呼ばれた彼女はパァッと顔を輝かせると俺の隣を通り過ぎていき、抱き付いたのか一瞬、迎えの人のうめき声が聞こえてきた。
後ろを振り返ってみれば温かいまなざしで京華ちゃんを見て抱き上げている川崎の姿があった。
「……な、なんであんたがここに」
「仕事だよ」
そう言うと川崎は俺の後ろを覗くようにしてみた後、俺の方を向く。
「雪ノ下達は?」
あぁ、そうか。いつも俺が仕事って言ったら奉仕部の仕事で来てたからな……あれ? ていうか俺、こいつの前で奉仕部の仕事としてきたことあったっけ? なんか大志の時は俺一人で解決したみたいなことになってるしな……まぁ、奉仕部に雪ノ下がいることくらいは知ってるか。
「部活はもう辞めた」
「……なんでまた」
「まぁ、そのなんだ……引責辞任ってやつだ」
そう言うとはぁ? と言った表情で俺を見てくる。
「それよかお前の家からここって遠くないか?」
「最近はどこも保育園の空きがないから少し遠いところでも仕方ないんだよ。それにここ市立で安いし。行き道は両親が車で送ってるから」
少子化だの云々かんぬんとかの理由で保育園も減ってるって言うしな。
そんなことを考えていると後ろからパタパタと足音が聞こえ、振り返ると会議を終えた一色が職員室から出てこっちに向かってきていた。
ふと川崎の方を見ると教室のドアを開け、中にいるであろう保育士さんに挨拶をしていた。
「じゃ」
「あ、うん。また」
そう言い、川崎は京華ちゃんの手を取って帰っていった。
「お知合いですか?」
「同じクラスの奴。で、どうだったんだよ」
「はい。もうばっちりです。参加人数も決めましたし。ただ控えめな要望を貰いましたけどね」
「そりゃそうだろ。園児を預かってる身としては怪我とかさせたら賠償問題だしな……戻るか」
そんなわけで無事に保育園のアポを取れた俺達はコミュニティセンターへと戻った。
翌日の終わりのHR終了直後、俺は欠伸を交えながらPFPをしていた。
昨日、一応の成果は出せたがこれっぽっちの成果は成果とは言えない。そもそもやることすら何も決まっていない今の状況では進んでいないのとほぼ同じだ。
園児たちの参加人数は決まった。だが園児たちに何をしてもらう。場所は決まっている。日時も決まっている。ならば何をする? 合同でやる以上は海浜側と決めなければならないがそもそも奴らと会議をすれば面倒なことに会議が拡散されるだけだ。何が足りない? いったいあの会議に何が足りないのだろうか。傍から見れば質の濃い会議に見えるだろう。だがそれに足りないものは何だ……どうやったらこの遅れ切っている状況を改善できるほどのパーツを見つけられるんだ。
「……ヒッキー」
「あ? どうした」
「…………今、いろはちゃんのこと手伝ってるんだよね?」
どこからそんな情報を仕入れてくるんだ……。
「まぁ、あいつが会長になったのは俺の責任もあるしな」
「よ、よかったらさ奉仕部で」
「いやいい」
ピシャッと由比ヶ浜がそれ以上言う事を防ぐと何故だかさっきまで騒がしかったクラスが一気に静かになり、俺達の方に視線が集中する。
「いいってなんで」
「俺が一色を生徒会長にした責任を取ってるだけだからな。その責任に奉仕部を巻き込む訳にもいかんだろ」
「で、でもさ。ヒッキーなんだか辛そうだし、こういう時こそ奉仕部の出番じゃないの?」
「良いって。別に奉仕部に相談したわけじゃあるまいし」
「だけど……だけどヒッキー」
「だからいいって」
会議が遅れていることと疲れが重なったのかいつも以上に語気を強めて由比ヶ浜に言い放つと由比ヶ浜は一度驚いたような表情で俺を見るがすぐに顔を伏せ、何も言わずに教室から出ていった。
クラスの連中の視線がさらにイライラを増幅させ、俺はPFPをポケットに突っ込み、カバンを肩にかけて時間はまだ早いが教室から出た。
外は生憎の雨。俺はPFPをタオルでくるんでカバンに直し、傘を片手にコミュニティセンターまで片手運転で向かっていく。
…………今度由比ヶ浜に謝っておこう。勝手にイライラして勝手に八つ当たりしてしまったんだ……あいつには何の責任もないはずなのにな。
そんなことを考えながら自転車を漕ぎ、駅前の駐輪場に停めていつもの講習室と書かれた部屋に入ると小学生らしき女の子たちが一か所に集まっており、その中に見覚えのある顔を見つけた。
鶴見留美……林間学校でいじめに勝った勝者だよな。
留美の方も俺に気づいたのか目を丸くして俺を見るがすぐに視線を逸らした。
どうやら俺で最後だったらしく、玉縄が前に出る。
「これからはみんなで一緒に決めていこう! 積極的に色々と言ってほしい!」
そうは言うが何をやるかすら決まっていない今の状況で小学生に来られてもって言うところが正直な気持ちだ。本来はある程度やることも決まってから小学生たちを呼ぶべきだった。どうせ玉縄が小学生の意見も取り入れようとかで呼んだんだろうけど。
「じゃ、後の対応よろしく頼めるかな」
玉縄の頼みに一色は難しい顔をする。
「どうしましょう」
「とりあえず必要なことやればいいだろ。ツリーとか飾りつけとか。買いだしに行って作業してもらえばそれでいいと思うぞ」
「なるほど~。でもツリーとか飾りつけとか邪魔になりません?」
「箱か何かに入れて保存すればいけるだろ。とりあえず小学生の方頼むわ」
一色に小学生の方を任せて俺は玉縄の方へと向かう。
「玉縄」
「なにかな?」
「中身を決めないと間に合わなくなるぞ。一応、今までの企画案は精査しておいたけどほとんどあれはボツだ。時間も足りないし、なんせ予算が足りない。外部委託は無理だと思ってくれた方がいいかもしれない」
「ならそれもみんなで決めよう」
思わず大きくため息をつく。
こいつ、なんか合宿の時の葉山と似てるわ。みんな仲良く……玉縄の場合は何を決めようにもみんな仲良く、みんな一緒に決めようってやつだけど時間が足りなさすぎる。
「無茶言うなよ。スケジュールも押してるんだ。ここは一色とお前が話し合って全体を決めるべきだ。そうじゃないと規模だけデカくなって中身スカスカになっちまうぞ」
「それはダメだよ。皆が納得できる奴じゃないと全体の士気も上がらないだろ?」
「……じゃあ、その会議を今すぐやった方がいい。ただもうゼロからやってたら間に合わない。小学生と保育園児、両方が参加してやる奴で会議を進めた方がいいと思う」
「そうだね。それもみんなで決めよう」
本日一番のイラッとを貰いました。
飾りつけを製作している小学生たちに監督役として一人残し、ようやく会議は今回のイベントで何をやるかについてを話すことになった。
一歩進んだんだろうが遅れすぎる一歩だ……いったいこの会議に何が足りないんだ。
「じゃあみんな。今回の議題はイベントの催しについて考えよう。ゼロベースからのディスカッションだからみんな積極的に発言して欲しい」
「やっぱりクリスマスっぽいやったほうがいいんじゃない?」
「若いマインドを取り入れるってところではバンドとかじゃない? もしくはジャズとか聖歌隊とか」
片手で議事録を取りながら以前とは比べ物にならないくらいにあげられていく企画案をメモしていくがそのほとんどが俺が精査した結果、不適格と判断した物と似たもの、もしくはほぼ同じものでまだ総武高校のメンバーがチラホラあげる意見の方が現実味がある。ていうか、さっき言ったこと忘れてるのか?
「よし。あらかた上がったし、みんなで考えよう」
「ちょ、たんま」
「どうかした?」
「さっき言ったけど時間が無いんだって。そんなの全部考えてたらそれこそ企画倒れで終わるぞ。さっきも言ったけど若いマインドとかなんたらとか入れたいんだったら小学生と保育園児を主役に立ててやればいい。そんな小難しい劇とかジャズとかよりもデイサービスに来ている人たちの受けもいいはずだ。ほとんどが孫がいる年齢だろうし、可愛さも増すだろ。保育園側からの控えめにって言う要望も達成できるし」
「その案も入れて考えようか」
玉縄のその一言で海浜側は出てきたアイディアを結合させる気なのかさっきから映画がどうのミュージカルがどうのと話し合いを始めてしまった。
ようやく分かった。この会議には否定が無いんだ。何がブレストだ。何が否定せずに取り入れて考えようだ。ただ単に会議で熱く語り合っている自分が好きなだけなんだ……ほんと昔のどこかの誰かさんを見ている感じで腹立たしいにもほどがある。自分には何でもできる力があるって勘違いしてる。
もう議事録をまとめる腕は止まっていた。