やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。 青春よりゲームだ! 作:kue
秋……それは文化祭が訪れる季節。そう言うわけで2年F組も文化祭出店企画を話し合っていたがつい先日にお題目がミュージカルと言う事に決まり、早速脚本家が建てられ、一応の話しの機軸となる部分を凝縮した冊子を貰い、読んでいたのだが一発で誰が書いたのか理解した。
海老名姫菜……そう、あの俺と同類であろう腐女子が書いたあの名作と言われている星の王子様を脚本した結果、星の王子さまじゃなくて腐の王子様になってしまった。
しかもキャストは色々とあるがそれら全てが男なのである。チラッと見た時に『その迸る欲望に従い、鍛え上げられた体に』という文が出た時点で俺は閉じた。
しかもさっきから海老名さんの眼鏡の縁がキラーンと光り、俺を捉えている。
マジで心臓に悪い…………それもこれも合宿中に突っ込んだ所為だ。何がプラグインだ! プラグインどころかフラグインしちまってるじゃねえか!
「で、どうかな?」
恥ずかしそうにモジモジしながら教壇にルーム長と一緒に会議を進めていた葉山に尋ねるが可愛さなどどこにも見当たらず、むしろ腐のオーラが見える。
「と、とりあえず質問点とか改善点をあげようか」
「女の子は出ないの?」
「え? 出る意味ある?」
そんな小首を傾げて言ってもキュンともズキュンとも来ませんよ。腐んとはくるだろうけど。
「俺は良いと思うぜ」
そんな中勇者がいた。お調子者の戸部である。
「普通にやっよりウケっと思うけど」
普通ではないのはもちろんもうこれは異常なのだ。なんで高校の文化祭で全年齢対象版BLミュージカルを行わねばならんのだ。一生語り継がれる黒歴史になるぞ。
「戸部の言う通り、普通にはやらないっていう点では俺も良いと思う。キャラ設定とかは全部削除してお笑いの要素を強めたコメディーミュージカルってことでいいかな?」
あの異常な作品を綺麗に纏め上げた葉山の意見に反対意見など出るはずもなく、パチパチという疎らな拍手が葉山の意見に賛成という意思表明になっていた。
「明日、役割を決めたいから遅刻しないでね。もし遅刻しちゃった場合は残った役割になっちゃうから絶対に遅刻しないでくれ。じゃ、終わろうか」
長い長いLHRをすべて使い切ってようやく方向性を固めたF組は文化祭へ向けて動き出す。
今年もまたゲームの時間がやってくるのである……今年は没収されないように気を付けよ。
「な、なん……だと」
翌日、教室で俺は絶望に打ちひしがれていた。
PF3を朝の三時までしていて4時間ほど寝ようと思い、ベッドに寝たのだが次に目を覚ましたらなんと時間は9時を回っていた。
だがそこは俺。慌てることもなく普通に電車に乗って普通に教室に入った。
そして黒板の方を向いた瞬間、実行委員・比企谷八幡と大きく書かれているのに気付いた。ちなみに相方はあの夏祭りの時遭遇した相模南である。
見間違いだろうと目を擦ってみてみたがその文字が変わることなく、俺に絶望というものを与えている。
「説明が必要かね?」
平塚先生の一言に俺は激しく首を縦に振る。
「その場にいなかったものにはあまりものを渡す……葉山はそう言ったと言っていたぞ」
そう言われ、昨日葉山が終わり際に言ったことが今更になって出てきた。
やつめ……俺が遅刻することを見越してあんなことを……言うはずないか。だが不味いな……実行委員を押しつけられると言う事は文化祭には絶対に出なければいけない……休めないじゃん。
「良いから席に着け。授業が始められん」
そう言われ、俺はふて腐れながら席に着くと授業が始まった。
放課後、早速委員会が始まるらしく、俺は授業が終わればすぐに委員会の会場と決められている会議室へと向かうがすでに相模は他のクラスの委員と固まって喋っていた。
「ゆっこも委員でよかった~。なんかいつの間にか委員にされちゃっててさ~。しかも相手誰だと思う?」
「え、だれだれ?」
「ヒッキーだよ~」
「嘘!?」
おいおい。目の前に相方がいるのに悪口を言いますかね。ていうかそのあだ名、うちのクラスだけじゃなくて他のクラスにも広まっているのね。なんか嬉しいやら悲しいやら。
開始時刻が迫ってくるとともに人がドンドン入ってくる。それに伴って静かだった会議室が喋り声で埋め尽くされていくがある登場人物により、一気に静かになった。
え、何? 雪ノ下はエターナル・エア・ブリザードでも使えるの? と思いたくなるくらいに雪ノ下が会議室に入ってくると騒がしかった教室が一気に静かになったがまた騒がしくなる。
そして開始時刻になると同時に平塚先生と体育教師の厚木、そして書類を持った生徒の集団が教室に入ってきたことで会議室は完全に静かになった。
プリントを抱えた数人の生徒が各人に配り始め、それを終えると1人の女生徒の方を見た。
「はい。じゃあ文化祭実行委員会を始めたいと思います」
肩まであるミディアムヘアーは前髪がピンでとめられており、見えているお凸は綺麗だ。
……あ、確か生徒会長だ。生徒会日報とかの用紙で顔写真を何回か見たことあるから覚えてる。
「生徒会長の城廻めぐりです。今年も文化祭が開けること嬉しいです。皆で最高の文化祭にしましょー……え、えっとみんなで頑張ろう~。おー」
全員の反応が芳しくないことで最後はやっつけともとれるような言葉で締めくくると生徒会メンバーらしき生徒たちがパチパチと拍手をするとポツポツと拍手が生まれ、やがては教室中が拍手に包まれた。
「ありがとう~。それじゃあ委員長の選出に移ろうか。三年生はなれないからさ~。じゃあ、やりたい人~」
だが誰も手をあげようとしない。
どの職業でも長とつくポジションには誰も付きたがらないもの。全員、面倒くさいという言葉で片付けるが本当は責任を被りたくないだけ。まぁ、俺もその一人なんだけどさ。あ、でもゲームは別だぜ? まあ長どころか神クラスにまでなっちゃってるんだけど。委員長ならぬ委員神? なんかダサいな。
「なんじゃおい。お前ら自身の文化祭だろうが。覇気が足らんぞ覇気が」
体育教師の厚木の野太い声が教室中に響き渡るがそれでも誰も手をあげようとはしない。
「あの……」
控えめのその一言共に手が挙げられ、全員の目がそこに集中する。
「誰もやりたがらないならうちやってもいいけど」
「ほんと!? じゃあ自己紹介しちゃおっか」
「あ、はい。二年F組の相模南です。えっと……うち、こういうのをやるのは初めてなんですけど頑張りたいです。みんなに迷惑かけるかもしれないですけど出来たら手伝ってくれたらうれしいって言うか」
「うんうん。最初はみんなそうだよ~。拍手拍手~」
めぐり先輩がパチパチと拍手しだすと後から遅れて拍手が送られ、ホワイトボードに黒まじっくで実行委員長・相模南と書かれた。
こういう時、重要なのは俺みたいなやつは陰に隠れると言う事。自分を変えたいと思って立候補すれば最後、人生が終焉を迎えるのだ。ソースは中学のボッチ生徒A。自分を変えたいと言う事で立候補したのはいいもののボッチ故に人との接し方を知らなかった彼はうまく仕事が出来ず結局、不登校になってしまった。
「じゃあ、早速役割決めをしようか。配った議事録を見てね。5分くらいで希望をとるから」
そう言われ、議事録をぺらっと捲ると一番最初のページに文化祭の役割名がズラッと書かれている。
有志統制、宣伝広報、物品管理、保健衛生、会計検査、記録雑務……うん。どれも俺には合っていないが再保の奴は俺のためにあるようなものだな。むしろ記録雑務(ボッチ専用)と書くべきだ。
「どうしよ~。ノリでなっちゃったけど大丈夫かな」
「さがみんなら大丈夫だって。私たちも手伝うし」
「そうそう。だからさがみん頑張って!」
お涙ちょうだいな話が会議室に響く。
「もういいかな~? じゃあ、相模さん。あとはよろしく」
「え、も、もうですか?」
相模の質問にめぐり先輩は柔らかい笑みを浮かべ名が首を縦に振る。
相模は若干、嫌そうな表情を浮かべながらも立ち上がり、教壇の前に立つと一瞬顔をひきつらせ、めぐり先輩の方を見るがすぐに視線を向け直した。
「じゃ、じゃあこれから決めていきます。せ、宣伝広報が良い人」
最後の方はもうしぼみすぎて聞こえなかった。
「宣伝だよ? いろんなところに行けちゃうよ? ラジオだったりテレビだったり」
めぐり先輩の補足説明を聞き、ようやく募集している役割に気づいたのかポツポツと手が上がりだし、人数を数えて氏名をホワイトボードに書き、次の役割へと移行する。
「じゃ、じゃあ有志統制」
教室のいたるところから手が上がり、あまりの多さに相模はあたふたしている。
有志といえば文化祭の花形であり、一番客が集まる催し。それを大成功に導くことが出来れば自分の評価はうなぎのぼりに上がっていき、その後の自分の誇りになるだろう。
「え、えっと」
「はいはい! 数が多いからジャンケンね」
人前に立って裁いてきた回数が違うのか相模とは打って変わって停滞しかかっていたのが解決されていき、次々と役割が決められていく。
もちろん俺は記録雑務に入ることができ、雪ノ下もそれは同じ。
全ての役割を決め終わったところで自己紹介をしろというめぐり先輩のオーダーにより、メンバーが自己紹介をしあうがまあ、その空気の冷たいこと。
記録雑務のリーダーは三年の何とか先輩が引き受けることとなり、今日はやることもないので解散となった。
教室から出ようとした時、平塚先生からウインクをされたが……嫌な予感がする。