やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。 青春よりゲームだ!   作:kue

27 / 80
第二十七話

 サブレがうちに来た翌日、俺はサブレを連れて津田沼にあるゲームセンターに来ていた。

 小町が勉強したいからと言う事で俺としての最大配慮であるPFPかつイヤホンという状態でゲームをしていたのにぶちぎれた小町が俺にサブレの散歩を言いつけたのだ。

 俺に散歩してもらうのがそんなに嬉しいのかさっきからサブレは尻尾をユッサユサ振りながら少し早いペースで歩いていく。

 休憩と称してゲームセンターに来た俺だが何やらさっきから人が周りに集まってうるさい。

「くあぁぁ……眠…………サブレ。おすわり」

 音ゲーをしながら今にも歩き出そうとしていたサブレにお座りを命じると何故か、他人である俺の命令に従順に従い俺の足元にぴったりとくっついてお座りをした。

 普通、他人が命令したことってここまで従順に聞かないんじゃねえの? カマクラなんか小町の言う事は効く癖に俺の言う事は一切効かねえぞ……あ、そうか。カマクラにとって小町は家族で俺は他人なのか。納得……なんか納得すると同時に悲しみが襲い掛かってくるよ。悲しいよ、サブレッシュ。

 今俺がしているゲームはNEW beatという音ゲーで音楽に合わせて4×4の16マスのパネルが黄色く発光するのでそれをタイミングよくパネルを押せば点が入る。

 一番難しい難易度がExtream。

 つってももうほとんどの発光パターン覚えてるしな~……ん?

 その時、周囲を囲んでいる群衆の中に青みがかった黒髪の女子の姿が見え、パネルを叩きながら女子の方を向くと七分袖程度のシャツにデニムの短パン、そしてレギンス、肩からゆるく背負ったリュックサックという姿をしている川……何とかさんの姿を見つけた。

 一瞬目が合うが特に話すこともないので視線を外し、ゲーム画面に視線を戻すと既にゲームが終了しておりFULL COMBOと黄色い文字で表示されていた。

「次何やろ。行くぞサブレ」

 リードを引っ張りながらそう言うと立ち上がり、尻尾をゆさゆさ振りながら歩きはじめる。

 何やろうかね。太鼓の匠の気分じゃないし、音ゲーって言う気分じゃないからな……でもなぜか音ゲーがしたくなるんだよな。

「…………」

 ふとUFOキャッチャーが見えるとともにさっきの川なんとかさんと幼稚園児らしき小さな女の子の姿が見え、そっちの方を見てみると何やらすごい形相で100円玉を積み上げ、UFOキャッチャーに挑戦している姿があった。

「さーちゃん」

「大丈夫。姉ちゃんがとってやるから」

 そう言いながらアームを動かし、ぬいぐるみをとろうとするが慣れていないのか的外れな場所を掴み、ぽろっと落としてしまう。

 …………うん。俺には関係ナッシングだな。

 そう結論付け、その場から離れようとするが何故かサブレが動かないのでサブレを見てみると俺に訴えかけるようなまなざしでジーッと俺を見てくる。

 …………はぁ。分かったよ。

「あ、わんちゃんだ」

「え……あ」

 幼稚園児がくるっとこちらを振り見た時にサブレが見えたのか顔を綻ばせながらしゃがんでサブレの頭を撫でまわす。その幼稚園児の顔には見覚えがあった。

 この子、平塚先生の愚痴を聞かされた日にぬいぐるみあげた子じゃないか……なるほど。川なんとかさんの妹というわけか……確か名前は……あ、京華だ。

「な、なんであんたここに」

「いや、暇だし……取ろうか?」

「い、良い! 自分でやる!」

「あ! この前ぬいぐるみさんくれたお兄ちゃんだ!」

 京華ちゃんがそう言うや否や川なんとかさんの表情が驚きに包まれた。

 え、なんでそんなに驚くの? 俺なんかした?

「あんただったんだ……ぬいぐるみくれたのって」

「ま、まあ……で、どれ欲しいんだよ」

「い、いいって! これくらい自分で」

「…………さーちゃん、お金使いまくっていいの?」

 サブレを抱きかかえ、腹話術の様にそう言うと川何とかさんは顔を真っ赤にし、あたふたと手を空中で右往左往させ始めた。

 その間に財布から素早く100円玉を取り出し、投入口に入れてアームを操作し、さっき狙っていたぬいぐるみの少し手前で止め、腰回りに結ばれている紐の結び目に丁度ひっかける感じでアームを降ろすと狙い通りにアームの腕が結び目に引っかかり、そのまま持ち上げられ、ガタッと揺れても落ちることなく、そのまま投入口にぬいぐるみが落された。

「ん」

「わー! ありがとお兄ちゃん!」

 笑みを浮かべながら京華ちゃんは受け取ったぬいぐるみを抱きしめた。

「そ、その……あ、ありがと」

「いや別にいいけど……なんというかお前、あんまり賭け事とかしない方がいいかもな」

「いや、まだ100円しか使ってないんだけど」

 …………なんじゃそれ。あの気迫からして800円は使ってると思ったのに……いや、元々顔が怖いからそう見えただけか……なんというか。

「ま、まぁいいじゃん。取れたし」

「う、うん…………そ、そのありがと」

「二回言わなくていいだろ」

「違う。この前の大志とのことだよ……あんたのおかげでスカラシップ? ってやつも取れたし、大志ともうまくやれてるから……そのお礼」

「あっそ…………」

 それ以降、俺達の間に会話の種が尽きてしまったことで会話のキャッチボールがなくなり、ゲームセンター特有の騒音が辺りを支配する。

「そ、そういえばあんた夏期講習と行ってないの?」

「行ってない」

「なんでまた。この時期位だったら」

「俺私立文系だし、数学いらないから。文系科目は暗記ゲーだし」

「……この前のテストの点数は」

「文系科目全部満点。それ以外は聞くな」

 マジであれはリアルにカンニングしたいと思ったな。だって物理の問題何言ってるか分からなかったし、公式だけ暗記したけどその公式さえ使わないというね。マジで死にかけた。

「何でゲームしかしてないお前に……」

 ……なんか貶すと同時にショック受けてるみたいだけど……ま、いいや。

「ま、まぁ頑張れ。じゃあな」

「お兄ちゃんばいばーい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日の朝、俺のスマホに一通のメールが来たことにより、本日の事件は発生した。

 落ち着け……落ち着くんだ。さっきまでの行動を思い出せ。

 俺はこめかみを抑え、自分がさっきまでしいた行動を丁寧に思い出す。

 まず起きる……と言うか今日は徹夜していたからずっと起きていた。そして両親から小言を言われながらもゲームを続け小町が起きてくる時間帯までPF3をし、そこからPFPに手を伸ばそうとしたんだ。そう。その時にこのメールが届いたんだ。

 スマホには一通のメールの文面が表示されており、それは簡単な文だったが俺からすれば本気で行くわよ! ストライクショット! と叫びたくなるくらいに本気で考える問題だ。

『今日良かったら僕と一緒に遊ばない?』

 そう、この文面だ。これがただの間違いメールなら俺は速攻で削除してゲームの続きをしていたが送ってきた相手があのエンジェル戸塚だ。これはもうあれしかないだろ…………戸塚と遊ぶと言う事しかないだろう。

 だが俺にはゲームというやらねばならないことがある……だがここで戸塚の誘いを断ったとしよう…………戸塚の泣く姿なんて見たくない! 見ててください! 俺の! 決断!

 どっかの特撮ヒーローよろしくの叫びを発しながら戸塚にメールの返信をし、PFPと財布、スマホをポケットに突っ込んで待ち合わせ場所へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 待ち合わせにした海浜幕張駅で俺はPFPをしながら戸塚を待っていた。

 どこへ行くか迷ったがここならば大体のものは揃っているのでオールマイティーに動くことができるかつ、戸塚を暇にさせないことができるのだ。

「八幡!」

 さて、本日もエンジェルが降臨したよ。誰も勝つことが出きない……エンジェル・戸塚降臨。

「ごめんね。待たせちゃった?」

「まさか。今来たところだ」

 嘘である。一時間前からここで待っていた。だが敢えて言わない。

「で、どうする」

「う~ん。考えたんだけど八幡ってゲームが好きだからゲームセンターなんてどうかな? 僕、またあの太鼓のゲームしたいな」

 …………同志が増えると思えばうれしいが、戸塚が同志となる未来は少し考えたくないな。変な宗教団体が出来上がるかもしれないし。

 とりあえずゲームセンターへ行くべくシネプレックス幕張へと向かう事に決め、2人横に並んでゆっくり歩きつつも軽い雑談を交わしていく。

 シネプレックス幕張に到着し、まっすぐエレベーターへと向かうがピタッと戸塚が止まったのに気付き、振り返ると映画広報掲示板の所をずっと見ていた。

「あ、この映画もうやってるんだ」

「……んじゃ、映画館行くか」

「あ、僕に合わせなくても」

「いいよ。たまには映画見るのも悪くないし」

 まあできれば俺としては今すぐにでもゲーセンに行きたいが相手が戸塚なので欲望を必死に抑え込む。

 戸塚は申し訳なさそうな顔をしていたがともかく、エレベータに乗り、シネマフロアへと上がり、戸塚がカウンターでチケットを買いに行っている間、俺はPFPを起動させる。

 映画だと少なくとも80分は触れないからな。今のうちにやるべきことやっておこう。

 にしても…………久しぶりに映画館なんて来たな。昔は母親の買い物の時間の間の暇つぶしとして小町と詰め込まれた記憶しかないけど。

「お待たせ。行こうか」

「ん」

 やるべきことを終わらせ、戸塚からチケットを受け取って劇場スタッフに渡し、半券を貰って劇場内へ入り、E25席を探し、そこに座ると俺の隣に戸塚が座った。

「どんな映画なんだ?」

「ホラー映画」

 …………俺、叫ばない自信がないんだが。

 こう見えて俺はホラーは嫌いである。いや、ゲームなら我慢できるんだが映画となると三次元の映像なので本物だと勘違いしてしまうのだ。これだけは一生治らないと思う。

 劇場内が暗転し、映画の予告が始まるが前日から徹夜していたのに加え、真っ暗なので徐々に眠気が襲い掛かってきた。

 ヤバ……予告終わるまで少し寝よう…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 がたがたと体を揺らされる感覚を覚え、ゆっくりと目を開けると目の前に戸塚の顔が映った。

 …………しまった。

 慌てて起き上がり、周囲を見渡すと既にチラホラいた客の姿はなく、照明も全部ついていた。

「悪い、戸塚。寝ちまった」

「ううん。大丈夫だよ。でも八幡、不規則な生活はダメだよ? 行こっか」

 戸塚に不規則な夏休みライフを軽く咎められ、劇場から出るが非常に申し訳ないことをしたので俺の奢りでカフェに入ることに決めた。

「何する? 俺が奢るわ」

「良いの? 本当に」

「良いんだって。さっきのお詫びだ」

「そう? じゃあ……アイスコーヒーで」

「俺も」

「我もいただこう」

 三人一緒のメニューを店員に注文し、料金を渡すのと入れ替えにコーヒー三つを受け取り、それぞれに手渡して開いている席に座る。

 …………ちょっと待て。

 何故か戸塚の隣にさも最初からいたかのような顔で材木座が座っていた。

「なんでお前がいるんだ」

「モハハハハ。貴様がいるところに我はいる。この関係は永遠に消えんよ」

「もしかして八幡のお友達? 僕は戸塚彩加。よろしくね」

「我は材木座義輝という」

 俺は頭を抱えるしかなかった。

 なんでこいつ、いつも俺の居るところに本当にいるんだよ。俺がゲーセンに行ったら高確率でこいつにエンカウントするし……なんかマジで繋がってそうな気がする。ヒモか何かで。

「ていうかお前、コーヒー代寄越せよー」

「むぅ? 貴様が奢ると言ったではないか」

「俺が言ったのは戸塚に対してなんだが。ていうかいつからいた」

「ムフフ。映画館から」

 …………こいつマジで忍者か何かの末裔じゃねえの? 映画館にこいつの姿見えなかったぞ。

「材木座君も来たんだし、ゲームセンター行こうよ。八幡」

 くっ! 戸塚の笑顔が眩しすぎて材木座の顔が見えねえ!

 そんなわけで結局、材木座も含めた三人でその日、一日を過ごすこととなってしまった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。