やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。 青春よりゲームだ! 作:kue
「お、お兄ちゃんが……モーニングゲームしてないなんて!」
「なんだモーニングゲームって」
朝のコーヒーを飲みながら小町に突っ込む。
俺の中から再び蔓延りかけていたバグの消去に成功した日以来、俺はどこか虚無感を感じていた。
普段なら朝起きたらすぐにゲームして学校行く時間まで暇を潰すのだが偶然か否か、ちょうどコントローラーの充電が切れてしまい、今は充電中なのだ。しかも二つともだ。こんな偶然あるか?
だがスマホは充電していたのでコーヒーを飲みながら片手で操作している。
…………はぁ。奉仕部に入ってからおかしなことばかりだ。
「……何かあったの?」
「……別に。何もねえよ」
ツッターンとキーボードのエンターキーを押すように勢いよく画面をタップするとフルコンボと表示され、リザルト画面に入る。
「……うん。ゲームの技術はいつも通りだし、目に光がないのもいつも通り……あれ? でもなんかおかしい」
「貶すand貶すだな」
焼きあがったパンを手に取り、パクリと一口噛み千切る。
何度、システムの完全スキャンを実行するが問題が一件ありますという表示だけされていて原因はさっぱり分からない状態にあるパソコンのような感じだ。
「……そろそろ行くわ」
「あ、ちょっと待って小町も行く!」
放課後、いつもの様に奉仕部の部室でPFPにふけるがいつもと違うのは初期メンバーである俺と雪ノ下しかいないことだ。
あいつがいないからどちらも話すことは無く、彼女は文庫本を読み、俺はただひたすらPFPに集中し、ページを繰る音とボタンが高速で押される音しか響かない。
普段通りの光景なのに……何故か物足りなさを感じてしまう。何かピースが足りないような。
「……今日も由比ヶ浜さんは来ないそうよ」
「あっそ」
無機質にそう返す。それからは少しページを繰る音が聞こえたがそれもやがて聞こえなくなった。
「由比ヶ浜さん、もう来ないつもりかしら」
「だったら聞いてみればいいんじゃねえの? メアド知ってるんだろ?」
「ええ……でも私が言えば由比ヶ浜さんは来るわ。たとえ貴方と何かあって来たくないとしても」
それを聞き、一瞬指が止まりかけるがボス戦と言う事で自分に言い聞かせてすぐさま指を動かすことを再開させるがさっきの行動は雪ノ下には見られているだろう。
「……ふぅ」
大きく息を吐いて画面から視線を逸らした時に雪ノ下が俺の方を見ていることに気づいた。
「何かあったのね」
「……何もないって……喧嘩するほど仲が良いわけじゃないし」
「そう……だったら軋轢かしら」
「……当たらずも遠からず」
「だったら……すれ違いかしら」
いったいどこからその言葉が出てきたんだとツッコミたいくらいだが当たっているので俺は何も言えないままPFPをスリープモードへと移行させ、カバンの中へしまう。
すれ違いといえばすれ違い通信。あれは確かに画期的な技術だがボッチせん滅作戦の切り札ともいえるカードだ。友達がいないことですれ違う人がいない奴は埋まらない図鑑を悲しみの目で眺めなくてはならないのだ。
ま、俺はそこらへんも抜かりはない。何故なら2つずつ買ってユーザーネームは変えたからな。だから自分のフレンド一覧に自分がいるというおかしな状況になったがな。通信進化もそれで済ましたから俺はボッチでありながら図鑑を全てコンプリートするというおかしなことまで達成している。
「由比ヶ浜さんは浅慮だし、慎みがないし、人の領域にズカズカと入ってくる遠慮しらずだし」
「傍から見たらお前が喧嘩してるみたいだぞ」
「最後まで聞きなさい。何かと騒がしいけど……悪い子ではないわ」
最後らへんは雪ノ下が顔を赤くしながら口を窄めたことでよく聞こえなかった。
……雪ノ下の中ではすでに由比ヶ浜は友人に限りなく近い知り合いなんだろう……では、俺の中では?
椅子の背もたれにもたれ掛り、天井を見上げてその自問に対する自答を検索するが何億という情報があるにもかかわらず、その答えが出てこない。
「少なくとも原因は貴方にあるように思うのだけれど」
雪ノ下の言う通り、由比ヶ浜が来なくなったのは俺の行動のせいだろう……だが、あの行動が間違っていたとは俺は……思えない。でも何故だか今の生活に足りないものがある気がしてたまらない。
「……貴方は何故、そこまでゲームを優先させるのかしら?」
「好きだからだろ。オタクだってその作品にハマることからオタクの道に入る。俺だって例外じゃない」
「そうかしら……失礼な言い方だけど貴方はゲームに逃げているように見えるわ。ゲームをすることで現実の嫌な部分から目を逸らす……私にはそうにしか見えないわ」
…………あぁ、そうさ。俺は現実を諦め、ゲーム逃げ込んでいるさ……現実のすべてを疑い、青春・友情をバグと認識して排除する。
「……人と人の関係なんてあっさり壊れるもんだろ。今回のだってそれだ。一期一会ってあるだろ。それだよそれ。出会いがあれば次には別れがある」
「何かあなたが言うと嫌な言葉に聞こえて仕方がないわ……でも、関係が呆気なく壊れるのは分かるわ」
「だが呆気ないことで繋がることもあるぞ」
またもやノック無しの無遠慮な平塚先生の登場に雪ノ下は額を抑えるしかなかった。
「由比ヶ浜が来なくなって一週間か……今の君達なら自分たちの力でどうにかすると思っていたのだがな」
そう言って先生は俺たちの間に椅子を引いて座った。
「比企谷のゲーム中心生活は治る兆しを見せず、由比ヶ浜は幽霊部員へ……しっかりやっているように見えてやっていなかったというべきか……比企谷。別にお前を否定するわけじゃないがゲームだけでは生きていけんぞ」
「分かってますよ……んなこと最初から分かってますよ」
「私が言っているのは金や家のことじゃないぞ」
そう言われ、俺は少し驚きながら先生の方を向くと足を組んだ状態でどこか怒ったような目をしながら俺を見ている先生と目が合った。
その表情を見ているとどこか恐れのようなものを感じる。
「君が否定している友情や絆のことだ。ゲームとてフレンドがいるだろう。人生も同じだよ。一人の友達も作らずに人生を完遂させることなどは不可能だ」
「……じゃあ、どうしろって言うんですか」
「それを見つけるのが君の仕事だ。何故、友人が必要なのか、何故絆はいるのか……その答えを見つけることこそ今の君がやらねばならない宿題じゃないのかね? 比企谷八幡」
絆や友情などただのバグでしかない。バグを放っておけば深刻なエラーを起こし、やがては起動すら不可能な状態に追い込まれ、新しく買い直さなければならない。
「ところで何か用があってきたのでは?」
「ん? あぁ、そうだったな。この前の勝負の件だがこれからはバトルロワイヤル方式にしようと思う。この部活が一人増えただけでここまで活性化されることを知ったからな。そっちの方が判定もしやすいだろう。よって雪ノ下雪乃、比企谷八幡の両名に欠員補充を命じる」
「ちょっと待ってください。由比ヶ浜さんは止めたわけじゃ」
「幽霊部員は必要ないのだよ。ここは仲良しクラブではない。ここは列記とした総武高校の部活動だ。青春ごっこをしたければ去ることだ。やる気のないものを引き留めるほど高校は甘くないぞ」
平塚先生の言葉に雪ノ下は悔しそうに唇の端を噛みしめて視線を逸らす。
やる気のないものか……だったら。
「あ、あの俺」
「あ?」
「いえ、なんでごもございません」
先生の純度100%の睨みと指パキパキの前に俺は一瞬で踏みつぶされてしまう。
こ、怖い……困難だから結婚できないんじゃねえの?
「さ、帰った帰った。今日はもうおしまいだ」
そう言い、俺と雪ノ下は平塚先生に引っ張られて無理やり外へ連れ出されるとそのまま奉仕部の鍵が閉められ、そのカギを持った人物はツカツカと去っていく。
え、えぇぇぇぇ~。何この権力行使……。
「平塚先生。欠員補充をすればいいんですよね?」
「あぁ、欠員補充をすればいい」
そう言い、先生は職員室へと帰っていく。
さて、俺も帰りますかね。
そんなわけで俺も帰ろうとした時に制服の袖を思いっきり引っ張られ、危うくこけかけたので引っ張った張本人である雪ノ下の方を見た。
「何すんだよ」
「貴方は少し誰かと会話すると言う事を覚えた方がいいわ……欠員補充の件なのだけれど」
「補充って言っても誰入れるんだよ。戸塚? 戸塚なのか?」
俺の凄まじい戸塚押しに雪ノ下は辟易した様子で俺の方を見て首を左右に振った。
「彼も入ってくれそうだけど違うわ……由比ヶ浜さんよ」
「あいつもう来ないんじゃねえの」
「そうかもね……でも先生は欠員補充をしろと言っただけで由比ヶ浜さん以外を入れろと入っていないわ」
な、なんという重箱の隅を楊枝でほじくるような考え方だ。それガキが喧嘩した時に『地球何周したときに言ったんだよ!?』って言ってるのとあんまり変わらない理論だぞ。
「あとは由比ヶ浜さんのやる気を戻すことが出来れば」
「お前、やけにやる気だな」
「……私は由比ヶ浜さんがいた日は悪くないと思っているもの……むしろ楽しかったわ」
雪ノ下は自嘲気味に笑いながらそう言う。
…………楽しかった……か。
「……帰るわ」
一言そう言い、俺はカバンを背負い直して歩き出した。