SW2.0異世界道中記〜すったもんだで英雄譚〜   作:神仁

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また新しくSS挙げます!
懲りずに厨二病全☆開ですが、どうぞ生暖かい目で流し見てやってくださいm(__)m




序章―異世界道中記―

 

「――というワケで、今日のセッションはコレで終了。お疲れっしたー」

 

「「「「お疲れさまーっ」」」」

 

ワイワイガヤガヤ――終わってからも面白いのがTRPG(テーブルトークロールプレイングゲーム)の醍醐味って奴だな。

中でもソードワールドと言えば、日本のTRPGの金字塔と言っても良い――俺らがやっているのはその2作目『ソードワールド2.0』――TRPGをたしなむ奴らなら、一度は聞いたことがある筈の………何?TRPGはクトゥルフしか知らない?

ソードワールド?あぁ、アイマ○とか東○のキャラがやる奴でしょ……?

 

……くっ、ニ○厨どもめっ!!

――俺も最初はそう思ってたのは秘密だ……。

 

だが旧作ソードワールドと言えば、公式でその世界観がアニメになったくらいなんだぞ?

ロードス島戦記とか、魔法戦士リウイとか――知ってる奴は居るだろ?

 

……えっ?2.0はどうなんだって?

…………こまけぇこたぁ良いんだよッ!!!

 

「いや〜、にしても今日のセッションはキツかったッスね〜」

 

「だなぁ……仲間内のセッションだから、GMも容赦ねーしなぁ」

 

そんな風に愚痴を溢し合ってるのが、後輩の中嶋 彰(なかじま あきら)と、俺こと斎藤 孝司(さいとう たかし)だ。

 

「……何を言ってんだ、このチート蛮族共が」

 

お前は何を言ってるんだ……とでも言いたげな奴が、今回のGM――新木 悟(あらき さとる)。

今回のセッションを行った場所も、奴のハウスである。

 

悟が俺と彰を『蛮族』と言ったが、蛮族ってのは人族の不倶戴天の敵のことだ――。

 

そもそも、人族とか蛮族を語るにはソードワールド2.0の世界観である、ラクシア世界を産み出した創世の三剣から説明しなきゃならんが――面倒なのでググるかWiki先生を頼れ。

 

まぁ、簡単に言えば三本の剣があって、その剣が人とかモンスターとか神様とかを産み出したワケだ。

人族に類する種族や、幻獣や動物等を一の剣ルミエル、二の剣イグニス、三の剣カルディアが産み出したワケ――。

 

蛮族ってのは主に、二の剣に選ばれて神になった『戦神ダルクレム』が産み出した種族だ。

 

必ずしも全部が全部そうではないんだけどな――結果的に蛮族呼ばわりされてる奴とか、二の剣そのものによって産み出された奴とか――その辺も説明が面倒だからググry――。

 

で、俺の持ちPCである『クライス・ヴァルフライト』と、彰の持ちPCの『クレイ・ヒューガー』は蛮族である――基本的にはPCは人族だけなんだが……例外もある。

 

クライスは『ドレイク』という蛮族のエリート種族――だが、欠陥を持っている。

 

ドレイクは生まれながらにして魔剣を持って産まれる――その魔剣を使って、ドラゴンみたいな姿に変身出来るわけだが――PCが使えるのは、そんな魔剣を持たないドレイク……所謂『剣無しドレイク』って奴だ。

 

この剣無しドレイクは、あらゆる面で通常のドレイクとは見劣りする――生来の魔剣が無いからドラゴン形態に変身出来ない……特殊なアイテムを使えば変身自体は出来るんだが、その姿は中途半端な――竜人とも言える姿だ。

人族に類する竜人――『リルドラケン』と似てなくはない……か?

公式リプレイでも剣無しドレイクが変身して、通りすがりのリルドラケンを装ったのは有名……かもな。

 

『剣の加護!!風の翼ぁっ!!』は隠れた名台詞だと思ってるよマジで。

 

能力的に劣る(とは言っても、PC使用可能種族の中ではかなり高水準である)半面、通常のドレイクより穢れが一点少ないから――『守りの剣』の中も移動出来る。

 

蛮族は生まれつき『穢れ』って奴を持っていて、この穢れが4点以上あると守りの剣が作る結界の中に入れない――強力な蛮族ほど穢れを多く持っているので、守りの剣は実に有効的な防衛手段と言える。

 

剣無しドレイクの穢れは3点――守りの剣の加護の中を辛うじて動き回れる――もっとも、穢れが三点にもなると結界の影響を強く受けてしまう――諸説あるが、常時二日酔いなり筋肉痛なりに似た痛みに苛まれるそうだ――我慢しようと思えば、我慢出来る程度ではあるらしいが……。

 

彰のクレイは『ウィークリング』という、蛮族の中では弱小種族に位置する存在。

あらゆる蛮族から、稀に生まれる可能性がある種族。

ウィークリングってのも『モヤシ野郎』とかって意味らしい。

穢れは2点――守りの剣の結界の中では不快感を感じる程度で、不自由は無い。

 

弱小種族とは言うが、能力的には人族の戦士と然程変わりが無い。

むしろ親の蛮族の能力を部分的に使える分、下手な種族より優秀と言える。

 

ただ、穢れが少ないのと――親が大体の割合で戦士階級の蛮族である故に、出来損ない扱いを受け――戦場等で使い潰される場合が殆どだそうだ。

 

まぁ、それも生まれた種族によりけりらしいが……。

 

クレイは『バジリスク』のウィークリングで、片目が石化の魔眼である以外は、人族と見た目的な差は無い。

当たり前だが変身能力も無い。

 

『ガルーダ』のウィークリングなら、部分的に羽毛が生えてるし、『ミノタウロス』なら親譲りの立派な角が、『マーマン』に至ってはエラとかヒレとかあるらしい。

 

――そんな蛮族としての欠陥を抱えた俺達だが、それでも蛮族なので人族にとっては不倶戴天の敵であることに変わりは無い。

 

そんな俺達が、何故に冒険者として危険を承知で人族側で行動しているのか――振った経歴表を簡単に纏めれば――だ。

 

クライスは武者修行の為に人族の領地へやってきて、その時にある人族を助けた。

そんなことをしていれば、感謝されることもあれば恨まれたりもするが……元来、面白ければ気にしない的な性格だから――そのまま人族側の冒険者として活動。

 

――居心地が良くなって、そのまま人族側に居着くようになった。

 

クレイは元々、人族の女に恋をしていたらしい。

その女(クレイ曰く少女)の影響で、人族を素晴らしいと思い――人族に対して夢や希望を持つようになった。

やがて、その少女と結ばれることを願って人族になりたいとまで思う様になる。

だから、バジリスクの両親の元で簡単な小間使いという――ウィークリングにしては比較的平和に過ごしていた環境を捨てて、その少女を追い掛けて人族側にやってきて、その少女と添い遂げる為にも、人族になるべく蛮族を捨てたという。

 

――その後、その少女が実は『ナイトメア』で――少女処かBBAな可能性が微レ存になるというオチがついたワケだが――。

 

『ナイトメア』ってのはあらゆる人族から稀に生まれる存在で――人族でありながら、生まれつき穢れを持って生まれる種族だ。

穢れを忌避する人族においては差別の対象になることも多い――その辺りは蛮族側のウィークリングと重なる部分がある。

 

――違うのは、ナイトメアは人族に分類される中でも強力な種族であるってのと、ある一定の年齢から歳をとることが無い……つまり、不老ってことである。

 

まぁ、クレイ憧れの少女BBA説はともかく……。

 

「酷い言い様じゃないかね悟君?蛮族差別ハンターイ」

 

「そうッスよ〜、コレでもマトモなプレイングしてるつもりッスよオレら」

 

「黙りやがれ。ただでさえエターナルから続投ってだけでも頭が痛いのに……」

 

エターナルとは、『エターナルエンパイア』というSW2.0の拡張パック的なサプリメントの一つで、古の帝国――エターナルを巡るストーリーをプレイ出来るゲームブックだ。

 

当事、GMド素人だった悟の要望で――EEをベースにしたストーリー展開でプレイしたのだが……折角育てたプレイヤーが御蔵入りじゃあツマンネ。

 

と、俺らが猛抗議した結果――渋々キャラ続投を認められたワケだが……EEクリア時に冒険者レベルがMAXの15に到達していた時点で、悟の頭痛も致し方無しって奴だろう――だが私は謝らない。

 

「けど、私たちってレベルは高いけど、能力値的には低かったですよ?」

 

「……まぁ、EEのシステムをそのまま採用してたから、ある一定のレベルになったら経験値も戦利品も稼ぎ放題だったからな」

 

そう語るのはもう一人の後輩、神代 観月(かみしろ みづき)と、同級生の三原 達之丞(みはら たつのじょう)だ。

 

この5人と、もう一人――横井 美咲(よこい みさき)を含めたメンバーは所謂、幼馴染みって奴だ。

 

俺とタツボン(達之丞のアダ名)、それと美咲は同じ大学へ行き同じサークルに所属している。

 

悟は大学には行かず、高校卒業後バイト三昧。

 

彰と観月は現役高校生だ。

 

実際、二人の言うようにEEはシステム上、モンスターが登場しやすく経験値が稼ぎやすい。

つまり、モンスターを倒して得られる戦利品も稼ぎやすいことを示しているワケだ……。

 

確率的な話をすれば、EEでモンスターと戦うにはダンジョンに行くか、特別なイベントが起こるか、フィールドに出てから移動時にサイコロを振って5か6を出さなければならないので、確率は低い筈なんだが……何故か結構な確率で敵とエンカウントしてんだよなぁ……。

 

通常、パラメーターは一回の冒険で1つ上昇する。

この辺はEEもあまり変わらないところだが――。

 

通常のセッションでは、経験値の入手量が少ない……というより、EE含むゲームサプリの上昇率が異常なだけだが――つまりレベルの上昇が通常より早い分、パラメーターは低かったりするワケだ。

 

「だから、今も技能レベル的には『サーペントシリーズ』のメンバーと同じか、上回ってるくらいだけど――能力値的には『ぞんざい』より少し強いくらいですからね〜」

 

『サーペントシリーズ』は公式リプレイの一つで、『湖の大司教』を始めとする公式最強15レベルパーティーによる痛快リプレイ小説、『ぞんざい』ってのはSW2.0最長の公式リプレイシリーズに出てくるパーティー名で、12〜13レベルの冒険者パーティーだ。

『サーペントの英雄』を除けば公式で一番強い冒険者パーティーだろう。

 

「あの勇者団より強いなら、十分適正値超えてる気がするが……お前らは良いんだよ。つーか、それが普通なんだから……俺が言ってるのはソコのチートドーピング蛮族共だよ!!特にクライス!!」

 

「んだよ、ルールには別に違反してねーぞ?」

 

「だからタチが悪いんだよ!なんだよボーナス値9とか10って!!」

 

「なんだよも何も、穢れの酒をがぶ飲みした結果ですが何か?」

 

――穢れの酒。

 

蛮族に伝わる秘蔵の酒で、穢れを得る危険性がある代わりに、能力値のUPや特殊能力の修得等の恩恵を得られる酒である。

特定の蛮族の戦利品を利用して醸造することで、その蛮族が持つ特殊能力を得ることも出来る――ギャンブル性の強い酒である。

製法が分かれば人族でも作れたりする。

 

「がぶ飲みし過ぎだろうがっ!!しかも、必ず一つはサイコロが234になるとかどー言うことよ!?四五六賽でも使ってたんじゃねーだろうな?」

 

「至って普通のサイコロだし、何より『穢れの杯』が無かったら間違いなくアウトだったからね?それに4と4で特殊能力が被ってしまったな……とか結構あるし」

 

「……オレっちは、杯があってもソコまでする度胸が無かったから先輩ほどじゃねーッスよ。まぁ、最悪『イレイス・ブランデット』があるから一回くらい穢れても取り戻せるッスけどね」

 

穢れの杯ってのは、穢れの酒を飲む際に振るサイコロを一つから二つにして、出た目のどちらかを任意に採用出来るアイテムだ。

 

……コレが無かったら、流石に俺も穢れの酒をがぶ飲みする気にはならなかったが……EEでダンジョン潜ったら手に入れちまったんだから……まぁ、しょうがないね。

 

彰は便乗してって感じだな。

 

「それに武者修行で人族の領域に来てるんだから、強さにはそれなりに貪欲なワケで――蛮族だし、飲まないワケが無いよな?」

 

「そういう点では、レクターは飲まないな――出自から極端な差別はしないが、自分が穢れるのは許容出来んだろうし……」

 

「フローラは気にしないでしょうけど……」

 

「観月は……リアルラックがありすぎるからダメっしょ?」

 

タツボンの言うレクターが、彼の持ちPC――『レクター・リヴェルツェンド』。

EEでの拠点、セズウィックで生まれた(という導入になった)仲間内唯一の純然足る人間である。

 

経歴的には、生まれはセズウィックだが異種族の集落で育ち、近所では物識り博士的な知恵者であったが――無駄な知識も多く蘊蓄好きだったという。

一人称は僕で、イメージ的にはコー○ギア○のルル山と、○方の古道具屋を足して2で割った感じ――らしい。

 

パーティー内での役割としては壁……タンクファイター。

なのだが、鎧は非金属鎧という……某黄金の鉄の塊が聞いたら鼻で笑う様な仕様。

 

武器も決定力に欠けるAクラスの剣のみ――本人曰く、中途半端に育ってしまったらしい。

 

しかし、ウォーリーダーとアルケミストをそれなりに高レベルで修得しているので、補助に回るとかなり強い――縁の下の力持ちタイプ。

 

……まぁ、ウォーリーダー技能は攻撃補助特化なのでかなり前のめりだけどな。

それだけでなく、人間特有の『運命変転』はかなり強いんだが……運命変転を判りやすく説明するなら『神は言っている――此処で死ぬ運命(さだめ)では無いと――』という感じのスキルだ。

まぁ、ザックリ言うと賽の目を引っくり返すスキルだから『神は言っている――此処で死ぬ――』にすることも可能……やる奴は居ねぇだろーがな。

 

ウォーリーダーとかアルケミストってのは、技能の名前だ――詳しくはググるかWiki先生にきry

 

ルーフェリアの近くにセズウィックを設置したので、義理立て的な意味でルーフェリア神官である。

近くにルーフェリアがあるから、ルール的には神殿を建てなくてもペナルティ無いしな……しかし、聖印は『浄化の聖印』という――。

 

ちなみにクレイはクス神官で、俺はユリスカロア神官――ニッチにも程があるって?

ハハッ!自覚してるよ!!

ちなみに、セズウィックにクスとユリスカロアの神殿を建てさせましたが何か?

それでも安定の浄化の聖印装備である……ユリスカロアは名ばかりの古代神で、設定上の知名度的には小神以下だからなぁ……。

 

神殿建てても、消費MP上昇抑制効果を受けられるのは小神大神だけで、古代神は神聖魔法の治療が受けられるだけ――ってのがルールなんだが……ちょっと頼んだらアッサリ認めてくれたよ――ユリスカロアだし、仕方ないね……って。

 

とりあえず、我が神ユリスカロアの神殿にはフォルトベルグより取り寄せた冷厳あらたかな壺を安置してあるよっ。

 

ちゃんと、ポケットマネーから支払ったんだからねっ!!

 

そして、今回のセッションの紅一点――観月の持ちPCがフローラだ。

 

種族はフィー。

分類上は人族だが、正確には古代種妖精に分類される。

 

古代種妖精ってのは、読んで字の如く古くから存在する妖精で、妖精使い――フェアリーテイマーでも正体を看破出来なかったり、使役するにも通常の妖精より条件が難しい特殊な妖精だ。

フィーはPCで、古代種妖精の中でも特殊な存在なので絶対に使役されたりしないらしいが。

 

古代種妖精だからか、その能力は妖精使い――フェアリーテイマー技能との親和性が高い。

 

見た目は小さいエルフみたいな感じで、身長は大きくても150弱らしい。

フローラは長い髪をサイドポニーにしていて、イメージカラーとしてはライトグリーンとか、そんな感じらしい。

 

『胸も大ちゃんな感じ?』

 

『残念ですけど、髪の色は緑じゃないです』

 

――キャラ作成時の悟と観月の会話だが……分かる奴は何人居るのかね?このネタ。

 

ちなみに、経歴は魔神の生け贄にされそうになって、叶わぬ夢を持っていて、何か見栄を張っているそうだ。

 

俺が『人族を助けたことがある』という経歴を振ったので、それに関連した流れにしたいっつー観月の要望で――。

 

――フィーは普段は結界の中に住んでいるが、1000年に一回の周期で外界――ラクシアにやってくる。

物語を綴る為ってのが大まかな理由らしいが……詳しくはグry――。

 

御多分に漏れず、フローラもそんなフィーの中の一人だったんだが……危うく魔神の生け贄にされそうになり――そこを俺が助け出した、ってことらしい。

 

その時に吊り橋効果的にビビッと来たらしく、クライスに惚れ込み――クライスの英雄譚を書き綴り、後世に伝えたいんだとか。

 

ドレイクの英雄譚なんか綴っても、人族に受け入れられるか微妙なラインだが――だからこそ、この英雄叙事詩を作り上げるんだそうだ――とは言え、『USA』という前例があるから『決して叶わぬ夢』ってワケでも無いと思うがなぁ……。

 

「確かに、観月のリアルラックは神掛かってるからなぁ……あの調子で回してたら、あっという間にトーテム行きだな」

 

フローラはEE上がりなので、15レベルにしては若干能力値は低めだ――が、恐ろしいのはフローラというより、観月のリアルラックである。

 

この女、行為判定で6ゾロ振るのは勿論――クリティカルの時など、それはもうクルクルクルクル回すのだ……。

 

信じられるか?知力ボーナス4とか5の世界で――威力60のカオススマッシュで、平然と平均ダメージ100を叩き出すんだぞ?

5回6回は当たり前で――8回とか回された日には悟の奴も、真っ白になってやがったし……。

 

「おい馬鹿やめろ。この戦闘は早くも終了ですね――って感じッスもんね〜」

 

「もうフローラだけで良いんじゃないかな?――という感じだな」

 

しかも、フローラはスカウト生まれで――スカウトも14まである。

 

安定のファストアクションです――レベルが違いますよ。

 

しかし一番酷かったのがソーサラーが15になってからだ……安定のメテオ・ストライクである……。

トリガーハッピーならぬマジックハッピーと化したフローラに蹂躙されるモンスター達……色々と察して欲しい。

 

「もうね、150〜200近いダメージを毎回叩き出されたら並の敵じゃあ一瞬で御陀仏ですよ――馬鹿かと、アホかと」

 

「い、いやぁ……流石に一人じゃ辛いんですよ?皆が後ろに控えてくれてるからこそですって!」

 

「そう、後ろに控えてるのがコイツらだから――最悪、魔法の連発で終わっちまうんだよ――」

 

「人聞きの悪いこと言うなよ。こう見えてクライスもクレイも魔法戦士寄りビルドなんだから、『魔法誘導』も『魔法制御』も持ってないぜ?」

 

「一応、俺は神官戦士ッスけどね……コンジャラーもあるけど」

 

「彰はまだ良いさ――けどお前は『マジシャン』で無理くりスキル付けてくるだろ」

 

「……まぁ、やるとしても大体が開幕ぶっパか、補助魔法くらいだからマジシャンは滅多に使わないけどな……大体雑魚モンスターは観月の先制ぶっぱで終わるし」

 

――等と供述しつつ、目を逸らす俺。

魔法系技能は魔導機術と召異魔法以外は全て身に付けてますが何か?

ああ、妖精魔法も覚えてねーな。

 

MP上昇、美味しいです。

 

等々――愚痴ったり、セッションの感想を語ったりとか――用具の片付けをしながらも、盛り上がりは衰えない。

 

何しろ、身内卓だからな――結構好き勝手というか、気楽にやらせて貰ってる部分がある。

 

――幾ら俺でも、他のオンセやオフセで穢れの酒をがぶ飲みとか流石にやらねーよ。

ルールに違反してなくても、TPOってのがあるからな――。

 

等と思いながら片付けをしていると――。

 

「いや〜、にしてもコレだけの強さがあったらリアルにラクシアで生き抜けそうッスよねぇ〜!」

 

「まぁ、強さという意味では余裕かもな――特に孝司と彰は……悟じゃないが反則級だからな――」

 

こういうゲームに限らず、誰しもが一度は考えたことがあるだろう――『もしもこの世界に行けたら』とか、『もしもこんな力があったら』――とかな。

 

少々患い気味な思考であることは否めないが、キャラに愛着が生まれて――もう一人の自分と言える程に馴染んでいたなら……考えたことはある筈だ。

 

けどな――。

 

「まぁ、無理だろうな」

 

「うぇ?何でッスか?」

 

「そうですよ〜、二人とも強さだけなら『伯爵』超えじゃないですかぁ」

 

俺の言に、夢見がちな十代コンビが異を唱えるが――。

 

「能力値だけなら、な。それでも総合的攻撃力では勝てる気がしねぇよ」

 

一対一なら分からねぇが……それでも、一撃の重さって意味では血塗れ伯爵には勝てないだろうよ――俺も『アゴウ重槌破闘術』を覚えているが、俺が使えるのは『禍津罪打ち』だけで、向こうは『爆破神鳴り』まで使ってきやがる――魔力量や筋力値では上回っているから、威力的にはドッコイか……まだ俺が負けてるかも知れん。

 

「魔力では『宝石』に及ばないし、硬さでは『渚の大司教』に、速さでは『百変化』に勝てないからな」

 

ちなみに『魔神学者』とは魔力的にはドッコイ。

まぁ、あらゆる魔導の流派を修めた彼と魔法合戦して勝てるのかと言われたら、全力でNOと答えるけどな。

 

「――って、なんでサーペントの英雄と競う前提な話になってんだよ……俺が言いたいのはそういうことじゃなくてだな――」

 

そもそも、特化型能力の15レベル超パーティーに、幾らドーピングしたとは言え得意分野で勝てる筈もないのはさておき。

 

「まぁ、フローラやレクターは十分生き抜けるだろうよ――悟や美咲の持ちキャラも余裕だろーな」

 

「……悟が僕らの間で使ってる持ちキャラって、ソレイユだったよな」

 

「おうよ。ちなみに美咲はヴァルキリーな」

 

ソレイユもヴァルキリーも新種族だが、GMばかりやってる悟は身内卓での持ちキャラは居なかった……当然、身内卓以外では複数のキャラを持っていたが。

 

悟もプレイヤーとして参加したいと言い出し、急遽タツボンがGMを担当――それに合わせて美咲も参戦。

 

ちなみに、タツボンもGM経験はあるが悟に毛が生えた程度に過ぎず……そのくせゲームメイクの殺意の高さは、かのDMOを彷彿とさせるという恐ろしさ――。

 

ストーリー型サプリ『カルゾラルの魔導天使』をベースにプレイしてソレなのだから……色々察して欲しい。

 

当たり前の様に10レベル制限を超えて、15レベルに到達しているが……それでも悟は俺らに助けを求めてきたのだから、色々お察しである。

結局、俺らが途中参戦する流れになったワケだが……。

 

『お前、ソレで良いのか?』と、悟に聞いたら――『無惨に死ぬよりマシでござる』という素敵なお言葉を戴いた。

 

まぁ、話の流れからセズウィックに残ったレクター以外は自由に動けるワケで……。

 

尚、レクターはセズウィックの郊外で冒険者の店を営んでいる。

一応、俺らも所属していて、町中の守りの剣の結界に入れない――或いは入り辛い穢れを持つ『はぐれ蛮族』連中にも仕事を斡旋出来るようにと始めたらしい。

 

タツボン曰く、「使える奴は使う」とのこと。

 

そういうことをしていると、反逆の意思有りと思われる可能性大だが……腐っても15レベル超、名誉点3000点超えの冒険者だ。

 

信頼感が違いますよ。

 

どこぞのリルトカゲンよろしく、本人も現役冒険者なので時折一緒に冒険には出ている……という設定である――って、話が逸れたな。

 

「けどな、俺と彰……というか、クライスとクレイは蛮族だぜ?」

 

「だけど、名誉点3000点超えッスよ?もう蛮族と呼ぶ奴は居ないレベルなんスよ?考えすぎじゃあ……」

 

「あのなぁ……ソレ、人族の名誉点に照らし合わせたら、地方で知らない者は居ないって『程度』のレベルだぞ?」

 

「あ……」

 

程度とは言ったが、サーペントの英雄も3000点超えのパーティーだ。

その地方では知らぬ者は居ないだろう名声を持つ――が、一度その地方を離れるとガクリと知名度は下がる――。

 

公式でも言及されていたが――言うならば国の首相レベルの認知度って奴だろう。

その国では知らない者は居ないが、外国からだとその道のマニアしか知らない――みたいな。

 

人族の場合は名誉点5000点超えという称号にまで到達出来る――そのクラスになったら地方を超えて知らない者は居なくなる。

 

が――蛮族に5000点超えという項目は存在しない。

 

つまり、『蛮族と呼ぶ者が居ない』のは地方止まりであり、一歩地方から出れば人族不倶戴天の敵という扱いが待っているワケだ。

 

これは蛮族が、どう足掻いても悪名のほうが高い種族であるからだろう――仮に、不名誉点とでも言うべき値が存在するとしよう。

 

要するに、マイナスの方面で地方を超えて知らない者が居ないという状況になりうるのが蛮族なのでは無いか、と。

ディルフラムのトップ連中とかな。

 

――もっとも、情報に長けたマニアックな奴なら知っているだろうレベルだから、少なくとも名誉点3000点ってのは例えるなら小神〜大神の間レベルの知名度なんだろーよ……そう考えたら、俺らが地方から出ても100%敵扱いされるワケでは無いとは思うが……。

 

「分かったか?俺とお前は蛮族キャラである以上、片身の狭い日々が続くってワケだ。勿論、活躍した地方じゃその限りじゃねぇだろうが……」

 

俺らが活躍したのはフェイダン地方と、カルゾラル高原のあるレーゼルドーン大陸の一部――後は他もチョコチョコと……である。

 

「そ、そうッスよ!俺らフェイダンじゃ有名人ッスよ?皆から認められて、少なくとも地方じゃ知らない奴は居ないんだし――」

 

「……それでも、どうしても蛮族ってレッテルは付きまとうんだぜ?それに生き死にが際限無くまとわりつく世界だ……お前、リアルに殺しとか出来んのか?」

 

「そ、そりは……その……」

 

よく、ライトノベル等でありがちな問題――『常識の違う異世界に行って敵を殺せるのか?』ってことだが――これはソイツのパーソナル次第であろうと思う。

しかし、比較的平和な現代日本に生まれた俺らに、それが出来るかは甚だ疑問だな。

精神的異常者だっつーなら話は別だが。

 

「つーか、俺もなーに真面目に答えてんだか……」

 

「孝司センパイも、何だかんだ言ってそーいうこと考えたりするんですねぇ?」

 

「……まぁ、一度も考えたことが無いと言ったら嘘になるし、なっ」

 

「あう゛ッ!?」

 

ニマニマした表情で聞いてきやがる観月に、デコピンを喰らわせてやる――ざまーみろだ。

 

「ちなみに、俺は常にそう言うことを考えてるけどなっ!!」

 

「……自慢にならないな」

 

等と悟とタツボンが語っていたが――蛇足である。

 

***********

 

なんて会話をしながら、片付けは続き――。

 

「んじゃ、またなー」

 

「ウィーッス」

 

「……次回のセッションも楽しみにしてるぞ、GM?」

 

「俺もたまにはプレイヤー側になりてぇっつーの……最悪、ノワールとかエルダーを弄くってみるかねぇ」

 

等と言い合いながら、各々の帰路に着く。

……最後の不穏な台詞は聞かなかったことにするけどな。

 

「センパーイっ!!」

 

「観月か」

 

「今日はもう帰るだけなんですよね?一緒に帰りましょうよ!」

 

「まぁ、良いけどよ」

 

俺と観月は家も隣同士……正にキングオブ幼馴染みって奴だ。

だから、こうして一緒に家路につくことも多い。

 

「それにしても意外だなぁ……孝司センパイが、あんなことを考えてたなんて――」

 

「お前ね。話を混ぜっ返すこともねーだろうよ?」

 

「あ、違うの!そうじゃなくて……悟センパイとかならともかく、孝司センパイが一度でもああいうことを考えてたってのが意外で――」

 

「……泣くぞ、悟のヤツ」

 

とは言え、以前に悟のヤツが酒に酔って吐露していたからな――『現実に居場所が無い』とか。

 

ダチ同士で連むのは楽しいし、親兄弟は相応に大事だけど……現実に違和感を感じるんだ――と。

 

「――まぁ、悟ほどじゃねぇが……俺だって、摩訶不思議な冒険なんかに憧れることくらい、あらぁな」

 

「えー、孝司センパイって思いきりリア充だと思うけどなぁ……その、モテるし……」

 

「それこそないわ〜……一応言っておくけどな、大学じゃあ多少見た目が良いくらいじゃあ見向きもされねぇよ」

 

それこそ超絶イケメンか、金を持ってなけりゃあ……な。

ったく、世知辛い世の中だよ……金で寄ってきた女と付き合いたいとも思わねぇが。

 

「つーか、高校時代も特にモテた記憶はねーぞ?」

「……コレだもんなぁ」

 

ヤレヤレと言った風に首を振る観月だが、本ッッッ当にッ!!モテた記憶なんざ無い。

コレっぽっちも無い!!

 

何しろ告白されたこともねぇし、手紙が下駄箱に山のようにドサーッてのも無い。

 

バレンタインにはそれなりにチョコを貰ったりしたが、全部義理だ。

 

むしろ――。

 

「むしろモテたのはタツボンの奴だろーが」

 

「まぁ、それは否定しない……かなぁ……」

 

タツボンのボンは『ボンボン』のボンだ――つまりお坊っちゃん。

 

イケメンで金持ちで成績も良くて――性格も良いとくりゃあ、モテないワケがねぇんだよな――。

 

「と、こんな具合にこちとら到って平々凡々な生活を送ってるワケだ――薔薇色のキャンパスライフなんざ幻想だぜ」

 

どこぞのイマジンブレイカーさんに、この幻想をぶち殺して欲しいモンだ……いや、奴がリアルで居たら彼女なんか出来ないか……フラグ持っていかれて。

 

「それじゃあ……彼女とかは……?」

 

「生まれてこのかた、そんなの居た試しがねぇな――」

 

そんなのが居たら、クライスも此処まで成長してねーだろうぜ……。

まぁ、コイツらとワチャワチャやってんのも楽しいから良いけどな。

 

「そっかぁ……で、でもさ?センパイ、セッションでもモテたりしてるけど全然、素っ気ない感じだもんね?」

 

「そうかぁ?まぁ、クライス的には女より面白いことが好きなんだろうからなぁ……つーか、基本NPCを演じてるのは悟じゃねーか。ロールプレイとは言え、そんな気は起きねーぞ俺ぁ」

 

時折、観月や美咲がノリで女NPCをRPしたりするが、長年の付き合いであるコイツら相手にドギマギした感情なんざ持てる筈もねぇし……。

 

クライスのノリからすると、やはり女より鍛練や冒険なのである。

 

「それにな、ドレイクの男ってのは異種族間で子作りすんのはヤベぇんだよ」

 

「こ、子づッ!?――って、異種族で子供出来るのは知ってたけど……人族と蛮族でも、その……出来るんだ?」

 

「出来るらしいぞ?人に化けたオーガやラミアとかな――ラルヴァなんて、正に人間と吸血鬼の合の子じゃねーか」

 

「あっ、言われてみたら……」

 

「……一応、ドレイクも人族との間に子供を作ることは出来るらしいんだがな。ただ、ドレイクってのは魔剣を持って産まれるからな……角も生えてるし――だから、その子供を産もうとするとほぼ確実に母体は無事じゃ済まないらしい」

 

確か、殆どの場合は母体が死んで――無事に生き残っても二度と子供を産めない身体になる――だったか。

生まれてくるのは必ず剣無しドレイクになる……いや、そうなると『信じられている』――だったか?

ドレイク側が母親だとそういう危険は無いっぽいが……。

 

……そう言う意味じゃあUSAの二人――というより、ドレイクのアイツはそのことを知ってたのかもな。

夜の性活なんてしなかったか……あっても殆どやらなかったのだろう――だから、あんな激太りしたんじゃなかろーか?

夜のプロレスごっこで、カロリーを消費しなかった故の末路……いや、英断の代償、か?

 

……最後は元に戻ったけど。

 

「GMが女ドレイクのNPCでも出してくれりゃあ、流れに乗ることもあるかも知れないが……悟にしろタツボンにしろ、一回も出さねぇし」

 

何故か、出てくるドレイクはみんな野郎だったからな……そういうフラグが立つワケもねぇ――俺ぁノンケなんだ。

 

「……フローラなら、クライスさんのお相手が務まるんじゃないかなぁ?」

 

「何言ってんだお前――つーか、フィーに性別ってあったっけ?」

 

「しゅ、種族的には無いってだけで、身体とか心とかは男女な違いがありますもんッ!!そう書いてあったもん!!」

 

「……だっけかぁ?」

 

ぶっちゃけ覚えてねぇ……。

ルーンフォークに生殖機能は無いってのは、何かで見た気がするんだが……。

 

「だから!!……だから、ここ、子作りしたって……子供は、出来ないけど……そそそ、そういう心配する必要も――」

 

まぁ、アレだ――。

 

「うきゅっ!?」

 

「――10年早ぇ」

 

と言いつつ、デコピンをかます俺様なのでしたっと。

 

「むーっ!!なんですかぁ!!RPとは言え、ピチピチギャルなJKとくんずほぐれつ出来るんですよ?そんな邪険にしなくたって!!」

 

「……表現がオッサン臭いぞお前……つーか、大声で誤解を受けそうな台詞を宣うんじゃねぇ」

 

ピチピチギャルも、くんずほぐれつも表現としては死語じゃねーか――リアルJKか疑わしくなるなコイツ。

 

「それに、フローラは歳20超えてたろ?JKなんて言えないだろJK?」

 

「20超えてもJKやれるモン!ファンタジーだから!!」

 

「……公式でもぞんざいが学園モノしてるし……騎士学校が存在してるのは確かだから、可笑しくはねぇ……か?」

 

それでも、学生してるのは10代メンバーのみで、某最年長ルーフェリアエルフは女教師として在籍していた筈だ。

 

「と、着いたか。そんじゃまたな」

 

家に着いたので軽く挨拶して、俺は家の門扉を潜――。

 

「――ねぇ、お兄ちゃん!」

 

――と、これはまた懐かしい呼び方だな。

 

「……んだよ、まだ何かあんのか?」

 

「もし……もしだよ?もし、彰の言う様にラクシア世界に行けたとしたら……お兄ちゃん、どうする?」

 

「……そりゃあ、持ちPC――俺ならクライス、観月ならフローラとして、ってことか?」

 

観月はコクリと頷く――さて、普段ならバカ言ってんじゃねぇと言う所だが――。

 

「そんなもん、安全な所に込もってのーんびり過ごす。当たり前だろ?」

 

「……言ってること違くない?冒険に憧れてるって――」

 

「蛮族じゃなければ……な。それだけはぐれ蛮族にとって安息の地は貴重なんだよ……まぁ、名誉を得た地がフェイダンって魔窟だからな――引き込もってりゃ安全ってワケでもねぇだろうが……」

 

摩訶不思議な冒険に憧れがあるのは確かだが――通常、魔女裁判や宗教弾圧並の扱いを受ける蛮族になってまで叶えたい憧れじゃあねぇ。

 

クライスのキャラ的には有り得ない考え方なんだが――ソコはソレ。

 

「人族のキャラでなら、アリかも知れねぇけどな」

 

ただ、そうなるとオンセなんかで使ってる人族キャラは、クライスに比べると能力は数段落ちるから……冒険中に死ぬ可能性はあるな。

 

「――まぁ、悟と違って俺ぁ現実に不満なんかねーからよ?今のままで十分だ」

 

「……泣くよ、悟センパイ」

 

「お前が言うな」

 

「――それもそうだね」

 

俺達は、どちらからともなく吹き出した……今頃、悟の奴はクシャミでもしているんじゃなかろーか?

 

「それじゃあ、私も帰るね――センパイ」

 

「ん?お兄ちゃんじゃねーのか?」

 

「そっ!?それは言わない約束でしょっ!!」

 

「どんな約束だよ?つーか、お兄ちゃんでも良いんだぞ別に」

 

昔はよく『お兄ちゃんお兄ちゃん』と懐いていたいたのに、ある時を境にお兄ちゃんとは呼ばなくなった――今みたいに、ふとした切っ掛けで呼ばれたりはするけどな。

 

「……もう知らないっ」

 

機嫌を損ねたのか、観月はプリプリ怒りながら帰っていった――まぁ、隣の家なんだが……。

 

「……なんだかねぇ」

 

頭を掻きながら溜め息一つ――何か気に障ること言ったかねぇ?

 

「まぁ、良いか」

 

今に始まったことじゃねーしな。

 

***********

 

「ふぅ……」

 

飯も食い終わって、シャワーも浴びて――自室に戻ってきた俺。

 

明日は講義とバイトもあるし、さっさと寝ちまうか――。

 

「……と、忘れてたぜ」

 

ベットの上に放り投げていたリュック――そこからクリアファイルや筆記用具――愛用のサイコロ等を取り出す。

 

それを机の上に置き……何気なく、クリアファイルからキャラクターシートを取り出す。

 

そこには、レベル15の――そんじょそこらの爵位持ちドレイクにも負けない様な――悟曰く、チート蛮族の姿があった。

 

EEをクリアした後も、幾度と無くセッションという名の冒険を越えて――この域にまでたどり着いた。

 

「……お前が満足出来る様な冒険が、ラクシアに残ってるのかねぇ……」

 

サーペントの英雄じゃないが、世界の危機に類する事件でもないと釣り合わない気がするな。

 

……やる気と根気がPLとGMの両方にあれば、15レベル到達は難しいことじゃない。

 

しかし、それでも此処まで育てる奴は稀だと思う。

 

理由として大きいのは、やはりGMとPLに根気が必要なこと――15レベル到達だけでも気が遠くなるのに、それを三つも四つもとなれば……まぁ、察してくれ。

 

俺らはEEからのコンバートではあるが、それでも決して楽な道程では無かったからな……。

 

あとは――強くなれば爽快感は増すが、冒険や戦いでのスリルが減る。

 

つまり、ゲームとしての面白みが無くなるワケだ――無双するのは確かに面白い。

 

しかし、それでも試行錯誤して格上に勝った時や、成長した時の喜びに比べたら……面白みに欠けると言わざるを得ない。

変わらず楽しめるのは、精々ダンジョン内のリドルくらいじゃなかろうか。

そうなると、既存のデータでは物足りなくなってくるので、GMが苦心して独自のモンスターを作ったりしなきゃならなくなる――GM中級者に毛が生えた程度の悟やタツボンでは、その辺のバランス感覚が狂いそうで恐ろしいワケだが。

 

まぁ、コレは俺の考えであって全体的な意見じゃないと思うがな……単純に俺tueeeeeeが好きな奴も居るだろうし――俺も嫌いじゃ無いしな。

 

「……それもこれも、『ゲームだからこそ』だけどな」

 

仮に――仮にだ。

 

本当にラクシア世界に行けたとして、だ。

 

リアルとして過ごさねば『ならない』としたら――断然強い方が良い。

死にたくないんでな……だが、彰や観月にも言ったようにクライスでは蛮族というネックがある。

 

しかもクライスは、その中でも敵性種族筆頭と言ってもいいドレイクだ――人族社会ではさぞかし生きにくいことだろうよ。

 

幸いというか、人族側で名を馳せているから――一部地方においては正体を隠さなくても良さそうではあるが……。

 

勿論、身内以外とのオンセオフセで使う人族キャラも居るには居るが……強さはガクリと落ちる。

 

クライスは穢れの酒に依るドーピングは勿論だが、何よりも15レベル超のキャラだ。

 

他のは15レベルに届かない者や、15レベルになんとか到達した程度のキャラしかいない。

 

「――って、何をクソ真面目に考えてんだ俺ぁ……」

 

アイツらの厨二病でも感染したんかね……。

 

俺はクライスのキャラシーを再びクリアファイルに挟み、机の上に置いた。

異世界に行く……それも自分の愛用するキャラになって――そんなの、ラノベ処か三文小説の領域だ――ありえねーよ。

 

そう、ありえねーんだ……。

 

***********

 

「……ん……くっ……」

 

身体が暖かい……日差しがぽかぽかと、身体を照らしているのが分かる。

 

俺は微睡みの中、草木の香りに包まれながら再び深い眠りに落ち――……。

 

「……って、講義に遅れるじゃねぇかぁッ!!!」

 

「きゃっ!?」

 

スワッ!!と思い至り、カッ!!と目を見開き、ガバッ!!と起き上がった!!――って、きゃっ?

 

「……あん?」

 

「………」

 

そこには、ビックリした様子でヘタリ込んでコチラを伺う変わった女――いや、見た目的には女の子――が居た。

どう変わってるって?

 

まず髪型が左結いのサイドポニーで、その髪の色が淡い水色だ――髪型はともかく、髪の色はありえねーだろ?

耳も心なしか尖っている気がする。

 

身長は150有るか無いか――そのくせ出るところは出ている……ロリ巨乳って奴か?

そんなの都市伝説かと思ったぜ……。

 

その服装も、また不可思議だ。

コートの様な物を羽織り、その上からマントを靡かせている――スカートはヒラヒラの……プリーツスカートっつーんだったか?

 

それにロングタイツという出で立ちだ――悟曰くニーハイという呼称が正しいらしい……知らんがな。

 

この娘の足元に装飾が施された、杖っポイ何かが落ちていた……恐らくこの娘の物だろうが……。

 

文句無しの美少女ではあるが……何か、全体的にファンタジックな感じなんだよな……なのにコスプレ臭はしない。

 

こんなの、何処のレイヤーだって話なんだが……しっかし、コイツ――何処かで見た様な……?

 

「……あ、あの……」

 

「……なぁ、君……何処かで会ったこと無いか?君みたいな特徴的な娘なら、見忘れたりしない筈なんだが……って、間違ってもナンパじゃねーからな?勘違いすんなよ?」

 

幾ら可愛くて胸がデケェからって、お巡りさんのお世話になる気は毛頭ねぇんだこちとら。

 

しかし……やっぱり見たことある様な――それも最近………サイドポニー……エルフ耳………フィー?

 

……まさか、な?

 

「あの……もしかして、お兄ちゃん……?」

 

「……は?」

 

目の前の女の子が突如発した言葉が、俺を更なる混沌に叩き落としやがった……。

 

オニイチャン……お兄ちゃんとヌカしやがったかこの娘っ子。

 

お陰で生じた疑問が、更に深くなっちまったじゃねぇかよ……。

 

――俺のことをお兄ちゃんなんて呼ぶ奴は、この世に一人しか居ねぇ――。

 

「……幾つか聞きたいんだが、良いか?」

 

「う、うん」

 

「……お前、『フィー』か?」

 

「うん、多分……」

 

多分……つまり、自分に対して自信が持てねーってことだな。

 

「お前の名前……『フローラ』か?」

 

「多分、そうだと思う……」

 

また多分と来たよ――こりゃあ、夢か?

 

「……じゃあ、もう一つ質問だ――お前、『観月』か?」

 

「――うん」

 

今度はしっかりと頷きやがった……。

 

「マジかよ……」

 

どっかで見たことあると思ったら、昨日のセッションで観月のキャラシーに描いてあったフローラそのものじゃねぇか……細かい違和感も感じるが……そりゃあ2次元と3次元の違いから来るモンだと思う……しかし、それの中身が観月とか――やっぱり夢かこりゃあ。

 

「私からも……質問して良いですか?」

 

「おう、良いけどよ――なんか他人行儀じゃね――「貴方は……孝司お兄ちゃんなの……?」――は?当たり前だろ?他に何に見え――」

 

観月?の突拍子もない質問に、お前は何を言ってるんだ状態だったが――ふと、視線に銀色がチラつく――そして観月の状況を見て……思い至ってしまった。

 

「……なぁ、ちょっと聞きたいんだが」

 

「う、うん……」

 

「俺って――銀髪?」

 

「……うん」

 

「角、生えてる?」

 

「黒くて、その――立派なのが二本……」

 

何故赤くなる――と、普段ならツッコミ入れてる所だが……内心テンパっててそれどころじゃなかった。

 

恐る恐る頭部に手をやると、こう捻れて角張った硬いモノがあって……何て言うか、すごく、大きいです……って……。

 

「アバーーーッ!!!??」

 

「ウキャアッ!!?」

 

***********

 

数分後――。

 

「わ、悪ぃ……驚かせちまって……」

 

「う、ううん、お兄ちゃんは悪くないよ……私だって、最初は驚いたし……」

 

錯乱していたが、何とか落ち着いた俺は観月と状況確認をすることにした。

 

観月がフローラになっている様に、どうやら俺はクライスになっているらしい――夢かと思って頬をつねったら……無茶苦茶痛かった。

 

「視線が高いとは思ったんだが……通りでなぁ……」

 

恐らく今の俺、二メートル近くあるんじゃないか?

 

「まさか、昨日言ってたことが本当になるなんて……」

 

「……やっぱり、此処……ラクシアか?」

 

「だと思う……よ?妖精さん――なのかな?気配を感じるし――私には分からないけど、お兄ちゃんは神様を感じられるんじゃない?」

 

「――むぅ」

 

確かに……何と言うか、大いなる存在……の様な、そうでもない様な――微妙な存在感を感じる――何処ぞの聖整備士も布教してるだろうし、俺もセズウィックに神殿まで建てたのに……未だにこんな調子ですか我が神(マイゴッド)よ……。

女神だからゴッデスか。

 

「だが、だとすると……何で俺らはこんなところに居るんだ?ってことになるんだが……」

 

「そこなん、ですよね……私たち――特に私と彰が強く望んだのは確かだけど……まさか本当になるなんて――」

 

「――そこも気になるけどな。何で俺らは二人きりで、こんなところに居るのかってことだ」

 

「えっ……」

 

「色々考えてみたんだけどな……『なんで俺らがPCになっているのか』――正直、これは皆目見当がつかねぇ……なら次点で『どうして二人きりで、こんな場所に居るのか』――だ」

 

「なんでって……フローラとクライス――つまり私とお兄ちゃんはEEが終わった後は二人旅していたって設定じゃない……そのあと、仲間がまた集まって冒険したりもしたけど――もし、私たちがそれぞれのPCになったんだとしたら、不思議じゃないと思うけど」

 

「……セッションが終わったばかりなのに、か?」

 

「あ……」

 

確かにこんな特殊な状況だ――自分達が『セッションしていたラクシア世界に来た』と、関連付けて考えるのが普通……なのかは分からねぇが……こういう事案の普通が分からねぇからな。

 

だが、もしそうなら妙なことがある――。

 

「俺ら――つまり、クライス、フローラ、クレイ、レクターはセッション終了後もまだ別れちゃいねぇ――同じ場所に――同じ町に留まっていた筈なんだ。ましてや、こんな自然豊かな場所に居るワケがねぇ」

 

「それは……」

 

「此処がラクシアだってのは、多分間違いねぇ――お前は妖精の存在を……俺はダメ神――もとい、ユリスカロア様の存在を感じることが出来るからな――だが、此処が『俺達がセッションしたラクシア世界』かは分からねぇってことだ。いずれにせよ、何故俺らだけこんなところに居るのか?この場所が何処なのか……何一つ分からねぇのは変わらねぇよ」

 

「……彰や達之丞センパイも、こっちに来てるかな?」

 

「さて、な。仮に『俺らの』セズウィックが存在するなら、レクターやクレイは居るかも知れねぇが……それがタツボンや彰になってるかは……分からねぇな」

 

「そうですね……分からないですよね……」

 

「もうちょい情報が欲しい所だな……」

 

状況が異質過ぎるからな……情報はあって困ることはねぇ。

 

――というか、だ。

 

「お前、何で敬語だったりそうじゃなかったり……何と言うか、支離滅裂なんだ?」

 

「いや、その……お兄ちゃん、見た目変わっちゃってるから……なんか恥ずかしいって言うか……昨日セッションやったばかりだから、クライスさんに対する対応になっちゃうって言うか……」

 

「あー……まぁ、分からんでもないなぁ」

 

ドレイクってのは、眉目秀麗な美男美女が多い――要するにイケメンってこった。

つまり観月は、俺が俺に見えなくて構えちまうんだろーよ。

 

「んなもん気にすんなよ――お前の好きに呼びゃあ良い」

 

「――うんっ!」

 

嬉しそうにしちゃってまぁ――こう言うのを満面の笑みっつーんだな。

とは言え……。

 

「……お互いこういう身形になっちまったから、その辺は意識した方が良いかもな」

 

「意識……そんな、意識なんてぇ……♪」

 

「大事なことだろうが――まだハッキリとはしちゃいねぇが……俺がクライス、お前がフローラになっちまったのは確かなんだからよ。意識して対応しないと、ボロが出ちまうぜ?」

 

「アッハイ――」

 

?なんか、目に見えて落ち込みやがったなコイツ――。

 

「何も無理にキャラをロールプレイしろってんじゃねぇ――俺らのセズウィックがある――悟や美咲が活躍したラクシア世界なら、俺らは間違いなく有名人だ。だから気持ち備えようってだけの話だ」

 

特に俺は蛮族だからな……不審な素振りは厳禁だ。

 

「とは言え、四六時中キャラになりきれるワケがねぇからな……俺はクライスなんだ、お前はフローラなんだと――それとなく意識してりゃあ良い」

 

「うぅ……それはそれで難しいような……」

 

「俺もお前も、持ちキャラとの極端な性格の不一致は無いから……まぁ、大丈夫じゃね?」

 

勿論、中には真逆なキャラも居るが――気楽な身内卓だったので、自然とキャラのプレイングもリアルに近しくなっちまった――。

 

俺や観月の場合は……だけどな?

 

「……じゃあ、クライスさん――って呼んだ方が良い?」

 

「さっき言ったろうが……気持ち装おうくらいで良いって――好きに呼べよ」

 

出来ればそうした方が良いんだろうが……とりあえず今は、自分が別人になってるって認識があれば良い。

 

難しいかも知れねぇがな……。

 

「しっかし、その杖と言い……この武器と言い――現実感が無い筈なのに、こうして現物を見せ付けられたらコレが現実だって実感しちまうぜ……」

 

そう言って俺は周囲に転がっていた、クライスの得物と思われる武器の中から刀を手に取る――。

 

刀なんか、実物は半端なく重いらしいのに――軽々と手に取ることが出来た――そして、何と言うか……馴染む。

 

まるで、何年も使い込んでいる様に――自分の身体の一部の様に。

 

鞘から軽く抜いてみる――その刀身は只の鋼以上の凄味を帯びている気がする。

 

それもその筈で、これは修正が入る前の『首切り刀』をフルカスタマイズ(妖精の武器化除く)した業物――その名も『妖刀・村正』だ。

 

……尚、この名前は俺が決めたモノでは無く――セズウィックにやってきたダークドワーフの職人(工房の副工房長で、工房長はドワーフ)が名付けた物――という体で悟の野郎に付けられた物である。

 

――要するにガッデムブレードインフィニットとかと同じノリだ。

 

この副工房長にオーダーメイドされた武器は、大体このノリの名前が付けられる――その辺に転がっている元・デーモンスレッシャー等はその典型と言えるだろうよ。

 

俺は村正を鞘に収めて、腰の剣帯に吊るす。

そして元・デーモンスレッシャー(銘、封鎖縛・月影)……更に真紅のツーハンデッドソードを拾い上げる。

 

――魔剣ブレイブ・エッダ。

 

波打つ紅い刀身は、まるで紅蓮の炎を思い起こさせる――。

古代都市エッダに伝わる王の証――強者の証。

 

暫く眺めていたが、それも鞘に収めて剣帯を使って背中に装着する。

 

「……そんな重そうな装備を着けてるのに、よくそんな重い武器を持てるよね……試してみたけど、私には引き摺るのが精々だったのに……」

 

言われて確認すると、成程――確かに俺は鎧を着けていた。

 

イスカイアの魔導鎧――俺みたいなマルチアクションを使う魔法戦士タイプには必須と言っても良い鎧だ。

因みにマナタイト加工がされているので、通常の物より重厚感がある様だ。

 

「多分、オールタイムアーマー加工をしているのもあるんだろうが――重さを感じないのは着け慣れているからだろうな」

 

筋力とかも半端ねー筈だからな……重さなんて殆ど感じねーな。

 

「それはそうとフローラ」

 

「?何、お兄ちゃん?」

 

「――いや、呼んでみただけだ……なんだ、ちゃんと反応出来るじゃねぇか」

 

「あ……本当だ……結構、染み付いちゃってるのかな……」

 

照れ臭そうに頭を掻くフローラ……まぁ、なんだかんだでマイキャラとの付き合いは長いからな、俺らは。

 

「うむ、コレなら一安心だな――変にボロが出るこたぁねーだろう」

 

「もう……そういうお兄ちゃんはクライスさんに成りきれるの?」

 

「大丈夫だ、問題ない」

 

「……それ、大丈夫じゃないフラグだよね?」

 

実際、問題ないとは思うがねぇ……それでも不安が無いと言えば嘘になっちまうが――。

 

「まぁ、何とかなるだろう」

 

「ちょっと楽天的過ぎるよぅ……」

 

「そうでも思わなきゃやってらんねーの」

 

こちとら蛮族のエリート、ドレイク様になっちまったんだからな――頭に落ちこぼれって付くが。

 

……此処が『俺らが冒険したラクシア世界』なら、まだ救いだが――もしも『俺らが存在しない』ラクシア世界だったなら――初期の日陰者生活に逆戻りだな……しかもゲームじゃない、リアルに淘汰されて……最悪弾圧せれて処刑されるという貴重な体験を味わうことになる――勘弁して欲しいぜ、全く……。

 

「わ、私は気にしないからね!お兄ちゃんはお兄ちゃんだしっ!」

 

「――おう、ありがとよ」

 

自分なりに励まそうとしているのだろうこの妹分の気遣いに、自然と礼の言葉を述べていたワケだが――。

 

「しっかし、フィーってのは妖精に分類されるだけあって穢れを嫌う筈なのになぁ――お前、変わり者ってことになるんじゃないの?」

 

穢れが嫌いっつーか、それ以上に蛮族が嫌い――てか苦手なんだろうな。

 

蛮族にも妖精魔法の使い手は居るが、その殆どが『妖精を使い潰す』奴らだからな――妖精と心を通わせる奴は滅多に居ない。

 

「も、もう!私は良いのっ!!お兄ちゃんは、私の英雄(ヒーロー)なんだからっ」

 

「『クライスはフローラのヒーロー』の間違いだろ?……それもどうかと思うがな」

 

「い、良いでしょ!今はお兄ちゃんがクライスさんで、私がフローラなんだから!!一緒よっ!!」

 

「くくく――そうかそうか」

 

「あぁー!!バカにした!!絶対バカにしたぁーっ!!」

 

姦しい妹分に……こんな状況でも相変わらずなコイツに……心底救われた気がした。

だからつい笑っちまっただけなのだが……コイツはバカにされたと思ったようだ。

 

不安が無いと言えば嘘になる……むしろ不安だらけだ。

だがまぁ……コイツと一緒なら不安になる暇はねぇなぁ――そんな風に漠然と思えちまう。

 

まぁ、なんとかなるさ――と。

 

現実逃避――なのかも知れねぇけどな。

 

「さってとォ――何時までもボケーッとしていても始まらねぇしなぁ……とりあえず動くとしようぜ?」

 

「まずは此処が何処なのか……だよね?」

 

「後は俺らのセズウィックがあるかどうか……それで今後の方向性は決まっちまうだろーぜ」

 

特に俺は『俺らのセズウィック』が無ければ――只でさえ肩身の狭い蛮族で、更に肩身の狭いドレイクという立場で――ことフェイダンに於ては、何処ぞのフィルナントカさんのせいで更に更に肩身の狭い思いをすることになるだろうよ……そうなったらアイヤールの赤砂領にでも逃げ込むか。

 

「先ずは、此処がラクシアの何処か……だが」

 

「とりあえず、近くに危ない生き物は居ないと思うよ?」

 

「何で分かんだよ?」

 

「ん〜……スカウト技能のおかげ……かなぁ?何となく、直感だけど」

 

「……あ〜、成程なぁ」

 

言われてみたら、感覚が鋭いというか……澄んだ感覚がある。

 

リアル……つったら変かも知れねぇが――俺が俺であった頃より、明らかに感覚が研ぎ澄まされている。

 

身体がドレイクなんて人外になっちまった影響だと思ったが……それだけじゃ無くて、スカウト技能を嗜んでいることが影響してるわけか。

 

俺も観月……フローラ程じゃねーが、スカウト技能は高い筈だからな――試しに『聞き耳』なんぞをしてみれば――って……。

 

「聞こえたか、今の?」

 

「う、うん!!」

 

俺達は聞き取った音と、感じ取った気配から『空』を見上げた。

 

聞こえるのは、何かが羽ばたく音――機械の駆動音。

徐々に上空に現れる姿は――羽の生えた人型。

 

その人型は、何かを抱えている様に見える――その全容が遠目からでも確認出来た時、俺は思わず言葉を洩らした――。

 

「マジかよ……」

 

「コレって……どういうこと……?」

 

「俺が知るかよ――ただ」

 

空を舞うのは――竜人。

ドレイクの様な人に羽が生えた姿では無く、人型の竜――PCドレイクの竜人形態に近く……だが、蛮族では無く人族として認識される種族。

 

――リルドラケンの姿だ。

 

いやまぁ……それは良い。

リルドラケンが居るってことは、此処が間違いなくラクシア世界だと――駄目押しをしたダケだからな。

 

問題はあのリルドラケンが抱えているモノだ。

 

――女だ。

 

儚げな雰囲気を醸し出す、美女――。

 

美女を抱え空を舞うリルドラケン――俺はこのシチュエーションに、強い心当たりがあった――。

 

「此処が何処だかは分かった――」

 

――恐らくあのリルドラケンは、『ぞんざい勇者団』の一員で、『成功者』の異名を持つ重戦士――ムーテス。

 

そしてあの女は――。

 

「此処は――アイヤールだ」

 

年輪国家――アイヤール帝国の第一皇位継承者……ミスティン・デラルザ・アイヤール――『夢見の予知姫』その人だ。

 

「えっ、それって新米女神の……?」

 

「『アーメス編』の序盤……ムーテスの回想シーン的なヤツだな」

 

正確には、独房に捕まったムーテスの証言という感じだったか。

 

「――ちっ、益々分からなくなっちまったな……」

 

公式リプレイを反映するかしないかは、そのGMの裁量次第だが――悟やタツボンは公式ありき……で考えていた。

 

だから、公式の事件が『何処かで起きていた』としても、不思議じゃねぇ処か――必然なんだ、ソイツは。

 

だが、これは有り得ねぇんだ……何故なら。

 

「あれ?そう言えば私たちって、設定的には――」

 

「……あぁ、そうだ。GMも正確な年代は明かしちゃいなかったが――俺らが最後にセッションした時――昨日、か。その時点で、ぞんざいの連中は学校に通ってるって話だ――」

 

……正確には騎士学校編で公式が止まっているだけなんだが――。

それに合わせて逆算して行くと――この時の俺らは別の場所で冒険している筈なんだ……つまり、此処に居合わせるなんざ絶対に有り得ねぇってことだ。

 

「あっ!!落ちていくよっ!?」

 

「『風の翼』の効果が切れてきたんだろうな」

 

リルドラケンは『剣の加護/風の翼』という能力を持つ。

背中の翼で、空を自由に飛び回ることが出来る――が、時間には制限がある。

 

レベルが高くなればなるほど使用可能時間が長くなる――コレは羽も成長しているって解釈で良いのか、剣の『加護』だけに不思議パゥワァが強くなったと思えば良いのか――。

 

さっきの機会音からして、アーメス信者のライダー集団に追われているんだろーよ。

 

正に原作の展開そのままだ――この後、風の翼の効果が切れたムーテスはその足で逃げ続けるが……タンクファイターであるムーテスが、魔導バイクライダーに足で勝てるワケが無く……敢えなく追い付かれて夢見姫を拐われ――哀れ罪を擦り付けられ虜の身ってワケだ。

 

「――って、お前何処に行く気だ?」

 

「決まってるじゃない!助けに行かないとっ!!」

 

「助けにって――正気か?」

 

フローラが慌てて駆け出そうとしたから呼び止めた――大方、そんなことじゃないかと思ったが……。

 

「……正気かって……正気に決まってるじゃない!!何を言ってるのよお兄ちゃん!?」

 

「落ち着いて考えろよ。お前も新米勇者の顛末は知ってるだろーが」

 

「知ってるよ!!ミスティン姫は拐われて、ムーテスは捕まって死刑寸前になっちゃうじゃない!!」

 

「だから落ち着けっての――それも最終的には、ぞんざい勇者団が全部マルッと解決するだろーが……ミスティン姫もムーテスもな。結末は分かりきってるんだ――なら、余計な手出しをして話をややこしくする必要は無いだろうよ」

 

心情は理解出来るが、最終的にハッピーエンドになるのが分かっているのに、それをこねくりまわすのが俺には躊躇われた。

そのハッピーエンドも、公式セッションをしたプレイヤーが引き寄せたモノだ――そこに土足で踏み居るのは違う気がした。

何より……だ。

 

「……それもミスティン姫は心と身体を別けられて、辛い思いをしてるじゃない!!お兄ちゃん、らしくないよ!?何をそんなに怯えて……」

 

「うるせぇぞ……良いから落ち着け」

 

「ッ……!!」

 

更にヒートアップするフローラを一睨みして黙らせる――苛々をコイツにぶつけるのは間違っているってのは、分かっているんだがな。

 

「俺らしくないって、簡単に言ってくれるがな――俺らのセズウィックが無い可能性が高くなってるんだぞ?……つまり、俺らの名声がマルッと無くなっている可能性があるんだ……しかも、それがゲームじゃなくてリアルなんだとくれば――テメェの命の心配をして何が悪ぃんだ?」

 

実際のロールプレイでも、初期の頃は割かし慎重なプレイングだったりしたんだがな――コイツの言いたいことはそういうことじゃねぇんだろうが……。

 

「それに、だ。簡単に助けるとか言ってるが、助けた後の責任とか取れるのかお前は?」

 

「えっ……?」

 

「確かに、今の俺らならその気になりゃあアイツらを助けるのは簡単だろうよ――けどな、助けたことで未来が変わっちまったら……大団円な未来も変わっちまうかも知れねぇんだぞ?」

 

『できそこない』シリーズ……って程の既刊が出ていたワケじゃねーが……『歴史を過去に遡って運命を変える』って目的の公式リプレイでも言及されていたことだ。

 

――タイムパラドックス。

 

極端な歴史介入は、あまり宜しくねぇって話だ。

その場は良くても、結果は悪くなるかも知れねぇ。

なまじ、元の結果がハッピーエンドなだけに尚更だ。

 

「それに、幾ら身体のスペックが超人染みていた処でメンタルは俺らなんだ――誰かを助けるってことは、誰かを見捨てるってことだ。お前、アイツらを助ける為に追手の奴等を傷付け――いや、殺せるのかよ?」

 

「そ、そんなの……傷付けなくても、魔法とかで……」

 

「想定が甘いんだよッ!!!まともに使ったことも無い魔法を、実戦で使いこなせるワケねぇだろうがッ!!!」

 

「ッッ!?」

 

「――……悪ぃ、言い過ぎちまった」

 

――妹分に本気でイラついて本気で怒鳴り散らして……何やッてんだ俺ぁ――……いや、本当は分かってんだ。

 

俺自身、コイツと同じ気持ちだってのが……。

助けられるなら助けたい――実際にそれだけの力があるのが感じられるし、結果はどうあれその過程の苦難を救えるなら……ってな。

 

けどよ……冷静な部分でどうしても考えちまう――此処がクライスの居たラクシア世界で無かった場合、人族の敵である蛮族がどういう扱いを受けるか……万が一正体がバレたら――。

 

そんな自問自答でイラついて……なんのことはねぇ――俺がイラついていたのは、俺自身だったんだ……何より。

 

「……もう一度だけ聞くぞ?コレだけ言っても、まだ助けに行くつもりか?」

 

――そんな面倒臭ぇ身になっちまった俺に巻き込んで、この妹分に辛い思いはさせたくねぇ――ってのが一番の理由だ。

 

蛮族や敵対勢力に与した人族……ソイツ等がどうなるか――公式で詳しく語られちゃあいねぇが……想像に難くねぇだろ。

 

ぶっちゃけ、原作キャラの悲劇なんて現実味の無い事柄より、変わっちまったテメェの命の価値より――現実の幼馴染みの安否を気にしてんだよ俺ぁ。

文句あっかクソッタレ。

 

「……それでも――それでも私は……ッ!!」

 

「――ったく、分かったよ……クソッタレがッ!!」

 

泣きそうな顔で、今にも駆け出しそうな妹分を見て――頭をバリバリ掻きながら……テメェに言い聞かせる様に吐き捨てた。

様々な点から考えても、絶対にツラを出すのは得策じゃねぇ――見捨てた方が良いに決まってる……納得いこうがいかなかろうが――そうに決まっているんだ。

 

覚悟も何も定まっちゃいねぇってのに――覚悟を決めなきゃならねぇ状況を強いられた……本当にクソッタレだぜ、畜生が――。

 

……そうでも思わなきゃ、やってられねぇ――いや、やるしかねぇんだ……覚悟を決めろよクライス・ヴァルフライト――!!

 

 





本来はコレとゼロ魔の他に、ダイ大+とあるも挙げるつもりでしたが……手違いでお話が汚ぇ花火になりまして……(´;ω;`)

ダイ大はともかく、とあるの方は暫く更新出来ないかも知れませぬ……( TДT)ココロガイタイ…

この作品が(自分の)心の癒しになりますよう……(-人-;)

――欲しい人が居るか分かりませんが、主人公達のゲーム的なステータスに関しては次章に掲載する予定です(^-^;)


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