宇宙戦艦YAM@TO完結編(ディンギル・アクエリアス戦役) 作:Brahma
一方、ヤマトを飛び出した千早と雪歩の意図は....
アブシャロムはほくそえみ、指をならす。攻撃の合図である。
「上方から敵機!」
機銃が斉射され、宇宙服を着ていた丸裸同然の生存者を次々につらぬき、宇宙空間に血のしずくが散乱する。
「ひどい。ひどすぎる。」
春香はおもわず叫んでしまう。
「また撤退していくわね。」
律子がつぶやく。
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そのころ千早と雪歩はヤマトの近くにステルス衛星を一基おいて、撤退していく敵機をたくみにお死角からおいかけていた。後部座席にはアナライザーがいる。
「土門君。主砲を最大射程で準備して。」
「??どうしてですか。」
「千早と雪歩のひらめきに賭けるの。」春香がなにやらほのめかす。
「?はい。」
「復唱!」
「はい、主砲最大射程に設定します。」
春香と律子はほほえんでうなずき、土門もなにか考えがあるんだろうと思い最大射程にセットする。
「ミサイルランチャーをワープさせてヤマトを攻撃しろ!」
アブシャロムは命じて旗艦からワープミサイルを送り込む。
ヤマト近くのステルス衛星は、そのワープミサイルをとらえ、エコーから発射地点を計算する。
ヤマトにワープミサイルが襲いかかる。
「右35°反転。面舵いっぱい。」
「千早さん。最初のステルス衛星から暗号がとどいていますぅ。」
「アナライザー解析して。」
「ハイ。」
「敵ハワープミサイルデヤマトヲ攻撃シタ模様。敵旗艦ノ推定位置ガワカリマシタ。」
「いくわよ。」
「左20°転針!」
ヤマトはミサイルランチャーを避けようとする。
北野が船体を旋回させる。
「敵の前衛艦隊が向かっているわね。いそがなくては。アナライザー、敵の旗艦らしき反応は??」
「マダアリマセン。」
「...。」
「もうすぐのはずだけど....。」
「全艦燃料補給急げ。水雷母艦の補給完了しだいヤマトにとどめをさす。」
「敵艦載機接近。」
「第一副砲、サーモバリックモード、発射!」
「パルスレーザー、両舷ミサイル、煙突ミサイル発射!」
「パルスレーザー右舷3番、7番砲塔損傷!」
「左舷1番、9番砲塔損傷!」
「煙突ミサイル発射管2番損傷!」
「数が多すぎる...。」
「アナライザー、敵旗艦の反応は??」
「マダデス。モット出力ヲアゲナイト...。」
「そういうわけにはいかないわ。」
「艦長、まだ発射しないんですか。このままではやられてしまいます。」
「まって。」
「艦首魚雷発射管、4番、6番損傷!」
「艦長!」
春香は目を見開き、唇をかみしめる。
「水雷母艦、燃料補給完了!」
「よし、発進準備だ。」
「ふふふ。ヤマトよ。終わりだ。」
ピピピ...
「ハッケン。」
巨大な四角柱状の、数キロはゆうにありそうな、あたかも要塞のような物体が見える。
「あれね。雪歩!」
「うん。敵旗艦発見。座標N9393、E7272,ヤマト主砲の最大射程距離内。42000宇宙キロ。
ハイパー放射ミサイル搭載母艦発進寸前。時間がありません。」
「主砲、発射準備、上下角2°」
「目標、座標N9393、E7272、照準よし!」
「発射!」
土門が叫ぶと、一番砲塔及び二番砲塔のショックカノンが最大射程で発射され、42000宇宙キロの空間を彗星のように輝きながら6条の光条が走っていく。そしてそれは繰り返し斉射される。
「!!」
ショックカノンは、ディンギルの旗艦を貫き、また周辺の艦艇をもつらぬく。
貫かれた部分から引火し、閃光を発して、大爆発を起こし、周辺の艦艇をもまきこみ火球はおおきくなって誘爆を繰り返す。そして、すさまじい爆煙を噴出して、おびただしい艦艇が引き裂かれていく。
「やった…。やっぱりヤマトはすごい船ね…みんなもすごいわ。」
「千早さん…。」
「アブシャロム様。おはやく脱出を。」
「くそ。もう一歩というところで…。」
旗艦からまんじゅうか、かぼちゃのような形状の小型艇が脱出する。
一方、ヤマト周辺の艦載機やようやく現れた水雷艇数隻は、本隊がやられたために帰還する場所がなくなり、動揺して隊列がみだれはじめた。
「いまだ、第二主砲、第一副砲、サーモバリックモード!」
「発射!」
その次の瞬間、ディンギル艦載機と水雷艇数隻は、おびただしい数の火球と爆煙と金属片に変わっていた。
「勝った…。」
第一艦橋の面々は放心状態だった。苦しい戦いだった。
宇宙空間からけむりがじょじょに薄れていき、静寂がおとづれる。
「春香ちゃん、冬月より通信ですぅ。」
「天海中将。」
「水谷准将。」
「これより駆逐艦隊は生存者とともに月基地へ帰投いたします。」
「航海の無事を祈ります。」
春香は敬礼して、同じく窓から見える敬礼する水谷をみつめていた。
そのころウルクの中央神殿には、壮年から実年と思われる年齢の男が立ち、そのまえにた若い男がいた。神殿の「至聖所」ともいうべき最奥の部屋には、黒々としたコウモリのような翼をもち細面だが頭に角を生やし、あぐらをかいて長大な斧を持ついかめしい神像が祭られている。
壮年から実年と思われる男が若い男に話しかける。
「なぜわしがここへお前をつれてきたかわかるか。」
「いえ…。」
「わがディンギル王家ザール・クロイ家に伝わる秘儀を伝えるためだ。」
「ははっ。」
「われらがめざすテアマトは、かってわが先祖が暮らした星、わが先祖のものなのだ。」
「!!」
壮年から実年と思われる男、コ・ヤース大神官大総統は、片ひざをつき、頭をたれている次男アブシャロム・ド・ザールに王家に伝わるという秘儀を語り始めた。
「われわれの祖先は、偉大なる族長カインの子孫であり、地球に最初の文明を築いた人類だった。族長レメクのときに全盛をほこり、逆らうものには七の七十倍の罰を下すというほどの勢いをほこった。しかし、あるとき40日40夜の激しい豪雨と水流におそわれたのだ。すなわちあのアクエリアスが地球に接近してきたのだ。そしてさしもの大文明もこの未曾有の天変地異を防ぐことができず根こそぎ水没していこうとしていた。
そのとき、宇宙人の円盤があらわれ、一人でも救おうと降りてきた。そして救われたものはディンギルに住むこととなった。われわれの先祖は賢く強かった。ディンギル内部の政争を勝ち抜いていったのだ。これは当然のことだ。力こそ正義、強い者が正義だからだ。
こうして選ばれた者が神によって祝福され、ついにはディンギルを征服し、偉大な王国を築いた。これがわがザール・クロイ家の起源である。」
「今またディンギルは水没し、われわれはかっての先祖のように住むべき星を失った。しかし、テアマトこそわが先祖のものだ。力によって、テアマトを制圧し、取り戻すのだ。」
「祖先のためにもこの作戦は成功させねばならぬ。われわれこそ、地球の正統なる支配者なのだから。」
「もう一度機会を与える。ヤマトは、次のアクエリアスのワープアウト地点に必ず出現する。そのときこそヤマトを撃沈するのだ。」
「はっ!」
「次の大総統にふさわしい者には、神々もあらゆる加護を惜しまぬであろう。」
「はっ!次こそは偉大なるご尊父様、大神官大総統のご期待にお答えすべく、一身をなげうつ所存です。」
「うむ。期待しているぞ。全艦隊を率いて出撃せよ。」
「アクエリアスは、17回目のワープを終え、現在地球から450光年の位置にいるわ。あと3回のワープを終えると地球から140億キロの位置に現れ、24時間後に地球の近傍を通過する。」
「そうなったら、地球は水没してしまうわね…。」
「20回目のワープをする前にアクエリアスへ行き、ワープを絶対阻止しよう。みんな!。」
「そう言うと思って、18回目のワープアウト地点は計算済みよ。」
「ワープはいつでも可能よ。春香。」
「うん。」
「みんな...。」
第一艦橋のクルーは手を合わせる。非番の亜美と真美もいる。
「ヤマトクルー、ファイト!」
「おおーつ!」
手を振り上げる。
「千早ちゃん、ワープ準備。」
「了解。」
数分後、ヤマトはそれまでいた宇宙空間から姿を消した。
「アクエリアス18回目のワープまで、あと2分30秒!」
「アクエリアスにまもなく共鳴振動臨界点!もうすぐワープします。」
「アクエリアス、ワープ。」
「ウルクワープ準備!」
都市要塞ウルクも宇宙空間から姿を消した。
「ワープ終了。総員戦闘配置!」
「コスモレーダーに反応なし!」
「全天球レーダーに敵影認めず。」
「左右パルスレーザー砲塔、左右両舷ミサイル発射準備よし!」
「煙突ミサイル発射準備完了。」
「!!」
「なにか巨大なものがワープアウトしてきます。」
「質量極めて大.....70億兆トン...惑星規模です。」
「全速後退!時空震にまきこまれるぞ!」
三つの交差した環がめぐる水色の惑星が現れる。
「アクエリアス....。」
「戦闘配置のまま、アクエリアスに接近。探査衛星、コスモファルコン発進!」
「大気圧1010ヘクトパスカル、成分、窒素76%、酸素21%、メタン1%、アルゴン1%,二酸化炭素0.03%.....大気中に有害物質認められません。」
「地球によく似てるな。」土門がつぶやく。
「浮遊岩塊が散在。最大規模のものでも37000平方キロ弱、九州程度です。大部分の岩塊は1200平方キロから600平方キロ弱、つまり沖縄本島から、佐渡、淡路島程度です。」
「海の成分は地球の海水とほぼ同じです。」
「アクエリアスに降下しよう。」
「了解。降下開始します。」
数分して、青い球だったアクエリアスが船体の下面いっぱいに画面上に映し出される。
「アクエリアスの海面まで1000キロ、900、800....。」
「着水します。」
水音がする。
「着水に成功。」
「静かな場所ね。」
「浮遊岩塊に建造物を多数確認。生命、エネルギー反応ともになし。過去の文明の廃墟と思われます。」
「ワープシステムなんて見当たらないわね。」
「こちらコスモファルコン隊!こちらコスモファルコン隊!海上に巨大な構築物を発見。エネルギー反応大!エネルギー吸収プラントと思われます。」
「!!」
「どうしたの??」
「1500キロ先に飛行物体多数確認!こ、これは!!」
「て、敵です。地球や冥王星空域で遭遇したものと同型機です!」
「迎撃します。」
コスモファルコンと敵編隊が戦闘を開始し、味方機も敵機も閃光を噴出したかと思うと、数秒後には多数の爆煙に姿を変えていく。敵機の数が多くなかなか勝負がつかないように見えた。
「!!」
「今度はどうしたの??」
「水惑星の後方、巨大な物体がワープアウトしてきます。質量は....15兆トン」
「そんな大きなものが...。」
それは下部は岩塊、上部は空母のように平坦であるがよく見ると建物が林立して都市となっている物体であった。
「あ..あれが...敵の本拠地...。」
「ワープシステムはあそこにあるのかもしれないわね...。」
「春香。対ハイパー放射ミサイル防御装置完成したわ。」
「律子さん、ありがとう。」
「敵機が攻撃してきます。」
「サブエンジン点火!」
「出力全開、上昇角60°」
「ヤマト浮上。煙突ミサイル、パルスレーザー砲発射。タイミング任せます。」
「了解。」
「ヤマトめ。逃がさんぞ。」
「フルパワー噴射。」
「ねんのために総員宇宙服着用。」
「対ハイパー放射ミサイル艦首ビーム砲用意。」
「了解。」
艦首の船底部が開き、ビーム砲が姿をあらわす。
「4時の方向300宇宙キロ、5時半の方向400宇宙キロ、6時半の方向400宇宙キロ、8時の方向500宇宙キロに向けてビーム砲発射!」
ヤマトへ向かってくるハイパー放射ミサイルは対ハイパー放射ミサイル艦首ビーム砲のビームの網目に捕らえられてこなごなに粉砕し、煙を吐いて飛散する。
「すごいな。」
「律子さん...。」
「まだ油断ならないわ。」
「ふふ...。」
「ワープビームを艦載機と水雷艇に照射せよ。ワープしてヤマトの頭上から攻撃するのだ。」
アブシャロムの旗艦からワープ光線が照射され、艦載機と水雷艇が姿を消した。
「!!」
「2時の方向から敵艦載機50、水雷20出現!」
「11時の方向からも敵艦載機45、水雷18出現!」
「12時半の方向に艦載機45、水雷艇25出現!」
「これはデスラー戦法?」
「ワープ光線を照射するのを艦載機と水雷艇に変えたんでしょう。
それに気がつくというのもたいしたもんだけど。主砲をサーモバリックモードへ!」
「モード変更。2時仰角25°、12時半仰角30°、煙突ミサイル用意!」
「主砲及び煙突ミサイル発射!」
艦載機と水雷艇は噴射口から誘爆して無数の閃光と爆煙を噴出して四散する。また煙突ミサイルに貫かれて爆発四散するが、残った機体がヤマトを攻撃しようと試みる。
「右舷72装甲板被弾!」
「左舷93装甲板被弾!」
「右舷38装甲板被弾!」
「左舷76装甲板被弾!」
「右舷65装甲板被弾!」
「右舷87装甲板被弾!」
「死傷者多数!」
「このままでは...。」
最初の殺人者として伝えられる(創世記4章)カインの子孫であるディンギル人は、まさしく「身勝手さばかりが発達した民族」、力こそ正義という極端な優生思想の持ち主だった。
ヤマトはアクエリアスを阻止するため、ワープアウト地点で待ち構えたが、さっそくディンギルの集中砲火を受ける。
重複部分があったので改稿しました(3/4,1:01)。