霧雨魔梨沙の幻想郷   作:茶蕎麦

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 萃夢想編は今までと違う、少し実験的な描き方になるかもしれません。


萃夢想編
第十八話


 

 

 

 何かがおかしいと、気づいたのは何時の頃だっただろう。そもそも、最初からどこかおかしかったのかもしれない。何しろ、下戸のあたしが、宴会の主催を引き受けたことからして、変といえばそうだった。

 もっとも、他に先導するようなメンバーが居なかったからしかたなしに、といったところであるのだけれど、楽しかったからとはいえあたしが何回もそれを続けているのは妙なことだろう。

 自分で自分の行動がおかしいと気付いたのは、桜の花が散って木々が青くなり始めた二回目の宴会の時から。何らかの力によって誘導されているのを目の端で捉えながら、あたしは再び宴会をしようという旨の言葉を口にした。

 そこから更に数えて、もう何回目になるのだろう。すっかり衣代わりした緑の木々や月を眺めて酒を楽しむのも悪くはないけれど、それを夜な夜な一週間も経たずに繰り返すというのは何よりあたしの肝臓に悪い。

 腕が悪いのか、酒気の解毒の魔法の方は未だに不完全で、沈黙の臓器で処理しきれない分は二日酔いとなってあたしを苛む。

 それに、そもそも夜更かしは美容に良くないっていうことは分かっているというのに、誰かに誘導された口は勝手に動いてしまう。そう、こんな風に。

 

「それじゃ、また、三日後に集まりましょう。私もいいのが作れたから今度は皆、とっておきのお酒を用意して来て。沢山呑める子たちは、その時呑み比べをしてみるのもいいかもしれないわねー」

 

 何時も次回を切り出すタイミングはもっと早かったけれども、今回は大方の後片付けを終えるまでいってからあたしは皆に約束している。

 今日はへべれけにならずに、それなりに酒の喉通りを楽しんで宴は終えられた。きっと顔は赤いだろうけれど、先ほど撫でた霊夢がむくれているけど、あたしはそんなに酔ってはいないはず。

 そう、そのはずなのに、アリスは心配そうな顔をしてあたしを見てくる。

 

「魔梨沙今日はあまり呑んでいなかったけれど、大丈夫? 疲れていない? 貴女ったら、お酒に弱いっていうのにここ最近週に二回は宴会の幹事役をやっているじゃない。少しは休んだらどうかしら」

「大丈夫アリス、あたしは元気よー。それに、あたしみたいに音頭を取る人間がいないと、酒宴が締まらなくなってしまうわ」

「何時も魔梨沙は早々に潰れているじゃない……それに、ここに居るのは誰が号令をかけなくても勝手に宴会を始めて解散するような図太い面子ばかり。魔梨沙が必ずしも居なければならないわけじゃないと思うわ」

「そうかもしれないけれどねー。どうにもあたしが集める役をやらなければならないみたいなの。大気の一部がそう囁いているのよ」

「どういうことかしら? よく分からないわ」

 

 アリスが理解できないのも仕方のないこと。それはあたしにしか見て取れないような曖昧な力を持ってして、意識を【萃(あつ)める】方向に向けているのだ。

 分っていても、逃れられないのは能力に拠るものであるためか。なんて迷惑な力の使い方をしている存在だろう。あたしはそいつをとっちめるために、密かに計画を練っている。

 あたしの感覚がおかしくなければ、あたしの魔力と似たものを感じる、そんな妖気のようなものが広がっていて最近高まりつつあった。

 人妖を集めて何がしたいか分からないけれど、このまま黙っていれば油断した相手はいずれ尻尾を出すだろう。

 酒宴が好きなら酒好きの筈だから、いいお酒が萃まったら、ひょっこり顔を出してくる可能性もある。あたしは次回見つけ次第そこで、やっつけてやるつもりだった。

 

「大気が囁いている、ねえ。魔梨沙、あんたこの漂う妖気について何か知っているんじゃないでしょうね」

「さあ。ここには沢山の妖怪が居るから混じっちゃって分からないわ。霊夢だって、そうでしょ?」

「私では分からないけど魔梨沙はそういうのを判別できるはずじゃない。……なんだか怪しいわね」

 

 しかし、そろそろ皆宴会を覆う妖気について怪しいと思い始めているのか、代表して霊夢があたしに聞きに来る。あたしは白を切って何も分っていないよと霊夢と周囲の煙のような妖怪にアピールしたけれど、それは失敗。

 あたしをよく知る霊夢は反応を伺うために、ほんのり紅に染まったその端正な酒臭い顔をあたしに寄せてくる。それを愉快に思わなかったあたしはそっぽを向いた。そして、再び隠すためにも口を開く。

 

「あたしは何も知らないわー」

「やっぱり変ね。なんだか妖気にもどこか魔梨沙みたいな気配がするし、何か企んでいるんじゃないでしょうね」

「なに、博麗の巫女は魔梨沙の魔力とこの妖気の違いも分からないというの?」

「何よ、アリス。貴女には違いが判るというの?」

「呆れた。この中で誰より馴染んでいるというのにどうして判らないのかしら。混ざっていて確かに分かり難いけれど魔梨沙と比べてこの妖気は明らかに古臭いわ。どう考えても妖怪のものよ」

「むっ、言われてみればそんな気もするけど……でも、あたしの勘では魔梨沙が何か知っている気がするのよ」

「第六感に頼ってばかりいるから目の前のことを忘れてしまうんじゃない? 貴女には魔梨沙が悪巧みするような人間に見えるの?」

「隠れて勝手に危ないことをしそうだから言っているのよ」

「そんなの魔梨沙の勝手じゃない」

「あのねえ……あんたは、魔梨沙が毎回どんなに危険なことをしてるか分からないからそんなこと言えるのよ!」

「―――ストップ。心配してくれてありがとう、霊夢。でも今のところそんなに無理する気はないから、大丈夫よ」

 

 珍しく、霊夢が激し始めたから、あたしは待ったをかける。どうどう、と肌が出ている霊夢の両肩を掴んで、落ち着くまであたしは霊夢の黒い瞳を覗き続けた。

 そっと、霊夢にきつく当っていたアリスへ向くと、霊夢を見るその青い目に暗い影が見て取れて、あたしは困る。あたしの見立てではアリスと霊夢は相性が良いとしていたけれど、実際に会わせてみると、少しも合わない。

 どうにもあたしを挟んで、喧嘩腰になることが度々。幽々子にモテるわねーと言われたけれど、意味がわからない。仲良くなって欲しくて、二人は毎度宴会に誘っているのだけれど、むしろ仲は険悪になりつつある気がしている。

 

「何だか、あんたは気に喰わないわね」

「それは私も同感よ」

「むー」

 

 あたしへの疑念はどこへやら、ずいと前へ出て睨み合い始めた二人の傍で、あたしは頬を膨らます。妹分が仲違いするというのは気分が悪い。

 霊夢はお祓い棒を取り出し、アリスは人形を幾体か空に浮かべているが、何だか弾幕ごっこで決着を付ける空気ではなさそうだ。まるで、殴り合いでも始めそうな雰囲気で、口に溜めた息を吐き出しながら、あたしはどう止めようか考える。

 そこに、従者が働いているためやることがなくて暇なのかやって来た小さな人影が二つ。いや、それは人ではなくて吸血鬼であるけれど、あたしには大きな助けだった。

 

「全く、弾幕ごっこで白黒つけるならともかく、ただいがみ合うだけではつまらないわ。せっかくの酔いも覚めてしまいそう」

「そうだよ。あまり喧嘩はしてほしくないなあ」

「レミリアにフランドール。助かったわ。もっと言ってあげてー」

 

 ふんぞり返っているレミリアと、眉をひそめて嫌そうにしているフランドール。まるで、小さなお子様のような二人だけれど、秘める力は魑魅魍魎溢れるこの宴会の中でも屈指のもの。

 でも、力に頼らずともそんなスカーレット姉妹の可愛らしさに絆さられればいいなと思い、あたしは霊夢とアリスを見るが、しかし二人が互いを見る視線は鋭いままだった。

 

「……そうね。こういう時は弾幕ごっこで白黒つけましょうか」

「それがいいわね。一枚だと貴女が負けを認めないでしょうから、三枚でどう?」

「随分と嘗められたものね。一枚もいらないわよ。基本的な弾幕だけで、ぐうの音も出ないほどに負けさせてあげるんだから」

 

 そう言った二人は、何やら話し合ってから飛び上がって、地べたのあたし達に弾が行かない程度に浮かんでから、弾幕を放ち始める。

 人形から発射される七色の鱗弾は、霊夢の御札の結界によって防がれた。七色が弾けて、霊夢の周りで力の花火が起る。

 そして、仕返しとばかりに飛んでいった三個の陰陽玉は、人形達が形作る赤い三角の魔法陣に弾かれ、直ぐに霊夢のところへ戻った。霊夢が再び御札を取り出そうとするその隙に、アリスは鱗弾を前に集めて飛ばしながら近寄っていく。

 真っ直ぐに紅白の御札が投じられる、その間をグレイズして音を立てながら、アリスは手が届きそうなくらいに接近した。これは普通の弾幕ごっこにしては随分と間合いが狭くなったなと、思っていたら。

 

「良かった、何とか弾幕ごっこに収めてくれて……って、アリスが蹴った!」

 

 弾幕を縫って接近したアリスが行ったのは、足元に向けた、鋭い前蹴り。アリスを人形に頼らざるを得ない少女と思い込んでいた霊夢は、それをまともに食らう。固そうなブーツでのそのキックは霊力で身体を強化していても痛そうだ。

 あたしは、昔神綺が呟いた、そういえばアリスちゃんは立ち上がるのが早かったのよ、という言葉を思い出した。確かにスラリとしていて健康的な美脚である。しかし、その良さをこんなにも暴力的に発揮しなくてもいいと思うのに。

 反撃として霊夢はお祓い棒を叩きつけて、アリスは人形に持たせた槍で攻撃し始めた。これはいけないと止めに行こうと飛び出そうとした時、そこであたしは誰かに手を引かれて留まる。

 皿洗いを終えて来たからだろう、あたしを留めるその湿った手の持ち主は美鈴だった。

 

「待ちなさい、魔梨沙。あの二人は冷静よ。共に、過度の力で攻撃するのは避けている。そして防御も用意しているし、霊力に魔力に体を強化しているから、きっと万が一もないわ」

「……確かに大丈夫そうね。離れたら弾幕を張り始めたし、あたしと美鈴が最初にやっていた格闘戦闘ありの弾幕ごっこみたいなものかしら。でも、急にぶつかり合い始めたから、驚いちゃったわー」

「そうかしら。あたしは何時爆発するか気が気じゃなかったんだけれどねぇ」

 

 まあ、そんな気ぐらい操れるからどうということもなかったのだけれど、と笑いながら美鈴は言う。彼女が二人を見る視線は、じゃれあう猫を見ているようで穏やかだ。

 確かに、あたしから見ても力を弾幕にせずにぶつかる突端に篭めた、予備動作が大きめのその攻撃はまだ素人らしくて甘いもの。あの二人くらい上手に力を身体に巡らせていれば、よほどの場所に当たらない限り大事ないことだろう。

 少年漫画みたいに殴り合いの後に友情が芽生えてくれればいいのだけれど、と考えていると、パタパタと近くで興奮気味に羽ばたいている音が聞こえる。見ると、レミリアは二人の至近で火花散らす戦いを気に入ったようで、満面の笑みをしていた。

 

「あら。アレはいいわね。接近戦をしてもいいなら、何時も普通の弾幕ごっこでは苦汁をなめさせてくれる魔梨沙、貴女にも一杯食わすことが出来そう」

「吸血鬼の身体能力とか、相手をしたくないわー。幾ら美鈴と鍛えているとはいえ、目に留まらないんじゃ対処しようがないじゃない」

「貴女は能力持ちだし、霊夢には勘で対処されてしまいそうだけれど。まあ、機会があったらこういう遊びも面白そうだわ」

「うーん……私は普通の弾幕ごっこでいいかな」

「お嬢様は好きでやるようですし、フランお嬢様はそれでいいのですよ。無理をするのは我々に任せて、好きなようにして下さい」

「うん、分かった。美鈴!」

「……うふふ」

 

 次第に洗練されてきている夜空の二人の戦闘の才能に空恐ろしさを覚えながら、あたしは美鈴と共に笑顔をしているフランドールも目に入れる。

 宴会を続けているのは、多少はあたしの意志もあった。塞ぐ暇なく、フランドールも楽しんでくれているようでなによりだ。

 先日、外出に慣れたばかりのフランドールをいきなり人里に連れ出して、時期尚早にもそのままの自分が厭われる存在であるという自覚を持たせてしまったことは、記憶に新しいあたしの失敗。

 大らかで力ある人妖ばかりのこの酒席において、一々悪魔であることなんて気にされるようなことではないから、そのままゆっくりして傷を癒して欲しいとあたしは思う。

 

「……ああ! 笑っている場合じゃなかったわ。霊夢がアリスのキックでダウンしちゃった!」

「やったわ! 博麗の巫女を倒したわよ、魔梨沙!」

「それは見たら分かるから、誰か落ちてくる霊夢を拾ってあげてー」

 

 しかし、酔っぱらいが集う宴会場でゆっくりするのは難しく、服をボロボロにして実は結構酔っているアリスが喜色満面になっている中で、あたしはそれを半ば無視するような形で霊夢を掬いに落下点まで急ぐ。

 その途中、銀の煌めきが視界を一瞬通ったかと思うと、落ちてくる霊夢の姿はあっという間に掻き消えた。あたしがその銀色の軌跡を目線で追いかけると、そこには二刀を持った半人半霊少女の姿が見てとれる。

 

「あ、妖夢、霊夢を助けてくれたの、ありがとうー」

「……魔梨沙」

「なあに?」

 

 でも、うつむき加減の妖夢の眼をあたしはしっかりと見ていなかったのだろう。あたしは、後になってそのことを後悔する。

 

「本当に、魔梨沙がこの妖気に関係しているわけじゃないのね」

「あたしは知らないわー、っと。霊夢をどうもありがとう」

「……そう」

 

 霊夢に大きな怪我がないか気になって、疑念を孕んだ妖夢の視線に気づけなかったのは、あたしの失敗だった。もっとも、気づいていたとして、彼女の暴走を防げていたかどうかは分からないけれど。

 

「うふふ。何だか面白い展開になってきたわねー」

 

 ただ、遠くのほうで幽々子が笑んでいることには、気がついていた。

 

 

 

 

 

 

 魂魄妖夢は、祖父であり師である魂魄妖忌からこう教わっている。真実は眼では見えない、耳では聞こえない、斬って知るもの、と。

 

「そう、私には真実なんて見ても聞いても分からない。私に出来るのは、ただ斬るだけ……」

「なに? 上手く聞こえなかったわ。それで、妖夢。貴女はどうして私の家まで来たのかしら。魔法の森で迷った、という訳ではなさそうね。もっとも、幽霊なのだから何時でも迷っているのかもしれないけれど」

「幽霊なのは半分だけ! まあ、それはいいわ。私はアリス、貴女に弾幕ごっこで勝負を挑もうと思って来たのよ」

「博麗の巫女ではなくて?」

 

 突然の客、魂魄妖夢をもてなすために動き回る人形たちを横目で見ながら、アリスは不思議に思う。

 こうして、冥界から遠路はるばる森の我が家へとやって来たから歓迎してはいるが、しかし妖夢は最近宴会で知り合ったばかりの相手であり、からかうと愉快であるという程度しか分っていない存在だ。

 それと同程度か、或いは周囲をそれとなく見渡していた自分よりももっと、妖夢は私のことを知らないはずだとアリスは考えている。

 そんな、ただの知り合いの間柄といっていい妖夢が、何故制定者霊夢に強者魔梨沙をさしおいて自分と弾幕ごっこで戦おうとしているのか、アリスには不明だった。

 

「そう。宴会で今回の異変で一番に怪しい魔梨沙を庇っていた、貴女が犯人かどうか気になって」

「違う……と言っても聞き入れてくれそうにないわね。まあ、偶には連勝記録を伸ばすというのも悪くはないかしら」

「それで……ルールは宴会でやっていたあの格闘中心の弾幕ごっこでやらせてくれない?」

「ふうん……まあ、いいわ。その立派な刀も、使われなければかわいそうだしね」

 

 アリスはそう言って、椅子に座るに邪魔だからと立て掛けてある鞘に包まれた長刀と短刀の二振りを目にする。確か、斬れぬものなど殆ど無い、だったかしらと宴会でからかわれた妖夢が語ったその刀の謳い文句をアリスは思い出した。

 侍、武士道、腕に自信があるのねと考えたアリスは、しかし自分の中にある霊夢を倒したという自信があることを確認して、問題はないだろうと軽く見て了承する。相手が、死を斬るほどの剣士と知らず。

 

 そして二人は家を出て、アリスが普段洗濯物を干している裏手に回って戦う準備を始めた。アリスは何体かの人形を宙に浮かばせ、妖夢は刀を抜き放ち正眼に構える。

 多数が守るように宙を舞う周囲がきらびやかなアリスと違い、妖夢はただ地味に刀を握っているだけ、しかし、そのことの空恐ろしさを少しずつアリスは感じていた。人形たちの防御に真剣味が帯びる。

 

「……それじゃあ、始めるわよ」

「ええ、じゃあ、いくわ」

 

 それは、一瞬のこと。人形たちが放った、鱗状の弾幕に、レーザー。交差し七色がほぼ眼前を覆っているだろうその弾幕。それがあっという間に掻い潜られて、目の前には銀髪をたなびかせた妖夢の姿が。

 グレイズの音が遅れて聞こえてきそうなその速さを相手取っては、慌てる間もない。だからアリスのブレインは冷静に、防御を選択して妖夢の前に防御陣を敷いた。

 それは、先日巫女の猛攻に耐えた自慢の代物。しかしそれが、剣気というのだろうか、鋭いものを持っている妖夢を前にしたらあまりに頼りないものにアリスの眼には見えた。

 容易く脳裏に浮かんだ想像通りに、構えがブレたかと思うと紙のようにその防御は斬り捨てられていて、そして返す刀、なのだろうかアリスには認めることの出来なかったその一閃により彼女の身体は崩れ落ちる。

 

「なっ……」

 

 斬られた。それは間違いない。冷たいものが身体を通った気がした。だが、その身から赤色の鮮血が吹き出したりはしない。

 しかし、ただ袈裟懸けに熱を感じたアリスの身体は斜めに二つにされたと勘違いして、足元から糸を失ったマリオネットのごとくに倒れこむ。やがて、周囲に魔力の糸を斬られた人形を散らばらせながら、アリスは気を失った。

 

 妖夢はアリスが倒れ落ちる姿を見届け残心を解き、身を切らず【アリスそのもの】を斬った曇り一つない楼観剣を納刀して再び背負う。

 

「うーん……やっぱり、アリスは犯人じゃなかったか」

 

 そんな凄まじい剣の冴えを見せた妖夢は、あっけらかんとしているが、表情は浮かない。なんと、彼女は斬った際にある種の答えを手にしていたのだ。

 斬ること、それこそ全てを知る方法と妖夢は思い込んでいるが、その理由としては実際に斬って判ることが多過ぎるというのが挙げられる。アリスを斬っても漂う妖気は消えないし、斬り裂き確かめた中身からは嘘をついていないと察せた。

 だから、今回は外れだと、斬り捨てた妖夢は気を取り直してアリスと人形を出来るだけ担いで、アリスの家へと運んでいく。往復して、全てをベッドの上に片付けた妖夢は物音一つしない洋館を辞し、ポツリと溢した。

 

「それじゃあ、二番目に怪しい奴のところへ行こう」

 

 そして、舞台は紅魔館へと移る。

 

 

 

 


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