振り向くと君がいた   作:ふたなり2

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一緒にやるか?

 

「先輩、また助けてもらってありがとうございます!」

 

 

「あぁ、あいつ等もこれで懲りたろう。」

 

 

「大丈夫かお前?」

 

 

「ええ、平気です!先輩にお願いがあります、聞いてもらえますか?」

 

 

「何だよ、改まって?お金は無いから貸せないぞ。」

 

 

「そんなんじゃあないです、先輩のその技を教えて下さい、お願いします!」

 

俺は感動して何故か涙を流していた…、悔しくてじゃなく人をこんなに美しいと

思った事が無い。真剣に先輩にお願いした。

 

 

「俺が見せたの何か分かるか?」

 

 

「さっぱり、分かりません。しかし、感動しました…それと凄く綺麗でした。」

 

 

「合気だよ、合気道。」

 

 

「えっ、合気道…?」

 

 

「そう、合気道。一緒にやるか?」

 

 

「はい!!」

 

 

そう言うと来栖先輩は俺の肩を叩いていつもの様に微笑んでくれたのだ。

 

 

身体は大丈夫かと心配されたが意外と怪我もなく打ち身もなく今回は助かった。

健太も教室に戻ったらオロオロしていたがどうやらいいみたいだ。

健太には先輩に助けてもらった事などを話して一緒に帰る事にした。

動揺はしていたが俺が元気なのを見て安心したらしい、兎に角よかったよ。

お互い、また奴等が仕掛けて来る可能性があるから気をつける様話をした。

 

 

学校ではあれから数日がたち何事も無く健太と楽しくやっている。

彼奴等も俺達に近付こうともせずお互いに無視し合っているのでこれはこれで

いいのかもしれない。

 

 

学校帰りの夕方、俺は先輩との約束で駅で待ち合わせをしている。

向かう所は来栖先輩が通う合気道の道場だ!

今日の学校帰りに一緒に入門手続きをしてくれる約束になっている。

何でも来栖先輩の祖母が師範を務める道場で先輩も幼少の頃から嫌々ながら

仕込まれたのだそうだ。だから、メチャクチャ強いんだ…。

 

 

約束の時間、10分前に俺は恋人を待つ気分で待っていた。

少し緊張もしている、初めての経験だし当然ながら先輩と一緒に

道場に通えるのが何より嬉しい!

 

 

時間通りに先輩は走ってやって来た、相変わらず優しい笑顔だ!

 

 

「待ったか? 悪い…じゃあ行くか!」

 

 

「はい!!お願いします!」

 

 

「おいおい、まだ、道場じゃないから緊張すんなよ!」ニッ

 

 

背中をポンと叩かれ笑われた。そして、電車に乗り込み道場に

向かった……。3つ目の駅で降りた…あれ?これは俺の通う塾のある駅…。

着いた所は俺の通う塾のあるビル、そう来栖先輩の彼女も通ってるあの道場だ!

 

 

世間は狭いもんである。そう言えばここ等で合気道の道場なんて聞いた事が無い。

考えれば分かる事で…まっ、これはこれで、「頑張って練習するぞ!」と

心に決め、道場の師範である来栖先生に初めて会った。

それは大変、小柄なおばあさんと言う印象だった。

来栖先輩みたくニコニコしている非常に優しそうな感じの人だ。

 

 

来栖先生「貴方が 武田直人 君ね?これから頑張って練習に励んで下さい。

勿論、合気道は礼儀を重んじます。挨拶などはここにいる来栖から

よく聞いて習ってね。最初はそれ程緊張せずに受け身の練習からね。」

 

 

「はい!!頑張ります!」

 

 

こうして俺と合気道の長い付き合いが初まったのだ。

初心者は柔道着で受け身の練習からだ、しかし、何かダサイ…。

先輩達は袴姿だからさまになっている。俺はと言うとちびっ子達と一緒に

受け身の練習…うん、早く有段者になって袴姿で凛々しくなるのを目標とした。

 

 

受け身も結構キツイわ、身体中が痛くなる。2時間の練習でヘトヘトになった。

初日目だから仕方がないか…と、練習が終わって着替えをする頃、

来栖先輩は自分の彼女を俺に紹介した。そう、彼女も練習に来ていたのだ。

 

 

「直人君、紹介するよ。俺の妹の 亜紀だ、○○女学園の中3、よろしくな。」

 

 

「妹の来栖亜紀です、よろしくね。」

 

 

「武田直人です、よろしくお願いします。」えっ、え~っ、妹さん?兄妹?!

 

 

驚いた!俺は何と言う勘違いをしていたのだ…!お子様なのは健太じゃなくて俺だったのだ!

でも超ラッキーなのでは?そう、彼女の名前も分かっちゃったし知り合う事も出来てしまった…。

電車の中でも声を掛けれる~ん~っ!これってツイテるよね?

ドキドキしながら三人で駅に向かい楽しく話をした。彼女は中3だが付属学校の為、

来年の受検が簡単なもので割と練習が出来て気が楽と言ってる。

 

 

趣味は読書と編み物、料理だって、「凄いよね、家庭的で女らしくて…惚れてまうやろ~!」

てか、実はもう完全に惚れてしまっている…。だってメチャクチャ可愛いし!

やったぜ!これは練習に身がはいる!俺は徹底的にやる!来栖先輩が神様にみえる!!

それからは、とことん合気道の道場へ通い練習をして先輩達とも話をして楽しく過ごした。

 

 

練習で道場に通い出して来栖先輩が奴等を倒した秘密の技が分かってきた。

投げ技で「四方投げ」「横四方投げ」「入身投げ」などだ。

来栖先生の投げ技は円熟というか「あれっ?」って思う程、何処か空気のようだ。

来栖先輩だと「スパン!」と切れ味鋭い刃物の様な投げ技だ。

同じ技でも全然違う…実に奥が深い。うぅ、早く投げ技の練習をしたい。

 

 

半月後、いよいよ投げ技の練習に入った。来栖先輩に嫌と言うほど投げられていたから

メチャ嬉しい。しかし、相手の手首や腕をきめながらの投げ技は口で言うほど

優しくはない。近代柔道の様にパワーなど無い女性でも大の男が投げ飛ばせるのは

こうした関節をうまく利用した優れた武術によるものだと教えられた。

 

 

乱取り稽古はお互い攻守入れ替わり行うが亜紀ちゃんとの稽古は至高の喜びであった。

もう、心臓バクバク!分かるぅ?だって大好きな女の子と手を取り合って…

稽古してみ、舞い上がるって普通!俺がキグシャクするから彼女がコロコロと笑う。

頑張っていい所を見せる為、大変だったぜ…最近ようやく免疫ができたかな。

 

 

稽古の帰りはいつも3人で楽しく帰ったが先輩が用事で稽古に来れない時は2人で帰った。

お互いちょっとは意識しちゃうので、そんな時の話の種は来栖先輩だった。

亜紀ちゃんは俺の知らない先輩の裏話や本人の恥ずかしいエピソードを惜しげも無く

披露してくれた。そんな時の亜紀ちゃんの瞳はキラキラとして可愛かった。

 

 

「学校でのお兄ちゃんはどんな感じなの?」

 

 

「学校で初めて先輩の四方投げ見た時は感動しちゃったよホント!」

 

 

「え~っ、信じられないよぉ…、本当にあのお兄ちゃんがぁ?」

 

 

「なんで?」

 

 

「だって、家では本当にだらしないもん!」

 

 

「あのね、亜紀ちゃん。俺さぁ、先輩のファン1号なんだから

あんまし幻滅させないでくれる?」

 

 

「ふふっ、直人さんは、お兄ちゃんのファンだったよね、ププっ。」

 

 

「何?その含み笑は…? お兄ちゃんに言っちゃうぞ。」

 

 

「いいもん!」

 

 

朝電車で見かける亜紀ちゃんに会うとウインクしてくれる間柄にもなっていった。

稽古時の真剣な眼差しに滑らかな仕草から動へと移行する美しさ…。

時折見せる小悪魔的可愛さにメロメロになるよ、全く。

 

× × × × ×

 

いつもの変わらない朝の電車通学の中、俺は亜紀ちゃんと珍しく話しをしている。

実は、亜紀ちゃんから相談を受けたからだ。それは、昨日の稽古帰り2人でいつもの様に

帰りの電車で亜紀ちゃんが切り出して来た。

 

 

「最近、お兄ちゃんの様子がおかしいの?直人さん、何か知ってる?」

 

 

「いやぁ、全然。普段と変わらないし、いつもの優しい先輩だと思うけど…。」

 

 

「違うの…、何処と無く何か隠してる…そう思うの!」

 

 

う~ん、さっぱり分からないや。でも、妹の亜紀ちゃんが言うのだから何かあるかも…。

 

 

「先輩に聞いてみたの?」

 

 

「うん…、聞いたよ、でも、別に何もないよって笑うだけ。」

 

 

形のいい唇を尖らして頬を膨らまし不満そうにしてる、俺はこの子のこの顔を見るのが

堪らなく大好きである。

 

 

「例えば、どんな時におかしいと思うの?」

 

 

「そうね…うん、最近よく携帯でメールしてるかな?」

 

 

「でも、友達に出したりとか俺でもよくするよ。」

 

 

「ううん、それは分かる…そうね、たまに嬉しそうにしてる。」

 

 

「あとは?」

 

 

「用事も無いのにコンビニに行くって夜出掛けたり、くらいかな。

もち、お土産でアイス買ってきてくれるけどね。」

 

 

きっ、気を付けなくては…、女の子の感は鋭いと聞いた事があるが

こんな事で疑われたら少し怖い気がする。

 

 

てかっ、亜紀ちゃんってどんだけブラコン?

お兄ちゃんにデレなのは知っていたけど、俺の入り込む余地ね~しぃ?

 

 

「分かった、俺からそれとなく聞いてみるよ。」

 

 

 

 


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