紺碧の艦これ-因果戦線-   作:くりむぞー

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第1話 明日への取り舵

 

「―――思った以上に戦況は良くないようだな……」

 

 紺碧艦隊の指揮を執ることを受け入れた後、私は衣食住を行うには十分すぎるほどの広さを持った丸太小屋へと案内され、伊601達によってまとめられた資料に早速目を通していた。

 そこには、これまで人類が深海棲艦に対して挑んだ戦いの記録が記されているだけではなく、それ以前の人類史について事細かく書かれていた。

 資料によれば、この私達にとっての“後世世界”では第二次世界大戦は行われておらず、激戦を繰り広げたはずの「かの国」はこの世界においては卓越した技術力を持った国として受け入れられていることがわかった。

 また、経済大国である米国はこの世界においても世界のリーダーとして君臨しているようである。

 原爆を開発してはいないかと気がかりであったが、この世界では原子炉のみが開発されており、兵器への転用は行われていないようだった。それどころか完成された技術を世界中にバラ撒いていたようだ。……その事はまあいいとして、問題は深海棲艦との交戦記録だ。

 

「第一次深海大戦……既存兵器が全く通用せず軍は複数の拠点を失い、鎖国状態へ陥ったか」

 

 戦死者は累計したら数えきれないほど出ており、事実上の歴史的大敗だったとの記述がある。各国が所有していた拠点は占拠され、住まいを置いていた住民達は命からがら逃げたという。逃げ遅れた者も、当然というのは悪い言い方だが出てしまったようだ。

 それが、10年前の出来事だということはにわかには信じがたいことであが、事実は事実として受け止めなければならない。

 

「第二次深海大戦……複数の仮説を検証しながら戦ったのか、こちらもかなりの激戦だな」

 

 ある専門家は深海棲艦が人体実験によって生み出されたと唱え、ある専門家は海洋生物が独自の発展を遂げた存在だと唱え、ある専門家は怨霊や魔物などオカルトの類であると唱えた。

 その他様々な仮説が唱えられ議論が交わされたが、結論は戦いの中で奇しくも下された。最終的に有効である可能性が高いと決定づけられたのは、怨霊や魔物などのオカルト説であった。

 調べによれば、作戦に参加していた一部の霊能力者達が深海棲艦による攻撃から乗艦していた艦を守るだけでなく、逆に退かせたという証言があるからだとか。些か胡散臭い気もしたが、その後の度重なる検証によって、実際に効果があることが証明され鎮守府などの重要拠点は強力な結界によって護られる形となったという。また、この時点で深海棲艦の各個体に正式に名が付けられ、下位から順番に駆逐艦クラスはイロハ、軽巡クラスはホヘトというように呼称されるようになったという。

 しかし、所詮結界はその場しのぎに過ぎないだろう。いつ本土への侵入を許してしまうかは時間の問題だ。

 

「能力者も無限ではない、数は限られる……力量さえもバラバラ、このままでは不味いな」

 

 能力を持つもの全てが類まれな才能を持っている優秀な人間であるわけがない。なかには、微弱な力しか扱えない存在もいることだろう。つまり、軍は現状では少数精鋭で規模が未知数である深海棲艦を相手しなければならないというわけだ。

 何とも無謀で現実的ではない話である。コストも掛かり過ぎるだけでなく、まるで特攻と変わりないではないか。

 そうさせないためにも、『我々のような存在』が代わりに戦わなければなるまい。

 

「空母1隻に、潜水艦6隻……あらゆる戦況に対応するためにも駆逐艦や巡洋艦クラス、それに戦艦の配備が早急に必要だな」

 

 装備も整える必要性があることを考えると問題は山積みである。敵には空母クラスがいると報告書には書かれていることから、艦載機の開発は急務である。夜間飛行訓練についても検討しなければならないだろう。また、対空火器も揃えていかなければならない。

 私の装備は最終点検が済み次第扱えるとのことだが、武器として用いるのは和弓ではなく洋弓であるとのことだ。具体的な違いは知らんが似たようなものだろう。……艦載機を飛ばすのに弓矢を使うとは変な話であるが、なるようになるしかないか。

 何はともあれ、如何せん初めてのことばかりである。仮にも指揮をする立場であるのだから、一刻も早く自らの練度を高めなければなるまい。

 

「装備開発、戦力の拡大、練度の向上、いずれを行うにせよこの島を大々的に開拓しなければな」

 

 手当たり次第確認したせいか散乱してしまった資料を元の位置へと戻し、私は一人長椅子に腰を掛けた。

 そして、程なくして足音が聞こえてくる。横目に誰が来たのかを確認すると、伊601がひょっこり顔を出した。髪が濡れている……潜りにでも行ってきたか。

 

「……報告書は読ませてもらったよ。やはり、伊達や酔狂で紺碧艦隊を名乗っているわけではないのだな」

 

「えへへ、お褒めに預かり光栄です。苦労して情報収集した甲斐がありましたよ」

 

 本日の夕飯に使う為に捕ってきたという魚介類をテーブルの上に置き、彼女ははにかんだ。

 

「―――だが、どうも引っかかるのは深海棲艦の正体が何であるかについてだ」

 

 オカルト的存在だということは嫌でもよくわかったが、だとしても何故艦艇を一部を模したような姿をしているのだろうか。何のために、人類に対し侵略戦争を仕掛けているのか私にはまるでわからない。

 

「……深海棲艦が国家であり意思疎通が可能であるならば、もっと戦略がたてやすいのだがな」

 

「せめて、目的の一つや二つ聞き出すことができたらいいんですけどねぇ……過去に人類が意思疎通が出来るかどうかあらゆる言語、法則を用いて調べたそうですが見向きもされなかったようです」

 

「では、独自の言語を持っている可能性が……?その解読から始めなければならない可能性があるということか」

 

 連中は所謂本能に従って侵略を行うのか、もしくは考えを持って行動しているのかをいずれ調査必要があるだろう。加えて、何かが生まれるには必ず理由があるはずだ。深海棲艦という存在が生まれた理由を必ず突き止めなければならない。どこかに発生源があるというのならばその場所の封鎖作戦を行わなければ……

 

「――――深海棲艦が特に集中して展開している海域は何処だ?」

 

「日本本土近海、南西、北方、西方、南方、我々がいる中部とどの海域も連中の支配下にありますが、特に攻略が困難であるのがこの2つの海域です」

 

 日本を中心として海域名が記載された地図を伊601は取り出すと、なぞるようにして北方と南方海域を指した。……そうか、ここは中部海域に位置していたのか。

 マーシャル諸島で最も東に位置するラタク諸島、そのまた北部に位置する島がこの島だということを私は今初めて知った。彼女曰く、前の世界での彼女らの秘密基地と瓜二つであることから、『紺碧島』と呼ぶことにしているのだとか。

 

「北方は深海棲艦のなかでも上位種であるとされるフラグシップ……旗艦並みの個体が複数確認されている海域です。戦艦のみならず駆逐艦や巡洋艦クラスにもフラグシップ個体、ワンランク下のエリート個体が多く容易には攻略ができません」

 

「では、南方は……」

 

「南方は詳細なデータは少ないですが、フラグシップ個体を超える上位種が構えているようです。また、南方海域には鉄底海峡というものが存在しており、魔の海域と称されています」

 

 鉄底海峡……鉄が水底に沈む海域か、不吉だな。しかも、南下すれば目と鼻の先のようなものではないか……が、深海棲艦の発生源としては有力な候補ではある。秘密に迫ることが出来れば、得られた情報は交渉材料にも成り得る。

 

「……これらの海域を攻略出来るだけの艦隊を編成せねばならん」

 

「幸いにも資源は依然として豊富にあります。もしよろしければ、建御雷さんの艤装が完成後に妖精さん達に建造をお願いしますがどうしますか?」

 

「そうだな、今は数を揃えよう。……まずは、戦艦・空母クラスが最低でも2隻、護衛の駆逐艦が数隻は是非ともいてほしいものだ」

 

「わかりました。ここの妖精さん達は優秀ですから、きっとご希望に添える人を連れてきてくれますよ」

 

 だといいのだがな、と答えて椅子から立ち上がる。

 その後、艤装の調整が完了したという報が入り、建造ドックに隣接して設けられている開発工廠へと私は赴いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、出かけていたという伊601、501以外の面々のうち、建御雷のように対外的な交渉役としての条件を満たしていたという伊3001は紺碧島を一人離れ、幾度となく深海棲艦に遭遇しないよう迂回を繰り返しながらもある場所へと辿り着いていた。―――それは他でもない、日本の地であった。

 建御雷が建造されることが判明した直後に彼女は、指揮を委任する前の最後の仕事ととして日本海軍の最新の動向を探るべく、亀天号改め『亀田 天音(かめだ あまね)』という人間に扮し、社会に紛れて情報収集を行っていた。艶やかな黒髪に蒼のデニムジャケット、灰色のジーンズという服装は育ちの良い活発そうな女性を思わせていた。また、手にはバスケットを携えている。

 そして、今回彼女が向かった先は、周辺に造船所と巨大な病院を構えている第一海軍区、【横須賀鎮守府】である。許可書を発行してもらい、いざ入ろうとするのは鎮守府庁舎――――ではなく、海軍病院の方であった。

 受付で手短に面会の申請手続きを済ますと、階段を上がり奥に位置する個室のドアをノックした。

 

「―――亀田です、時間通りに来ました」

 

『……入りたまえ』

 

 すぐに返事が返され、入室が許可された。

 すると、そこには車いすに座りながら珈琲の入ったカップを片手にくつろいでいる、初老の眼鏡をかけた男性が居た。この男性―――菊池は、隣接する鎮守府において大将の地位に就いているのだが、最近になって足を複雑骨折してしまったらしく、治るまで入院生活を余儀なくされていた。

 

「……お加減はいかがですか?」

 

「うむ……上々といったところだな。回復も早く経過は良好とのことだ」

 

「それは良かったですね」

 

 心からホッと安心したような表情を見せた天音は、手に持っていたバスケットをベット横に置き、中身を取り出して綺麗に配置した。

 

「……ほう、パイナップルにパッションフルーツ、それにバナナか。遠路遥々持ってくるのに苦労しただろう」

 

「そこは保存と運搬方法に工夫を凝らして何とかしましたよ。皆が協力してくれたおかげです」

 

「そうか、後でいただくとしよう」

 

 菊池は満足気に頷いて微笑んだ。

 ……実は、彼との出会いというのは初めて日本へ赴いた時の彼女にとって予想外の偶然であり、奇跡的な出来事であった。というのも、いざ上陸を果たそうとしていたところを目撃されてしまったのだ。

 警告を無視して海に出ていた民間人としてその場は誤魔化すことも出来たはずなのだが、何処の出身だと物凄い剣幕で怒鳴られた結果、彼女はうっかりマーシャル諸島から来たことを漏らしてしまったのである。それだけでなく、一緒にくっついて来ていた妖精の姿も見られてしまったことから、余計にややこしくなってしまい、彼とは奇妙な関係が成立した。

 そこから協力関係を築き上げられたのは、半ば自棄になった彼女が懇切丁寧に事情を説明した賜物であるが、一歩間違えば今頃彼女はどのようになっていたことやら。精神病院にでも入れられていたかもしれない。

 ……それはさておき、彼は穏やかな表情をガラリと変化させ、先程とは打って変わって真剣な眼差しを見せていた。

 そして、天音に対し座るように促すと、彼は身を乗り出すようにして彼女に囁いた。

 

 

 

「―――『例の件』だが、君の睨んだ通りの結果となったようだ」

 

「……やはり、ですか」

 

 

 

 例の件というのは、伊3001達のような存在が紺碧島周辺以外でも現れるのではないかという話である。

 彼女がそのような考えに至ったのには、紺碧艦隊の面々が建造されたわけでもなく、気がついたら海に放り出されていたことが密接に関わっていた。

 

(深海棲艦によって世界が滅ぶ一歩手前というタイミングに、狙ったように私達がこの世界に呼び寄せられた……あまりにも出来過ぎている気がします)

 

 何故自分達なのか、何故自分達が人の形をしてこの世界にやってくることになったのか、彼女は知る由もなかった。しかし、深海棲艦に対抗できるのが自分達であるのも事実であり、自然と頼られる立場になって満更でもないというのもまた事実であると天音は自覚はしていた。

 

「友人曰く、存在が確認されたのは7名という話だ」

 

「……っ! 同時に7名もの存在が発見されたということですか?」

 

「いや、内5名はまとまって発見されたが、残りの2名は5名の暫定の処遇が決定した後に名乗り出てたらしくてな……」

 

 つまり、気づかない間に海軍の内部に彼女の同類が入り込んでいたということである。今までよく隠し通せていたものだと2人は苦笑したが、顔は全く笑ってはいなかった。

 

「艦種は判明しているのですか?」

 

「ああ、最初の5名は皆、『駆逐艦』であると名乗ったそうだ。確か、名前は……吹雪、叢雲、漣、五月雨、電だったか。吹雪と叢雲は吹雪型、漣は綾波型、電は暁型、五月雨は白露型と聞いた」

 

「他は……?」

 

「残りの2名は大淀が『軽巡洋艦』で大淀型、明石が『工作艦』で明石型らしい」

 

「………」

 

 知っている名と知らない名があると、天音の顔は物語っていた。

 彼女の中に新たな疑問が生まれたのだ。存在が確認されたという7名は、本当に『同類』なのかという疑問が。

 

「……君達にとっては喜ばしい話だと思って期待していたのだがな、当てが外れたか」

 

「いえ、『似たような存在』が確認されたとの報告が聞けただけでも結構です」

 

「……表情が硬いな」

 

 溜息混じりに彼はそう言うと、珈琲を軽く啜り7名の今後について話し始めた。

 

「『保護した少女達』が所有していた装備は、深海棲艦に対して有効であることが確認された。しかし、到底人間が扱えるようなものではなく、完全に彼女達専用の物とのことだ」

 

「では、海軍は『件の少女達』を深海棲艦に対抗しうる戦力としてみなすのですか?」

 

「そこは慎重に考えるとのことだ。如何に対抗しうる力を持っていたとしても、我々としては年若い少女と何ら変わりない姿の少女達を戦わせることに抵抗がある」

 

 無論、君達にも言えることだと彼は付け加えた。

 

「……事情は把握しました。では、海軍が動くのにはまだ時間がかかると見てよろしいですね」

 

「すまないがそういう事になる。仮に少女達に戦ってもらうことになったとしてもだ、施設の大々的な改装工事に時間を要することになるだろう」

 

「法の整備も必要になりますしね」

 

「……うむ、少女達の海軍における立場や権利、生活保障などしっかり検討しなければならないな」

 

 下手に少女達への対応を見誤れば、世論さえも敵にしてしまう危険性を菊池大将は理解していた。

 だからこそ、天音はこう答えた。

 

「率直な意見として私は、件の少女達を人類に友好的なゲストとして扱うことを強く進言します。戦う意志を見せるのならばその支援を海軍をは行うべきでしょう。また、少女達の中には深海棲艦と戦うことを拒否する者もいるかもしれません……その場合は、意志を尊重した上で裏方に回ってもらうなど一考していただきたい」

 

 無理に戦わせることで、少女らがメディアに事を密告するなどして反旗を翻せば、海軍いや人類は深海棲艦を相手するどころではなくなってしまう。それを未然に防ぐための注意の一言だった。

 

「―――わかった、肝に銘じよう」

 

「……くれぐれもよろしくお願い致します」

 

 そうして、天音は帝国海軍内の新たな動きが落ち着きを見せるまでの間、紺碧艦隊を一時的に本土近海防衛の任に就かせることを約束した。

 さらに、今後は秘匿潜水艦隊として行動することと、これまでのようなやりとりは後任に引き継いでもらう予定であることを伝えた。

 

 

 

 

「―――ちなみに、その後任の者の名は何という?」

 

「後任者の名は――――そうですね、雷の神もしくは剣の神だとでも言っておきましょうか」

 

 

 

 

 そう菊池に答えると彼女は踵を返して病室を後にし、『亀田 天音』から紺碧艦隊の伊号潜水艦、伊3001亀天号へと戻っていった。




よく考えたらこの物語、6-2から1-1とか5-3を攻略しようっていう事になってて困惑。

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