紺碧の艦これ-因果戦線-   作:くりむぞー

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地球舐めんなファンタジーの前では深海棲艦など無力に等しい……


第13話 昇りゆく太陽

 ――時系列は遡ること、建御雷ら派遣部隊が米サンジェゴ港へと到着する前日。

 ……言い換えれば、日本海軍がとある共通点を持っていた各地に散らばった艦娘を保護しに向かっていた頃のこと。

 本土から離れた北海道の室蘭に建設され、国内の情勢悪化から途中で工事が中止となったとあるコンクリート造りの港近く建物では、年若い少女らが暗がりの中でドラム缶に木材を入れて燃やし、神妙な空気を醸し出していた。

 数えるだけでも20人近くはその場には存在しており、顔立ちが似ている同士で作りがそっくりな衣服を着込んでいた。割合だけを見れば、巫女服に近いデザインを着ている者が多いと言えた。

 そんな中、一人だけ闇に紛れるが如く黒一色の忍装束を纏っていた少女が、服装以外はほぼそっくりである集まりの中心人物に対して興奮を含んだ様子で語りかけた。

 

「……こうして一同に会してみると、なかなか圧巻でござるな」

 

「――ああ、そうだな」

 

 話しかけられた人物である高身長の女性は、周りをよく見渡しながら正直に受け答えると視線を一旦外して、現在居る階層に辿り着くまでに用いた資材片の散らばる階段へと傾ける。

 するとそこには、普段から彼女と行動を共にしている集まった中でもとりわけ異質な東洋系の顔ではない少女が姿を見せており、ゆっくりと靴音を立てて階段を登ってきていた。

 

「周囲警戒はどうだった――『ツヴァイ』」

 

「危険な様子はなかったわ。……海軍の人達が少し離れた場所で待機しているだけで、特にこれといった異常は皆無よ、『タケル』」

 

 左目の下の泣き黒子がチャームポイントな、『ツヴァイ』という愛称で呼ばれた少女は傍らに立って壁に背中を預け、差し入れにとコーヒー飲料を投げて渡す。慣れた手つきでそれを受け取った『タケル』は、すぐに飲んだりする素振りは見せずに一頻り手中で弄ぶと何やら思い出したかのように言った。

 

「……そういえばだが、建御雷達は明日が出発だったか……アメリカに」

 

「話によればそうらしいけれど。……何、気になることでもあるのかしら?」

 

「いや、特にこれといったことはないんだがな。――ただ、ちょっと嫌な予感がな」

 

 背後に得体の知れない何かが忍び寄り、手を伸ばそうとしているかのような違和感に襲われたタケルは、トラック島にて今頃は出港の準備をしているであろう派遣部隊の身に何かが起こるような気がしてならなかった。

 具体的なビジョンが彼女の頭の中を過ぎり、ボロボロになって崩れ去る少女の姿が海上に浮かんでいる光景が映る。ただの質の悪い妄想の産物だと彼女は割り切りたいところであったが、そう簡単に頭から抜け落ちることはなかった。

 

「……もしかして、米国との交渉が決裂するかもしれないとか考えているの?」

 

「それはない。暫くの間動向が窺えなかったとはいえ、基本的にこの世界の人類には国際協調論や積極的平和主義が根付いている。……急に方針を方向転換するようなことがあれば世界中が黙っちゃいない」

 

「でも、どの国も鎖国状態で悪い言い方をすればバレなければやりたい放題よ。一方的な行為をしても咎める人間がいない」

 

 最悪の場合は、建御雷らが米国に拘束され不当な扱いをされた挙句に辱めを受ける可能性があるとツヴァイは声を荒らげる。しかし、彼女が思っているようなことはまったく想定していないタケルは落ち着いた口ぶりで隣に立つ少女を優しく宥める。

 

「――そんときゃ、オレ達が助けに行って米国に限らず舐めた真似をした国なんて見捨てりゃいいさ」

 

「さらりと酷いことを言うわね……」

 

「……フン、それだけこの世界の人類を買っているってわけだ」

 

 不安気だった表情を隠し彼女はツヴァイの肩を軽く叩いた後に一歩前に進み出ると、近くにあったドラム缶の上に飲みかけの缶コーヒーを置いて皆の注目を惹くべく手を鳴らした。

 途端に、炎を囲んで談笑しあっていた少女らはそれぞれ動作を止めて、一人また一人と統率が取れたように横並びになって列を作り聞く姿勢をもった。

 そうして、舞台が整ったところで少女は大きく息を吸ってから声を目の前に響かせた。

 

 

 

「さて諸君、今宵は呼びかけに応じてくれて感謝する。――オレは、もはや自己紹介をするまでもないとは思うが、かつて君達も属していた旭日艦隊旗艦を務めていた戦艦―――――『日本武尊(やまとたける)』だ」

 

『……!!』

 

 

 

 正体を知っていても集まった者達をなお唾を飲み込ませるだけの迫力を放ち、日本武尊(やまとたける)と名乗った少女は仁王立ちになって腕を前で組み、序論から丁寧に集まるに至った経緯を淡々に語り始めた。

 

「――前世では優秀な指揮官らの下で感情を持たぬ兵器として恒久平和の為に尽力した我々であったが、どうやら人の身に転生してまでやらねばならないことがあるらしい。……知っての通り、この世界は今滅びの危機に瀕している。……深海棲艦という存在によってだ」

 

 艦艇の特徴を模しているという、ある意味艦娘と似て非なる未知なる脅威によって、緩やかに平和を紡いできた世界は一変し絶望の淵へと瞬く間に落とされてしまった。それだけでなくその魔の手は、少女らの故郷である日本までもを完全に包み込もうと迫り、既に侵略された島国と同じ運命を辿りかけていた。

 

「奴らの正体は未だ鮮明には見えてきてはいないが、はっきりとわかることがある。……連中は人々に絶望を与える負の象徴であり、要らぬ連鎖を引き起こしているということだ」

 

 少女達は艦娘が現れる以前に大きな戦いがあり、人類側が大損害を被ったことに対して黙祷を捧げると共に自分達に何が出来るかを思考した。

 

「我々には力が与えられている。これが何の為の力かは正直なところオレをもってしてもわからないし、君達にもわからないだろう。……だが、きっと意味があるはずだ。だから自分はこう思うことにする―――与えられた力は、共に戦った者達と支えた者達の共通の平和への祈りなのだと」

 

 真相は定かではない……が、もしも本当に与えられた力が平和への直向な思いによって形作られているのだとしたら、平和とは真逆の方向に深海棲艦によって進んでしまっている世界に対して使ったほうが良いだろう。

 

「――既に我々の世界で駆け抜けた同志である建御雷らがトラック島にて奮戦し、月虹艦隊なる組織を結成している。海軍では、辿った歴史は違えど目指すべきこの世界の未来は同じである者達が戦っている。……ならば、我々は何を成すべきかだろうか?」

 

『………』

 

 ここまで話を聞いていて、何もしないという選択肢を選ぶ者は誰一人としていなかった。今日というこの日も人類は足掻き続けているのだから、それを眺めているだけなど誰かが許可したところで認められるはずもないのだ。

 

「戦いましょう、我々も!」

 

「そうだ! 私達の力はこういう時にこそ役立つんだ!」

 

「――此処で逃げちゃ、司令官達に顔向けできないってね!」

 

 拳を高く突き出し、意気揚々に集まった少女らはやる気をここぞとばかりに露わにした。……共通する思いは唯一つ、受け継がれた誇り高き精神をこの世界を救うために捧げることだった。

 日本武尊はそれぞれの熱い胸のうちを受け止め、頼もしい仲間を持ったことに対して感謝の気持ちを笑顔で表現すると、再び合図を行って本題に話を移行した。

 

「……八咫烏、頼む」

 

「承知」

 

 露出した胸の谷間から大胆にも折り畳まれた何かを取り出した忍姿の少女……八咫烏はツヴァイに手伝ってもらい、それを皆に見える形で広げた。そこには真新しい世界地図に多少記入が施され、幾つかの場所に印が付けられ扇形や円が描かれていた。

 

「皆、深海棲艦との戦いに参戦するということで話を進めさせてもらうが、現在日本を取り巻く状況について聞いてもらいたい。――まず、同胞たる建御雷らだが硫黄島、トラック島、マーシャル諸島を拠点とし本土近海と太平洋広域を活動海域としているそうだ」

 

 つまり、艦娘による攻略部隊の中でも建御雷ら月虹艦隊は最も勢力を持っており、日本の安全を首の皮一枚で何とか保たさせている存在であることを意味していた。

 

「次に、日本海軍所属の平行世界の同胞達が身を置く横須賀鎮守府。ここでは、本土近海に加えて現在は南西方面へと進出し深海棲艦の侵攻を食い止めている状態にある……しかし――――」

 

 地図を見る限りでは、日本海側と北方海域までは両艦隊共にカバーがしっかりとは行き届いておらず、辛うじて月虹艦隊が少数戦力で巡回を行っている様子であった。これでは、月虹艦隊の負担が何時まで経っても減ることはなく、貴重な戦力もいたずらに分散させられてしまうことになる。

 

「はっきり言って、大規模艦隊でも編成されて不十分な点だらけの本土防衛線を攻め入れられれば、日本は確実に敵の手に堕ちるだろう。……だからこそ、皆をこの場所へと参集したんだ」

 

 日本武尊らがいる室蘭は場所的に日本海側へにも対策が薄い北方海域にも出ることが可能であり、有事には鎮守府にも急行することが出来る距離にあった。

 

「……鎮守府の艦娘が南西方面へと進出し防衛に務めていることで、沖縄や九州地方の住民はやや活気に満ちているそうだ。……が、その反面で東北地方や北海道では、守られているという直接的の実感を持てないことから一部では海軍に反発している者達がいると聞く」

 

「なるほど、此処に拠点を構えることで不満を解消させようというわけですか……」

 

 前の列に立って居た左側の顔を髪でほぼ完全に隠している虎狼型航空巡洋戦艦の長女『虎狼』が、おっとりとした口調で日本武尊の意図を皆にわかるように汲み取った。

 

「そういうことだ。……無論、我々の存在は拠点ごと秘匿して噂だけを流す。その辺は海軍情報部に任せてある」

 

「すると、我々の立ち位置は――――」

 

「……月虹艦隊の別働隊、それも国内駐留部隊として当分は活動することとなるだろう。それから、今後の予定としては、建御雷らが米国から戻り次第腹を割って話し合いをするつもりだ」

 

 

 ―――その前に絶対くたばったりなんかするんじゃねぇぞ……と彼女は、再会の時を待ち望み叱咤激励の念を彼方へと飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……そして現在、道中でミズーリを加え米国へと辿り着いた派遣部隊はというと、サンジェゴ港へと入港を果たした後に速やかに海軍基地の施設内へ通され、集まっていた海兵たちの視線を一点に集めながら暫く待つように言われた応接間にて待機していた。室外から未だに騒ぎの声が聞こえたが、徐々に沈静化の傾向があり気にさえしなければ大丈夫であるレベルまで落ち着いていた。

 大統領の命を受けたという案内役の基地司令の話によれば、あと2時間ほどで会談は可能ということであり、少女らはそれまでの間で室内のソファに腰掛けながら、事前の最終打ち合わせを軽く行うとともにミズーリの処遇についてを論議した。

 

「――ミズーリ、出来れば君をこのまま月虹艦隊に加えたいところなんだが、場合によっては此処に残ってもらうかもしれない」

 

「……別にそれは構わないのだけれど、一応理由を聞いておいてもいいかしら?」

 

「勿論だとも。……まあ、事は単純なんだがやはり此処の海軍には一人も艦娘が存在していないらしい。即ち、米国を守っているのは入港する際に見たあの分厚い防壁のみということだ」

 

 何とか奇跡的にも効果を発揮し深海棲艦を寄せ付けていないようではあるが、紺碧艦隊の調べによれば老朽化してきており、早急に補修工事をしなければならない部分が残念なことに出てきてしまっているようであった。

 当然の事ながら直すためには壁の外に出なければならないわけであり、そこを見計らった深海棲艦の奇襲を受ける可能性も高い。警戒部隊を配置するにしても、戦力を迂闊には割けない上に距離があり過ぎていた。

 

「今回の強襲の事も考えれば、派遣する部隊は主力中の主力を固める必要がある。だがそれは、我々の活動を制限することであり許可できるものではない」

 

「……貴女の艦隊には潜水艦がいるはずよ、気休め程度でも配置できないのかしら」

 

「無論、行うつもりだが基本的に彼女らは公に姿を見せることが出来ないんだ。……そんな相手に君は顔も合わせず背中を預けていられるか?」

 

「……確かに言われてみれば筋は通っているわ。ようは、米国が安心して背中を預けられるような希望の象徴が常に居なければならないというわけね」

 

 心の拠り所、悪く例えるのならばプロパガンダ的役割を担ってもらうことになるのだが、そうでもしなければ世の中に充満した悪い流れは完全には断ち切れまい。

 ミズーリは交渉の結果次第で米国内に駐留する意向を伝えるかを判断すると述べ、時間が許す限りの間で艤装の扱い方や戦うための基礎知識についての教えを皆から乞うた。

 

 

 

 ―――やがて、時計の短針が二つほど時計回りにずれた時、そろそろかとタイミングを確認していた彼女らの耳にドアをノックする音が伝わり、リーガン大統領が到着したことが通達される。程なくして、大きく入り口の扉が開かれると、威厳と貫禄の両方を持ち合わせた男性が室内に導かれ、立ち上がって敬礼をした建御雷と瞬間的に視線を交錯させた。

 

「―――!」

 

「!?」

 

 そして、本当に一瞬のことであったが、両者が感じ得ていた謎の感覚が研ぎ澄まされたかのように一本の線として収束し、心が繋がり溶け合ったかのような気持ちにリーガンと建御雷はなった。……その為か、自身の座る席に向かおうとしていた彼は凍ったように静止し、建御雷もまた上げた腕をなかなか下げることが出来ずにいた。

 

「た、タケミー……?」

 

 心配そうに米利蘭土が声をかけるが全く聞こえていない様子であり、まるで見えない何かを見てしまった影響で目を見開いたまま気絶してしまっているようであった。

 しかし、その静寂の時を破ったのも固まっていた本人達自身で、徐ろにリーガンの方から口を開いて言った。

 

「君は……タカスギの………」

 

 譫言のようにも聞こえる掠れた声が絞り出されると、建御雷は予感を現実のものとするために質問を投げかけた。

 

「―――つかぬことをお聞きしますが大統領、貴方は乗艦していた空母に敵国の艦載機を着艦させたことはお有りでしょうか?」

 

 いきなり何を言い出すのだと、何も知らない人間なら言い出すに違いない質問の内容であった。……いや、彼女をよく知る人物であったとしても突然言われたのならば困惑するに決まっていた。

 だがしかし、周りの予想に反してこの質問は緊張が走るこの場に劇的な変化をもたらし、張り詰めていた空気を明るく温かいものにした。その証拠に両者は互いに歩み寄り、まるで生き別れた家族が長い時を経て再会したかのように手を握り合い笑った。

 

 

 

「……ああ、あるとも! 忘れたくとも忘れられんよあの出来事は! アドミラル・タカスギと出会ったあの日はな!」

 

 

 ……その一言でミズーリを除く月虹艦隊は、ロベルト・ダック・リーガン大統領がドナルド・ダック・リーガン提督だった頃の記憶を所持している事を理解した。聞き及んだ程度で得た信頼に勝る信頼が得られた瞬間であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そうか、私以外にあの頃の戦いの記憶を有しているものはいないということか」

 

「申し訳ありません。幾人かは名前や言動などそっくりであるであるのですが、我々がよく知る人物ではありませんでした」

 

「いやいや、謝らんでいい。こうして君達と出会えただけでも私は十分満足だ」

 

 リーガン大統領が直々に入れた珈琲を頂いた私達は、小高総理と高野総長から預かった親書を渡し、現在日本が深海棲艦に対して反攻作戦を推し進めていることを簡潔に述べた。

 さらに、両名やその関係者が同じ世界の出身ではなく転生者ではないことを伝えるとともに、月虹艦隊があくまで日本海軍の協力組織として動いていることについても話した。

 高杉提督が転生しておらず、また写し身すら存在していないことにリーガン大統領は落ち込んだが、彼ならば成しえるだろう事を己が実践するとすぐに意気込み、6月前に実行に移す予定であるハワイ奪還作戦――通称『水切作戦』後の物資の支援を通して日米関係を築き上げることに強い意欲を示していた。

 

「……ハワイまでは君達の護衛の下で必要なものを運び込むというのなら、私としても心強いことこの上なく安心できる。だが問題は、奴らがどこまで邪魔立てしてくるかの匙加減か」

 

「加減というより傾向の度合いと言った方が正しいかもしれません。……今回の道中での出来事は、度肝を抜かれましたが個人的には得るものがあったと思います」

 

「というと、何かわかったことでもあるのか?」

 

「――はい、一応はですが多少なりとも真実に近づいているような気がしています」

 

 そう言って私は大きめの紙とペンを用意してもらうと、皆が見える位置に立ちこの世界の状況を一から説明し始めた。

 

「第一に、我々が今ここにいる世界をXとします。X世界の特徴を表すならば、項目として『第2次世界大戦が発生しなかった』『国際協調が第一となり国連が早期に結成された』『ここ十数年に渡り深海棲艦が出現し侵略されている』といったものが挙げられます」

 

 紙の上部に円を描き、そこにXを記入すると私は続けてその下に3つの丸を描いてそれぞれにA・B・Cを記入していった。

 

「第二に、リーガン大統領と月虹艦隊の面々が居たA世界。……この世界は、『第2次世界大戦・第3次世界大戦が勃発』『大戦中盤から後半にかけて日米同盟成立』『第三帝国と影の政府の影響が強かった』ことが挙げられ、その後戦乱は消え平和が確立されています」

 

 技術の進歩に合わせて新造艦が造られる事はあったものの、それは平和を維持するための海上保安のためであって新たな戦争の火種を生むためではなかった。

 

「……そして、Bという世界。この世界は実際いたかは定かではないですが、『影の政府、またはそれに準ずる組織が存在した可能性がある』『日本は孤立し、原爆を投下され無条件降伏をした』など、我々の世界とは程遠い終わり方を見せています。海軍に保護されている艦娘はこの世界の出身のようです。また、Cという世界ですがこれはミズーリが居たという世界で、恐らくはBの延長線上にある未来の一つだと思われます」

 

「ミズーリ……そこの彼女だけは君達とは違うのか」

 

「ええ、此方に向かう途中で初めて会うことになりました。ですが、その世界では日米の対立は終わり、同盟が結ばれているそうです」

 

 前置きとして、少なくともX世界がA・B・Cの3つの世界からの干渉を受けている現実があることを述べ、ここからわかり得ることを考察した。

 

「海軍大本営からの報告によれば、月虹艦隊はあちら側の艦娘をこの世界に呼び寄せた存在にとって全くのイレギュラーであるそうで、此処から察するにX世界であるこの世界はB世界による干渉が強いことが窺えます」

 

「……待て、ということは日本が敗北した世界の艦娘が呼び寄せられているということか。しかしどうして―――」

 

「普通に考えるのなら、負けた世界の艦娘ではなく負けることがなかった強力な艦艇を持つ世界の艦娘がメインとして呼ばれるべきなのでしょうが、我々は副産物としてこの世界に呼ばれています。……それは何故か? はっきりとはわかりませんが、XとBを繋ぐモノがこの世界に存在しているからだと思われます」

 

「それは――深海棲艦か!?」

 

「……いえ、違います。その先にあるもっと恐ろしい―――『何か』です!」

 

 影の政府並かはた又はそれ以上の力を持った存在によって世界は塗り潰されようとしているのではないかと私は口にすると、リーガン大統領は額に汗を浮かべて本当の敵が何であるかを理解しようとした。

 

「その『何か』とはまさか、人間なのか……?」

 

「実体を持った、という意味でなら答えはNOです。……奴はきっと、既に書かれた預言書通りに世界を加速させ、背く者は修正しようとする影の政府ならぬ――――『影の意志』」

 

 意志の力とも言うべき存在がこの世界に介入し、存在するはずもない第2次世界大戦を深海棲艦を用いることで再現しようとしているのではないかという疑惑が上がり、可能性を述べた私自身さえも戦慄をした。

 

「そんな物が存在する……証拠があるのか?」

 

「―――被害状況を鑑みれば、深海棲艦は米国の陸地に対しての攻撃は行っておりません。一方で、日本を含めた周辺諸国に対しては近海だけでなく陸地までもが攻撃されております。なぞりがあるとでも言いましょうか……加えて、事前調査によって深海棲艦が集まっていないというルートを選んだにも関わらず、敵の強力な上位種が現れて我々の接触を阻止しようとしていました」

 

「その事前調査がバレていたという可能性は?」

 

「……鯨達の存在にそう簡単に気づけるとは思えませんがね」

 

「鯨……気付かれない……そうか、X艦隊か」

 

 敵に回せば畏怖の対象、味方にすれば頼もしい限りである紺碧艦隊が危険な上位種を見過ごすヘマをするはずもなかった。直前のレーダー探知にも反応しなかったという。

 よって、あの時現れたのは完全なるイレギュラー、突然湧いて出てきた刺客ということになる。

 

「……されど、第2次世界大戦の再現を行おうとする意志の力の他に、その力に抗おうとする力もまた存在する……か」

 

「我々とミズーリは、その抗うための力によってこの世界にやってきたのだと思います。仮にそうでなくとも戦う覚悟は揺るぎません」

 

「……うむ、そう言ってくれると助かる」

 

 本当に第2次世界大戦の最悪の悲劇が繰り返さえるというのならば、日本には……その他の国には敗北した世界で落とされた原子爆弾と同等クラスの攻撃が行われるかもしれなかった。そうなれば完全に希望は失われ、世界には絶望だけが残ることになる。

 

「――現状は深海棲艦によって侵略された場所の奪還が最優先事項ですが、頃合いを見て奴らが生まれる原理について解き明かす必要があるでしょう。その際には絶大なるご協力をお願いしたいと思っております」

 

「是非とも協力させていただこう。……この世界の彼らにもよろしく言っておいてくれ」

 

 

 予定通りミズーリはリーガン大統領の下保護されることになり、今後米国が艦娘を追加で保護することになった時には、日本と同様の方針を取ることが決定された。

 また、ハワイ奪還作戦が成功した暁には日本海軍及び月虹艦隊を国際救援部隊と認める方向で支援するとも告げられ、私達は一人一人彼と握手を交わし名残惜しいと思いながらも紺碧艦隊の護衛を受けてトラック島への帰路へと就いた。

 




次回の投稿は都合上少々遅れるかもしれません。

次回もお楽しみに。

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