紺碧の艦これ-因果戦線-   作:くりむぞー

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艦これ春イベですが4/29の7時に開始し21時半にE-1からE-6まで終わらせました。所要時間は14時間ちょいですね(なお、攻略中に高波が出ました、いぇい。

なお、Romaドロまで含めると大体丸1日使ったことになるでしょうか。

個人的に今回のイベントは二次創作的にも良い内容だったと思います。西方の戦況に対して良い妄想が膨らみました。

いずれ、小説内でも再現したいと思います。




第12話 世界の壁を越えて

 ――比叡を戦列に加えた水上打撃部隊の活躍により、製油所地帯沿岸近くまで侵攻していた深海棲艦の部隊は見事に退けられ、南西諸島周辺における防衛線は少しずつではあるが押し返しているという状態へと移行していた。

 これに呼応するように遠征任務も着々と成果が出されつつあり、この先起こるであろう規模の大きい作戦への貯蓄が駆逐艦の艦娘らを中心に順調に進みつつあった。

 しかし、勢いに乗って一気に押し上げられつつあった防衛線は、一定ラインを越えてそれ以上進行することは叶わず、 再び部隊は苦戦を強いられることとなっていた。というのも、単純な水上打撃部隊による布陣だったならば彼女達にまだ勝機はあったのであるが、運悪く防衛線を越えさせないように侵攻してきているのは、これまでの戦いで姿を見せていなかった空母クラスの深海棲艦による機動部隊であった。

 対空火器を充実させ、幾度と無く挑んだ富嶽提督指揮下の彼女達であったが、比例するかのように深海棲艦は航空戦力による層を厚くし立ちはだかった。紺碧艦隊も支援に徹していたが、存在を悟らせず行動しなければならないこともあり、吹雪ら海軍の艦娘の姿なくして表立って殲滅行動に入ることは出来なかった。

 ……が、此処で転機が訪れる。海軍に保護されず各所に散っていた艦娘達が情報部の仲介を挟み、参戦の意を表明したのである。また、急ぎ対策に乗り出していた提督の指示の下で新たな艦娘が建造され、戦列に加わるかどうかの最終確認がなされていた。

 

 

 

「―――比叡お姉様っ!!」

 

「あ、貴女は……!!」

 

 食堂にて待機していた比叡の前に現れたのは、赤のスカート以外はほぼ同じ服装である笑顔の眩しい黒髪の少女であった。一目で彼女は同型艦のうちの誰かであるかと勘付いたが、名前を尋ねるよりも早く自身よりも若干小柄な少女を全力で抱きしめていた。

 

「金剛型3番艦の、榛名です!……こうして、またお会いすることが出来て嬉しいですっ!」

 

「……私もだよ、榛名!」

 

 再会を喜び合う彼女達は艦艇出会った頃の記憶に思いを少しばかり馳せながら、互いの人としての暖かさを確かめ合い、無意識に涙を流して笑い合っていた。それを見守る周りも艦娘達にも笑顔がこぼれ始め、春の日差しのような熱を持った空気が緩やかに流れた。

 

「今まではどうしていたの?」

 

「呉の方で親切な方々にお世話になっていました。私の他にも同じ境遇の方がいたので心強かったです」

 

「……えっ、同じ境遇の方?」

 

 榛名が走ってきた方向へ比叡が視線を向けるとそこには、彼女らのような派手さはない巫女服に身を包んだ姉妹らしき二人組が立っており、髪を後ろで結んだ少女のほうが手を振って存在をアピールしていた。

 

「伊勢型戦艦の1番艦、伊勢よ」

 

「――2番艦の日向だ、よろしく頼む」

 

 差し出された手を強く握り、それぞれの存在を認め合うかのように眼差しを交わし合うと彼女らは比叡のこれまでの戦闘経験についてを中心に細かな談義へと移った。

 また、その近くではセーラー服姿の小柄の少女らが集まっており、似たように再会を祝して姦しくも会話を繰り広げていた。

 

「……これで、第六駆逐隊再結成なのです!」

 

「けれど、練度的に末っ子の電がトップなのよねぇ……」

 

「――見てなさい、長女の私がすぐに追いついて、そのまま追い越してみせるんだからっ!」

 

「……私も、負けてはいられないな」

 

 響が危惧していた関係の拗れもなく電は鼻息を荒くしながら意気込み、共に努力を重ねていこうと決意を露わにしていた。負けず嫌いな暁もそれに反応し張り合うような姿勢を見せると、同型艦であるが故の艤装の扱い方のコツなどメモを片手に聞きに迫った。

 そんな中、航空母艦である鳳翔は周りを見渡し、自分以外に同艦種の艦娘が見当たらないことを確認すると、談笑をしている最中で不安な思いを混じえながら瞳を閉じて小さく呟いた。

 

「大丈夫……あの子達が来るまでの間は私がきっと支えてみせます」

 

 どこまで対抗できるか未知数であり、最悪の場合は意味を全くなさない結果に終わるかもしれないという恐怖は当然ありはしたが、ここまで来たからには決意は揺るがず強固であった。

 だが、思いに反して手は小刻みに震えており、無理矢理抑えつけようにも余計に揺れが加速し増していった。周りに気づかれないよう隠すも今度は肩が振動していく。

 ――その時だった、不意に肩が優しく叩かれ彼女の身体からは寒さに似た感覚が抜けていった。反射的に振り返るとそこには……丈が短い弓道着姿の少女らが富嶽に連れられて鳳翔の背後へと立っていた。それぞれ腹部に付けた甲板には「ア」と「ヒ」の文字が記されている。

 彼女らが自己紹介するよりも早く提督が手を叩いて注目を集め、2人について説明を行った。

 

「――盛り上がっているところすまないが、つい先程追加で配属となった2名を紹介する。……赤城と飛龍だ」

 

「航空母艦、赤城です」

 

「同じく飛龍です、皆よろしくねっ!」

 

「貴女達っ……」

 

 やや崩れた形の敬礼で橙色の着物姿の飛龍は笑顔を投げかけると、赤城は感極まって思わず立ち上がった鳳翔の手を両手で包み込み、眩しいまでの笑みを向けて言った。

 

「大丈夫ですよ鳳翔さん。私達も共に戦います、一緒に頑張りましょう」

 

「……ええ、そうですね。でも、無理はしないように気をつけないと」

 

「はい、わかっています」

 

 これから機動部隊の中核を担う存在として活躍を期待されていることを肌で感じ、3名は他の艦娘に囲まれながら話し合いの輪に加わっていった。

 暫くして、艦娘によるガールズトークは盛り上がりを見せながらも時間が経つにつれて徐々に静まっていき、それまで配慮して静観を貫いていた富嶽が声をかけることで完全に静まり返った。そこで彼は、ホワイトボードを用いて今後の予定について現在の状況を踏まえて語り出す。

 

「――本日着任したばかりの者以外は把握していると思うが、今のところ海軍は南西諸島奪還の為に周辺から侵攻して来ている深海棲艦を向かい撃ち、防衛線を沖縄から台湾にかけての間に構築しつつ押し返している状態だ。……ところが、その先に向かおうにも敵機動部隊が進撃を阻んでおり、膠着状態に陥ってしまっている」

 

 対空射撃訓練に取り組んだ比叡を中心とした第一艦隊が幾度と無く挑みはしたが、制海権だけでなく制空権までも奪われていることがやはり痛手であり戦いに強い影響を及ぼしていたのである。つまり、今後は航空戦力による制空権確保が必須であり、戦況を大きく左右することになるということだった。

 

「今回、赤城・飛龍・鳳翔の航空戦力を携える3名が戦列に加わったことは喜ばしいことだが、本気で喜ぶにはまだ早い。搭載する装備についても十分検討しなければならないだろう。それに……大淀」

 

「……はい、敵機動部隊の中には夜間に艦載機による攻撃が可能な深海棲艦が含まれているとのことです。これでは夜戦が必ずしも優位とは言い難いでしょう」

 

 この事実は既に戦いの中で把握していた者達を除いた全ての者に少なからず衝撃を与えた。だがしかし、まだ敗北が決定付けられたわけではないため、彼女達の瞳の奥にある炎は勢いを衰えさせてはいなかった。

 

「いずれ夜間における奇襲が強く求められる機会が訪れることになる。今は無理であっても、この先如何なる場合に対応できるよう各員には奮起してほしい」

 

『―――はいっ!!!』

 

 戦艦を含めた水雷戦隊には確実な撃破を行う精確性を、空母には夜間における発着艦や攻撃訓練に努めるよう提督は要請し、艦娘の少女達は深々と頷いて返事を返したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ええい、ちょこまかとっ!!」

 

 ――天候は晴れ。濃い雲は一つとして見当たらない大空に恵まれた建御雷を旗艦とした米利蘭土・夏月・冬月・雪嵐・雨風計6名による月虹艦隊第一遊撃部隊はその日、巨大な防壁ゲートがいたるところに設置された米海岸線を巡回していた伊502が受け取った米海軍による返信を受けて、トラック島を出港し洋上を一列になって航行していた。

 返信の内容はサンジェゴ港へと入港しコンタクトを取りたいというものであったが、一番に目を引いたのは要請した主が米大統領であったことである。加えて、リーガンの姓の持ち主であったことが衝撃的であった。この件は直ちに海軍情報部へともたらされどのような人物であるか素性が洗われた。そこで、容姿が瓜二つな存在であることが確認され、一応は信頼に足る人物であることが証明された。

 建御雷は奇妙な縁を感じられずにはいられなかったが、それが単なる思い過ごしであるのかは直接会って確かめる他ないと自身に言い聞かせた。……そして今、彼女らはハワイを避けるように北上し、そこから平行線上に米本土を目指すルートを進んでいたわけであるが、近くで群れていたと思われる軽母ヌ級を軸とした機動部隊に運悪く出くわし、航空戦を余儀なくされていた。

 

「……3時方向より、敵艦載機多数接近ッ!」

 

「11時方向より、新たに戦艦1、軽母2、重巡2、駆逐1が接近ッ!!」

 

「殲鬼隊、銀星隊は直ちに迎撃せよッ! ……電征隊8番から15番までは援護に回れッ!」

 

 歯を強く噛み締めて射った矢は分裂を果たし、複数機からなる噴式の艦上攻撃機である殲鬼の部隊へと変化した。

 そのまま先に変化していた銀星隊と合流し、新たに現れた敵部隊へと電征の援護を受けて一定の高度を維持したまま接近すると、搭乗していた妖精らは対艦用である空中機雷『空雷』を投下し先制攻撃を仕掛けた。

 続けて、銀星隊も急降下から爆撃を行い、迅速かつ大胆に殲滅を開始していった。

 その最中、敵艦載機による機銃攻撃が建御雷らを襲ったが、待機させていた直掩機である電征の部隊がそれを許さず貫禄を魅せつけた。

 

「……2門しかナイですが、主砲――よく狙ってくだサイ!」

 

「撃てぇーー!!」

 

 負けじと米利蘭土も駆逐艦の艦娘4名と共に、己の艤装に残された数少ない主砲を操って応戦し、確実に1隻1隻を撃沈していく。だが、いくら倒そうがまるで不死身であるかのように抜けた穴からは別の深海棲艦が姿を現し彼女達を翻弄した。

 

「ハワイを迂回してもこれほどの戦力が集まってくるなんて……」

 

「他の海域より数は少ないとは言えど、全体的に見れば多いことに変わりはない……というわけね!」

 

「――Xより入電、8時方向より支援雷撃来ますッ!」

 

 海中に潜んだ伊601、伊501、伊503より雷跡の見えない魚雷が複数放たれ、ヌ級の前に庇うように出てきていたイ級を一撃で葬り去った。立て続けに建御雷が操る艦載機群が守りを失ったヌ級を狙うが、ピンチなときほど力を発揮するわけか驚異的な回避をヌ級は見せる。

 

「……魚雷一斉発射、敵の航行能力を完全に奪え!」

 

 雪嵐の掛け声により、雨風が彼女と一斉に魚雷を集中的に発射する。進行方向さえも予測した雷撃は見事にヌ級を目的の場所へと誘い込む。

 

「――撃って!」

 

 予め狙いを定めていた雪嵐は連装砲を構え、何も躊躇することもなく連続した砲撃を行った。やがて、ヌ級は目のように見える部分から黒煙を大量に噴き出し悪足掻きをやめざるを得なくなり低速していった。

 放っておいても沈むだろうとその場にいた誰もが思いつつも、念の為に止めを刺そうと攻撃態勢をとった。――が、その矢先……警戒にあたらせていた偵察機から新たな航空戦力が近づいている事が全員に伝えられた。

 

『――4時方向より、艦種不明の深海棲艦が新たに接近!』

 

「何ッ!?」

 

 金鳶が捉えた光景を確認すべく建御雷は瞬時にして視界を同期させた。するとそこには、ノースリーブのセーラー服のようなものだけを纏い、他はすべて露出した上で下半身を口元が怪しく光る攻撃用ユニットに接続した上位体の深海棲艦が映っていた。既に艦載機を展開しているようであり、艦戦と艦爆に割り当てられる航空機が月虹艦隊に今にも襲いかかろうと牙を剥いた。

 

「……各艦、弾幕を張れ! メリー、艦砲射撃用意ッ!」

 

「とっくに次弾装填済みヨ! 目に物見せてやりマス!」

 

 すぐに照準を合わせ撃つ態勢が整っていた米利蘭土は、敵艦爆が急降下するよりも早く砲撃を敵に対して叩き込んだ。欠かさず建御雷も殲鬼に指示を飛ばし、空雷による攻撃を実行させた。

 

「――いけぇ!」

 

 集中攻撃による硝煙が大きく漂い新たに現れた深海棲艦の姿を包み込んだ。そこから飛び出してくる様子もないが、撃沈に成功したかどうかはまだ分からなかった。

 程なくして、吹いた強風によって硝煙は横に流れたが、敵の姿は消えてはおらず依然として健在であった。

 

「……ちぃ、しぶといな」

 

 それどころか、全くダメージを受けている様子はなく敵は余裕の表情を浮かべていた。艦載機を放ち、強靭な装甲を持つ姿はさながら装甲空母のようであった。

 もう一度、建御雷は各艦に攻撃命令を出し砲撃を行わせる。だがそれでも、敵の上位体は攻撃を防ぎきってみせ、逆に砲撃を混じえた爆撃を繰り出した。

 

「きゃあああああああ!?」

 

「――冬月!? 大丈夫か!!」

 

 建御雷の前に出て対空射撃に行っていた冬月に、仕留め損なった艦爆の爆撃が襲いかかった。直撃は免れたものの、次に攻撃を再度受ければ大破は間違いない様子である。電征が艦爆を追跡し撃墜したのを見届けながら建御雷は矢継ぎ早に戦況を分析する。

 

(……どういうことだ、紺碧艦隊による事前のルート確認と予測では深海棲艦がこんなにも集中することはあり得ないはず。なのに、何故此方の動きを読んでいたかのように次々と現れているんだ?)

 

 情報漏洩がないよう対策には力を入れていた彼女にとって、目の前に広がる光景は予想外であった。

 最悪の場合は今回の航海は諦め、次回出直す形をとるべきだと冬月を庇いつつ思考するが、果たして仕切り直した次の出撃で成功かどうかもわかったものではない。彼女には、アメリカとの接触を良しとしない強大な力が働いているような予感がしてならなかった。

 

「――Xからの、支援雷撃は!?」

 

「今、来ます!!」

 

 様子を窺い、敵の両翼に展開していた伊601らから魚雷が発射され、前後に移動するしか回避する術はない状態へと陥らせる。更に背後には銀星隊が飛来し、前方では米利蘭土が今度こそ会心の一撃を放とうと待ち構える姿勢をとった。

 流石にこれでは避けきれないと理解したか、深海棲艦の顔からは余裕の表情が消え、睨みつけるような鋭い形相が剥き出しとなった。そうして、先に雷撃が直撃し間違いなく下半身の攻撃ユニットは崩壊した。……否、崩壊したかのように思われた。

 次の瞬間、深海棲艦は爆発と共に黒く染まった血のようなオーラを撒き散らし、埋め込むように一体化させていた脚部を飛び上がって晒してみせた。途端、歯がくっきりと付いた球体を生み出し、迫っていた攻撃隊へとその群れをぶつけた。それどころか、米利蘭土の砲撃さえも球体で防ぎきり、狂気の笑みを彼女達へと向けた。

 

「――なっ!?」

 

「ダメージを逆手に取り、進化しただと!?」

 

 見れば、雷撃によって損傷したユニットはみるみるうちに変化し、とても先程まで壊れていたようには思えない姿となっていた。

 素人が観察しても間違いなく脅威度は増していると答えるであろう姿に、少女達は思わず竦むしかなかった。特に、米利蘭土は己の砲撃が通用しなくなっているのではないかという不安に駆られ、ターゲットにされていることに気づいていなかった。

 

「……いけないッ!」

 

 気づいた建御雷が衝突覚悟で機関を全力で動かし、大波を立てて彼女へ急接近する。だが、戦闘に疲労していた故に、進化した深海棲艦の方の動きが数倍も勝っており、二人して避けようにもどちらかが直撃を受けなければならない現実が彼女らの目前へと迫った。

 ……勿論、建御雷の中には米利蘭土を見捨てるという選択肢はなく、周りが声を張り上げた時には大の字になって彼女は前に出ていた。

 

 

 

「―――空母が簡単に沈むものかッッッ!!!!!」

 

 

 

 ――刹那、彼女達には爆風と光が襲いかかり、攻撃によって発生したであろう破片が少女達の頬を掠めていった。米利蘭土はそれが建御雷のものであると思い堪らず悲鳴を上げるが、視界は愚か耳さえも機能しない中で痛烈な思いを受け止めるものは誰一人としていない。手を只管前に伸ばして存在を確認しようとするが全く何も掴めなかった。

 

「あああああああああああああ!!!」

 

「た、建御雷さん!? 返事をして下さいっ!! そこにいるんですか!?」

 

「ねぇ、返事をしてくださいよ!! 貴女にいなくなられたら私達は――――」

 

 悲しみは駆逐艦らにも伝染し、高まっていたはずの士気は奈落の底へと堕ちた。

 米利蘭土は走馬灯を見ているかのように建御雷との日々をフラッシュバックさせ、口元から血が垂れるほどに奥歯へ力を込める。悲しみは怒りへと変化し、やがて憎しみへと変化するのだと物語っているようであった。

 

「……よくも、よくもタケミーをおおおおおおおおおおお!!!!!」

 

 死なば諸共という気持ちを抱いて彼女は憎むべき深海棲艦が居た方角を睨む。

 ちょうど、見えなくなっていた視界も元通りになりつつあり、あとは敵の姿を見つけてしまえば良いだけとなっていた。

 駆逐艦らも同様に仇をとろうと辺りを見渡そうとするが、残念ながらつい先程まで居たであろう深海棲艦の姿を確認することは叶わなかった。

 ……代わりに少女達は、見慣れない別の存在をその目に収めることとなる。

 

「――えっ?」

 

 その存在は米利蘭土を庇って傷ついたはずである少女を大切に抱きかかえており、その場にいる誰もの艤装を一回りも二回りも上回る大きさの装備を装着して背負っていた。

 服は青く、海軍服風にアレンジされたワンピースに近いものであり、凝らしてみてみれば艤装には箱形の発射筒……ミサイルを発射するための機構が垣間見えていた。髪は完璧なまでに金髪であり、花飾りがついた黒のカチューシャが付けられている。

 

「……ふう、間一髪ってところかしら?」

 

 衝撃のあまり気絶してしまった建御雷を眺め、謎の艦娘と思わしき少女は周囲の混乱に構わず、心底安心したように胸を撫で下ろしていた。そして、米利蘭土らの方に視線を傾けると、にこやかに微笑んで言った。

 

「すまないのだけれど、一つ教えてほしいことがあるの。……あっ、言葉は通じてる?」

 

「え、あ……通じてマス。通じてマス」

 

「そう、なら良かったわ。これで意思疎通とか出来なかったら最悪だったわ、ええ」

 

 自分で勝手に納得している少女は怪訝そうな目で見られているにもかかわらず、マイペースを貫いていて言葉を続けた。

 

 

 

「――ここ、何処?」

 

『……えっ?』

 

 

 気絶していた建御雷が目覚めてしまうほどの衝撃の質問が飛び、一同は今度は頭の中が真っ白になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えーと何、ようはシンカイセイカンとかいうエイリアンだかモンスターだかゴーストとも分からない連中のせいで、世界中が大パニックなっているってこと?」

 

「……まあ、そうなるな」

 

「シーレーンだけじゃなく制空権も奪われて貿易がまともに成り立たなくなってると。でも、最近になって日本にFleet girls……カンムスメが現れて、海軍と協力して反撃を開始していると」

 

「そういうことになりマスね」

 

「あと、貴女達自体は特殊部隊で、政府の密命を受けて現在進行形でアメリカに向かっていたけれど、襲撃を受けていたと」

 

 謎の艦娘の少女……ミズーリと名乗った戦艦の艦娘である彼女の砲撃により寸前のところで助けられた私達は、再び襲われる可能性を考慮に入れつつも予定通りの針路をとって、目的であるサンジェゴ港方面へ下るルートを通っていた。

 またその中で、この世界にやってきたばかりの様子の彼女に最低限の常識を掻い摘んで教えたわけであるが、一通り説明してもなおミズーリは頬に手を添えて考える姿勢をとっていた。

 

「んー……」

 

「まだ質問があるのなら幾らでも答えるが……」

 

「そうねぇ……あ、そうだ。さっきから気になっていたんだけど、そこの貴女……メリーランドさん?」

 

 米利蘭土の方を向き、じっくり舐めるような視線で艤装を注意深く見ていた彼女は不思議そうな声色で思ったことを直球で口にした。

 

「貴女って、コロラド級の2番艦で合っているはずよね?」

 

「……そうですケド」

 

「いや、同じ戦艦にしては主砲の数が少ないなって思って。確か8門持っているはずだけれども、2門しかないからおかしいなぁ……と」

 

 核心を突いたような質問に米利蘭土は顔を青くするが、同じ国の出身とあるだけに誤魔化した所で誤魔化しきれないので諦めて真実を私は話すことにした。

 

「――メリーランドは鹵獲されて航空戦艦に改造されたからな、そのせいで主砲の数が減っているんだ」

 

「あれ? メリーランドが鹵獲された? そんな話一度も聞いたことないけど……そもそも、メリーランドは米国側で終戦後も健在だったはずじゃ……」

 

「そちらが居た世界ではそうなんだろう。だが、我々月虹艦隊が居た世界ではメリーランドは『米利蘭土型航空爆撃戦艦』として戦い、終戦を迎えているんだ。―――まあ、平行世界と言えばわかるか?」

 

「……ああ、そういうことね」

 

 意外にもミズーリは理解が早く、事実を知ってもなお不満気な顔をすることはなかった。聞けば、彼女が居た世界ではそういったif(もしも)の話を取り扱った話が数多くあるようで、似たような世界が存在していたとしてもおかしくはないということだった。

 

「実際にこうして知らない世界に飛ばされてきてしまったわけだし、人の身になっているわけだし、世の中何が起きるかわかったものじゃないわね」

 

「……達観しているなぁ」

 

「まあね……私、これでも宇宙人――というか宇宙船と戦ったことあるから」

 

 ハワイ近海にて14カ国の海軍が集結し行われる環太平洋合同演習、通称『RIMPAC / リムパック』が開催されていた当時、彼女は既に役目を終えて記念艦として運用されていたという。

 しかし、突如として飛来した異星人の船が世界各地を襲い、そのうちの何隻かが演習の最中であったリムパック艦隊と出くわしたという。奮戦によって艦を失いながらも幾つかの船を沈めることに成功したらしいが、残された最新鋭艦はもはや無いに等しかった。

 そこでミズーリが抜擢されかつてのクルーであった退役軍人の協力の下、異星人打倒のために運用され見事に撃退したというわけだそうだ。

 その後は、静かに海を見守り続けていたようだが、突如として声が聞こえ、意識を傾けてみたところ私達が傷つきながらも戦っている光景が見え、危機的状況にあることを理解し、いてもたってもいられなくなって今に至るという。

 

「――ま、これも他の世界にとってはあり得ない出来事なんだろうけど。私にとってはとても大切で良い思い出よ」

 

「……人は憎しみを越えてわかりあえる、か」

 

 人は馬鹿ではない。どんなに過去で間違ったとしても、いつかは過ちに気づきやり直そうとするのだ。それは醜いことではなく、素晴らしいことであると私は……私達はかつての戦いを通して学んだ。

 この世界で経験を活かせるかどうかはわからないが、忘れないよう胸に秘めていなければなるまい。

 

 

『――XよりTへ。進路上に敵影なし、順調に進めばサンジェゴ港前のゲートに到着する。連絡機の発艦用意を』

 

『わかった……引き続き警戒を頼む』

 

 速度を少々早め、発艦させた金鳶の1機に用意していた書面を括り付け、飛んで行く様を皆で見届けた。

 ――それから時間が経過し、重く閉ざされていた防壁は轟音を立ててゆっくりと彼女らを迎え入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……大統領閣下、例の通信の相手が約束通り現れました……海上を滑ってきたとのことです」

 

「――写真は?」

 

「ハッ、直ちに撮影しましたが、同時に書面が送られてきたそうです」

 

 報告書を受け取った米大統領……ロベルド・ダック・リーガンはまず、ゲート上から撮影された少女らの姿を確認し、言葉通りに滑走している様子を瞳におさめた。この時点では大した感想は持たなかったが次に、問題の送られてきたという書面に目を通した結果、彼は思わず報告書を床に力なく落としてしまっていた。

 

「――閣下ッ!?」

 

「……あ、いや、何でもない。手元が少し滑っただけだ」

 

 急いで拾い直し、同じページを改めてリーガンは自身に現実を認めさせるが如く黙読してみせる。だが、彼はまるで夢を見ているような気分であり、どう表現したら良いのかという気持ちだった。

 

 

 

『―――リーガン提督、貴方と会えて良かった』

 

『私もです、アドミラル・タカスギ。貴方と生涯の友として出会うことができて本当に良かった……』

 

「ああ……」

 

 

 蘇る遠き日の思い出。最初は敵同士として出会い、殺すか殺されるかの仲であったというのに彼らは奇跡の中で友となった。

 戦いが終わった後も交流は続けられ、未来に何を残すべきかを彼らは真剣に語り合う仲となっていた。

 

「これは、彼が繋いでくれた縁なのか……だとしたら私は!」

 

 胸に報告書を抱きしめて彼は崩れ去ると、小声で嗚咽を漏らしながらもはっきりとした指示を飛ばした。

 

 

「――入港の許可を。……そして、基地内に会談の場を設けろ。私が直々に彼女らと話すまで一切手を出すな、いいな!」

 

「……ハッ、そのように伝えます!」

 

 

 ――かくして、月虹艦隊の派遣部隊は米国に迎え入れられ、世界の命運を左右する重要な会合が始まろうとしていた。




つい友情出演させてしまいましたが、月虹艦隊に加えるつもりはありません。

まあ最終的にオペレーション・トモダチ(仮)でもやって再登場させる予定ですがね(

次回もお楽しみに。

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