紺碧の艦これ-因果戦線-   作:くりむぞー

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感謝ッ、圧倒的感謝ッ……!!(2周年記念ボイスに対して)


第11話 繋がれる手と手

 ―――桜の木々が花びらではなく、生い茂った新緑の葉を時折地に落とすようになった4月の中旬に差し掛かった頃、独特の臭気が漂う製油所地帯沿岸の海上では絶えず爆発音が鳴り響いていた。

 

「各艦、陣形を乱さず一気に突き進むわよっ!」

 

『了解っ!』

 

 士気高く航行する駆逐艦叢雲を旗艦に編成された第一遊撃部隊は、先の撤退を強いられた戦いの教訓を活かし、再配置されたと思われる前衛部隊との戦闘を極力避け尚且つ複縦陣を維持し続けていた。

 その甲斐あってか、敵水雷戦隊が放った砲撃や雷撃による被害は最小限にまで抑えられ、損害は皆無といっても過言ではなかった。

 

「――2時方向より、敵魚雷多数接近!」

 

「戦速最大、回避ィー!」

 

「……周辺警戒を怠らないで! ……次、10時方向から砲撃来るよっ!」

 

「――威嚇でもいいから撃って!」

 

 速度を上げて迫る魚雷をすれすれのところで避けたのも束の間、左前方にいた部隊からは連続して砲弾が飛来し、海面を何度も繰り返して叩いた。

 水飛沫が大量に飛び散る中、古鷹と最上が黙らせる目的でそれぞれ応戦するが、攻撃は全く収まる様子を見せなかった。

 

「……キリがねぇな、おい」

 

「前回来た時よりも深海棲艦の数が増えてますね……」

 

「まぁ、当然と言っちゃあ当然か」

 

 それだけ脅威であると認識されるようになったと受け止めながら、吹雪と天龍は追撃をしてくる後方の敵へ向けて一斉に酸素魚雷を放つ。

 きちんと撃破を確認した後に前を向くと、ちょうどそこは戦艦級が指揮を執る主力部隊と出くわした付近であった。

 ここまでの道程を考えれば、消耗した戦力は振り出し同然で取り戻されてしまっているのは明白であると言えた。もしくは、それ以上に強化されている可能性もあり得た。

 

「……さて、ノコノコとまた来てしまったわけだけれど」

 

 潮風になびく髪を掻き上げて叢雲は、再びやって来た戦場を前にして溜め息混じりに呟いた。

 前回の戦いに参加していた者もまた同様の思いであり、今度こそは撤退はせず勝利してやるという気持ちで溢れていた。

 

「反省点だった幾つかの事項はクリアされた。……あとは、どう倒すかよ」

 

「……正攻法で正面からぶつかれるよう訓練してきたつもりだけどよ、単純なやり方じゃ結局動きが読まれちまう」

 

「それに地の利については、向こう側が断然有利……となると、勝つためには―――」

 

 奇襲以外に方法はなかった。

 無論、彼女らは今後先の戦いでこういったケースが起こりうるとして、急ピッチではあるが訓練を重ねてきていた。

 叢雲はバランスを考えて部隊を二分し、その片方を天龍に任せる事を決定した。また、その随伴に重巡洋艦古鷹・最上の2名を付けた。

 

「天龍達は先行して連中を見つけ次第、優先して取り巻きの撃破をお願い。……あとは私達がやるわ」

 

「ヒット&ウェイってやつだね、わかったよ」

 

 装備の最終確認を手短に済ませ、いざ作戦開始をしようとしたところで攻撃ができないといったことにならぬよう、彼女達は互いに身を引き締めあった。

 そうして、天龍達は手筈通りに叢雲らとは別行動をとり、我先にとを戦艦ル級を旗艦とする敵主力部隊が待ち構えていると思われるポイントまで急行すると、特徴ある姿を捉えて先制攻撃を仕掛けにかかった。

 

「――おらおらァ、天龍様のお通りだァッッッ!!!」

 

「古鷹、突撃します!」

 

 14cm単装砲と20.3cm連装砲が一斉に火を噴き、戦闘態勢に移行していなかった駆逐ロ級4隻へと直撃する。

 硝煙が巻き起こり、近くにいた雷巡チ級と軽巡ヘ級がそれを見て襲撃を受けている事にようやく気づくが時既に遅く、飛び掛かった天龍が投擲した長刀がチ級の胸の中心を抉るように貫いていた。間髪入れずに口元に砲身を咥えさせる勢いで単装砲を突きつけると、刀を引き抜く際にゼロ距離で撃ってみせた。

 仮面には大きなヒビが入り、目元からは赤ではない血のようなものが流れていたが、彼女は躊躇うことなくもう一撃をお見舞いした。さらに横からもう1隻の手負いのチ級が迫るが、瀕死状態のチ級を投げて衝突させると……それが決定打になったのか、チ級は力なく崩れ泡となって海中へと消えていった。

 

「やばっ、ル級の注意がこっちに向いちゃった!」

 

「――残りはどうなってんだっ!?」

 

「へ級が2隻まだ残っているよ……でも片方はあと一撃加えれば倒せるまでは追い込んだ」

 

「……へっ十分だッ、二人ともタ級の奴に一撃かましたらずらかるぞッ!」

 

「「了解っ!!」」

 

 合図を受けて3名は、僚艦が失われたことで臨戦態勢となり活発に動き始めたタ級がいる方角へと進軍を行った。

 当然、先頭に立つ天龍にタ級の主砲の狙いが向けられるが、彼女は怖気づくことを知らず逆にスピードを早める。そのまま進めば、間違いなく追突するコースだった。タ級にはそれが命知らずの馬鹿による狂行であると映ったが、それは間違いであることを思い知らされるのは後のことであった。

 

「――各艦ッ、梯形陣に移行したのち、魚雷発射用意!」

 

「魚雷発射準備良しっ! ――急速離脱方向、最終確認……良し!」

 

「――撃てぇ!!!」

 

 攻撃が当たれば只では済まない距離まで接近した彼女達は、なんと単縦陣から梯形陣に陣形を変更しつつすれ違いざまに雷撃による攻撃を行ったのである。数こそ道中で少々消耗した関係で少なかったが、それでも最後にタ級の意識を雷撃にのみへ傾けさせることは成功し、御膳建てともいうべき場の構築には一役買った。

 ――その証拠に、魚雷を回避して油断していたと思われるタ級の背中に、口径の大きい砲身から放たれたとされる強烈な一撃が叩き込まれた。

 

 

 

「……貴女の相手は、この私だぁあああああ!!」

 

 

 

 タ級がダメージを受けた方向へ苦渋の表情のまま身体を傾け顔を向ける。……するとそこには、持ち前の高速力を活かし縦横無尽に海上を駆け抜ける一人の少女の姿があった。

 彼女は緑のチェック柄のスカートに巫女服という出で立ちで、4門の主砲が備わった艤装を背負っており、左右下に位置する砲身を旋回させてタ級を真っ直ぐに捕捉した。

 

「吹雪は手負いのヘ級を、私はもう一匹をやるわッ!」

 

「了解っ! ……『比叡』さん、お願いしますね!」

 

 護衛についていた吹雪と叢雲が、この期に及んで邪魔立てしようとする残存したヘ級2隻の排除を行うべく散開する。

 比叡は二人の勇姿を視界に収めながら前進し、正確なる射撃に努めるべく意識を研ぎ澄ませた。……途中、タ級による砲撃が飛んできたが、照準がダメージの影響で狂っている様子で避けるまでもなく、一度も掠りさえしなかった。

 

「――気合、入れて、行きますッッッ!!!」

 

 信念の籠った一撃が連続して撃たれ、その反動で彼女を爆風で包み上げる。セットされた髪は草原の草の穂がさざなみように揺れ、海は小規模ではあるが溝を見せた。

 硝煙が晴れていく中で比叡が垣間見たのは、タ級の持つ砲塔がだらしなくひしゃげ、もはや使い物にならなくなった姿であった。

 

「これで……」

 

「……終わりよ!」

 

 ヘ級を各個撃破し終えた二人が合流し、挟み撃ちにする形で最後の魚雷を止めに発射した。

 しかし、タ級はまだ力が残っていたようで、苦し紛れに呪詛めいた唸り声を上げて武器も持たずに比叡へと迫った。

 

「――比叡さん、危ない!」

 

「道連れにするつもり!?」

 

「……ッ!」

 

 慌てて駆けつけようとする吹雪達であったが、執念というものは恐ろしいものであり瞬く間にタ級は彼女の懐に飛び込める圏内に至る。

 比叡は咄嗟に身体を捻り避けようとしたが……その刹那、間には巨大な水柱がのぼり2名の姿を周りから隠した。

 

「あ、ああっ……」

 

 思わず吹雪は、最悪の事態を想定し愕然と膝を折り曲げる。叢雲も開いた口が塞がらずに、じっとその場に留まっていることしか出来なかった。魚雷でなく砲撃で撃破しようとすればこうなることは防げたかもしれないとただただ2人は後悔をした。

 ……が、駆逐艦らの懺悔とは裏腹に水柱の勢いは終息し始め、戦いの結果だけがそこに残った。

 

「ひ、ひえー! びしょ濡れだよこれぇぇぇー!」

 

「……!? ひ、比叡さん大丈夫ですかっ!?」

 

「負傷してない!? 何処か痛いところがあったら言って!」

 

 比叡は無事な姿で健在であったが、大量に海水を被った様子で身体を震わせていた。少々海水を飲んでしまったようでもあり、頻りに舌を出して顔を歪めていた。

 

「う、うん……私は大丈夫だよ。――ところで、タ級の方はどうなった?」

 

「あの状況で逃げられるとは考え難いし……多分今頃は海の底よ」

 

 逃げた姿はなかったことから一行は撃破には成功したものと結論付けた。念の為に残存する敵がまだ潜んでいないか確認を行うも、駆逐艦クラスの深海棲艦の1隻すら姿を現すようなことはなく終わった。

 後方に下がっていた天龍からも通信が入り、正式に付近から深海棲艦が撤退したことが認められた。

 

『――こちら天龍、悪いが拾いモンをしたんで先に帰るぜ』

 

「拾い物? ……ああ、はぐれの娘でもいたの?」

 

『そういうこった。ちなみに、駆逐艦のガキンチョが3隻もいる』

 

『……夕立、ガキンチョじゃないっぽーいっ!!』

 

『そうよ、レディに対して失礼よっ!』

 

『まあまあ、二人共落ち着いて……』

 

 三者三様の通信への割り込みが入り、何とも個性的な拾い物したものだと叢雲達は向かい合いながら苦笑いを浮かべあった。

 

「さーて、私達も帰投しましょうか」

 

 あまり多く群れると発見されやすくなることから、時間差をつけながら別コースにて鎮守府で合流することを約束すると彼女達は、いつの間にか昇っていた夕陽をバックに元来た航路上を進んでいった。

 ……真下に潜む者をその目で見届けることがないまま。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――そして、日が暮れ月が夜空を照らし始めた頃、南西ではなく北にある某所ではというと初老の眼鏡を掛けた男性とその秘書である黒い長髪の女性が和室にて、若い少女ら3名と邂逅を果たしていた。

 

「――海軍情報部の杉下です。此方が補佐の……」

 

「……同じく、情報部の社と申します。宜しくお願い致します」

 

 深々と頭を下げた2名は、机を挟んで座っている少女達……響、雪風、鳳翔らに対し、早速ではあるも話の要旨について単刀直入に述べた。

 

「さて、貴女方の連絡を受けてこうして伺ったわけではありますが、その前に一つ約束をしていただきたいことが」

 

「……此処で知り得たことは、他言無用ということですね」

 

「ええ、理解がお早いようで何よりです。その一点さえ守っていただければ、出来うる限りのご質問にはお答えするつもりです」

 

「わかりました。知り得たことは私達だけの胸に留めておくことにします」

 

 鳳翔が代表に立ち、条件を飲む姿勢を見せると満足気に微笑んだ杉下は、場を設ける上で事前に質問を受けていた内容についてまずは切り出した。

 

「ご連絡があった際の、『保護されている艦娘への海軍の認識、またはその処遇』『在籍している現在の艦娘の名称』についてですが、それぞれお答えします。……社君」

 

「はい。第一に海軍の艦娘に対する認識ですが、総じて『平行世界において第二次世界大戦を経験した艦艇の転生体』であるとしています。また、処遇についてですが客将と同列に考え、深海棲艦との戦いへの参加を要請しております」

 

「……艦娘が参加を拒否した場合はどうなさるのですか?」

 

「そのような場合は、監視対象となることは免れませんが後方支援に徹して頂く形で身の安全を確保しております。此処で言う、後方支援とは前線で戦う艦娘達が消費する防護礼装……簡単にいえば貴女方が今着ているものを調達するといった仕事のことを言います」

 

「換えがなければ彼女達はずっと同じ服装を着て戦うことになりますからね。穴だらけになった服を何時迄も使わせていては失礼です。ですから、礼装などに詳しい業者の方に協力して頂いているんですよ、はい」

 

「では、次に在籍している艦娘の一覧についてですが現在も更新し続けている為にこれが最新のものというわけではありません。そのことをご承知の上でご覧ください」

 

 社から革表紙のファイルが差し出され、3人はそれを受け取ると身を寄せ合って中身を確認し始めた。 その中で特に目を引いたのは、響と全く同一の服装に身を包んでおり、見開きの最初のページに5人纏まって並んでいる少女……暁型4番艦の電であった。

 

「やっぱりこの子は……電だったのか……」

 

「どうやら貴女と関わり合いのある少女のようですね。……実は彼女は、海軍が艦娘の存在を認知するに至った際に確認された5名の艦娘の中の一人でして、現在のように体制が整うまでの間は非常によく協力してくれました」

 

「具体的には彼女達が用いる艤装と呼ばれる装備についての研究依頼です。調査により通常の人間では扱うことが出来ないものであると既に結論付けられました。よって、必要数以上量産され使われるようなことはありません」

 

「何らかの方法で悪用されるという可能性はないのですか?」

 

「悪用しようにも、量産と管理は人ではなく妖精の手によって基本行われています。万が一、悪用するためだけに量産が強要されるようなことがあれば、妖精達には身の安全を優先するように徹底しています」

 

 即ち、何をしようにも人間は艦娘や妖精に対して頭を下げなければならないということであった。その事実から、艦娘の生活の保障は確立されていると確かな実感を持った3人は、追加で更なる問いかけを行った。

 

「―――深海棲艦について、何か掴めているのですか」

 

「何かとは正体のことについてだと認識致しますが……そうですね、実のところまだアレの正体は掴めてはおりません。捕獲もままならずな状況です。しかし……」

 

「一部の見解では、深海棲艦は呪いや負の感情が何らかの形であのように具現化したと考えています。言わばオカルト、超常現象といった方がいいでしょう」

 

 オカルトに並みの科学は通用しないと言い切り、杉下は出されていたお茶を啜ると湯のみを手に持ちながら詫びるようにこうも告げた。

 

「……本来ならば人類の叡智を結集して事にあたるべきなのでしょうが、各国共に御存知の通り隔絶されてしまっています。これでは今ある科学を更に発展させようにも、知識は愚か資源も足りません。お恥ずかしい限りですが人類は今、艦娘の皆さんに縋る以外残されていないのです」

 

「我々とて何も積極的に深海棲艦と戦いたいわけではありません。和平の道があるならそれを模索しますし、人類に原因があるならば改善する努力もします」

 

 一刻も早い戦いの終局を願う思いに嘘偽りはなかった。それだけを彼らは知って欲しいと願った。

 

「貴女方が戦いたくないのなら、今の生活を維持できるように取り計らいます。……ですが、これだけは忘れないでいただきたい。――平和は決して、歩いてやってきては来ないのです」

 

 そう締め括り、杉下はこれ以上は何も言うまいと重く口を閉ざし瞳を彼方へと移した。

 暫しの間、何も言い難い雰囲気が流れるがその静寂を黙って聞いていた響が破った。

 

「……もし、戦いに参加したいと言った場合は?」

 

「響さん……?」

 

 雪風が不安気な顔をして彼女の様子を窺うが、当の響は手で大丈夫だと制して言葉を続けた。

 

「電は私の姉妹艦……大切な妹だ。そんな彼女が、いつ沈むともわからない恐怖と戦いながら誰かを守ろうとしているんだ。それを新聞越しで眺めていることしか出来ないなんて、他の誰かが許しても私自身が認めない」

 

「……でも、それは今の安全な暮らしと決別するということです。良いのですか貴女は」

 

「そんな物は平和を勝ち取った後にだって手に入れられるものだ。確かに、女将さん達にはお世話になった。……けれど、今の平和はいつまで続くかわからない……いや、もう後がない偽りの平和だ」

 

 そんな平和を偽りでなく本物にしたいと響は、心からの思いをその場にいる皆に対して吐露した。

 

「電もそれをわかっているからこそ戦っているんだと思う。……だったら、私はそれを成そうとする彼女を命懸けで守る―――かつてと同じ運命なんて辿らせないよう、今度こそ絶対に」

 

 決意は揺るぎないものであった。

 鳳翔らは響の告白を聞いて困惑のあまり心が揺らいだ。だが、それを遮るように彼女は続ける。

 

「……これは私の独断であって2人は関係ない。大本営には、私だけが参加したいという旨を伝えてほしい」

 

「待って下さい響さん、私達だって―――」

 

「私達だって……何だい? 空気にのせられて勢いで言っているのなら止めてほしい」

 

「そ、それは……」

 

 いつもの響とは考えられない眼光に射抜かれ、雪風だけでなく鳳翔は何も言えず押し黙るしかなかった。

 

「……雪風、君は戦いに参加したところでそもそも覚悟はできているのか」

 

「覚悟、ですか?」

 

「そうだ、君は幸運艦として名高い反面『死神』だとも蔑まれていたはずだ。もしかすると、それを快く思わない子に何か言われるかもしれない」

 

「………」

 

「私はそうは思っていないし、君を差別するような真似をするつもりはない。だけど、君はもしそうなった時に耐え切れるのか? 耐え切れないと言うのならこの場に留まっていたほうが懸命だと思う。鳳翔さんも―――」

 

「……言いたいことはわかります。ですが、私自身はもう心の準備は出来ています」

 

 女将より将来的な話を打診されていた鳳翔は、響が気にかけるよりも以前に話に区切りをつけていた。別に夢を諦めたわけではなく、先延ばしにしてもらったわけであるのだが。

 

「私も……守りたいのです。このリストには載っていなくとも、いつか現れるかもしれないあの子達を……」

 

「わ、私だって何を言われようが戦うつもりです。――でなきゃ、そもそも此処にいないですっ!!」

 

 鼻息を荒くして唸る雪風の顔は真剣そのものであった。瞳の奥には見届けてきた仲間の死が強く焼き付いていると言わんばかりに。

 3名が纏まった意志を見せた所で、杉下は再び目を見開いてパチンと手を鳴らした。

 

「―――正式な手続きは、横須賀鎮守府にて行いましょう。……ああ、そうそう。その際にお願いしたいことはとにかく言っておいたほうが得です、例えば―――資格や免許を持ちたいだとか、お店を出したいとかね」

 

 ウインクを投げて微笑んだ彼に釣られ、女性達は笑顔を見せると固く手を握り合った。

 ――なお、アドバイス通りに鳳翔は大本営に対し交渉を行い、士気を保つ為の憩いの場を施設内に設けるように取り付ける事に成功した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――更に海を超えたある場所では嵐の雷鳴にさらされる中で、清楚な身なりをした一人の男が土砂降りの雨に濡れる窓を見つめて佇んでいた。

 その背後にはもう一人の男が立っており、腕には分厚い報告書を携えていた。

 

「……謎の電文には、日本政府の動向が記されていたか」

 

「はい、近いうちに直接会いたいとも送ってきましたが、この状況下では不可能のように思えます」

 

「しかし、現にこうして不可能を可能にしている事態が起こっているとなると……何かが起こる気がしてならんな。――返信は行ったのか?」

 

「いえ、まだです。閣下の指示を待って行うつもりですが……」

 

 男は顎に手をおいて一頻り唸った後、考えをまとめ上げるともう一度雷鳴が部屋を照らした際に指示を手短に伝えた。

 

「試しにサンジェゴの港に来れるかと伝えてみろ。……無論、警戒態勢は怠るな」

 

「――ハッ!」

 

 敬礼を行った男は急いで退室して行き、室内に残った男は今の己の行った指示がどう転ぶことになるのかを孤独の中憂いた。

 

 

 

 

「アドミラル・タカスギ……私は、我が国はどうすれば良いのだ」




睦月「私がどうなったっていい、世界がどうなったていい!――でも、如月ちゃんだけは絶対に守ってみせるッッッ!!!」

改 二 実 装 (スパロボ的カットイン)

という夢を見たんだ。(フラグ)



次回もよろしくお願いします。

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