紺碧の艦これ-因果戦線-   作:くりむぞー

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アニメの艦隊これくしょん3話の万歳エディションで、出てきた高杉提督から一気に紺碧の艦隊にのめり込んでしまった上に、ついカッとなって書き上げてしまいました。

地道に書き上げていきたいと思います。


第0話 戦友との再会

深く澄んだ青い空を駆けていく姿は、まるで自由を得た鳥のようだった。

 

――何処か懐かしい光景が過ぎては去り、傷をつけるが如く“私”の体に熱い何かを刻みつけていた。痛いはずであるのに、心地良く感じるのは何故だろうか……それは悪意を感じないからに他ならなかった。

 感じるのは直向な思いと苦悩であり、その根底には「二度とあのような悲劇を繰り返してはならない」という言葉が確かに存在していた。

 

 ……そうだ、“私”に刻まれているのは他でもない漢達の苦難とも言える日々の記憶だった。記憶の中にある彼らは軍人であったが、ただ与えられた命令に従い任務をこなすような軍人ではなかった。一人ひとりが共通の問題に対して分け隔てなく真剣に悩み、最善の選択をしようと取り組んでいたのだ。

 当初は何故、彼らがそこまでしているのか“私”にはわからなかった。だが、戦いを経験するうちに理解してしまった。

 

 

 ―――漢達は、「負けを経験している」のだと……

 

 

 その原理や理屈は知る由もないが、とてつもなく悲劇的な敗北を経験してしまったのだと“私”は深々と悟った。同時に敗北による被害を最小限に止めようとしていることも悟ってしまった。

 だから、全身全霊をかけて彼らに尽くした。幾度と無く傷ついても共に戦い続けた。頼れる仲間も沢山いた。故に辛くはなく、後悔もなかった。

 

 そして、時間は大きく流れ……ついに老兵となった“私”にも役目を終える時が来た。

 出来ることならばもっと活躍をしたかったが、やはり時代の波というものには流石に勝つことはできなかったようだ。この先の未来がどうなるのか気がかりでしょうがないのだが、老兵は黙って去りゆくのみという言葉もある。何時迄も存命では次の世代に迷惑をかけてしまうことだろう。よって、“私”はその生涯を終えることを受け入れた。

 ……きっと、漢達が作り上げた恒久平和の世界がずっとこの先も続くことを信じて。

 

 やがて、何かに吸い寄せられる感覚が“私”を襲った。……恐らくこの魂が、あの世とやらへと旅たとうとしているのだろう。特に抵抗することもなく“私”はその流れに身を任せた。

 ……はてさて、行き先は天国か地獄かどちらになるだろうか。そんな思いを胸に飛び立つと―――一条の光が“私”を包み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……慣れない未知の感覚が全身を支配している。眩い光が全身を包み込んだ後、複数の異常が私を一気に襲った。

 一体これは何だ。“私”は「倒れている」のか?……いや、それ以前にこの「冷たい」という感覚は何だ?自らが発しているようにも思えるこの「熱」は何だ?周辺を漂う鉄と油の「臭い」は何だ?どうしてこんなにも「苦しい」のだ?

 理解不能。わからない、何が起きているのかわからない。混乱が己の「頭」を駆け巡る。そんななか、「熱」を持った何かが私に「触れてきた」。

 

「―――ッ!?」

 

 いきなり触れられたことに驚き、小さく声が漏れる。それは明らかに自分から発せられた音……否、音ではなく声であった。まるで「人間」の声のようである。それも男ではなく女のような高い音だった。

 未だに自分の置かれている状況がわからないが、理解する必要性があると私は思考した。そうして、とりあえずは「視界」を何とかしなければならないと判断を下した。

 感覚を徐々に慣らしていき、「視界」を得るために力を注ぎこむ。すると、薄っすらと暗闇の世界がぼやけた色合いの世界へと変貌していき、力を全て出し切ると……そこには私の事を覗きこむ二人の少女の姿があった。一人は緑色の髪で左側で長い髪を縛っており、もう一人は水色の髪で肩までの長さを持ちつつ、活発そうな癖っ毛がついていた。・・・二人とも、上はセーラー服で下は何だろうか、水着なのか?

 

「――あっ、気が付きましたか?」

 

「あ、ああ……」

 

 疑問を他所に緑髪の少女が私に向けて話しかけてきた。反射的に返事をするも、こうして会話が出来ている事が驚きである。―――何故なら、私は喋ることすら出来ない存在だったはずなのだから。もっと、はっきり言えば私は“兵器”だった。……そう、生物ではない物言わぬ鉄の塊だったはずなのだ。

 けれども、こうして自らの意志で少女と問いに対して反応が出来ているということは、つまり、生物となっているということなのだろうか。恐らくは人間に近い存在になっているのだと、段々と落ち着いてきた頭が状況を少しばかり整理した上で仮定した。ならば、話し合いによる意思疎通は可能、一先ず現状把握が最優先事項である。そこで身を軽く起こしてみて一つ問いかけてみた。

 

「……ここは一体?」

 

「えーっと、ここは建造ドックですね」

 

 建造……ドックだと?……いやいや、建造ドックっていうのはもっとこう大きくて、ゴチャゴチャしているはずなんだが、何を言っているんだろうか。どう考えても狭すぎてドックとは言いがたく、まるで小さな工場の作業場だ。

 冗談を言うならもっとマシなことを言えと思わず口を開きかける。しかし、自らが横たわっていた場所をよく観察してみてから気付いた。小さな玩具のようなクレーンが私を見下ろすようにして設置されていたのである。配置からしてまるで、私をあたかも建造したかのように感じさせる。だとしたら何なんだ、この少女達が私を建造したことになるのか?……一体何者なんだ?

 警戒した視線を向けつつも再度質問をぶつけた。

 

「……では、君たちは一体誰なんだ?」

 

「……あっ、はい!私は特潜の伊601の富嶽号と言います!こっちが、伊501の水神号です。お見知り置きを」

 

 

 特潜伊601に、伊501……聞き覚えのあるような気がする。いや、気がするのではない……一度この目で目にしたことがあるはずだ。そもそも、潜水艦といえば……まさか―――

 

「X艦隊―――紺碧艦隊か君達は!?」

 

「それは機密故に申し上げることは出来ません―――と言いたいところですけど、まあそうっすね」

 

 水色の、伊501だと紹介された少女はそう肯定するとニカッと笑みを浮かべた。

 ……そもそも、紺碧艦隊とはなんぞやという話であるが、簡潔に述べるのならば日本海軍が誇る秘匿潜水艦隊である。X艦隊とも呼ばれ、得体の知れない潜水艦隊として特に恐れられていたと記憶している。味方である日本海軍内でも最重要機密として扱われ、目撃したとしても記憶から忘却しろと徹底されたりしていた。

 そんな部隊に属していた潜水艦が、目の前にいる少女達の姿になっていることに驚きを隠せないが、それよりも気になるのは私自身の今の姿であった。

 起き上がりつつ、 鏡がないか無理を承知で尋ねてみると、前もって準備していたかのように全身を見ることが可能な大きな鏡が目の前に設置された。すぐさま、かじり付くようにして私はその前に立ち、まじまじと覗き込んだ。

 

「えっ……」

 

 ―――そこには、黒髪をほんの少し脱色したぐらいの濃さの灰色……言い換えるならば鼠色というべき髪色をした高身長の少女が、右側だけ異様に髪を伸ばした上で三つ編みにしてまとめていた。その先には濃い緑のリボンが付いており、ちょっとしたお洒落になっていた。

 次に、服装を見てみると、弓道着とも巫女服とも見て取れる服が一番に目に入った。色は黒一色であり、左肩から胸にかけて変わった胸当てが付けられていた。光のあたり具合から黒に近い紫であり、ちょうど胸がある部分に菊の紋章が刻まれているのが目についた。

 また、下の服装はリボンよりも更に濃い緑色をした袴であり、太ももの半分ほどの長さしかなかった。更にその下には、少し肌を露出させた後にすっぽりと脚を覆い尽くすある種の鎧にも似たものが装着されていた。

 

「これが、私……」

 

「まあ、最初は違和感覚えるでしょうけれど、すぐに慣れますって。私達もそうでしたし」

 

「では、君達もこの建造ドックで目覚めたのか……?」

 

「……あー、いえ、実を言うと違うんですよね~。気がついたら海に浮かんでいたというか漂っていたというか何というか……」

 

 とにかく気がつけば海のど真ん中にいたということらしい。幸いにも同類がすぐ近くで同じ目にあっていたらしいので、協力して最寄りの島へと避難したということだ。ということは、ここは島であり、その島に建設された建造ドックということだろうか。

 

「ちなみに、今はちょっと出かけていますけど、伊502の快竜ちゃん、伊503の爽海ちゃん、伊701の乙姫ちゃん、伊3001の亀天さんもいますよ」

 

「……なるほど」

 

 その後も情報交換をしていく中で、段々と私がここにいる経緯が鮮明になっていった。

 順を追って説明していくと、つまりはこういうことである。伊601を始めとしたかつての紺碧艦隊の面々は気が付けば同じ海を漂っていた。私と同じように混乱はしたが、流石は旗艦を務めた伊601と伊3001であり、瞬時に近くの島へと避難することを提案し、そこで具体的な話をしようということになったという。そして、一通り安全を確保し、自分達以外に島にはいないことを理解すると、食料確保や島の探索など役割を決めてサバイバル生活をしていく運びになった。

 それから暫くして、サバイバル生活に慣れてきた頃、事態は急変した。自分達以外の存在、しかも外敵が確認されたのである。 危険を承知で情報収集に乗り出してみると、それらは『深海棲艦』と呼ばれる存在であり、制海権をほぼ手中に収めている危険極まりない連中だということがわかった。人間は奮戦したようだが刃が立たず、自国を守ることに精一杯であるらしい。もっとも、そのまもりが崩れ去るのも時間の問題なのだとか。この時点で、かつて大戦で駆け抜けた世界の海ではないことが明らかとなったという。

 そこで、紺碧艦隊の彼女達は自警団なるものを結成し、戦う術を磨くことに着手した。

 

「しかし、一概に戦うと言っても武器はどうしたんだ。話を聞く限りでは通常の兵器は通用しないということだが」

 

「それは、妖精さんたちのお陰っすよ」

 

「妖精、……さん?」

 

 何でも自警団を結成した直後に接触してきた小さな生物らしい。試しにどのような姿をしているのか聞くと、近くにいたという妖精を伊501が呼び寄せ、掌へと乗せこちらに見せた。確かに小さく、それでいて可愛らしいが、見かけによらず何処か頼もしいさを感じさせた。

 

「妖精さんたちのお陰で、魚雷みたいな装備や簡単な施設が作れるようになったんです。この建造ドックもその一つです」

 

「大体分かった。妖精さんによって作られた建造ドックで、こうして私が目覚めたということは―――私は『建造された』のか」

 

 あの吸い寄せられるような感覚は呼び寄せられている感覚だったということか。何となくだが読めてきた。

 

「はい、その通りです。妖精さんに指定されて集めた資源を投入した結果、貴女が『建造されました』」

 

「……深海棲艦に対抗するためか」

 

 コクリと彼女達は頷いて言った。どうやらこの世の中には、無敵の強さを誇っていた彼女達だけでは対抗しきれない敵が連中にはいるようだ。懸命な判断だ、この状況での戦力増強は正しいと言える。もっとも、私だけでは不十分であるが、そんなものは今後どうにでもなるだろう。

 

「―――では、君達は私に何を求める?」

 

「貴女には……我々、紺碧艦隊の指揮をお願いしたい」

 

「……理由を聞こうか」

 

 私としては引き続き、伊601や伊3001の指揮の下、行動することもアリだと考えていたのだが、そういうわけにも行かないらしい。ようは、対外的な問題があるようだ。

 現状は自給自足の立場であるとはいえ、将来的にはこの世界の海軍に接触し満足の行く補給が受けれるようにすることを彼女達は計画していた。

 しかし、その為には交渉役が必要になる。容姿的には伊3001は条件を満たしているそうだが、紺碧艦隊としては貴重な戦力を削いでしまうリスクがある。よって、『潜水艦』ではない容姿的にクリアしている私を表向きの指揮官として据えたいということだ。

 

「『貴女』だからこそ、お願いしています」

 

「……わかった、いいだろう。期待に添えるように心がけるとしよう」

 

 友好の印として手を差し伸ばし、二人と固く握手を私は交わした。

 そして、姿勢を正し敬礼を行い、力強い声で名乗り挙げた。

 

 

 

 

 

「戦略空母、建御雷(たけみかづち)。これより、艦隊の指揮を執る――――宜しく頼む」

 

「「よろしくお願いします!!」」

 

 

 

 

 こうして、とある孤島に空母が潜水艦隊の指揮を執るという奇妙な部隊が設立された。

 時は、皇紀2673年……平正(へいせい)という元号を持つ世界の25年目の1月のことであった。




頑張って続きを書きたいです。

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