「陸軍士官学校を次席で卒業……それも、主席と僅差か」
「優秀だな、笹津中尉」
「父親譲り、と言うべきか、いや何、玄二中将には色々とお世話になった時代があったからな」
「しかし、何故陸軍士官学校なのだ? 君なら、海軍に進むとばかり思っていたが……」
「………いや、何、別に他意は無い」
「君は優秀だ、行く行くは私の後釜に就くかもしれん」
「連隊の幹部としての将来を希望しているんだ」
「………ふふっ、そうかね」
「考課表通りだな、君は」
「成績優秀・品行方正、だが………」
「いや、今はよそう」
「兎に角、今は体を休めると良い、明日には配属先が届けられる予定だ、どんな場所になるにしろ体力は使うだろう」
「休める時に休め、でないと」
コンコンと、ノックの音が執務室に響いた。
資料を読んでいた顔を上げて、「どうぞ」と声を掛ける。
扉を開いて入室してきのは、ハク。
「失礼します」と一声掛け入ってきた彼女の手には、お茶が。
「お、お代わりを持って来ました」
「あぁ、すまない」
資料を読み始めてから一時間弱。
何となくだが、ぼんやりと現状が把握出来た。
微温くなったお茶を飲み干し、新しいお茶と取り替えてもらう。
どうも、この基地にはある程度の資材等が揃っているらしい。
補給も今の所問題ない、戦力も十分とは言い難いが、この基地だけで四人の戦車が居る。
……どうも、居ると言う表現が正しいかは分からない。
正確には「ある」なのだろうが、彼女たちをモノ扱いするのは、何となく気が引けた。
ふと、ハクに視線をやると、一瞬、肩をびくりと震わせてから、下手くそな笑みを浮かべる。
それが、何とも人間臭くて、モノ扱いなど出来そうにない。
「この基地には、ある程度資材が揃っているな」
資料を指で叩きながら、そう話しかけると、ハクはおっかなびっくりしながら頷いた。
「あ、えっと、はい、そういうのは、 トクちゃんが、その、管理していまして」
「トクと言うのは、ハクと同じ……」
「は、はい、特三式内火艇、トクちゃん、です」
「ふむ……そうか」
もっと詳しい状況を知るためには、そのトクちゃんとか言う彼女とも色々話さねければならないだろう。
現場の状況と、紙面上の状況では重みが違う。
そう考え込んでいると、ハクが震える声で「あ、あの、笹津大尉」と呼び掛けてきた。
「ん、何だ、ハク」
「え、あ、と、そ、その」
ぐっと、手を握ったり、唇を開いたり、閉じたり。
そんな動作を何度か繰り返した後、ゆっくりと彼女は言葉を紡いだ。
「そ、そろそろ、み、皆に、着任の、あ、挨拶、を、と……」
そう言われて、そういえばと思い出した。
着任した後は、必要な人間に挨拶して回らなければならない。
ハクが言っている皆、とは恐らく『戦車』の事。
ハクを入れた四人に着任の挨拶が、一番最初の仕事だろう、窓の外を見れば空は紅く染まっている。
丁度良い時間だ。
「そうだな、そう言えば、そんな事もあったな、じゃあ、早速そうしよう」
そう言うと、ハクはどこか呆然とした様な、驚いた様な表情をした。
その事に疑問符を浮かべるも、皆を招集して貰って良いかと聞けば、満面の笑みで「は、はい!」と力強く返事を返した。
その勢いに、何となくこちらが驚く。
足取り軽く部屋を後にするハクにを呆然と見送りながら、突然どうしたんだと首を捻った。
そうして、五分もしない内に、執務室にこの相楽基地の戦車全員が揃う事になる。
そこで私は後悔した。
基地の現状把握よりも、こいつ等、戦車の事について、資料を先に読んでおくべきだったと。
一時間後か、二時間後にまた投下します。
学校無くて書く時間がいっぱいなので、一杯書きたいです。