内部は外見よりも新しく見えた。
どうも、内装だけ見れば内陸の基地とも左程変わりはない。
あちこちに視線をやりながら歩くと、二階の東側端に『執務室』と書かれた部屋があった。
ハクが「ここです」と、どこかギコチナイ笑みを浮かべる。
襟元を正し、ドアノブに手をかける。
そこを開くと、実に簡素な部屋が目の前に広がった。
来客用のソファだろう、それが二つ向き合うように設置され、中央に硝子テーブル、それを超えた場所に木製のデスクと椅子。
目につくものは、それだけ。
デスクも椅子も、あまり良いものでは無いのだろう、どこか年季を感じさせるものだ。
だが、まぁ、こんなものだろうと納得。
作業できる椅子と机さえあれば、仕事は出来る。
もとより、こんなところに長居する気は無いのだから。
「え、えっと、その…あ、あの」
そう考えてから、傍に立ったまま動かないハクの様子がどこかおかしい事に気付く。
俯いたまま、じっとりと額に汗を滲ませ、青い顔をしているのだ。
心なしか、体は震えている。
「も、モノ、少ないです、よね、え、へへ…す、すみません、い、一応お掃除は、頑張った…んです、けど」
疑問符を頭に浮かべる。
目の前のハクは、どこか、怯えている様にも見えた。
「どうした?」
「ひぁ!」
一歩詰め寄ると、ハクが飛び上がって、顔面から血の気がさった失せた様に見えた。
一体何だと思うが、それ以降、ハクは縮こまる様に体を小さくし、俯く。
一言も話さない。
疑問符を浮かべながら、部屋にさっさと入室し、少ない手荷物-ほんの、手提げバッグ一つ分-をデスクに乗せ、部屋を見渡した。
調度品は年季物ばかりだが、掃除は行き届いている様だった。
窓枠に指を滑らせると、埃も付着していない。
実に清潔だ、衛生管理は問題ない。
「掃除は頑張った、と言ったな」
「っ!…は、はい……」
「良い仕事だ、感謝する」
「え?」
感謝を告げた後は、早速仕事に取り掛かろう。
早急に内陸に復帰し、上を目指さなければならないのだから。
最初は連隊にでも所属して、隊内選抜で本部附きの幹部を狙うのが妥当だろう。
そう決め、早速渡された資料をデスクに広げた。
椅子に腰かけ、調子を確かめる。
うん、年季はあるが、中々どうして、座り心地は良い。
こういう椅子に座ると、指を組んで口元を隠したくなる。
「済まないが、茶を頼めるか、あればで構わない、前線の事情をすべて把握している訳では無いのでな」
「あ、え、その、りょ、了解しました…」
「頼んだ」
その後、資料に目を向ける。
さて、先ずは基地の現状把握から始めよう。
視界の端で、どこか挙動不審なハクが部屋を後にしていくのを見送った。
「……笹津、大尉」
「怒らなかった」
「…部屋、見ても、怒鳴らない」
「………殴らなかった」
「………」
「………」
感想、お待ちしています。
……お待ちしています。(切実