戦車これくしょん~欠陥品の少女達~   作:トクサン

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 初投稿となります。
艦これの動画を見ていたら、無性に書きたくなり、勢いのまま書きました。

 感想頂けると、幸いです。


本編
新天地


 

 順風満帆な人生の筈だった。

 

 

 

「中尉、君の配属先が決まった、君には将軍として働いてもらう、配属先は零二番地区、旧北海道だ」

 

 

 

 

 

 

 

 何故こんな事に。

そう考えるのは、これで何度目の事か。

護送車両に揺られながら、早数時間、道なき道とも言える様な場所を何時間も掛けて走り続けている。

武骨なシートは衝撃吸収材などと言う便利なモノを持っているハズもなく、ダイレクトに揺れを尻に届けていた。

お蔭で、すでに皮の一枚はやられている自信がある。

舗装されていない砂利道は、この地が戦地である事をしめしていた。

目を向ければ、鉄鋼柵の向こうに砲撃痕や銃弾の弾痕が残っている。

 

 零二番地区、十数年前までは「北海道」と呼ばれていた地。

 

 既に『連中』の進軍を内陸まで許してしまった日本軍が、零二番地区を手放して一年近くが経過している。

それでも何とか零二番地区で進軍を抑えられているのは、理由がある。

連中が元々海に特化した存在だったのが幸いだったのだろう。

上陸した連中の展開は、あまり早いとは言えなかった。

その間に、陸軍を掻き集められるだけ集めて、迎撃作戦を敢行、勝利を捥ぎ取ったのが十一か月と半月前。

それ以降、連中とは膠着状態が続いている。

 

 つまりは、そう、最前線と言う事だ。

 

「…くそっ」

 

 どうしてこんな事になったのか。

 

 悪態を吐く他、無かった。

 

 

 

 

 

 

 

「……中、いえ失礼、昇進して今は大尉でしたね、大尉殿、ここが零二番地区に存在する基地のひとつ、相楽基地です」

 

「………」

 

 護送車に揺られて六時間。

漸く到着した基地は、想像していたよりは、マシであった。

前線の悲惨さは自分とて理解しているつもりだった、いつ砲弾が飛んでくるかも分からない状況、衛生管理等の手は二の次だと。

てっきり、どこかの廃墟、若しくは負傷兵で埋め尽くされた場所に連れていかれるのかと覚悟していたが。

見る限り、多少老朽化は目立つものの、マシ、と言える程度の外見と規模を誇った基地だった。

 

「この相楽基地はまだ前線の中でも後衛に位置する基地でして、最前線の神田基地、達子基地に比べれば損傷もソレ程酷くありません」

 

 そうなのか、その言葉を飲み込んで頷く。

この基地に赴任した事は悪ではあるが、最悪では無いらしい。

「後は用意されている資料をご覧ください」そう言って、護送車の運転手兼監視役はさっさと航空基地に去って行った。

護送車が排気する灰色のガスを見送りながら、溜息。

何とも、薄情なものである。

そう思うが、所詮前線に飛ばされる尉官に抱く感情など、そう多くは無いかと笑った。

 

 周囲を見渡すと、高い防壁に鉄格子、配置された連射砲台、小型のレーダー。

どれもこれも、旧世代の兵器であり、通常兵器。

埃を被っていそうな様子に、再度溜息が漏れた。

 

「新しい将軍、ですか?」

 

 そう声が聞こえて、振り向く。

そこには、何とも、周りの風景と馴染まない様な奴が居た。

女だ、それも、中々に高水準の。

どこか気弱そうな感じの、華奢な女。

軍には、慰安婦と言う存在があり、もしや、その類かと一瞬思った。

過去慰安婦問題でその辺りの規制は厳しくなったが、前線では倫理も法もクソくらえだろう。

故に、そう考えた訳だが、次に発せられた言葉で彼女が慰安婦では無いと分かった。

 

「あ、あの、副官に任命されました、『ハク』です、宜しくお願いします!」

 

 そう言って、勢いよく頭を下げる彼女。

短い短髪に、おかっぱ…に近いぱっつん髪。

体は小柄で、じっと見れば中学生辺りに見えなくもない。

 

 こんな女が、副官?

 

 呆然とした。

最早前線は、こうも人材不足が深刻化しているのかと。

 

「え、えっと、正式名称は八九式です」

 

 八九式?

 その言葉を耳にし、待てよと、ストップを掛ける。

 

「まさか…お前、例の」

 

「あ、あの、はい、わ、私は陸から進行してくる《陸上懴車》を迎撃する為に生まれた、せ、戦車です」

 

 あぁ、成程と、理解した。

それと同時に、本当に実在したのかとも。

 

 深海棲艦と呼ばれる存在が現れてから、同時に艦娘と呼ばれる存在も現れた。

それが、数年前。

激しい攻防の末、我々人類は敗北し、制海権は連中の手に渡った。

戦闘に於いて、艦娘は全滅、生き残りは居ないと聞いている。

その頃私はまだ陸軍の士官学校に在籍していたので、詳しくは知らない、恐らく聞いても守秘義務を理由に断られただろう。

結果、連中は陸に侵攻して来た訳だが。

その時に、また同じように連中に対抗出来る存在が生まれた。

 

 それが、こいつ等。

 

 全くもって、こいつ等が現れるまでの数週間、必死の思いで戦った陸軍の連中に敬意を送りたい。

通常兵器でよくぞ持ちこたえたと。

しかし、こんな女が基地に居る理由も分かった。

つまりは、こいつ等が此処の主力と言う訳だ。

 

 となれば、第一印象は良いに越したことはない。

軍帽を深く被り直し、直立不動の敬礼。

それを見たハクが、慌てて返礼した。

 

「俺は笹津将臣(ささつまさおみ)大尉だ、将軍と呼ぶのはやめろ、俺は尉官であって、将官どころか佐官ですらない」

 

 そう言うと、ハクは恐る恐ると言った風に片手を上げた。

 

「え、えと、では何とお呼びすれば…?」

 

「大尉でも、笹津さんでも、何でも良い、将軍で無ければ特に拘らない」

 

「えっと、りょ、了解しました、さ、笹津大尉」

 

「…まぁ、何でも良い」

 

 言ってから、私の部屋に案内を頼む。

元よりそのつもりだったらしく、ハクの後に続いて基地の建物に足を踏み入れた。

 


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