戦車これくしょん~欠陥品の少女達~   作:トクサン

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障害

 

 

 

「おっそーいッ! 私が一番速いんだからッ!」

 

「やったぁ! 夜戦だぁ! 夜戦ッ、夜戦ッ!」

 

「私が居ないと全然駄目ね! もーっと私を頼って良いんだから!」

 

「砲雷撃戦? なら任せない! 勝利が私を呼んでいるわッ!」

 

「鎧袖一触よ、一航戦の誇りを見せてあげる」

 

「ビックセブンの力、侮るなよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふーん! 補給なんか無くったって、当たらなければ大丈夫だもん!」

 

「夜戦夜戦夜戦! 夜戦で戦果バリバリ出してるから、今日も行って良いよね!?」

 

「司令官!もう、また一人で抱え込んで……もっと頼って! 私が傍に居るわ!」

 

「当然の結果よ、勝利以外有り得ないわ、最低限の装備でも戦える……この足柄ならね!」

 

「それなりには出来るわ、けど、私の敵じゃない、早々堕とされはしないもの、私の子達は」

 

「鈍いと侮ったか? 走攻守の揃った戦艦、それがこの戦艦長門だ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ、ちょっと油断しただけ! 応急修理さえ受ければ、すぐ活躍するんだから!」

 

「うーん、やっぱり弾薬足りない……? じゃあ仕方ないね……」

 

「遠征部隊、帰ってこないね……だ、大丈夫よ司令官! 私が居るじゃない!」

 

「中破、けど勝ったわ! 次も勝って、その次も……大丈夫、私が居る限り勝利は約束されているもの!」

 

「補給は要らないわ、今のままで十分……私の分は、赤城さんに回して」

 

「この程度、小破ですらない、入渠など不要だ……それよりも駆逐艦の入渠を優先してくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー 緊急連絡!

 

ー 提督ッ、第一艦隊 間宮海峡にて敵大規模船団を発見、交戦中との事です!

 

ー 第二次防衛線、第二艦隊に至急帰還命令!

 

ー 駄目です敵の数が多すぎますッ!

 

ー 旗艦被弾、中破ッ! 駆逐艦島風、敵戦艦の砲撃直撃ッ! 行動不能ですッ!

 

ー 制空権喪失! 雷、加賀、艦直上からの爆撃! 被弾! 

 

ー 重巡洋艦足柄大破! もう無理ですッ、撤退を!

 

ー ………。

 

ー 当鎮守府は間宮海峡を放棄しますッ!

 

ー 第一艦隊へ伝達、至急当該海域から離脱、撤退せよ! 繰り返す、撤退せよ!

 

ー 追撃を防ぎます! 鎮守府より臨時の艦隊を編成! 

 

ー 緊急放送! 動ける艦は艤装を着装しドッグへ集合せよ、繰り返す、動ける艦は直ちに

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私が一番速かった……この足が、動けば、なぁ……」

 

「艤装、もう積めないか……あぁ、こんな事ならもっと早く、夜戦、いっぱい……」

 

「司令官、どこ? 私、もう、何も見えないけど、せめて傍に……」

 

「っ、動けないからなんて、それは言い訳にならないわ、勝たなければ、勝たなければ意味が無いのッ!」

 

「……大丈夫、私には優秀な子達が居ますから、腕一本、安いものです」

 

「ふっ、頑丈さが取り柄だが、こうまでやられるとは……な」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー 敵襲! 

 

ー 急襲警報! 急襲警報!

 

ー 敵性勢力が当鎮守府に接近中! 艦載機が来るぞ!

 

ー 急げッ、敵艦載機は爆装、海の上で撃ち落とせッ!

 

ー 鎮守府に上陸させるな! 沖合で何としてでも止めろォ!

 

ー 第一ドック敵艦砲射撃によって粉砕! 今すぐ退避しろッ!

 

ー 燃料庫付近に爆撃! 消火、早くッ!

 

ー 提督、敵深海棲艦は当鎮守府を半包囲! 最早海に逃げ場はありません!

 

ー 非戦闘員は内陸に退避! 車を回せ、早く!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり……スピードだけが……私は…っ」

 

「せめて囮にッ!夜戦で沈むなら本望、沈められるなら、沈めてみなよッ!」

 

「司令官……ねぇ、司令官、私、もう、耳も……何も、感じられないの……」

 

「どうして……最後の、誇りすらも、駄目だと言うの?」

 

「慢心……いえ、これが今の全力、悔いは無いわ、赤城さん、今、逝きます」

 

「あの光よりは、温い……私も、やっとこの、暖かい海に沈める……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()は知っている。

親父が彼女たちを死地に送り込んだ、その海を見つめる背中の影を。

 

 俺は知っている。

勝てる戦いでは無いと知っている筈なのに、悲しそうに笑って戦地に赴いた彼女達を。

 

 俺は知っている。

仲間の為に戦い、人類の為に散って行った艦が居る事を。

 

 俺は知っている。

海を守るために死んだ人間が居る事を。

 

俺は、知っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 17:45

 

 

 

 最初に見たのは、何か巨大な影だった。

それが数人の白衣を着た男女を殴り飛ばし、壁に赤い花を咲かせている光景。

所々薄汚れた部屋は元々白かったのだろう、病室の様なこの場所は今や赤黒く染まっている。

散乱した瓦礫と人の死体。

久しく空気と言う存在を忘れていた肺が吸い込み、匂いが鼻を突く。

 

ー 網膜投影ON

 

 突然、視界に文字が映った。

それから次々と何かパラメーターが現れ、上から下に流れる。

思わず目を閉じてもそれは続いた。

まるで眼球にイメージが張り付けられているみたいだ、そう思った。

 

ー 装着者の生存確認 バイタル.....OK

 

 →左腕部義手兵装確認(サイバネティック・アーム) ATH-01......OK

 

 →右脚部義足兵装確認(サイバネティック・レッグ) ATL-02......OK

 

 →頭部右義眼状態確認(アイ・モニター) HE-03.......OK

 

 

ー 武装装弾状況

 

 →義手兵装.......empty

 

 →義足兵装.......empty

 

 

ー 《警告》 残弾無し、補給を推奨

 

 

 一体これは何だろう。

閉じた視界の向こう側に未だ浮かび続ける文字を見つめながら考える。

一息、それからもう一度瞼を開けば殺戮の跡。

よもや夢とも言えない、リアルな光景だ。

やけに重い頭を持ち上げようとして失敗、首がプルプルと震えて行動を拒否。

何とか枕にこすりつける様にして左右を見渡せば、重なった死体、倒れた医療機器、散乱した注射器やガーゼ。

何が起きているのか。

思考が鈍い頭では理解出来ない。

 

ー 《警告》 残弾無し、補給を推奨

 

 張り付いた文字をもう一度見る。

それから周囲の惨状も。

そこで漸く、自分は戦場に居るのではないだろうかと判断。

影が既に役割を果たさないドアの向こう側へと消えた瞬間を狙って、血が付着したベッドから何とか這い出ようと腕を伸ばす。

だがそれが、やけに機械的である事に気付いた。

 

「………?」

 

 左腕を動かす。

その機械的な腕が動く。

人間の肌の色とは違う、若干青の入った腕。

光を反射して鈍く光るそれは、人間の皮膚では無い。

だが動かそうと思えば動き、自分のイメージする動作を完璧に再現するそれは、見れば肩の付け根近くから自分と繋がっている。

自分の意志の通りに動く腕を見て、何となく理解する。

 

 成程、自分は腕を失ったのかと。

 

ー 《警告》 心拍数上昇、極度な緊張状態にアリ

 

 心臓がやけに強く鼓動を打った。

そして視界に浮かび上がる文字を思い出し、義足の文字を見つける。

思わず義手でシーツを捲りあげれば。

やはり、あった。

若干青の掛かった鉄の足、自分の太ももから確かに繋がっている偽の四肢。

 

 では、この視覚の文字は何か。

考えれば分かる、恐らく眼球も。

 

ー 《警告》 装着者に異常が確認、帰還推奨

 

 他には何かを失ったのだろうか。

気が付けば私は、全身を無事な右手で触っていた。

足、腰、股間、腹部、胸、肩、耳、鼻……

全身を隈なく探り、そして探し出した。

喉に僅かな凹み、指先でなぞれば傷跡だと分かる。

それは縦に細長く妙な突起物も感じた。

嫌な予感が体を支配し、吐息を吐き出していた口を開く。

 

「……っ……は…………ッ」

 

 声が出せない。

喉もやられたのか、自分は。

 

ー 《警告》 装着者の混乱(パニック)を確認、セーフティ起動

 

 唐突に腕から鋭い痛みを感じた。

小さな電流がバチリと流れ、自分に刺激を与える。

思わず深い後悔に呑まれそうになった所を、寸での所で堪えた。

自分は今後悔している場所に居ない。

辺りを支配するのは死体と血の匂い、こんな場所ですくぶっていては死んでしまう。

そんな事は馬鹿でも理解出来た。

感覚の無い腕と足に戸惑いながらも、体をずらす様にしてベッドから体を出す。

そしてそのままズルリと、ベッドから床に落下した。

転がって、ピチャリと死体の血液が服を濡らす。

自分が着ているのは病院の入院患者が来ているような簡素な衣服。

白かった筈のそれは瞬く間に赤く染まった。

 

「っ……っふ……」

 

 ベッドに手を掛けて、ゆっくりと立ち上がる。

体が重い、重力がこんなに働き者である事を俺は知らなかった。

水の中にでも居るのだろうか、そう思ってしまうほどに体が鈍っている。

一歩一歩、確かめるように歩き、部屋の壁にゆっくりと寄り掛かる。

手に付着した血が壁にラインを描き、深く息を吐き出した。

取り敢えずは現状を把握し、必要があるなら打破しなければならない。

ここが何処なのか、何故こんなにも人が死んでいるのか、自分はどういう状況に置かれているのか。

知るべきことは沢山ある。

そう考えふと視線を向けた先に、割れた鏡があった。

中心に亀裂の入った洗面台。

蜘蛛の巣状に広がったそれは、割れてこそいるものの本来の役割は十二分に果たしている。

その向こう側、じっとこちらを見つめる男。

 

 目に掛からない程度に伸びた髪、傷だらけの顔、それなりに整った顔立ち、鋭い目つき。

付着した血が所々目立ち、服は半分ほど赤黒く染まっている。

そしてその男は左腕と右足が僅かに青く、こちらを覗き込んでいた。

その鏡が正しければ、それは自分の筈で。

ひび割れた鏡を覗き込んだ自分を見て、酷い傷だとは思わなかった。

四肢を失った事にも絶望は感じなかった。

鏡越しに自分を見た感想は、たった一言。

それはとてもシンプルで、故に非常に厄介な事だった。

何かフィルター越しに見ているような、第三者的視点。

胸に燻る異物、だが俺自身それを異物と思う事は無く。

故にただ淡々と、そう思ってしまった。

 

 

 こいつは誰だろうか、と。

 

 

 




 艦娘にちょっとした出番がありましたやっほい。
何だか艦娘でやって欲しいと言う要望がありましたので……ちょっと回想。
と言っても自分が書きますと、足を失って絶望に打ちひしがれる島風とか、両腕無くなって夜戦出来ない川内とか、目の見えない状態でも必死に奉仕しようとする雷とか、片腕無くて弓を射れない加賀さんとか、色々見るに堪えない状態になりますよ?

 まぁ、主人公が救ってヤンデレと化すんですけどね(ドヤァ
私が悪いんじゃない、魅力的なヤンデレが悪い。

尚、今回の回想部分、当時の将臣は子ども状態であります。


本編

「えっ、まさかIFと同じ記憶喪失系!? 被るじゃん!」

 とお思いの貴方!

 ご安心下さい、主人公は記憶喪失ではありません。
記憶はありますし、ちゃんと自分の事を自分だと理解しております。
 
 ただ負傷した際にちょっとした『後遺症』を……ね。

 こう、ヤンデレほいほいしそうな便利な後遺症を……ね(真顔

 私もヤンデレほいほい欲しい(真顔

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