戦車これくしょん~欠陥品の少女達~   作:トクサン

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人間の欠損

「全く、お前にはいつも驚かされるよ」

 

 そう言って語り掛ける先に人はいない。

自分以外には誰も居ない、静寂が支配する執務室。

第二中央基地、その中心部。

対面する様に設置されたソファに身を沈め、手には酒の注がれたグラス。

デスクの上には無造作に広げられた「戦死者名簿(KIA list)

 

 煽る様に酒を喉に注ぎ込み、焼けるような熱に酩酊感を覚える。

然程高い酒でもないが、度数があれば酔える。

脳が揺れてこれ以上のアルコール摂取は拙いと叫ぶが、こんな時くらいは酒に酔わねばやっていられなかった。

何度も仲間の死には直面して来たが、どうにも。

此処まで親しい人間の死には、俺の心は耐えられなかったらしい。

 

 全ての紙にズラリと並ぶ名前。

その中の一枚、旧北海道相楽基地と書かれた書類。

 

旧北海道相楽基地 防衛部隊

笹津将臣 大佐

MIA(Missing in action) 捜査打ち切り KIA(Killed in action) 二階級特進

死亡場所 旧北海道零二番地区 相楽基地周辺A地区

十月二日旧北海道相楽基地にて敵陸上孅車の奇襲を受け重傷、交戦後基地脱出、MIA(Missing in action)

既に相楽基地周辺は敵陸上孅車の勢力下の為、捜査は不可能と判断、捜査断念KIA(Killed in action)

二階級特進とす。

 

「ったく……俺より先に大佐になりやがって」

 

 ソファの横に放った上着の刺繍、その中佐の証を見て笑う。

と言っても俺も明日で大佐に昇進する。

日々やって来る陸上孅車を撃退するだけの仕事、それを続けた結果だ。

潤沢な防衛資金、弾薬、兵装、設備、人員、前哨基地とは比べ物にならない程質の低い陸上孅車。

何度も撃退する内に余裕が生まれ、それは軈て慢心を生む。

何故一気に攻めてこないかと疑問に思った時にはもう遅かった、敵が自分達の戦力を偵察、乃至削る為の囮だという事を理解した時には既に前線基地が落ちた。

中央のお偉い方は分かっていなかった。

戦車を掻き集めるだけ集めて、此処なら安心だと決め込んで、このひと時の平穏が続くと思っていた。

 

 その結果が、全前線基地陥落。

 

 いつか来ると恐れに恐れ、十分な資源や人材を前線に送らなかった結果。

これは中央の臆病さが招いたのだ。

貯め込んだ資材と防衛設備、多くの戦車が此処にはある。

だがそれでも、旧北海道、旧九州、旧四国の三方向同時侵攻を受けるとなれば。

 

「人類は………負けるだろうな」

 

 独りでに呟く言葉。

それは他の隊員に聞かれれば士気低下に繋がるとされ、処罰される類のモノだ。

だが、現状人類が勝てるなどとは誰も思ってはいない。

明らかな劣勢、迫りくる敵の影に皆が怯えている。

 

 懐から取り出した一枚の写真。

色褪せ、擦り切れた思い出。

それを目の前に掲げながら、天井の明かりに照らす。

僅かに差し込んだ光が情景を浮かび上がらせた。

 

「父さん、玄二中将、将臣……」

 

 俺たちの幼少時代を飾った黄金の時代。

もう既に海を、俺達の海を取り戻すことは叶わないだろう。

父の栄光も。

海軍の威光も。

この地上で費える。

 

「………」

 

 だが。

 

 だとしても。

 

 彼女達の死には報いなければならない。

 

「何度でも立ち上がり、何度でも挑む………この命尽きるまで」

 

 先に散った親友(とも)に顔向け出来るよう、精々一体でも多く奴らを道連れにしよう。

俺が死ぬのは最後だ。

武器が無くなり、弾薬が尽き、仲間が皆屍と成った時。

それが俺の「死に時」だ。

 

「上で見てろ将臣、俺はしぶといぞ……?」

 

 半分残ったグラスを傾けて、古びた写真に中身を注ぐ。

ジワリとインクが滲んで、朧気になる思い出。

それを灰皿に乗せて、ライターで火を着けた。

火が灯り、端から灰へと帰っていく写真。

 

 俺はそれを、ただじっと見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第04番地区 所在地不明 

 

 

「なぁ、艦娘と俺達って、何が違うと思う?」

 

 そう父に問われて自分は何と返事をしたのだろうか。

もう遠い過去の事の様で、ハッキリと思い出す事が出来ない。

何も変わらないと答えた気もするし、戦う力があるかどうかと答えた気もする。

けど、父はその答えに首を横に振った。

それだけはハッキリと覚えている。

 

その父は自分になんと言ったのだろうか。

既に擦れた記憶からは何も思い出すことが出来ない。

 

 あれから大分経った。

自分も今や軍の一員となり、守られる側から守る側へとなった。

勿論、彼女達にとっては永遠に守られる側の人間なのだろうが。

艦娘が消えて、新たなる人類の力が生まれ、彼女達の事も多少分かって来た。

 

 彼女達は原則として人間と変わらない。

飯は食うし、排泄もする、生殖行為も出来るし、代謝もある。

ただ違う事とすれば、常人為らざる筋力と頑丈さを誇っていると言う事だ。

それと、妖精さんの力を使ってどんな『致命傷』であろうと、一定のラインを越えなければ治療が可能だという事。

それこそ人間であれば年単位で治療が必要な傷さえ、彼女達は数日で治療できる。

それは一体何故か?

何が彼女達を「戦車」足らしめるのか。

艦娘と戦車の違いは?

そもそも彼女達は何故人間を象っているのか?

謎は多く、そしてその殆どは暴かれていない。

 

 だが近年、漸く一つの謎が解き明かされた。

 

ー 何故、彼女達の攻撃だけが深海棲艦に通用するのか

 

 昔から、通常兵器をどうにかして使用出来ないか、深海棲艦に損害を与える事が出来ないかと言う試みは何度となく行われてきた。

そしてその度に計画は頓挫した。

人間と同じ構造をしている艦娘、その強さの根源は分からず、使用しているのは妖精さんお手製武器。

それらと通常の兵器を比較しても、原理は全く同じであった。

では、何が違うのか?

それすら分からぬ始末。

果てはカルトや宗教を持ち出す者も居たが、その成果の殆どは眉唾物だった。

事実、今日までに陸上懴車を通常兵器で破壊した報告は無い。

しかし、それが破られる日が遂に来た。

 

 何故、攻撃が通らなかったのか、その謎が解けた。

 

 それは嘘だ。

未だ、何故攻撃が通らないか、それは謎のままである。

解決の糸口の掴めない問題に、科学者達は遠に匙を投げていた。

問題は「どうやったら通常兵器で損害を与えるか」に絞られていた。

 

 そして、ある兵士が言ったのだ。

 

「ならば、我々が戦車なのだと『誤認』させれば良い」

 

 何をどう基準として『戦車の攻撃』とするのか、それを我々は知らない。

少なくとも、過去艦娘の兵装を十人がかりで担いで深海棲艦に攻撃しても、傷一つ付けられなかった。

だが、悪魔でも使用者が戦車であれば、艦娘であれば。

その結果は変わるのでは無いか?

 

 兵装に、戦車の肉体の一部を入れる。

 

 要は実験だ。

使うのは『戦車』、振るうのは兵士。

そういう分担にすれば良いと言っているのだ。

何をどう基準として戦車が使っているのか、そのボーダーラインを見極める為だった。

 

 引き金を戦車の千切れた腕で引けば、それは戦車の攻撃となるのか、或は支える人間の攻撃なのか。

 

 シリンダーに入れた眼球は、果たして「ある」だけで戦車の攻撃と見做すのか。

 

 戦車の足を武器に装着し攻撃すれば、それは戦車の攻撃と認識されるのか。

 

 

 或は、全身を使えば良いのか。

 

 

 計画は既に最終段階寸前へと進んでいた。

 

腕は戦車の攻撃足り得た。

目は戦車の攻撃足り得た。

足は戦車の攻撃足り得た。

 

後必要なのは、それらを量産するだけの『材料』と。

 

 切り札となる兵器。

 

 個人によるパワーバランスでは無い、平凡な安定した効果を誇る兵器。

それが人類の求めるモノ。

もう少しでソレに手が届く。

 

- 欠陥品なんてのは、嘘だ。

 

- アレは我々がそうなるように仕向けたのだ。

 

それは誰の贖罪か。

或は我々人類全てのか。

人類の為と言う免罪符を掲げて彼女達から全てを奪う、私個人か。

いや、それすらも。

 

 この戦いの果てにはもう、何も無いというのに。

 

 

 

 

 

 

「さて、被検体壱号君……初めましてかな」

 

「私は当施設の最高責任者、そして君の担当となるプロフェッサーだ」

 

「………」

 

「……君は今、恐らく私の話は聞こえているだろう」

 

「だが、君自身にその気は無い」

 

「君に起きている自覚は無い」

 

「……故に、今から宣言するのは一方的なものだ」

 

「許してくれとは言わない」

 

「だが、理解してくれとは言っておこう」

 

「………」

 

「………さぁ、仕事の話だ」

 

「君が此処に搬送されて来た時、それはもう酷いモノだった」

 

「元々重戦車、eliteの砲撃で負傷していたとは聞いていたが、輸送車諸共吹き飛ばされたのが決め手だ」

 

「全身の皮膚がズタズタ、重戦車の砲撃の時は防爆スーツを着用していたのだろう?」

 

「ソイツのお陰だな、少なくとも君はその状態であれば『まだマシ』だった」

 

「その後の輸送車襲撃」

 

「全身に金属片が突き刺さっていたよ」

 

「恐らく砲撃を受けた際に輸送車内部の装甲がそのまま飛び散ったのだろう、それを全身に浴びた訳だ」

 

「殆どの金属片は摘出されたが、一部はまだ摘出されずに君の体の中に残っている」

 

「それはつまり、心臓付近のモノと、頭部のモノだ」

 

「……まぁ今のところ、害は無いとだけ言っておこう」

 

「臓器や脳に直接刺さっては居ないし、念の為MRIは使用していない」

 

「金属探知機には反応してしまうがね、もし民間の航空機に乗るなら留意したまえ」

 

「昔はテロ対策に金属探知機や赤外線での荷物検査とやらをしていたらしい」

 

「君が乗ろうとすれば一気に探知機が騒ぎ出すだろうよ、さぞかし騒がしいに違いない」

 

「………」

 

「……ふぅ、こういうジョークには素直に笑っておくべきだよ」

 

「と言っても、今の君に言っても無駄だな」

 

「年老いた老人は触れ合いに飢えていてね」

 

「最近ではめっきり独り言が多くなった」

 

「………」

 

「……君にはこれから、第二のキャリア(second career)を用意しよう」

 

「キャリアの回復だ」

 

「その第一段階として」

 

「君には人間を辞めて貰う必要がある」

 

「……尚、拒否権は認められない」

 

「その状態で拒否出来るとは思わんが、施設行きのチケット(ヴァルハラ)を受け取ったんだ、既に君の身柄は一時当施設預かりとなっている」

 

「………そして、この計画は君の父上も了承なさっている」

 

「覚悟を決めたまえ」

 

「………」

 

「では、まず順に話していこう」

 

「君に与える新たな力だが、それは既存の通常兵器とは異なる」

 

「その特性として、まず敵性戦車に攻撃を通す事が出来るようになった」

 

「通常兵器が通じないとされていた敵に漸く一矢報いる事が出来るのだ」

 

「君にとっては願っても無い事だろう……?」

 

「これには既存の戦車から『採取』した部位を用いる」

 

「君の左腕と右足、それから右の眼球」

 

「採取した本体をベースに私達が開発、製造した武装だ」

 

「それを君に接続する」

 

 

 

「……つまり、君の()()を補う訳だ」

 

 

 

「幸い、義足、義手を念頭に開発したものだ」

 

「まず日常生活に不便は無いだろう」

 

「……恐らくだが、最初の砲撃で君は四肢に致命傷を負っていた」

 

「それが輸送車襲撃で取り返しのつかない程深いものになってしまったのだろう」

 

「幸い、右腕と左足は繋がったままだったが……」

 

「…………」

 

「……皮肉な話だ」

 

「戦車が失った部位で、その将軍を救うなど」

 

「………」

 

「……今のは聞かなかったことにしてくれ」

 

「……実際の兵器は、使って確かめてくれとか言えない」

 

「残念ながら戦車を相手に実地訓練出来るほど、今の私達(人類)には余裕がない」

 

「……精々、早めに目覚めてくれよ?」

 

「人間が死に絶える前に……な」

 

 

 





 突然ですがお知らせです。


  実は私、皆さんに隠していた事があるんです………。

 実は私……。



 ヤンデレが大好きなんです…。




 あぁ、分かってます、皆さん今まで気付かなかったですよね?
アァーバレチャッタナァー、ドーシヨー。

 今まで皆さん、私が微塵もヤンデレに興味がない真っ当な普通人に見えたことでしょう、そうに違いありません。
 あぁ、しまったなぁ、自分がヤンデレ好きだなんて言わなければきっと皆さんごくノーマルの人だと思っていてくれていたのに…。

 しかし、バレてしまったものはしょうがない!

 という訳で次回、ヤンデレもヤンデレ、もうドロッドロ展開になります。

 簡単に言うと相楽基地戦車部隊四人が本格的に病み始めます。

 今まではヤンデレが好きだという事を悟られないように、まぁ、色々セーブしながら書いていましたからね(白目

 次回は血みどろヤンデレドロッドロをお送りしますお楽しみに

 
追記:なんかPV凄いなーとか思ってたら友人に日間に2~3日載ってたとの事、いやはやありがとうございます!(*´▽`*)
 これから感想、評価、どしどし送って頂けると幸いです!(∩´∀`)∩

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