戦車これくしょん~欠陥品の少女達~   作:トクサン

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怪物は貴方を待っていた

 私、笹津将臣は凡人である。

 

 指揮官としての能力、戦闘の才能、何かしらの突出した力、それらを私は持ち合わせていない。

士官学校次席としての自負はあるが、それが実際の戦場で役立つかどうかと問われればきっと私は首を横にふることしか出来ないだろう。

定石は覚えて然るべきだが、実際の戦場では後続の部隊も増援も援護も、理想とする教科書通りにはいかないものだ。

それを覆すだけの才能がお前にあるかと言われれば、きっと私は否と答える。

 

 故に私、笹津将臣は凡人である。

 

 凡人である事が悪い訳では無い、幸いにして私は努力する才能には恵まれた。

器用貧乏の様に自分の出来る事は何でもやってすべて人並みにこなすことは出来よう、だがそこから先。

才ある者の歩む道も進める訳ではない。

何をやっても自分はきっと、一握りの天才には敵わない。

私は主人公ではない。

だがそれでも、脇役には脇役の意地が。

私には私の意地があった。

 

 しかし。

 

 その時のソレは。

ある意味不条理とも言える突然の不幸と言うのは、確かに皆平等に与えられるモノで。

私達凡人にはどう足掻いても逃れられぬ、予定調和の様に。

全てを奪い去っていく。

 

 きっとそれは、必然だったのだろう。

 

 

 

 

「少佐」

 

 自分を呼ぶ声に私は手元にあったハンディ機から目を上げる。

そこには換装を済ませたトクの姿があった。

しかし、前に見た姿とは違い、砲身が長めの火砲を装備している。

よく見ればそれはホリの火砲には劣るものの、重戦車が扱う様な大口径の火砲であった。

凡そ中戦車が持つ武装ではない、その証拠に彼女の足取りはどこか重心の偏った歩行に見える。

 

「トク、それは……」

 

「あぁ、この火砲ですか?」

 

 トクがどこか誇らしげな表情で腕のそれを掲げる。

光に反射して鈍く光る砲身は、間近で見ればさらに凶悪なものに見えた。

 

「87mmの火砲です、工房に無理を言って生産して頂きました」

 

 87mm、重戦車の火砲に比べれば僅かに小さいが、中戦車のチハが57mmの火砲である事を考えれば異常とも言える。

トクの突然の火砲変更に私は僅かな困惑の表情を浮かべた。

すると、トクがどこか申し訳なさそうに口を開く。

 

「すみません、実は少佐が先の戦闘で負傷された時から、工房の方にはお願いしていたんです」

 

 聞けば、私が戦闘で負傷した後に整備兵に頼み込んで生産して貰ったらしい。

そして砲撃訓練で何度も使用し、加わる衝撃の逃がし方、走行しながらの砲撃タイミングなどは掴んでいるとの事。

自分が知らない間に戦車が戦力増強をしていた、その事に思う事が無い訳では無いが。

 

「……次は、せめて相談はしてくれ」

 

 私はそう言うだけに留める。

実際、前の火砲では重戦車の装甲は撃ち抜けないし、当たり所によっては中戦車にすら防がれる。

悪く言えば囮としか役立てない彼女なりの戦力となるアプローチだったのだろう。

それを歓迎するならばまだしも、怒りを覚えるのは間違っている。

勿論、無断で行った事は少々問題だが。

 

「……まだ完全にものにしたとは言えないですから、そんな段階で少佐に自信満々に伝えられる筈がありません」

 

 ですが黙っていて、申し訳ありません。

そう言って頭を下げるトク、私はそれを「気にするな」と一蹴して頭を上げさせた。

一応無断で火砲を作った事は反省しているらしい。

まぁ一般の兵には知られていないとの事なので、後々私が製造命令を出した事にしよう。

 

「それでトク、用件はその火砲の事か?」

 

 戦闘前に火砲を変えた事を報告する、それは重要な事だ。

敵の装甲を撃ち抜ける火力を持っているかどうかは戦場の采配では非常に重要な事となる。

トクは単に敵の足止めだけでなく、仕留めるだけの牙を持ったのだ。

これは相楽基地の戦力を大きく向上させた。

 

「いえ、実は一つ……少佐に確認したい事が」

 

「確認……?」

 

 作戦伝達で何か不備があっただろうか。

私が脳内で作戦項目を一つ一つ洗っていると、トクがどこか暗い瞳で私をじっと見つめた。

そして問う。

 

「少佐は、今回も前線で指揮を執られるのですか……?」

 

 瞬間、周囲の喧騒がどこか遠くに行った様な気がした。

 

「……あぁ、一応正門近くで指揮を執るつもりでは居る」

 

 私は努めて冷静に、そう口にした。

トクはその言葉を聞いて心なしか、僅かに表情を歪めた。

それが自身の身を案じての事なのだと、私は先の戦闘で学習している。

だがこればかりはどうしようもない。

 

「後方で待機されるという選択は?」

 

 彼女の口から代案が挙げられる。

だが私はそれに首を横に振った。

 

「裏門から陸上孅車が来れば同じこと、それに司令部は頭が高い、敵から見たら良い的だ」

 

 相楽基地司令部は中央に存在し、基地全体を見渡せるように周囲に比べ背が高い。

それは逆に言えば遠方の敵から良く見えるという事、陸上孅車というのは例外なく目が良い。

司令部に人が集まっているのを見れば容易く建物ごと撃ち抜くだろう。

故に現在の司令部は囮、周囲の外壁にカメラを設置し戦況全体を見渡せるようにはしているが中身は数人の通信兵のみだ。

彼らにも無理はするなと言ってあるが、今回の人選には自ら挙手し進み出た人員だ。

既に陸上孅車との交戦で妻子を無くした、或は天涯孤独の身である戦争孤児等、自分たちが死んでも悲しむものは居ないと言い切る男達。

そんな彼らに死を押し付ける訳にはいかないと思ったが、誰かがやらねばならぬ事。

せめてもの足掻きとして、彼らには特殊攻撃班のバリスティックベストとACHヘルメットを支給、更に追加で部位毎に簡易装甲板を入れたバンドを装着する事によって簡易防爆スーツとも言える格好となった。

せめて生き残る為に最善を尽くす、私は今回の戦いで出来る限り死者を出さないつもりだった。

 

「ですが少佐、もしもの事があれば……」

 

「死ぬときは死ぬし、運が良ければ生き残れる、前みたいにな」

 

 トクの声に被せる様に声を上げると、彼女はどこか納得いかないと拳を握り締める。

頭で理解しているのと、感情は別。

それは私にも覚えがある事だった。

自惚れでなければ、彼女達は私の身を案じる程度には信頼を寄せているのだ。

それをどうして無下に出来ようか。

 

「別に単独で行動する訳じゃない、一応周囲には戦闘班が待機している」

 

 陸上孅車相手に人間が大立ち回り出来るとは思っていないが、一人よりはマシだろう。

それに最悪、彼女たちが駆けつける程度の時間は稼げる筈だ。

 

「それに見ろ、今回は防衛戦だ、迎撃する設備はあるし広い戦闘区域を走り回る必要もない」

 

 そう言って私は自分の体を見せびらかす様に手を広げる。

今の私は『防孅車装甲服』というスーツを着用している。

通常の防爆スーツの強化版とも言える装甲服で、全身を装甲板、ケブラーで覆った完全防護服だ。

戦車砲の直撃には耐えられないが、至近弾の場合に襲い掛かる爆風、破片から体を守ってくれる。

防御できるのは650 m/s ~ 700 m/sの爆風で、8~10kgf/cm²程度までの入射爆風の圧力。

NIJ規格クラスⅣA+の防御力を誇り、徹甲弾すら防ぐ硬さを持つ。

 

 10kgf/cm²の圧力と言えば、鉄筋コンクリートですら損壊する圧力だ。

それすら防いで見せると言うのだから丈夫さが分かるだろう。

尚生身の人間が10kgf/cm²以上の入射爆風の過圧を受けた場合、肺は機能障害を起こし、腹は裂傷、内臓は重度の出血を引き起こし眼球や鼓膜も破裂する。

 

 無論、このスーツとて万能では無い。

恐らく上限値ギリギリの攻撃を受けた場合、その衝撃はこの身に降りかかるだろう。

欠点を上げるとすれば、重い事だろうか。

だが、そこは腐っても軍人、この程度のことで弱音は吐けない。

重いからと言って脱ぎ捨てる訳にはいかないのだ。

 

「大丈夫だ、そうそう死にはしないさ」

 

 そう安心材料を揃えることでトクを説得しようとする。

彼女は下唇をぐっと噛みしめ、私を見つめた。

僅かに潤んだ瞳に上目遣い、どこか寂しそうとも悔しそうとも見える表情。

古来より男と言うのは女の涙に弱い。

例えそれが戦車であっても、そういうものなのだ。

 

「………頼むよ、分かってくれ」

 

 先の戦闘で無茶をした事が悪かったのか。

私は懇願し、彼女の頬を撫でる事しか出来なかった。

頬に当てた手に、トクがそっと冷たい手を重ねる。

それから暫くして、「ぜったい…」と言葉を紡ぐ。

 

「絶対、生き残ってください………例え、何を犠牲にしても」

 

 彼女は先ほどと違い、強く鋭い眼差しでそう言った。

何を犠牲にしても。

今の私には難しい言葉だ。

だが、そう簡単に死んでやるつもりも無い。

 

 何処にも行かないと約束したのだ。

 

 彼女達と。

 

「分かった」

 

 その返事を聞き届け、彼女は私の瞳を覗き込む。

まるで真偽を図るように、それを真正面から見つめた。

重ねた私の手を頬から離し逆の手で軽く表面を撫でる、それから名残惜しそうに手を放した。

最後の瞬間まで、指の先が絡まる。

 

「約束ですよ」

 

 それから艶やかな黒髪を靡かせ、背を向けた。

 

「あぁ、約束だ」

 

 そう言って私もフルフェイスのヘルメットを装着する。

視界が狭くなり、音が少しだけ遠ざかった。

今この瞬間から、この場は戦場へと変わる。

約束を果たし、生き残ろう。

そしてまた、彼女達と笑い合うのだ。

こんな場所で死んでたまるものか。

自分の持ち場へと去り行くトクの背を眺めながら、そう誓った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、その約束を果たす事は叶わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 チハとハクを乗せた装甲車両が相楽基地に接近、基地外周に展開した戦闘班が後続の陸上孅車を目視した。

私は正面ゲートから少し離れた場所に陣取り、高台にて待機しているホリと観測手に射程距離内に捉え次第砲撃を始める様指示を下す。

それに合わせ、迫撃砲で敵の足を鈍らせる。

チハとハクの装甲車両を相楽基地に回収後、正面ゲートを封鎖して外周で迎え撃つ腹積もりだった。

幸いにして、外周に沿った防衛設備は充実している。

それらを盾に戦車部隊を決定打にして攻勢に出る、それが現在のプランであり、ホリの砲撃が開戦の合図だった。

そして、その瞬間は訪れる。

 

 砲撃音。

 

 最初それがホリの砲撃だと思った。

腹を揺らす衝撃、爆風、閃光、迫りくる土の壁。

 

それらを体感した瞬間に、自分が砲撃を受けたのだと理解した。

 

 何もなかった目の前に突然出現した黒色、目を焼く閃光、そして爆風。

途轍もない力に押し倒され、地面を転がってガチャガチャと装甲服が擦れ合う。

そして装甲の上から私の体を叩く石つぶて、装甲破片、上下の間隔すら失って頭を庇うように丸くなる。

風圧に押し出された体を地面に叩きつけながら転がり、壁にぶつかって体が止まった。

ぶつかった拍子に思わず呻き、くぐもった声が自分の耳に届く。

上から降ってくる土がパラパラと鼓膜を叩き、それらが止んだ後にゆっくりと首を擡げて周囲を見た。

砂煙が酷く視界が悪い、周囲には砕けてバラバラになったコンクリート片や鉄破片が散乱し、私の近くに居た戦闘班の兵士も倒れ伏している。

幸いにして息はある様だが、幾人かは装甲服を着ていても起き上がれずに居る。

至近弾を食らったか、或は運悪く隙間に破片が入った。

段々と晴れていく視界。

そうして、漸く私は何が起きたかを理解した。

 

 基地の外周ごと、正面ゲートがごっそり抉られていた。

 

 周囲二十メートル程が抉れ、数メートル程の深さのクレーター。

正面ゲートの装甲厚は600mm、それが二層重なっている。

それを撃ち抜いて、更にこの威力。

最初、私は幻覚でも見ているのかと疑った。

そして、それが幻覚でも何でもなく、現実だと知る。

 

「やぁ、少し邪魔するよぉ」

 

 この戦場に似合わない、のびのびとした声。

それは女性特有の高さで、声色は散歩でもしている様な気軽さ。

声の主はすぐ近くに。

撃ち抜かれた正面ゲートを真っ直ぐ、まるで自分の為に開けてくれたのかと言わばばかりに。

堂々と歩いて相楽基地に侵入した。

 

 身長は2m近い、私でさえ見上げる高さ。

豊満な体つきにぴったりと肌に張り付く服、そしてその上に装着された外部装甲。

更には両腕の甲から肩にかけて装備された展開装甲、一目で分かる重戦車。

だが、それより目を引いたものが一つ。

 

 目の前の存在、その身の丈に近い程巨大な『火砲』

 

 肩に固定された化け物としか言いようのない大口径、砲身の長さを誇る武装。

ホリの火砲と比べても圧倒的に大きく、太く、長い。

私は一瞬で理解した。

コイツが正面ゲートを撃ち抜いて、更には此処を砲撃した。

その張本人だと。

だがしかし、疑問が一つあった。

チハとハクの装甲車は未だ到着していない、陸上孅車は後続との報告だった。

だと言うのに、目の前に立っているのはチハでもハクでは無い。

陸上孅車だ。

どういう事だ、私は混乱する思考を纏めようと必死になっていた。

 

「んーと、敵の指揮官……将軍、だっけ? どこだろう」

 

 正面ゲートを撃ち抜いた重戦車は独り言を呟きながら、誰かを探している様に左右を見渡す。

すると、近くに居た戦闘班の一人が銃器を持ち上げ、重戦車に向かって引き金を引いた。

 

「っ……この、化け物がァ!」

 

 砲撃の爆風に呑まれたものの、負傷は無かったのだろう。

戦闘班の兵士はスムーズな動作で射撃を行う。

狙いを定めたM4カービンはマズルフラッシュと共に重戦車に向かって弾丸を吐き出した。

弾丸の行き先は重戦車の顔面。

銃声が鳴り響き、同時に重戦車の顔面が弾け飛ぶ。

なんて事は起こらない。

弾丸は重戦車の顔面に直撃するや否や、すべて弾かれた。

カランカランと、甲高い薬莢の落ちる音がやけに大きく聞こえる。

兵士はそれを見て顔を顰めながらも、引き金から指を離す事はしない。

薬室分を入れて31発、キッカリ撃ち終わった兵士がマグチェンジを行おうとして。

 

「邪魔だなぁ」

 

 そう呟かれた。

重戦車が一歩、たった一歩踏み込んだ。

それだけで。

 

「っ!?」

 

 十メートルはあった距離が、潰された。

兵士が持っていた弾倉が手から零れる、そして重戦車の振り上げた拳が兵士の顔面を捉えた。

避ける暇も無い。

顔面を狙ったのは意趣返しのつもりか、だが結果は全く異なる。

兵士の弾丸は重戦車の顔面を貫かなかったが、重戦車の振りぬかれた拳に付随して何かが吹き飛ぶ。

そしてソレが地面をバウンドすると同時、血を噴き出しながら兵士が膝から崩れ落ちた。

なんて事は無い。

殴られた兵士の頭が無くなっただけだ。

火力が馬鹿げている、それだけならまだ良かった。

コイツは。

とんでもなく『速い』

 

「っ……」

 

 全滅

 

 その二文字が脳裏を過った。

 

「速射砲ぉッ! 方角マイナス、目標重戦車ぁァッ!」

 

 私は気付けば、無線機に向かって叫んでいた。

耳元に備え付けられた送受信可能な端末。

這う様な格好で、無様にも指示を下す。

私の声に反応し重戦車がこちらに顔を向ける。

深海の様な瞳の色にぞっと肌が泡立って、背筋に氷柱を突っ込まれた様な感覚に陥る。

 

 だが、幸いな事に正面ゲートの端に設けられていた速射砲の操者は優秀だったらしい。

私の怒号とも取れる叫びに反応し、素早くその砲身が重戦車を捉えた。

待つ必要は無い、攻撃の合図も要らない、二台の速射砲が殆ど同時に火を噴いて。

 

「見つけた…っ」

 

 砲弾が重戦車に命中し、砂塵が舞い上がった。

 

「止めるなッ、撃ち続けろッ、砲身が焼き切れるまで撃ち続けろッ!」

 

 震える足と痛みに叫ぶ体を黙らせ、地面にあったM4カービンを拾い上げる。

それから恥も外聞も無く後ろへと走り出した。

周囲の戦闘班兵士は、最初の砲撃から立ち直りグレネードランチャーやライフルを次々と撃ち込んだ。

背後に銃声や爆音を背負いながら走る。

 

「ホリ、ホリ聞こえるかッ!」

 

 私は司令部の後方へと走りながら無線に向かって叫んだ。

 

『はいっ、少佐、一体何が!?』

 

「重戦車が正面ゲートを突破っ、戦闘班が足止めをしているが、長くは持たんッ、至急砲撃を頼む!」

 

 向こう側から息を飲む音が聞こえる。

 

『っ! 了解しました、すぐに行動を開始しますッ!』

 

「観測手、加藤軍曹っ!」

 

『はいッ、笹津少佐!』

 

 ホリにつけた観測手、加藤軍曹が僅かに焦りを含んだ声で返事を寄越す。

元々機甲部隊に居たという兵士だ。

私より幾つか年上で、何度か陸上孅車との戦闘も経験している。

現場上がりのベテラン。

 

「位置が割れれば足が使えないホリは良い的だ、一発で仕留めろ!」

 

『っ……了解しました』

 

 無茶を言っているのは理解している。

だがそうしなければならない理由があった。

 

「重戦車の主砲は正面ゲートを食い破った、ホリの装甲でも防げないと考えろッ!」

 

『正面ゲートをッ…!?』

 

 敵の主砲は化け物だ。

例えホリの装甲だろうと、防ぐ事は出来まい。

つまりそれは、見つかれば即死を意味する。 

 

『…っ、少佐、それはつまり』

 

「二射目は無いっ」

 

 そう口にすると同時、地面を揺るがす爆音が鳴り響く。

背後より拳大のコンクリートが飛来し、肩の装甲プレートを直撃した。

思わず足を縺れさせ地面に転倒してしまう、慌てて背後をみてやれば速射砲台が設置されていた外壁ごと抉られるように消失していた。

あの重戦車の砲撃だ。

気付けば、あれほど鳴り響いていた戦闘班の銃声は止んでいた。

 

「っ……」

 

 第六感が警鐘を鳴らす。

あの市街地戦でも感じなかった、予感。

アレはまだ作戦の内だった、目的があった、敵の情報は揃っていた。

だが今は。

胸中の黒い何かを振り払い、這う様な姿勢のままトクに無線で支援を要請しようとして。

 

 すぐ近くに砲弾が着弾した。

 

 相楽基地の兵士宿舎、そのブロックがまるで飴で作った城の様に砕け散り、地面が捲れて土の壁を生み出す。

その爆風と破片が私の体を蹂躙し、表面にあった装甲プレートが次々と拉げ、折れ、剥がれ、地面を滑っていく。

視界のバイザーに亀裂が走り、体が勢いよく跳ねる。

内臓がシェイクされて鼓膜がマヒ、視界は白く染め上げられた。

 

『将臣さんッ!?』

 

 通信を開いたままだった。

爆音が向こうに届いている事だろう、遠くからホリの叫びが聞こえた気がした。

力なく地面を転がり、やがて止まる。

だが私に立ち上がる力は無い。

その砲撃はさしもの防孅車装甲服でさえ防ぎきれる代物ではなかったらしい。

先ほどと比べて随分風通しが良くなっていた。

バイザーも無残に砕け、半ば私の顔を晒している。

直撃せずとも、至近弾でこの有様。

 

「っ……あ……ぁ」

 

 痛みで声が出せない。

肺が縮み、胃が裏返った。

 

「んー…随分頑張ったけど、まだまだ足りないかなぁ」

 

 近くから声がする。

私を見下ろすように、頭部の近くに立つ誰か。

いや、誰か何て分かり切っている。

この砲撃を撃ち込んだ主犯、銀色の長髪が光を反射して輝く。

同時に肩に担ぐその主砲も。

 

 私を見下ろし、満面の笑みを浮かべる人外の怪物。

膝を曲げて私に顔を近づけると、無造作にフルフェイスのヘルメットを剥いだ。

留め具は既に破損していたので容易に脱げてしまう。

そして顔を確認すると、その笑みを更に深くした。

 

「やっと見つけた、もぉ、苦労したよぉ?」

 

 私達はまだ知らなかったのだ。

 

 陸上孅車という存在の、本当の恐ろしさを。

 

 

 

「elite、重戦車ウ号、貴方が将軍かなぁ?」

 

 

 




 最近気づいた事
丁度良い長さは6000~7000字位だ…。

 ヤンデレ成分を突っ込んだ小説しか書いてなかったので、久々に本編更新です!
(*´▽`*)

 いやぁ、なんでだろう、もっとこうトクとヤンデレヤンデレする予定だったのに。

 まぁ兎角、遂にelite襲来です。
火力、速力共にチート級。
ハクやトク、ホリ、チハが旧型の戦車ならeliteの連中は現代戦車に+αした性能だと思って貰ってOKです(∩´∀`)∩

 近未来戦車! 欠陥品とは真逆だね!(意味深

 思ったんですけどこれこのままだとIFと被ってヤバげっふんげふん

 ではまた次の更新で!

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