資源回収ポイント A-19地区
「敵影無し、進行ルート上に障害物無し、上空に敵偵察機確認出来ず、予定通りのルートを進行中です」
遠征開始から約八時間経過、廃墟へと到達した私達は慎重に中心へと進んでいた。
輸送車の前方には瓦礫が散乱した嘗てのコンクリート道路があり、そこを中心に背の高いビル街が続いている。
大なり小なり、背の高いビルは視界を狭め空が蓋をしている、灰色が埋め尽くす景色は私の不安感を煽った。
壁の崩れたビルは狙撃、奇襲には絶好の地形となっている。
故にビル群の中から奇襲を受けない様、予め都市へ踏み入れる前に上空から赤外線でビル群をスキャンした。
結果は敵性反応無し。
輸送車の中から私、ハクが索敵し、チハさんが輸送車の上から周囲を警護する。
そんな状態を維持しつつ早一時間、私達は既定のポイントへと辿り着いた。
ポイントα、予め採掘予定地としていた場所。
地下鉄の入り口がすぐ傍にある街中の一角、正面には三十階超えのビルが聳え立ち、右手側は崩れた銀行、左手側には寂れた公園が見えた。
「‥‥ハク、ポイントαに到着した、作業を開始する」
輸送車に上に陣取ったチハさんが飛び降り、後部ハッチを軽く二度叩く。
それを合図に、私は積まれた装置の電源を入れた。
「はい、了解です、始めて下さい」
輸送車の後部ハッチが開き、そこから直径二メートル程の採掘機が姿を現す。
この輸送車は妖精さんとやらが動かしていると将臣さんは言っていた。
その採掘機はコンクリートの道路に先端を突き刺すと、徐々に回転速度を上げていく。
ゴリゴリと地面を削っていくのに、驚く程静かなモノだった。
それを見守りながら、チハさんからの無線に耳を傾ける。
「引き続き索敵を続ける‥‥もし敵を発見したら作業は中止、作戦領域を離脱する」
「はい、その場合は遅滞防御を行い輸送車の撤退が開始してから離脱‥‥ですよね?」
「‥‥そう」
チハさんは再度輸送車の上に陣取ると、周囲を見渡して索敵を行う。
私も輸送車を降りた後、上空に待機しているドローンを利用して熱探知を行った。
視覚に表示される景色とドローンの熱源探知画面、幸い周囲に見える高熱源体は私達だけ。
どうかこのまま、何事も無く終わって欲しい。
そう思った。
「‥‥採掘作業異常なし、予定通り進行中です」
「了解‥‥作業完了予定時刻は‥?」
定時連絡を行うと、チハさんが終了時刻を聞いてきた。
モニターに目を向けてバーを確認する、緑色で表示された数値は五%。
そこから作業効率を考え。
「20:00、帰還は早朝になりそうですね」
私はそう答えた。
「‥早く帰る」
チハさんが不貞腐れる様にそう答え、眉を僅かに顰めた。
そんな姿を見て、少しだけ笑ってしまう。
最も、私も同じ気持ちだ。
「早く帰らないと、アイツが心配」
「はい、将臣さんが心配です」
私が同意の声を漏らすと、チハさんがこちらに視線を向けて不機嫌そうに鼻を鳴らした。
ドローンのモニタ越しに、チハさんの顔が良く見える。
「‥‥一つ、気になる事が、ある」
「‥‥はい」
私がチハさんを見上げると、彼女は私をじっと見つめながら問うた。
「その、『将臣』さんと言うのは、いつから」
そんな問いに、私は一瞬だけ驚き、それから当然かと思い直す。
胸の内に湧き起こるのは少しの優越感と充足感、それから罪悪感と同情の念。
それらを必死に押し隠して、少しだけ微笑んだ。
罪悪感が勝ったのは、内緒だ。
「少し前、ですかね」
「‥‥そう」
それっきり、チハさんはプイとそっぽを向いて、私の方に目を向けなくなった。
拗ねたのだろうか、それとも悔しいと思っているのだろうか。
彼女の心情は読み取れない。
只一つ分かる事は。
彼女が私だったら、死ぬ程悔しいと言う事だけ。
採掘機が作業を開始してから、大分時間が経過した。
既に空に昇っていた太陽は姿を隠し、周囲は月明かりの淡い光だけが僅かに見える薄暗い世界へと変貌していた。
私達はそんな中、飽きもせずに警戒を続けている。
作業完了まで残り一時間、ここまでくれば後は消化試合だろう。
そう思っていたのが悪かったのか。
きっかけは、チハさんの声だった。
「‥‥ハク、何か聞こえる」
将臣さんの事を話したっきり、ずっと口を閉じていたチハさんが僅かに緊張を孕んだ声で呟いた。
私はその声に素早く返事をする。
「何の音か、分かりますか?」
「‥‥UAVかドローン、プロペラの回転音‥‥‥速い」
耳を澄ませたチハさんを横目に、私はドローンの高度を下げてビル群に潜ませる。
高度を上げて索敵を行うより、戦闘を避けろと言う将臣さんの方針を守った。
そのまま息を潜めて待つ。
念の為、採掘を中止して電源を落とす。
僅かに聞こえていた採掘の音も消え、周囲は完全に無音となった。
「‥‥‥‥」
息を潜めると、確かに何か聞こえる。
それは蚊が鳴く程の声で、チハさんの言う通りプロペラ音にも聞こえるし、何か人の呻き声の様にも聞こえた。
「‥‥方位、八時の方向、距離凡そ三百‥‥何か見える」
チハさんの言葉を聞き、その方角に顔を向ける。
人間より遥か遠くを見通せる戦車の目が、黒い豆粒ほどの物体を捉えた。
「UAV、ですね」
私の言葉に、チハさんは頷く。
その物体は小型の飛行機とも言える形をしていた。
無人航空機、恐らくは対人間用に武装したモノだろう。
強行偵察、或は哨戒の為に飛ばしているのか。
この辺りは陸上懴車の領地では無いと言うのに、私達にとってはタイミングが悪いとしか言いようが無い。
「外装甲に、高熱源反応‥‥十中八九、陸上懴車の支配下」
よく見れば、装甲に黒い生物とも言える何かがこびり付いていた。
アレはまだ解析されていない、陸上懴車、深海棲艦の一部だとも言われている。
あの黒い物体に浸食された兵器は、無人有人問わず陸上懴車の操り人形となる、それは私達戦車や艦娘を除き絶対の事柄だった。
「接触まで後、凡そ三十秒」
「‥このままでは、発見されます」
私は振り返り、輸送車を見た。
既に採掘機の収納に取り掛かっている輸送車、恐らく妖精さんは離脱する気なのだろう。
UAVに捕捉されれば、すぐに敵の陸上懴車がやって来るに違いない。
隠れてやり過ごす事は難しい。
熱探知、赤外線スキャンを行われれば一発で場所が割れる。
それならばいっそ。
「‥‥ハク、輸送車の状態」
「作業中断、採掘機収納完了、出れます」
「多分、もう捕捉されるのも時間の問題‥だから」
「はい、全速力で作戦領域の離脱‥‥ですね」
私とチハさんは頷き合い、私は輸送車の中へ、チハさんは輸送車の上に腰を下ろした。
そのまま輸送車の四隅にフックを掛け、次いで足元にアンカーを撃ち込む。
砲撃体勢を取ったチハさんを見て、私は輸送車に指示を飛ばした。
「基地に帰還します、全速力で作戦領域を離脱して下さい!」
瞬間、見えない運転手の操る輸送車はアクセルを全開にする。
上に居るチハさんの体が僅かに揺れるが、アンカーに支えられた体はしっかりと上空のUAVを狙っていた。
本来なら捕捉される前に偵察機を撃墜するのは、此処に敵が居ますと大声で叫ぶ様なモノだが。
捕捉される事が前提、尚且つ全速力で離脱をするのならば。
「どっちにしろ、一緒」
チハさんの腕が跳ね上がり、衝撃が車体を押し潰した。
タイヤが僅かに沈み、爆音が夜の町に鳴り響く。
薬莢がアスファルトに甲高い音を届けるのと、UAVの機体が木端微塵に弾け飛ぶのは同時だった。
砲口が蒸気を吹き、次弾が装填される。
これで、恐らく敵に存在が知れた。
「後は‥‥運ですかね」
「後続の偵察機か、或は敵に見つからない様、祈る‥‥」
私は輸送車の後部ハッチから夜空を見上げ、神では無く、将臣さんに祈った。
どうか、無事、あの人の元に帰れますように、と。
長い間、投稿出来ずにすみません(´・ω・`)
大学生になったら暇になると言った先輩は嘘つきです。
めっちゃ忙しいじゃないですかヤダー
理系だからですか、理系が悪いのですか?
毎週テストテストテストテストテストテストテスト
数学だ物理学だ科学だ生物だ第二外国語だ化学だ何だと‥‥。
小説を書かせてぇえええ後生だからぁァ(´;ω;`)
愚痴すみません(´・ω・`)
夏休みになったら、毎日小説書くんだぁ(フラグ