戦車これくしょん~欠陥品の少女達~   作:トクサン

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これは本編と何ら関係の無い IF ストーリーです。

ゲリラ戦、市街地戦で仮に敗北し主人公が捕虜となった場合‥‥。


IFストーリー
IFストーリー 「市街地戦 敗北」


if ストーリー

 

市街地戦 敗北

 

 

 

 作戦は、確かに賭けに近いモノだった。

跳躍地雷が目元に炸裂して、効果があるのか。

果たして、それで怯むかどうか。

元々通常兵器が通用しないと言う事は、確認済みであった。

しかし、戦車でありながらもその行動は人間に近いモノで、であるならば目や耳と言った器官に対する攻撃は多少なりとも有効打なり得ると。

そう推察しての行動だった。

 

それ以外にも、彼女達に意図を汲んで貰えるか。

砲撃は一撃で仕留める事が出来るか。

不安要素は尽きず、実際、あの死の間際になっても私は成功を確信出来ずに居た。

 

 しかし、それを大見栄切って実行したのは私だ。

自分を信じろと、さも自信満々の様に振る舞い彼女達を騙した。

 

 

ー その結果が、コレか

 

 

 私は後悔していた。

あの時、撤退していれば良かったと。

 

 見栄を張らず、碌な作戦など無いと。

戦車三台を撃破した事に満足して、欲張らずに撤退しておけば良かったと。

重戦車など、捨て置けば良かったと。

 

 私は歴戦の兵士でも、天才策略家でも、何でも無いのだ。

只の一尉官、戦車を従えた事で気でも大きくしていたのかもしれない。

馬鹿だった。

見誤っていた。

戦車と言う存在を、知った気で居た。

 

 連中は、私の知る戦車よりも強大だったのだ。

 

「コイツか」

 

 耳に響く、甲高い声。

揺れる視界の中で、ノロノロと首を擡げる。

座り込んだ私の前に、二人の影が見えた。

その影は二人の戦車のものだった。

我々を陸に追い込んだ深海凄艦の同胞、暴虐の権化。

怪物と言える二人の瞳が、赤い光と共に私を射抜いた。

片方は私と然程身長の変わらない戦車、もう片方は座り込んだ状態でも分かる、身長二メートルは有るだろう巨体だった。

 

「eliteに生身で挑んで、負けたんだっけ? 馬鹿な人間」

 

「いや、報告によるとeliteを大破に追い込んだらしい、部隊も撤退してるし実質こちらの敗北だ」

 

 それに指揮していた部隊は欠陥品、出来損ないの部隊で軽量戦車二、中量戦車一を撃破している、とても有能な指揮官だ。

そう巨体の戦車が口にすると、ひゅう、と隣に居た戦車が口笛を鳴らした。

 

「じゃあ、何でソイツらの司令官が此処に居るんだ? コイツらが勝ったんだろう? おかしな話だ」

 

「何、単純な話さ、eliteを仕留め切るだけの火力が無かった部隊は撤退、この男は生身でeliteに挑んだからな、満身創痍で撤退する事も叶わなかった、結果捕虜になる‥‥‥当然だろう?」

 

「自分達の司令官を置いて撤退するかねぇ‥普通」

 

 その言葉に、巨体の戦車が僅かに含み笑いを零すが、隣の戦車がそれに気付く事は無く、私の目だけに映った。

 

「なぁ、もう話せるだろう?」

 

 巨体の戦車が屈んで、壁に寄り掛かる様にして項垂れる私を覗き込む。

それをもう片方の戦車が興味深く見つめ、私は固く結んでいた口をゆっくりと開いた。

 

「‥‥殺せ」

 

 私の第一声は、ソレだった。

それを聞いた途端、目の前の顔がぐにゃりと嗤う。

その口元は、三日月の様に歪だった。

 

「ほぅ、殺せか、人間にしては面白い事を言う」

 

 巨体の戦車が私の顎を掴み、無理矢理上を向かせる。

添える様な力だと言うのに、妙な恐怖感が私を煽った。

その瞳は気のせいか、爛々と輝いている気がする。

それが一体何を意味するのか、私には分からない。

 

「前捕まえた奴とか、最後まで無様に命乞いしたって言うのに、随分と不思議な人間だねぇ」

 

「この人間は日本人だ、侍の血が流れている」

 

 小柄な戦車が首を傾げ、「サムライ?」と聞き返す。

その頭上には疑問符が出ていた。

 

「サムライ‥ハラキリとか、カミカゼ‥‥だっけ?」

 

「間違いでは無い、日本人には『死への美学』とも言える概念が存在する。

それこそ、切腹に神風、自ら命を捨てる事すら厭わない、ある意味最も潔い人種だ」

 

 良く分かんない、そう言って小柄な戦車は頬を膨らませる。

大柄な戦車が私の顎を離すと同時、強烈な拳が腹に叩きこまれた。

視認も出来ない、認識外からの一撃。

私は予期せぬ一撃に、容易くその拳を受け入れた。

 

「ごふっッ」

 

 内臓が迫上がって、内側から圧迫される様な感覚。

胃が裏返って、思わず胃液と血を吐き出した。

体をくの字に曲げたまま、石床にびちゃびちゃと水音が木霊する。

 

「わぉ強烈‥‥まだ生きてるなんて、随分頑丈なんだ」

 

「加減はした、本気でやったら貫通する」

 

 激痛に苛まれながら、私は緩慢な動作で視線を動かす。

頬を地面に擦り付け、ゆっくりと連中を見上げた。

その目つきは、睨めつけると言っても良い。

だが、そうやってしか抵抗出来ない自分の無力さに、腹が立った。

見下す視線には、僅かな愉悦と冷徹な光、そして面白いモノを見つけた様な、そんな残酷な色があった。

 

「‥‥面白い事を考えたのだが」

 

「‥ん、何?」

 

 巨体の戦車がゆっくりと私の前に屈み、髪を無造作に掴む。

痛みに呻きながらも、連中を睨めつける事をやめはしない。

そのまま視線を無理矢理上げさせると、こちらの瞳をじっと見つめながら口を開いた。

 

「この人間、私達の将軍にするというのはどうだろうか?」

 

 その一言に、小柄な戦車が驚きの声を上げた。

表情は見えないが、僅かに息を呑む音が耳に届く。

 

「アンタ、正気?」

 

 巨体の影から聞こえてきた声色は、非常に低い。

目の前の存在は、その回答に対して「当然」と言わんばかりに頷いた。

 

「連中が未だ抵抗を続けて居られるのは、艦娘や戦車の存在があったから」

 

 巨大な手が、滑らかに私の頬を撫でる。

血の付着した白い手は、驚く程冷たかった。

 

「そして同時に、それらを指揮する有能な指揮官が居たからだ」

 

「その人間が、そうだと?」

 

 巨体の戦車が振り向き、小柄な戦車と視線を交わす。

 

「elite隊を撃退した、それも欠陥品で‥‥十分に能力の高さを証明している」

 

「人間如きに、従えって?」

 

 その声には怒気が混じっていた。

急激に気温が下がり、それが小柄な戦車の発する圧力なのだと気付く前に、本能が屈服する。

空気が鉛の様に重くなったような、殺気に私の肌が粟立ち。

歯が鳴った。

 

 しかし、対して目の前の巨体の戦車は、その言葉に笑みを零して。

私の目を、悪魔の様な微笑みを湛えて。

こう言った。

 

 

「なぁに、問題は無い、コイツも、私達と同じにすれば良い」

 

 

「っ‥ぁ‥!?」

 

 絶句。

その一言に尽きる。

 

それは、私にとって「死」より恐ろしい、悪魔的な言葉だった。

人間の深海凄艦化、それは人を辞めると同時に、連中と同じ「負」の存在となる事。

まだ人類には知られていない、ブラックボックス。

大破着底した艦娘が深海凄艦になると言う推測は、前々からあった。

しかし、人間はどうだ?

人間が、深海凄艦になったら。

 

- どうなる?

 

故に、私にはこの先どうなるのか、それすら想像がつかなかった。

 

私の中の何かが叫ぶ。

 

 逃げろ。

 

 今すぐ逃げろ。

 

 死んでも良い。

 

 今、死ねるのならば、まだ幸せだ。

 

 逃げろ、今ならまだ、間に合う。

 

 それは、死んだ人間の念か。

或は、深海凄艦へと身を落としたモノ達の忠告だったのかもしれない。

足元から上ってくる、絶望。

人は、未知を恐れる。

それは、私にも当て嵌まった。

 

 私はその忠告にすぐさま従った。

 

 思いっ切り舌を突き出し、そのまま歯で食い千切る。

そうすれば、死ねる。

この絶望から逃れられる。

 

私は舌を突き出し、次いで噛み切ろうとして。

その歯が舌を千切る前に、強大な何かが私の頭を押さえつけた。

そして逆の手で、顎を掴む。

 

「死んでくれるなよ? 今日からお前は、私たちの上官となるのだから」

 

 見れば、目の前に大柄な戦車が居た。

そして、すぐ傍には小柄な戦車も。

 

「まぁ、勝てるなら良いんだ、強くなれるなら、ね」

 

 白い、華奢な手が、私へと伸びる。

視界が手で覆われ、冷たい温度が脳を冷やす。

必死に抵抗し、体全体を使って暴れまわるが、万力の様な戦車の力には敵う筈もない。

 

 結果、私は。

 

 

「さぁ、一緒に人類を殺しましょう? 将軍」

 

 

 

 すまない。

 

 ハク。

 

 トク。

 

 チハ。

 

 ホリ。

 

 

 

 視界を黒く染め上げる、恐ろしく冷たい何かが、私の意識を刈り取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで将軍、次は中央を襲うのでしょう?」

 

 黒い狼煙を上げる地上。

嘗て「東京」と呼ばれた、人類の最後の砦。

そのビル群や施設は、海から放たれた砲撃の雨に更地と化していた。

地面に残る砲弾痕、散らばる瓦礫や武装。

 

 地面に転がる屍は、全て「戦車」

それらは、『俺』達に挑んで敗れた哀れな尖兵。

 

「ヲ級の艦載機が制空権を奪取した、そのまま火点を迫撃砲で潰せ、弾着観測はイ号に任せる、残りは残党狩りだ」

 

 黒い軍服を靡かせ、手に持つは帝国海軍時代の刀。

金のエンブレムを飾った帽子を目深く被り、先陣を行く。

 

「前線の戦車が随分と粘っているわ、eliteから支援要請が来てる」

 

「大方、戦車に遅延防御をさせて逃げる算段だろう、全く、人間と言うのは‥‥」

 

「左翼の機動打撃部隊に強襲させろ、正面が駄目なら側面から叩く」

 

「分ったわ、将軍、私達は‥」

 

「決まっているだろう、敵の本丸を潰す、ア号以下5名の戦車は俺に続け、これで本土決戦を終わらせる」

 

 抜刀し、一歩踏み出す。

しかし、それを遮る手があった。

その人物に視線を向ければ、随分大柄な戦車‥‥ア号が俺を見て微笑んでいた。

 

「将臣、あまり急くな、君が死んだら私達は終わりなんだ、せめて私の後ろに居てくれないか」

 

 眉を下げて、申し訳無さそうに口を開くア号を見て、俺は一歩踏み出した足を下げた。

 

「お前が、そう言うのなら‥‥」

 

 抜刀した剣を下げる俺を見て、ア号は優しく笑う。

 

「ふふっ、勇ましい君も好きなんだ、だけど、失うのが怖すぎる」

 

 ア号を中心に、四人の仲間達が先頭に立ち、俺に背を向ける。

その背は大きく、圧倒的な安心感を俺に齎した。

 

「さぁ、将臣、共に行こう‥‥君が居れば、私達は負けない」

 

「あぁ‥‥当然だ」

 

 彼女達を勝たせ、誰一人欠ける事無く、凱旋を。

 

 我らに勝利を。

 

 

 

 

「行くぞッ、全ては勝利の為に!」

 

 

 

 

 高鳴る胸を抑え、彼女達と戦場を駆ける。

 

 心酔する様な強さ。

 

 共に戦える歓喜の念。

 

 人間を屠ると言う快楽。

 

 世界の為だと言う正義。

 

 

 

 だと言うのに、何故だろう。

 

 

 

 何か、胸に穴が空いている様な。

 

 空虚な気持ちが、確かにあった。

 

 

 

 

 

 

 

 大切な、何かを 俺は‥‥いや。

 

 

 

 

 

 

 ー 私は。

 

 

 

 

 

 END 




本編と何も関係ないよ!
でも、なんかこう、深海凄艦側に提督が居たら‥!
的な発想で手が止まらなかった!
後悔はしていない!(`・ω・´)

細かい所はあやふやだから、突っ込まないで下さい!(´;ω;`)ブワッ

まぁ、こんな話もあった「かも」‥‥という事で一つ。

例によって深海凄艦もヤンデレ設定です。


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