戦車これくしょん~欠陥品の少女達~   作:トクサン

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強襲

 

「敵誘導弾確認、数三っ!」

 

「迎撃‥‥ッ、間に合わない」

 

 チハさんの主砲が火を噴き、接近する誘導弾を破砕する。

爆散した誘導弾は火炎となって消えるが、残りの二つが硝煙の中から姿を現す。

 

「機銃迎撃っ!」

 

 叫ぶと同時、輸送車の側面に設置された二門の機銃が銃口を誘導弾に向ける。

一拍置いて連続した閃光が視界を白く染めた。

銃撃の中に混じる爆発音、だが音は一つだけ。

残り一つは輸送車へと迫った。

迎撃が間に合わなかったのだ。

 

 直前で妖精さんが大きくハンドルをきったのだろう、車体が傾き大きく横へと逸れる。

思わず体勢を崩して床に転がる、しかしその甲斐あって回避には成功した。

誘導弾は固いアスファルトへと着弾し、石煙と石片が飛び散る。

カンカンと、輸送車の装甲を石片が叩いた。

幾つかの大きなアスファルトの欠片が装甲に凹みを入れる。

 

「チハさんッ」

 

 至近弾に身を晒したチハさんの安否を確かめるべく叫ぶ、少しすると上からドンドンと二回ほど叩く音が聞こえた。

良かった、無事らしい。

 

「‥‥回避するなら、事前に一言」

 

「無茶言わないで下さい!」

 

 直前で避けられただけでも僥倖なのだから。

 

 

 

 結論から言えば、私達は敵に発見されてしまった。

 

 街を脱出した後、基地へと戻るべく荒れた国道を走り続けていたが、こちらを追跡する機影を確認し捕捉されているのだと理解した。

 UAVを撃墜した瞬間、砲弾の飛来した方向から割り出したのだろうとチハさんは言うが、それにしては増援が到着するのが早すぎる様に思う。

 敵が航空戦力のみと言う点から、恐らく足止めが目的なのだろう。武装も『私達の撃破』では無く輸送車の破壊に絞られたものだった。事実、これまで撃ち込まれた砲撃の数から、輸送車のダメージも決して少なく無い。所々の装甲は凹み、フロントガラスも軋み始めた。

 

「っ‥‥敵のドローン接近、数は五、機銃を積んでるッ」

 

 上のチハさんが叫ぶ。

誘導弾ではなく、機銃。

私は思わず顔を顰めてしまう。

機銃を積んだドローン、恐らく直接輸送車を破壊する事は不可能だと判断したのだ。

誘導弾や砲撃では無い、航空機の、それもドローンやUAVに搭載される機銃でこの妖精さん輸送車を撃ち抜く事は不可能。

ならば。

 

「タイヤを潰すつもりですか‥っ」

 

 要は走れなくすれば良いのだ、それを達成するには何も破壊する必要はない。

 

「妖精さん、迎撃をお願いしますっ」

 

 上から砲撃音が鳴り響き車体が揺れる、恐らくチハさんが長距離から撃ち落そうとしているのだろう。

だが、上からチハさんが「当たらない‥っ」と悲鳴を上げた。

見れば、ドローンはランダム回避を繰り返している。

あれでは遠くから砲撃して撃墜する事は難しいだろう、途中から輸送車の機銃も加わるが撃墜する事は叶わなかった。

僅かに銃弾が表面の装甲を弾くが、掠っただけでは撃墜に至らない。

 

「っ、射撃……来るッ!」

 

 上空に見える敵機体の機銃が火を噴く。

薬莢がパラパラと降り注ぎ、点々とアスファルトに穴を空ける弾丸と土柱が迫った。

 

「回避行動を! 防御装甲展開しますっ」

 

 車輪を中心に薄い装甲が展開される。

狙われると分かっている弱点をそのままにしておく程、私達は馬鹿じゃない。

しかし、車両本体の装甲と比べれば余りにも薄い壁、何度も機銃攻撃を受ければ容易く撃ち抜かれるだろう。

分かっているからこそ、妖精さんは大きくハンドルを切った。

 

「ッ」

 

 車体が揺れ、すぐ真横を土柱が通過して行く。

土埃が視界を覆うが、避けられた事に一瞬の安堵。

だが敵機は一機のみでは無い。

 

「後続、数二、駄目ッ、避けられないっ」

 

 チハさんが叫び、次いで甲高い音が鳴り響いた。

敵の機銃が車体に直撃したのだ。

装甲が銃弾を弾くが、衝撃は大きく車両を揺らす。

その内数発が車輪を覆う装甲板を強く叩いた、凹んだソレは次の攻撃には耐えられまい。

 

「妖精さんっ、RWSを使用します!」

 

 私がそう口にすると、後部ハッチ近くにあるパネルから小型の操縦桿とHMDが出現する。

這う様にしてそれを手にした私はHMDを装着し叫ぶ。

 

「チハさん、RWSを起動しました!」

 

「了解ッ、いい加減、砲撃じゃ無理……っ!」

 

 耳を劈く重低音、最後の砲撃の後、チハさんは自分を固定したワイヤーを切断し、開いた後部ハッチの隙間から車内へと転がり込む。

間一髪で後部ハッチから火花が走った、銃弾が着弾したのだ。

火砲を床に横たえたチハさんが、私と反対方向の操縦桿を握る。

 

「右をお願いします、私は左を」

 

「分かった」

 

 お互いが逆側のRWSを起動し、機関砲を動かす。

陸上懴車が相手ならば玩具でしかないが、対通常兵器ならばコレで撃墜できる。

RWSを起動すると、輸送車の上部からボックス型の機関銃が出現した。

取り付けられたカメラの映像を見ながら、車内で遠隔操作出来る無人銃架。

何度か操縦桿を動かし感度を確かめる、トリガーを引けば反動も無く閃光が瞬いた。

丁度直線状に飛行していたドローンに着弾し、二、三度火花が見え、装甲を貫いた瞬間地面に墜落した。

叩きつけられた衝撃で機体が折れ、バラバラになって爆散する。

 

「撃墜1ですっ」

 

 そう叫ぶと、砲塔が増えた事に警戒したのか一斉にドローンが距離を取る。

輸送車から計四門の機銃が火を噴くが、距離を取ったドローンには当たらない。

だが、これは逃げ切れば私達の勝ちなのだ。

HMDに表示されたMAPから、ホットゾーンをもう少しで抜け出せることを悟る。

 

「っ……当たったッ!」

 

 チハさんの操縦する機銃がドローンの一機を捉え、翼をもぎ取る。

地面に堕ちた機体はバラバラになって爆散した。

 

「残り三機、チハさんっ、あと少しでエリアを離脱出来ます!」

 

「分かった、あと、少しっ!」

 

 閃光が絶え間なく画面を照らし、四門の機銃が弾丸を吐き出す。

その内数発が機体を捉えるが、撃墜はしない。

距離を取っている為、敵の弾丸も車輪に届く事は無いがこちらも有効打を与えられずにいた。

しかし、この膠着状態は私たちに味方する。

時間が過ぎれば過ぎるほど、前哨基地が近づくのだ。

 

 数分か、数十秒か、長い時間に感じられたが、それを破ったのは一つのコール音。

見れば赤いエリアから脱した私たちの車両。

HMDを脱ぎ捨てる様に取り外すと、私は取り付けられていた無線機に飛びついた。

ここから一番近い基地は……。

 

「こちら相楽基地所属の遠征部隊ですっ、達子基地、応答願います、敵航空機に攻撃を受けていますっ、援軍を…ッ」

 

 無線は繋がっている。

伝えるべき事を簡潔に伝えた筈だが、応答は無い。

この無線を使った時点で救難信号も発信されている筈。

だが、いくら待てども返答が聞こえる事は無い。

聞こえてくるのは砂嵐の音だけ。

 

「どうして…っ」

 

 一瞬、将臣さんを見捨てようとした神田基地の事が脳裏を過る。

まさか、今回も。

 

 そして遂にガチンと、来るべき時が来た、トリガーが固まったのだ。

後部ハッチのパネル、画面の右下に表示される「empty」の文字

 

 弾薬が切れた。

 

「ハクっ、弾薬が」

 

 途端に、側面にあった砲塔も沈黙する。

車両に積まれていた弾薬を全て使い切ってしまったのだ。

元々輸送車であるこの車両には豊富に弾薬は積まれていない。

いや、これだけ戦えただけでも僥倖なのだろう。

だが、僅かに時間が足りなかった。

 

「達子基地、応答がありませんっ」

 

 私が叫ぶと、チハは驚愕を顔に張り付けた。

しかし、次の瞬間、無線機から声が上がる。

 

『こちら達子基地! こちら達子基地ッ!』

 

「っ!」

 

 通じた、無線機に向かって叫ぶ。

 

「こちら相楽基地の遠征部隊です、敵に攻撃を受けていますっ、至急応援を……」

 

 

 

 

『こちら達子基地っ、敵陸上懴車の強襲ッ! 繰り返す、強襲を受けたッ! 戦車部隊壊滅っ、撃破四、大破三、中破一ッ、死傷者多数っ、もう戦線が維持出来ませんッ! お願いします、至急増援をッ! はやくっ! 頼みます、本隊を』

 

 

 

 悲鳴、絶叫、爆音、銃声。

それを最後に、無線の通話が途切れる。

訪れるのは、静寂。

脳が機能を停止する。

 

 敵の強襲、戦車部隊壊滅、死傷者多数、戦線崩壊。

 

 手に持った無線が、震える。

救いを求める側が、一転。

 

「何、今の……」

 

 ようやく絞り出した一言は、酷く震えていて。

緩慢な動作でチハさんに顔を向けると、彼女は顔を青くして呟いた。

 

 

 

「達子基地が、堕ちた」

 

 

 





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