戦車これくしょん~欠陥品の少女達~   作:トクサン

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遠征

 

 やっと満足に動ける様になったのは、負傷してから五日後の事。

全快とは言えないが、激しい運動で無ければ行動制限も無くなり、ようやく人並みの生活を送れるようになった。

頭の包帯も無くなり、動けないストレスを感じる事も無い。

一人で動けると言う事が、こんなにも素晴らしい事だったなんて、と独りでに感動。

ベッドの上で書類を読むだけの仕事は終わり、私は早速彼女達に遠征の話を持ちかけた。

 

「遠征、ですか」

 

 作戦会議室に四人を招集したのが、午前十時。

招集してから三分で皆が揃い、私の前に顔を並べる。

 

「そうだ」

 

 私は頷くと、予め選定していた遠征ポイントを作戦会議室にあるボードに張り出した。

ホリを除いた三人は、それに視線を集める。

その中心点を指さしながら、私は口を開いた。

 

「ここが今回の遠征ポイント、敵の勢力下から外れた廃墟…と言う感じだな、知っての通り本部から受けられる補給には限りがある、足りない分は私達で補うしかない」

 

 このエリアでは主に燃料、弾薬、鋼材、ボーキサイトが回収出来る。

大体のモノが揃うので、足を運ぶ価値はあるだろう。

資材が豊富になれば、新しい装備の開発や改修も出来る。

彼女達の顔を見渡すと、今まで遠征に行った事が無かったのか、少しだけ戸惑った表情をしていた。

ハクは逆に、とても緊張している様に見える。

 

「将臣さん、遠征するとして、そのメンバーは……?」

 

 ホリが質問を投げかけ、私は「あぁ」と頷きながらメンバーを告げた。

 

「遠征のメンバーはハクとチハ、この二人だ」

 

 そう言うと、チハとハクが分かりやすく顔を歪ませた。

そんなに遠征が嫌なのかと思っていると、小さく「将臣さんと離れ離れか…」と言う呟きが耳に届いた。

小さくて、よく聞こえなかったが、この際気にしない事にする。

 

 反対はされないと思うが、一応理由を詳細に話しておく。

トクは機動力が無く、万が一敵に遭遇し、撤退する事態に陥った場合に取り残される危険がある事。

また、ホリは目が見えない為に遠征では全体に遅れを出しかねない事。

今回の目的はあくまでも資材の回収が目的であり、戦闘はなるべく避ける事を考えた上での人選であると伝えた。

 

「万が一敵と遭遇した場合は撃破では無く撤退を優先しろ、例え軽戦車一体でもだ」

 

 連中が罠を張ると言う事は無いと思いたいが………士官学校に居た頃に、噂で『陸上懴車を指揮する個体が存在する』というものを聞いた。

それが本当なら、人間と同等、またはそれ以上の知性を持つという事になる。

陸上懴車同士が連携し、罠の一つや二つ、用意出来てもおかしくはない。

警戒し過ぎかもしれないし、杞憂かもしれない。

そんな噂を気にしていたら、キリが無いと思われるかもしれない。

だが、私は注意を注意を重ね、少しでも彼女達の生還率を上げようと決めた。

 

「……その間、私とホリは基地で待機、という事で宜しいでしょうか?」

 

 トクが手を上げて、私に問う。

 

「あぁ、前線から緊急出動要請が出ない限りは、出撃に備えて待機、訓練という感じだな」

 

 念の為、ハクとチハが接敵し、救援要請が来たら出撃が可能な様に準備はしておくが。

少しの間が空き、メンバーである二人がコクンと首を縦に振った。

 

「……分かった、私は構わない」

 

「わ、私も……い、行けます」

 

 ハクとチハは、先程の表情を一転、凛々しい顔つきとなり、遠征任務を承諾した。

それから、二人はとても重要な事の様に私に向き直り、問う。

 

「そうした方が、アンタは嬉しいんでしょ?」

 

「そうすれば、将臣さんは喜びますか?」

 

 何故、そんな事を問うのか。

少し面食らいながら、「あ、あぁ」と答えると、満足そうに頷き、二人は私に「任務開始は?」と問うた。

 

「………可能であれば、今日の午後には出れるが」

 

「なら、早い方が良い」

 

「そうですね、私、装備の方見てきます!」

 

 そう言って、二人は意気揚々と会議室を後にした。

最初の表情が嘘の様に、やる気に満ち溢れている。

 

「……一体どうしたんだ」

 

 私が呆然と呟くと、トクはどこか呆れたように息を吐き出し、ホリはニコニコと微笑んでいた。

その表情を見て、「何か知っているのか?」と問うと、トクは「どうでしょう?」と肩を竦め、ホリは「ふふっ」と笑う。

 

「少なくとも……『協定』がある間は、ね」

 

「えぇ、そうね」

 

 二人が意味ありげな会話を交わし、お互いの意思疎通を行う。

 

「………?」

 

 私だけが理解出来ず、置いてけぼり。

 

「な、なぁ、協定とは何だ……?」

 

 私はそう問うが、二人が答える様子は無く、微笑んだまま佇んでいるだけだった。

 

 

 元々、ボーキやら鋼材は、陸地から産出していた。

しかし一昔前、まだ艦娘が存在していた頃は、ボーキサイトや鋼材も全て海から取れたそうだ。

何でも『妖精さん』なる存在が、特殊な加工を旧艦に施し、サルベージに近い形で資材調達を可能にしていたとか。

つまりは、実質鎮守府……基地単体で全て調達可能な環境だったらしい。

羨ましい限りだ。

 

 現在。

制海権を連中に奪取され、艦娘が全て撃沈された後。

 

 『妖精さん』は消えた。

 

 まるで元々居なかったかの様に、跡形も無く消え去った。

しかし、彼女達が改良した艦、装備などはそのまま残っており。

居たと証明出来る物的証拠は、有る。

だからと言って、制海権を取られた今、艦娘の護衛も無く海に出れる筈が無く。

改良された艦は中央のドッグに眠っている。

 

 そして、人型の戦車が確認されると同時に、『妖精さん』に代わる存在が現れた。

 

 それは、私達の目には見えない。

同時に、戦車の目にも。

 

 姿の見えない存在なのに、居ると断言するのも変な話ではあるが。

彼ら……若しくは、彼女達は、私達の願いを叶えてくれる。

戦車達の装備を整えたり、遠征の際に資材を調達してくれたり、新しい武装を開発したり………。

例えば、これは整備兵の話ではあるが。

戦車達の装備を改修する場合は、改修する装備を用意し、隣に必要な分の鋼材等を置いておくそうだ。

そして一時間か二時間、その部屋を密室にして、誰の目にも触れない様にする。

すると、そこには改修された装備があるらしい。

 

 誰がやっているのか。

どうやっているのか。

私達には観測しようがない。

 

 だが、元々艦娘と共に戦った人間は、口々に言う。

 

 『妖精さん』のお陰だと。

 

 

 

「準備は万端、問題無い」

 

「はいッ、私も行けますよ!」

 

 午後一時、基地の出入り口。

ハクとチハが、武装を身に纏ってやる気満々に答える。

私はその返事に頷きながら、再三同じ事を繰り返し口にした。

 

「良いか、エリアに入ったら、後は『妖精さん』がこの輸送車に資材を詰め込んでくれる、お前たちは敵の接近にだけ注意してくれ、もし敵が見えたら即時中止、撤退しろ、コイツは『妖精さん』お手製の装甲でガチガチに固めてあるから、お前たちは逃げる事だけを考えろ、いいか、絶対に……」

 

 そこまで口にして、「少佐」と背後から肩に手が掛かる。

背後を見れば、トクが不機嫌そうな顔で肩を掴んでいた。

どうやら前のめりに話していたらしい。

気付けば、ハクの顔が間近にあった。

隣からは、チハの冷たい目線も。

目の前のハクは頬をどこか赤くしながらも、何故か唇を突き出している。

目も閉じて。

何故そんな体勢をしているのか、分からない。

 

 誤魔化すように体を起こし、ごほんと咳払い。

その後、「くれぐれも、無理をせずに」と締めくくった。

恥ずかしさから、軍帽を深く被る。

 

前から「後、少しだったのに……」と聞こえたが、聞こえない振りをする。

 

「無事に帰ってこいよ」

 

 彼女達に敬礼を送り、ハクとチハも敬礼を返す。

見送りのホリとトクも直立不動の敬礼を見せた。

 

「ホリさん、トクちゃんッ! ぬ、抜け駆けのし過ぎは駄目ですからね!」

 

「同じく、帰還したら確認するから…」

 

「まぁ、善処はするわ」

 

「えぇ……『善処』は、ね」

 

 四人が何やら、私には分からないコンタクトを取る。

何だか、最近疎外感を感じるようになった。

悲しい。

 

「では、行って参ります!」

 

「……行くわ」

 

 二人が基地を出立し、私達はそれを見送る。

トクとホリも、二人の前では気丈に振舞っていたが、少しだけその表情は不安そうだった。

私とて、不安は拭いきれない。

段々と見えなくなって行く二人の背を、私達はずっと見ていた。

 

 






 実は艦これのゲームはやった事が無くて…(・ω・`)
動画を何度か見た程度なんですよね…なので、妖精さん設定とかもう超滅茶苦茶。
私の設定では、何でもカバーできちゃう超人(人?)設定。

 今回はヤンデレっていうか、普通にデレだった(・ω・`)

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