戦車これくしょん~欠陥品の少女達~   作:トクサン

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想い

 

「過去の将軍がどうだったかなど、関係ない、私は、お前達が仲間だと思っているから、勝ちたい、死なせたくない、そう思う」

 

 

 

 そんな事を言った将軍は、アンタが初めてよ。

 

 

 

 私は心の中で、そう思った。

 

 私達戦車は、戦う為に生まれてきた兵器。

艦娘と呼ばれた存在と、根本的には同じ、人とは相容れぬ強き存在。

それ故に、欠陥を抱えた兵器は存在意義を失う。

使えない道具として、欠陥品として、蔑み、罵られ、見捨てられる。

 

 今まで、多くの悪意をぶつけられて来た。

何度も何度も、何度も何度も裏切られ、傷つけられ……。

きっと、私達は救われる事など無いのだと。

そう思って生きて来た。

 

「私を信じろ」

 

 そう言ったアンタの目は、力強くて。

自信と、プライドに輝いていて。

それでも、その奥底にあるのは……私達への信頼。

思わず、頷いていた。

信じたいと思った。

 

 それでも、ほんの少しだけ、不安になって。

アンタが去って行く後ろ姿を眺めた。

それに気付いたアンタは、一瞬、驚いた顔をして。

 

 手を振って、微笑んだ。

 

 初めてだった。

私がこうなってから、私に微笑んでくれた人なんて。

 

 初めてだった……。

信頼されるのも、死なせたくないと言われたのも、仲間だと言われたのも。

 

 この人なら。

 

 この人ならば。

 

 もしかしたら。

 

 信じても、良いのかもしれない。

 

 今まで期待しても裏切られて、馬鹿の一つ覚えみたいに繰り返した連鎖を。

断ち切ってくれるかもしれないって。

 

 本当に、そう思った。

 

 

 

 

 

 思ったのに。

 

 

 

 

 

 「ぐぉッ…」

 

 目の前で、自分を唯一認めてくれた人が、砲撃に呑まれる光景。

それは、余りにも衝撃的で、血の気が全身から失せた。

 

 最初、爆音が轟いた時は、不安になった。

思わず、無線に叫んだが、アンタが応答する事は無かった。

それから、断続的に聞こえる爆音と建物の倒壊する音が激しくなり、私は焦りを覚えながらも、じっと待った。

 

 アンタが信じろと言ったから。

 

 アンタが待っていろと言ったから。

 

 だから私はじっと待った。

待って待って、待って待って待って待って待って待って待ち続けた。

 

 他の皆も一緒だった。

不安げに無線を眺めて、爆音が轟く度に肩を震わせた。

不安で、仕方なかったのだ。

 

 

 そして。

 

 

 走るアンタが視界に入った時。

私は自分でも分からない、強い安堵の気持ちを抱いた。

それから、すぐに駆け出そうと思った。

じっと待っているのは、限界だった。

ましてや、すぐ目の前にアンタが居るのに。

でも、無線でトクが制止する。

 

『チハ、駄目よ………大尉の言葉を忘れたの?』

 

 その声は、搾り出すような声だと覚えている。

そして、私は待っていろと言う言葉を思い出す。

命令、約束……いや、あれは信頼だ。

だから、破る事は出来なかった。

唇を噛んで、出血するまで噛んで、じっと耐えた。

 

 それから、後、十メートル。

 

 それで終わると、思ったのに。

 

「ぐぉッ…」

 

 目の前で、自分を唯一認めてくれた人が、砲撃に呑まれる光景。

アンタが爆発で宙を舞って、地面に叩きつけられ、人形みたいに地面を転がる様。

今までの戦闘でボロボロになった野戦服に、血だらけになって、砂まみれになって。

血を吐いて、這い蹲って。

 

 足元が、グラグラと揺れた。

まるで、世界が終わってしまうかのような錯覚。

そんな、制御出来ない、強い不安。

動揺。

 

 重戦車がゆっくりとアンタに向かって歩き。

まるで、最期の瞬間の様に。

 

 

 殺される。

 

 そう思った。

 

 そう思ったら、限界だった。

 

 私も、皆も。

 

 

「ラクニハ、コロサン」

 

 そして、次の瞬間に炸裂するのは、アンタの策。

跳躍した地雷が、強い爆発を引き起こし、重戦車が怯んだ。

 

 それが合図だと思った。

 

 ありったけの憎悪と、怒りを砲弾に乗せた。

肩の主砲が火を吹いて、奴の装甲の薄い部分。

首を文字通り、食い破った。

私の砲弾が、首を貫き、他の誰かの砲弾が側頭部を撃ち抜く。

それから、腹部に胸部も。

ズタズタになった奴が、ゆっくりと倒れ伏し、動かなくなった。

それでも、気分は収まらなかった。

 

 ハクが一番最初に、走ってアンタの元に向かった。

それから、トクに手を引かれて、ホリも。

私もすぐに走り出して、叫びそうになった。

近くで見たアンタの姿は、まるで死人だったから。

剥き出しの肌は、紅く染まって、砂と土に汚れたその姿は、死体みたいで。

不安になった。

もう、二度と目を開けないんじゃないかって。

 

 私は、死んだ重戦車の死骸の傍に立って、主砲を構えた。

 

 そして、砲撃。

 

 コイツが。

 

 全部悪いんだから。

 

 コイツが。

 

 だから。

 

 何度も。

 

 何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も。

 

 そして、トクに肩を抑えられて、止められた。

気が付けば、重戦車の死体は、上半身と下半身が分断されて、腹部は粉々になっていた。

その残骸を、酷く冷たい目で見たトクは「弾の無駄よ」、そう言って私を制止した。

 

「……そう」

 

 それっきり、主砲を下ろす。

 

「主砲の弾だって、大尉が調達するの……大事になさい」

 

「ん…」

 

 それも、そうだね、と。

それから、二人でアンタの元に戻って、ずっと待った。

 

 アンタが、目を覚ますのを。

 

 




やっとだ…(´・ω・`)

ヤンデレって良いですよネ?(`・ω・´)

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