応急処置を終えた後は、皆で建物の影に隠れ、作戦会議を行った。
バックパックに、念の為に用意して置いた旧札幌の市街地見取り図を広げ、皆で囲む。
「重戦車はこの位置に居た、このポイントBからだと大体500m位の距離、そこの雑居ビル、屋上から旧JRビルに主砲を向けてた」
そうして指さされた位置は、それ程遠くない距離。
「……そこから砲撃をして来たのだろう…移動は?」
「してないと思う、じっと動かずにビルを見てたから」
「装甲、主砲は?」
「一度確認したけれど、装甲は分厚い、両手に大きな盾みたいな装甲を二つ、それに両肩と腰、背中にも火砲があった、全部で五門、まるで要塞」
まさしく、歩く要塞という訳だ。
どうする、そうチハの瞳が私を見た。
他の三人も、私の言葉を待っているらしい、じっとこちらを見つめる。
私は大きく息を吐き出すと、地図の上に指を滑らせた。
「……本当なら、包囲して一気に集中砲火を浴びせたい、だが相手も全方位に火砲を持つ重戦車……正面からバカ正直に挑むのは無謀だ」
せめて、何か一手欲しい。
それが正直な所だった。
「…そうですね、包囲しても、逆にこちらが撃破される……何て展開も有り得ます」
「主砲が一つだけなら、何とかなったかもしれないけど」
「どど、どうしましょう…私も、五門の砲撃は避けられる自信が、あ、ありません……」
「主砲の位置からして、多分正面で同時砲撃出来るのは四門、側面で三門、そして背後が五門よ」
「………厄介ですね」
皆が唸る様にして考え込む。
そして私は、段々と選択肢が狭まっている事に気付いた。
重戦車の位置は、ここから約500mの位置。
それでいて、その要塞の様な重戦車を仕留めるには、集中砲火以外有り得ない。
それも比較的至近距離での。
仮に上手く包囲出来たとしても、相手は五門の火砲を持ち、下手するとコチラが全滅する。
つまり、包囲して集中砲火する状態に持っていきつつ、相手が砲撃不可能な状態にする必要がある。
どんな無茶だと、内心一人で笑った。
結局、彼女達を生きたまま基地に返すには、リスクを負う必要があるという事だ。
問題、は誰がそのリスクを負うのか。
「……………」
誰もが口を噤み、重い空気が肩を押さえつけた。
皆が皆、強敵の存在に意気消沈し、行き詰まった状態で精神的に一杯なのだ。
それが、雰囲気として現れている。
それを見て、私は決心した。
元より、道具に出来ないと、そう決めたのは私だ。
そして、仲間だとホリに豪語したのも。
将軍の義務を、思い出せ。
そう言って、自分を鼓舞した。
「よし、何ら問題無い、策はある」
ワザと、自信満々の様に立ち上がり、座り込んでいる他の四人を上から見下した。
力強く、腹から声を出し、恰(あたか)も勝利を確信しているような、そんな雰囲気を醸し出した。
皆が皆、私を見上げ、表情を段々と変化させる。
「お前達は待てば良い、良いか、よく聞け、お前達はこの商店街に隠れ、機会を待つんだ、そして、その時が来たら、容赦なく奴を撃ち抜け」
勝てる、勝てる、そう思い込ませろ。
「奴を此処まで誘い込ませる、お前達には理解出来ないような、崇高で天才的な策が、私にある」
まるで、過去ここに着任し、失敗した将軍の様な言い方だと思った。
「良いか、絶対、何があっても、ここに隠れ、機会を待つんだ、そして私の合図で砲撃を撃ち込め」
最後は、まるで自信家の様に。
されど、絶対なる実力に裏付けられた、本当の笑みで。
「私を信じろ」
そう言い切った。
彼女達の表情が、段々と和らぎ、そして、全員がゆっくりと頷いた。
どうやら最低限の信頼は、あったらしい。
これで首を横に振られていたら、打つ手無しだった。
「よし、トク、ホリに撃つ方向を示してくれるか? 勿論、トク自身も砲撃する前提なのだが」
「はい、大丈夫です」
その返事に頷き、私は商店街の通路に出ると、その中心に立った。
「此処に奴が来ると想定して、最もベストな位置についてくれ、判断は各々に任せる、では…行動開始!」
そう言い放つと同時、ハクはオロオロしながら潜伏場所を探し、チハは一目散に走って行った。
トクはホリの手を取って、辺りを伺っている。
これで良い。
私は私の行動を開始した。
バックパックから地雷を取り出し、適当な瓦礫を通路にばら撒きながら、それに混ぜて設置した。
カモフラージュになるよう、巧妙に。
それが終わったら、少しだけ軽くなったバックパックと肩撃ち式多目的強襲兵器を肩に背負って、歩き出す。
方向は勿論、重戦車の居る方向。
ふと、背後に視線を感じて、振り返ると。
商店街の建物に混じって、物陰から視線を寄越すチハが居た。
視線からは、気のせいだろうか、どこか心配そうな雰囲気が感じ取れる。
若しくは、私に対する、期待の目か。
それとも、失敗するなよという、無言の圧力かもしれない。
結局、私にその視線の意味など汲み取れるハズもなく。
片手を上げて、微笑む事しか出来なかった。
そして、重戦車の居る雑居ビル目掛けて走り出す。
策など、無い。
私が考えついたのは、精々私を囮に、敵を誘き寄せる方法だけだった。
重戦車をあの商店街まで誘き寄せ、何とか一瞬でも行動不能に、或いは砲撃不能な状況にし、一気に畳み掛ける。
下策も下策。
それが出来れば、苦労しないんだよって言うレベルだ。
だが、やるしかない。
この作戦の要は、どこまで敵に悟られず誘導出来るか。
そこに掛かっている。
彼女達の安否も、自分自身の生死も、全て私の行動に左右される。
今更になって、足が震えだす。
疲労ではない、純粋に恐怖が膝を笑わせ始めたのだ。
今になって漸(ようや)く、彼女達の命が自分の肩に乗っているのだと理解した。
そして、とんでもなく恐ろしい感情が、胸中を支配し始めた。
それを、士官学校次席のプライドと、彼女達の微笑み、次いで、中央へ戻ると言う願望で、掻き消す。
恐怖を消せるなら、何でも良い。
自分を鼓舞し、言い聞かせた。
私は、相楽基地の将軍だぞ………と。
道中、ありったけの地雷とトラップを設置し、バックパックは中身はスカスカになった。
背負っている重量が一気に軽くなり、何となく違和感を感じながら、重戦車の雑居ビルへと辿り着く。
敵は一切動く様子は無く、音を立てない様に細心の注意を払って、近くのビル裏に隠れた。
そして、物陰から見上げたソイツの姿に、思わず息を飲む。
外観は、チハの言っていた通り。
肩、腰に二門ずつ、背中に一門、そして両手に大型の装甲板を二つ。
正に要塞、人の形で顔が見えなければ、タダの鉄の塊と称しても違和感が無い程だった。
そして、これ程近くで陸上懴車を見た事が無かった私は、その威圧感に圧倒された。
こいつが、人類の敵か。
青白い肌、黒く、生きた様にも見える装甲、女性型で、モデルの様な体つき。
だが美しいと言える筈の姿なのに、そこからは禍々しさしか感じない。
その姿を確認した後、私は静かに無線の電源を切った。
これから、きっと周囲に爆音が轟く。
そして、彼女達は察するだろう、私が単独で戦い始めた事に。
その時、判断が鈍る事は、あってはならない。
無線で、助けを求める様な醜態は晒さない。
無線と耳に装着していた受信機を取り出し、地面にそっと置いた。
私は、覚悟を決める。
肩に背負っていた肩撃ち式多目的強襲兵器……M72LAWを下ろす。
後部を引き伸ばして展開し、ピンを抜き、カバーを外してスリングを取った。
そして肩に乗せるようにして構え、照準越しに重戦車を捉える。
「……っ」
照準越しに見えた姿に、唾を飲み込んで、引き金を引いた。
同時、強烈なバックブラストが発生し、先端から弾頭が撃ち出される。
音に気付き、重戦車が振り向くが、それよりも早く弾頭が重戦車の側面に着弾した。
そして、爆発。
着弾を確認した後はLAWを投げ捨てて、バックパックからグレネードランチャー、アーウェン37を取り出し、バックパックを放置したまま走り出した。
少しでも身軽に。
そして、想定していたルートを全速力で走る。
背後を振り返る余裕は無かった。
「……ヌルイ」
ぞくりと。
肌が粟立って、建物の影に飛び込んだ。
瞬間、砲撃が地面を抉り、私の居た場所を消し飛ばした。
石片が体を打ち、頬に切り傷が出来る。
あまりの火力に、背筋が凍った。
慌てて立ち上がり、走り出す。
「オマエ、ニンゲンカ?」
振り向いて確認すれば、雑居ビルの屋上から飛び降りた重戦車が、背後より迫っていた。
重戦車は、ノロイ。
だが、それはあくまでも『戦車にとっては』
人間からすれば、十二分過ぎる程に早かった。
敵の質問には答えず、代わりにグレネードを二連射。
ライフルの弾丸と比較すれば、遥かに大きい弾が飛来し、重戦車はそれを盾で受け止めた。
爆発音と爆炎が重戦車を覆い、僅かに足が止まる。
だが、それだけ。
爆煙から抜け出した重戦車の装甲は、毛ほどにも傷ついていなかった。
それはそうだろう、何せ、このグレネードは対人用。
対戦車戦闘など、微塵も想定していないのだから。
「………コノテイドデ、タオセルト?」
はッ、思ってる訳無いだろ。
そんな悪態を吐く余裕すら無く、只管(ひたすら)ジクザグに走った。
纏わり付くような、背後から迫る、圧倒的なプレッシャー。
もう一度、牽制する様にグレネードを三連射し、重戦車の足を止めた。
しかし、予想通り、両手の装甲で防がれ、本体に当たりもしない。
距離を稼ぎながら、弾帯から弾を取り出してリロードする。
「ッチ……イイカゲンニ…」
重戦車がそう言って大きく一歩踏み込んだ瞬間、地面が一気に捲れ上がった。
「ナニッ!?」
爆音と、爆煙。
地面から火の柱とも言える様な光が、一瞬にして溢れ出し、重戦車を押し上げた。
設置地雷、その一つ目。
地雷を複数個、ルート上に設置し、それを足止めとして使用する。
リロードを終え、重戦車が地雷の衝撃に足を止めている内に、距離を稼いだ。
「クッ…コシャクナァ…」
重戦車が、表情を怒りに染めて姿を現す。
それなりに威力のある地雷を選んだ筈だが、その姿は…無傷。
やはり、通常兵器で陸上懴車を撃破する事は、不可能。
分かっていた事だが、余りにも非科学的な事に、思わず挫けそうになった。
それでも、足を止める事はしない。
「…コノネズミガァッ!」
背後より、砲撃。
すぐ真横を、黒い何かが高速で追い抜き、自分の僅か数メートル前方に着弾、飛び上がった土とコンクリートが全身を打った。
飛び散った石片で服が破れる。
痛みは、頬肉を食いちぎって、耐える。
お返しとばかりにグレネードを撃ち込むが、最早足を止める事すら無かった。
正面から装甲で防ぎ、そのまま前進してくる。
ならばと、その足元目掛けて発射すれば、爆発がコンクリートを砕き、重戦車が足を踏み外した。
「グォッ!?」
かなりの重量がある為か、大きくバランスが崩れるものの、倒れる事は無い。
続けて二、三発と撃ち込んで、走行を妨害した。
「ガァ、コンノォ!」
肩の二門がこちらに照準を合わせるのが見え、飛び込む様にしてビルの中に退避する。
そして、砲弾はビルの壁を撃ち抜き、タイルの床に着弾、周囲を粉々にした。
それを伏せの状態でやり過ごした私は、立ち上がり、走り出す。
入った時とは反対側の出入り口から、飛び出し、同時に入れ替わる様にして重戦車がビルの扉をぶち壊し、追って来る。
「マテッ、コノ、ネズミガァ!」
「っは…はっ…埋まってろぉォ!」
そう叫び、ポーチに入れていたスイッチを握る。
同時、ビルの一階にある支柱全てに設置された爆薬が点火、爆発。
凡そ八階分の重量が、一気に下層へと降りかかった。
強烈な爆音に続き、建物が倒壊する風圧、瓦礫が次々と降り注ぎ、その風圧に流され、地面を何度か転がり、砂まみれになって起き上がった。
そして形振り構わず、走り出す。
背後から、怒りの咆哮と共に、重戦車が瓦礫を吹き飛ばし、姿を見せる。
「コ………ロ……コロ………コロス、コロスコロスコロスコロスコロスコロスゥォォアアアッ!!」
正面から、四門。
全てが一斉に火を噴き、私の前方にあった建物を一撃で吹き飛ばした。
それでも、足を止めずに走り出す。
「マテェッ! オマエハ、ゼッタイニコロッ」
瓦礫を押しのけ、ビルの敷地から一歩出た瞬間。
爆発。
設置地雷、二つ目。
今度は密集して設置した分、先程より大きな爆発となって重戦車を襲った。
土砂が柱の様に舞い上がり、火柱が走る。
熱波が背中を後押しするが、それでもきっと、コイツは撃破出来ない。
これは、チキンレースだ。
コイツにギリギリまで悟られず、商店街まで誘導する。
振り切っても駄目。
捕まっても駄目。
ギリギリの距離をキープし、誘導する。
「カ……ァア…ァァアアッ!!」
重戦車が火の粉を纏って、前進して来る。
すぐさま足元目掛けてグレネードを撃ち出し、走行を妨害。
それから、閃光弾をベルトからピンを抜き、後方目掛けて転がした。
目をつむり、光を遮る。
一瞬、瞼がオレンジ色に染まったが、重戦車に効果があったかどうかは確認せず、走り出した。
「ォ…ォオアアッ!」
宛(さなが)ら、猛牛の突進とでも表現すべきか。
勢いは、衰える事を知らない。
だがこれならばと、私は一際細い路地へと入り込んだ。
横幅は、精々重戦車がギリギリ通れるかどうか、と言う程度。
そこは直線で、重戦車にとっては絶好のスポットだろう。
私がそこに逃げ込むと、重戦車は勢いよく追って来た。
「ラクニハ、コロサン、コロサンゾォッ!」
ガリガリと。
僅かに横幅の幅が大きいのだろう。
腰の砲台が左右の壁を削りながら、私目掛けて突進して来る。
同時に、腰の火砲が音を立てて私に向いた。
そして、その砲撃が敢行される直前に、ピン、と何かに足を引っ掛ける重戦車。
「ア?」
結果は明白。
左右の壁が爆散し、同時に足元からも地雷の爆発。
C4の高性能爆薬と地雷のセット。
怒りが故に、足元がお留守。
そしてそれだけでは無く、そこを中心に連鎖的な爆発が起きた。
前方、後方、全方位からの爆発。
ダメ押しとばかりに、目潰し替りのクレイモア。
連中にとっては豆鉄砲だろうが、人間でも大量の豆をぶつけられれば、痛い。
大規模な爆発に、私は路地を抜けるとすぐに横に向かって飛び、地面に伏せた。
大きな瓦礫が宙を舞い、重戦車を中心とした十メートル程が更地と変わる。
その中心で、重戦車は膝を折った。
「ク………カッ………」
流石に、傷は負わなくとも、痛みは感じるのか。
数歩、蹈鞴(たたら)を踏み、それからすぐに私を視界に捉えた。
「ニン…ゲン……ッ」
その言葉には、何れ程の憎悪が篭っているのか。
私はすぐに立ち上がると、駆け出す。
重戦車も続くように、数秒の後、私の後を追って駆け出した。
これで道中のトラップは、全て使い尽くした。
後はもう、手持ちのグレネードと、手榴弾、閃光弾のみ。
追ってくる重戦車の足元目掛けてグレネードを連射し、手榴弾を投擲。
爆発と爆炎が重戦車を包むが、足は全く止まらなかった。
どうやら、適応して来たらしい。
前方を見て、商店街を確認。
残り、後百メートル。
全速力で、十四秒。
閃光弾を地面に放り、目を瞑りながらグレネードをリロード。
閃光が瞼をオレンジに染め上げ、リロードを終えた瞬間、重戦車の足元に撃ち込んだ。
閃光弾がどの様な効果を齎(もたら)すか、恐らく先の一回で学習したのだろう。
重戦車は両手の装甲で視界を覆っていた。
故に、好機。
その目が見えない状態の重戦車の足元目掛けて撃ち込んだグレネードは、見事そのコンクリートを砕いた。
「クッ!?」
視界が見えない状態で、僅かにバランスを崩し、思わず体が傾く。
そして、私はすかさず足元にグレネードを全弾撃ち込んだ。
両足全ての地面を砕くように、爆発と爆風が、重戦車の足を絡め取る。
「ヌァアッ!」
そして、遂に重戦車が転倒。
重量にコンクリートが砕かれ、鉄骨が地面に落下したかの様な音が響いた。
私はそれを見て、グレネードを投げ捨てる。
グレネードは軽い音を立てて地面を滑り、後方に消えた。
同時に、弾帯も取り外し、ありったけの手榴弾と閃光弾のピンを抜き、重戦車目掛けて投げつけた。
後は、両腕で目を隠しながら、全速力で走る。
後方で、強烈な連続爆発、閃光が瞬くのを感じた瞬間、叫びながら、死力を尽くして走り抜いた。
後、二十メートル。
後、十メートル!
そして。
後方から、砲撃。
それが、マグレだったのか。
それとも、狙った一撃だったのか。
一発が、至近弾で、すぐ真横に着弾した。
「ぐぉッ…」
正しく。
飲み込まれる。
土砂が自分を飲み込み、爆発が体を焼き、石片が凶器となって全身を襲う。
足が地面を離れ、上下が逆転した。
自分がどこに居るかも分からず、次の瞬間、地面に叩きつけられる。
肩から勢い良く落ち、首元でプツンと、何かが切れた。
それが鉄帽の留め具であると分かった瞬間、頭部に衝撃。
それから、何度も天地が逆転した。
「っ……かはッ…」
転がり、転がり、ようやく止まる。
視界が回って、何もかもが輪郭を失う。
呼吸しようと息を吸い込むと、代わりに血と土砂が吐き出された。
口の中が、血の味で一杯。
仰向けから、這うような格好になり、それだけで内臓が痛みに悲鳴を上げた。
たまらず、嘔吐。
だが、その嘔吐物は、殆どが血で。
これじゃ吐血じゃないかと、頭の片隅で思った。
「ニンゲン、オマエハ、ショウサンニ、アタイスル」
爆煙の中から、鳴る金属音。
私はその正体を知っている。
「ワタシヲココマデコケニシタノハ、キサマガハジメテダ」
爆煙が掻き消され、その向こう側から黒いシルエット。
私はそれから逃れようと、一心に這う。
コンクリートに爪を立てて、ずるずると、恥も外聞も殴り捨てて、這った。
べりっと、爪が剥がれ、気力が尽きる。
近くにあった瓦礫を、何の抵抗にもならない事を分かっていて、掴んだ。
そして、それが姿を現す時。
「ユエニ」
正しく。
「ラクニハ、コロサン」
私達が、勝つ。
瞬間、ボンと、重戦車の足元から、何かが音を立てて飛び上がった。
それが何であるか、設置した本人、私だけが知っている。
名を、跳躍地雷。
私は、チキンレースに勝った。
「ッ!?」
顔面スレスレに、突然現れた地雷。
それが至近距離で炸裂し、同時に、四方から同時に砲撃音が轟いた。
重戦車を見上げるように倒れていた私は、その命中した瞬間を、この目に焼き付ける。
腹部と、胸部、側頭部に、首。
食らいつく様な砲撃が、重戦車の装甲をぶち抜き、一瞬にして勝負は終わった。
頭部が文字通り吹き飛び、側面から放たれた砲撃が腹部と胸部を食い破る。
後に残ったのは、無残な死体、スクラップ。
ゆっくりと、頭部の無い重戦車が膝を折り、手にした二つの装甲板が音を立てて地面に転がった。
そして、前のめりに倒れ伏す。
青い血がじわりと広がり、うつ伏せになった私の指先を浸した。
「勝………った」
同時に、私も精根尽き果てる。
血まみれの視界の中で、もう指先一つ動かせないと、自覚した。
それは勝利故の安堵からか、それとも単純に負傷の為か。
これ以上は、もう、無理だ。
視界が段々と、紅く染まって。
私の意識は、ぷっつりと途絶えた。
書きたい様に書いたらこうなった(´・ω・`)
ツッコミは無しよ(´・ω・`)
……二回に分けたかった(´;ω;`)