必要な武器、バックパックは幸いにして、私の近くに転がっていた。
それを回収し、ホリの搜索に向かう。
私の落下したフロアに、下層へと続く大穴があった。
恐らく、ホリが落ちて行った時の穴だろう、重量に床が耐えられなかったのだ。
下手すると、一階まで落下しているかもしれない。
急いで非常階段へと向かい、下層へ向かって階段を駆け下りた。
階段は上るときよりも、下る時の方が体力を使う。
それを実感する。
五階分程駆け下りた後、フロアに顔を出して穴を確認。
穴は更に深くまで空いており、結局十階まで一気に駆け下りた。
階段を駆け下りる内に、すっかり息が上がってしまった。
呼吸は荒く、息を吸い込む度に肩に掛けた武装がくい込んだ。
「ぜぇ…はっ……ホリ、無事か…?」
無線に話しかけると、少しのノイズが走り、遅れて声が聞こえてくる。
『はい、大尉こそ……大丈夫ですか』
「何…はっ、この程度、息が上がっているだけさ…はぁ…」
十階、九階と下って行き、八階で穴を確認。
そして、遥か下に何かが埋まっているのを見つけた。
恐らく、ホリだ。
「ぜっ…はっ……ホリ、お前を視認した」
『え、本当ですか…?』
「はぁ…あぁ、今、八階だ…はぁ」
更に下り、二階に到達する。
思わず床に座りたくなる衝動に駆られるが、重戦車の索敵を行っている三人に申し訳無く思い、そのまま気合で走り出した。
フロアに入ると、まるで一階を埋める様にして、二階の床が抜けていた。
そして瓦礫の山の頂上、そこにホリが埋まっている。
「ホリ!」
穴の中を覗き込んで名前を呼ぶと、ぴくりと肩が跳ねて、顔だけがこちらを向いた。
「大尉……すみません」
瓦礫の中で肩あたりまでが見える。
顔周辺を見る限り、怪我は無さそうだ。
「いや、…はぁ、はっ…謝るな、怪我は?」
「恐らく、大丈夫です」
「取り敢えず一度退いて体勢を立て直すぞ……」
「……はい」
そして、ホリを瓦礫から救い出すべく、装備を全て一旦地面に起き、発掘作業を始めた。
どうやら、彼女の展開した追加装甲が瓦礫に埋もれて、身動きが取れなくなっているらしい。
装甲の取り外しは可能かと問えば、可能だと返事が返ってきた。
少し惜しいが、脱出の為に追加装甲を切り離し、彼女の脱出を助ける。
「っ…あ、抜けました!」
ホリの周囲の瓦礫を退かし、力技で体を引き抜く。
ホリが瓦礫の山から抜け出したのを見て、そのまま手を引き、装備を回収した後ビル外へと出た。
一応、彼女の全身をくまなく調べて負傷が無いか確認する。
多少の傷は見られたが、殆ど無傷に近かった。
流石戦車、頑丈な様で安心した。
「よし、後は皆と合流するぞ、BT、CT応答しろ」
『はい、こちらBTです』
『感度良好、CTよ』
即座に返事が返ってくる。
まず、ホリを回収した旨を伝え、敵の位置を問うた。
『私が発見した、重戦車の位置はH8、そのビルからは3,000mの距離よ』
『既にBT、CT共にポイントBに集結しました』
『あ、後は笹津大尉とホリさんだけ、です』
「了解した、急行する」
そう言って無線を閉じる。
背後を見て、ホリに「大丈夫そうか」と聞くと、「心配性ですね…」と微笑まれた。
何となく、彼女の態度が軟化してきた様な気もする。
或いは、こういう状況下だからかもしれない。
「なら良い、行くぞ」
口にして、彼女の手を引き、走り始めた。
16:15、ATこと、私とホリはポイントBに到着した。
既に作戦開始から一時間と十五分が経過している。
私とホリが到着すると、一瞬、全員が主砲を構えかけ、私が手を上げた途端ほっとした表情を見せた。
ポイントBは市街地の中でも、比較的背の低い建物が密集した商店街。
障害物が多く、隠れる場所も多かった。
「ハク、トク、チハ、ご苦労だった、被害の方は?」
ぱっと見、一番装甲が剥がされていたのがチハ、次にハク……トクは全く被害を受けていない様に見えた。
「え、えっと、私は被弾が二発、でも、軽戦車からの砲撃だったので、何とか…小破に留まっています」
そう言ってハクは僅かに黒ずんだ装甲を見せた。
恐らく、まだ装甲の厚い部分で受けたのだろう、凹んだりはしている様だが、破壊はされていない。
「私は被弾三、軽戦車から二発、中戦車から一発、でも正面から受けた、中破」
チハは胸部装甲が剥がされており、僅かに衣服が避けている。
脚部の装甲も凹んでおり、それなりに被害を被った様だ。
「私は大丈夫です、被弾は無し、作戦行動に何ら支障ありません」
「そうか……よし、なら問題は無い」
そう頷くと、トクが首を横に振って否定した。
「いえ、大尉、私達よりも……」
「ん、大尉、アンタ怪我してる」
「…何?」
そう聞き返すと、ハクが私の所まで小走りでやって来て、恐る恐る額に触った。
「っぅ!」
途端、ズキリとした痛みが走り、顔を歪める。
「っ、ご、ごめんなさい! さ、笹津大尉…こ、これ……」
そう言って見せたハクの手の平、そこには血がべっとりと付着していた。
どうやら、額を派手に切っていたらしい。
頬に手をやると、確かに、ザラザラした感触があった。
爪で剥がすと、血の固まった痕が。
「結構深いわ……無理しないで」
「……気付かなかったな」
そう呟くと、ぎゅっと、誰かに強く手を握られる感覚がした。
誰か、何て事は見なくとも分かる。
背後を振り向けば、ホリが青褪めた顔で立っていた。
「た、大尉……だ、大丈夫なんですか……?」
目が見えない故に、不安が倍増しているのだろう。
それに、今まで一緒にいたのはホリだ。
その表情からは、気付かなかった罪悪感と、後悔の念が強く察せた。
「…気にするな、それ程痛みもない、体も動く、何ら問題無いさ」
そう言って手を握り返す。
それから、砲撃をした時の様に、頭に手をやって優しく撫でた。
そうすると、僅かだが、ホリの表情が和らいだ様に思う。
「…大尉、せめて治療を」
「あぁ…バックパックに応急処置キットがある、消毒と包帯だけ頼めるか」
「はい」
トクにそう伝え、バックパックを下ろす為にホリの手を離す。
だがその瞬間、嫌だと言わんばかりに、ホリの手が再度私の手を捉えた。
「………ホリ?」
どうしたのだと私が問おうと彼女を振り向けば、「えっ」と、自分でも信じられないと言った風な顔をしたホリが居た。
「どうした?」
「ぁ…いえ、すみません……何でも、無いです」
そしてゆっくりと離される手。
それでも、最後まで、指の先まで、絡みつくように離れていった。
「……大尉、治療を」
「…あ、あぁ、すまない、頼む」
そして地面に座り込むと、トクはバックパックから応急処置キットを取り出して、手際良く治療を行っていった。
背後には、呆然と佇むホリ。
ホリは先程まで繋いでいた、その手の平を見つめながら、ただ立ち尽くし。
三人は、その姿を横目でじっと見ていた。
誰が市街戦が後編で終わると言った……?(`・ω・´)キリツ
すみませんこんなに長くなると思わなかったんですゴメンナサイ。
でも漸くヤンデレっぽい描写が入れられた!(∩´∀`)∩ヒョー
次はやっとゲリラ戦だね! 誰だよ次ゲリラ戦って言ったの!?
私ですごめんなさい。
次、次こそゲリラ戦だよ!ヽ(`Д´)ノ