戦車これくしょん~欠陥品の少女達~   作:トクサン

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市街戦 中編

 

 砲撃でも撃ち込まれたのか、お誂(あつら)え向きに外壁の破壊された、見通しの良い場所を見つけた。

方角的にも、敵の方向で合っている。

運が良い、私はホリと共にその場所を砲撃スポットとした。

 

「ホリ、砲撃の準備だ、装甲を展開して前面をカバーしろ」

 

「はい」

 

 そう言って、ホリは膝立ちになり、肩に装着した装甲を展開した。

ホリの体をスッポリ覆うようにして、前面に展開される分厚い装甲板。

今回の作戦の為に用意した追加装甲、元々格納庫の中に眠っていたモノをホリ用に整備し直したものだ。

陸上懴車、それも重戦車だろうが自走砲だろうが、一発は耐えられる、整備員はそう豪語していた。

代わりに重量が途轍もなく重く、装備していると回避行動すらままならないという代物だ。

正に諸刃の剣。

だが、元より回避行動の取れないホリにしてみれば、デメリットを考慮しても尚余りあるメリットがあった。

 

 展開した装甲を中心に、私はカモフラージュ用の布を被せる。

金属の光沢や、周囲との違和感を無くす為のモノだ。

どうせ一発撃ち込めば、位置などバレてしまうだろうが、やらないよりマシ程度でも、やる価値があるなら何でもやる。

自分もホリの背後に身を潜めると、無線に向けて口を開いた。

 

「こちらAT、配置完了、状況報告求む」

 

 そう口にすると、即座に無線が返事を返した。

 

『えと、こちらBTです、√Aを進行中、先程敵影を確認』

 

『……こちらCT、√B進行中、敵影未だ確認出来ないわ』

 

 無線から聞こえてくるCT、チハの声はいつもの敬語が抜けていた。

だが、彼女はそちらの方が違和感が無くて、そのまま通信を続ける。

元より、軍人の通信というものは、そういうものだろう。

 

「よし、BTは作戦通り√Aを進行しろ、敵影をスポットまで誘き出せ、CTは敵影を確認し次第距離を保って援護、以上だ」

 

『了解です』

 

『分かったわ』

 

 通信を終わり、バックパックを下ろして中から装着型のスコープを取り出した。

それを装着し、肩の武器を地面に下ろして、ホリの背中に密着する様にする。

スコープには凡その距離、気温、気圧、湿度、風向き、風速が表示される。

それなりに高価な装備だが、無理を言って持ち出してきた。

 

「ホリ、無線は聞いていたな、ハクとトクが接敵する、上手く行けば誘き出せる、そこで仕留めるぞ」

 

「……はい」

 

 ホリの体は緊張から、僅かに強ばっている様なきがする。

布越しに緊張が伝わり、私はホリの頭部をゆっくりと撫でた。

 

「っ!?」

 

 ホリが突然の事に、肩を跳ねさせる。

 

「落ち着け、狙いは俺が指示する、お前は引き金を引けば良い、敵とはサヨナラだ、問題は無い、そうだろう?」

 

 頭をゆっくりと撫でながら、言い聞かせるようにそう言えば、ホリは蚊の鳴く様な声で「…は、い」と返事をした。

そして、丁度良いタイミングで無線が声を発する。

 

『B、BT接敵しましたッ、戦闘開始します!』

 

 そして、無線の向こう側で砲撃の音。

リンクする様に、ビルから数千メートル向こうで建物が倒壊するのが見えた。

舞い上がる砂塵が目印だ。

 

「あそこか……っ」

 

 スコープで確認し、ハクの姿を捉える。

小柄な体を活かして、懸命に敵の攻撃を避け、同時に反撃をしていた。

その近くには、トクの姿も。

敵は軽戦車か、中戦車か、それとも……。

対峙しているであろう敵を探し、周囲を見渡すが、建物の影に居るのか確認出来ない。

 

『CT、敵影確認、BTの援護に向かうわ、敵は軽戦車2、中戦車1よ』

 

 そうこうしている内に、チハが二人に合流、瞬く間に爆音が鳴り響き始めた。

 

「ATより各員、建物を上手く壁にしろ、余り無茶はするな!」

 

『B、BT了解ですっ!』

 

『CT、了解よ』

 

 そして、チハの放った砲弾が視界を遮っていた建物を粉砕し、その姿を確認した。

軽戦車が二体、どちらもすばしっこく動こいている。

その背後に中戦車、軽戦車と比較すると体格が大きく、何よりも装甲が段違いに厚かった。

青白いような、遠目に見ても異様な肌色、それに戦車によく似た主砲に、装甲。

 

 あれが、陸上懴車……。

 

『ッ……くぅ、被弾しました…ッ!』

 

 呆然としていた所に、被弾報告。

はっと自意識を取り戻した私は、CTに援護を要請した。

 

「CT、援護を!」

 

『今、やってる!』

 

 チハが中距離から牽制砲撃を行い、その間にハクが体勢を立て直す。

唯一回避し続けるトクが中戦車に砲撃を命中させたが、その装甲に阻まれ、効いているとは言い難かった。

 

『ッ、分かっていましたけれど、装甲が、硬いッ』

 

「ホリ、敵の中戦車を狙い撃つ、やれるな」

 

「……はい」

 

 ホリの腕に、自分の腕を添えて狙いをつける。

ホリの肩に顎を乗せるようにして、砲身を微調整。

幸いにして、中戦車はそれ程動く様子を見せない。

恐らく、トクとハクの砲撃では自身の装甲を突破できないと理解しているのだろう。

ずっしりと、構え、警戒しているのはチハの砲撃のみ。

それでも、決してハクとトクは近寄せない様、牽制射撃を怠らない、正面から中戦車を撃破するのは困難に見えた。

チハも回り込もうと走り回るが、それを軽戦車が邪魔をする。

 

「この位置だ…」

 

 距離凡そ2,500。

ホリの砲撃ならば、余裕で届く距離だ。

ゆっくりと微調整を繰り返し、ピタリと、砲身の先を合わせた。

 

 

「ホリ、今だッ撃てぇッ!」

 

 

「ッ!!」

 

 

 耳元から、爆音。

 

 反動がホリの体越しに伝わり、内臓が大きく震えて、視界が揺らいだ。

覚悟してなければ、文字通り吹き飛んでもおかしくない衝撃。

建物全体が揺れて、軋んだ気がした。

砲撃の残響が耳に残る。

 

「っ、大尉、命中はッ!?」

 

 そうホリが叫び、今だ揺れる視界で中戦車を探した。

そして見つける。

 

「小…いや、中破! 片腕をもぎ取ったッ!」

 

 完全に命中はしてなかったが、片腕を抑えて中戦車が地面に転がっていた。

恐らく腕に命中したのだろう。

後方には大きく抉れたコンクリートが見える。

同時に、突然背後に居た味方が吹き飛び、軽戦車も浮き足立っていた。

 

「今だ、攻めろツ!」

 

 その言葉を合図に、チハとハクが中戦車との距離を一気に詰めた。

トクは軽戦車2体を相手取り、回避と反撃をこなす。

 

「ホリ、もう一発行けるか!?」

 

「問題ありません、行けますっ」

 

 ハクとチハが最短距離を突っ走る中、中戦車は片腕だけで起き上がろうとしていた。

受けた衝撃はかなりのものだろう、だがその耐久力は、流石陸上懴車と言った所か。

地面に伏したまま、肩の火砲が動いていた。

 

「させねぇよッ!」

 

 ホリの主砲を微調整し、もう一発。

爆音と反動を対価に、砲弾は真っ直ぐ飛び、中戦車のすぐ真横に着弾した。

 

「っ、命中しなかったかッ!」

 

 だが、砲撃に意味はあった。

着弾の衝撃と舞い上がった石片が砲撃の邪魔をし、中戦車の狙いは大きく反れる。

火を噴いた火砲から放たれた砲弾は、チハのすぐの建物に着弾、倒壊させただけに留まった。

 

『これでッ、沈みなさいッ!』

 

『食らって下さいッ!』

 

 至近距離からの砲撃。

さしもの中戦車の装甲でさえ、その距離からの砲弾は防げなかった。

チハの砲弾は胸部に、ハクの砲弾は顔面に直撃した。

大きく仰け反ってから、地面を何度も跳ねて、着弾の音が大分遅れて聞こえた。

遥か後方にあった瓦礫に突っ込み、少し遅れて爆発、炎上。

 

『中戦車、撃破確認!』

 

 ハクがそう叫び、思わず腰だめに拳を握った。

 

「ハク、チハ、トクの援護に回れ! 軽戦車をだけならお前達でもやれる筈だ!」

 

『りょ、了解です!』

 

『分かった、行くわ』

 

 スコープの向こう側で、反転したハクとチハがトクの元に急行する姿が見えた。

後は重戦車の位置、それが分かれば。

 

 そう思った時だった。

 

 一際、異質な砲撃音。

何故それが明確に聞こえたのか、私自身も理由はわからない。

だが、何か背筋を駆け抜ける悪寒の様なモノを感じた。

 

 その直後。

 

「ッあ!?」

 

 爆音と衝撃、目の前に居たホリが大きく揺れ、反動が強く体を打った。

 

「ぐぅッ!?」

 

 生身の私は、堪えきれず、転がる様にして後ろに倒れる。

何度が床を転がり、飛んできた小さな瓦礫が体に覆い被さってきた。

頭を振りながら、それを退かし、立ち上がる。

それから、一体何だと揺れる視界でホリを見れば、大きく歪んだ追加装甲が目に入った。

砲撃されたのだ。

そう理解した。

ホリの周辺にあった壁が、脆くも崩れ去っている。

 

「ッ、大尉、これは、敵からの砲撃ですか!?」

 

 ホリがそう叫ぶ。

目が見えない為に、自分が砲撃されたのかどうか、その確認を私にしているのだ。

衝撃で口を噛んで、舌に血の味がした。

それを吐き捨て、「あぁ、砲撃されたッ!」と叫んだ。

 

『敵陸上懴車、撃破しました、後一体!』

 

 トクが叫ぶ。

それに被さるように、砲撃音。

 

「ホリ、来るぞ!」そう叫ぶ前に、着弾し、声は爆音にかき消された。

爆風が体を打ち、伏せるようにして衝撃を逃れる。

だが、最悪な事に敵の砲撃はホリの追加装甲では無く、手前の床に着弾した。

老朽化し、弱っていた建物が、ホリの重量に耐え切れず、崩壊。

つまりは、床が抜けた。

 

「うぉッ!?」

 

「ッ!」

 

 一気に落下する浮遊感、それから、数秒の落下の後、強く地面に叩きつけられた。

腹を打ち、全身に痛みが伝搬する。

軽く嘔吐し、同時にガン、と頭部の鉄帽に何かが当たった。

悲鳴を上げる暇すら無い。

視界が砂に塗れ、全身に何かが降り注いでくる。

それが瓦礫なのか、石の塊なのか、そんな判別がつくハズも無く、ただ丸まって危機が去るのを待った。

それから、数十秒。

砂塵が視界を全て覆い、ゆっくりと起き上がりながら通信機に口を開いた。

 

「……っ、ホリ、無事かッ」

 

 それから、一拍。

僅かなノイズを発した通信機が、応答する。

 

『…はい、笹津…大尉、何とか無事です』

 

「怪我は…?」

 

『大丈夫です、動けない程では……一体、何が?』

 

「敵の砲撃が床を崩した、私達は下の階に落下した様だ…そこが何階か、分かるか?」

 

『すみません……どれ位落下したのか、全く…』

 

「…そうか、大丈夫だ、すぐ捜索に向かう」

 

 立ち上がって、カチャリと何かを蹴る音。

見れば、自分の装着していたスコープが足元で木っ端微塵になっていた。

恐らく瓦礫にやられたのだろう、黒い残骸、もう使用は出来ない。

これで、ホリの長距離砲撃は不可能になった。

少なくとも、俺では。

 

「……BT、CT、応答を」

 

 チハ、トク、ハクに連絡を取るため無線を開くと、数秒と待たず返事が返ってきた。

 

『ッ、笹津大尉、ご無事ですか!?』

 

「あぁ、軽戦車はどうなった」

 

『私が撃破したわ、それで、大尉とホリは?』

 

「チハか……重戦車からの砲撃を受けた、床が抜けて落下したがホリも私も重傷では無い、しかし重量分、ホリは私より下層に居る様だ、今からホリの搜索に向かう」

 

『……分かった』

 

「重戦車の位置が分からない、索敵、頼めるか」

 

『任せて下さい、大尉』

 

「トク……よし、敵を発見したら一旦、ポイントBに集合してくれ、くれぐれも悟れられるな」

 

『は、はい』

 

『……えぇ』

 

『了解したわ』

 

 




 次こそレッツ、ゲリラ戦(`・ω・´)

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