13:00、相楽基地の面々に見送られながら、私達『第一戦車隊』は基地を発った。
第一と言う名は便宜上付けたに過ぎない。
この基地に送られてくるのは、時代遅れの性能不足か、欠陥を抱えた戦車のみ。
第一があっても、第二、第三の部隊を編成するのは御免被りたかった。
輸送車両には、大型の装甲兵員輸送車を使用した。
その後部座席で五人全員、顔を突き合わせて最後の確認を行う。
「最終確認だ、作戦は朝説明した通り、基本変更は無い……ただ、出発直前に達子基地から情報が入った」
そうしてプリントアウトした資料を全員に渡す。
「運が良いのか、悪いのか、陸上懴車が旧札幌で確認された、数は四体、無人偵察機のドローンが上空より対象を撮影した」
それがこれだ、そう言って資料を指さした。
「敵勢力は軽戦車2、中戦車1、重戦車1、その内重戦車は多砲塔戦車が確認されている」
その言葉に、四人の空気が揺らいだ。
陸上懴車の多砲塔戦車は、我々の知る中でも強固で、全方位攻撃が可能な戦車だ。
戦車の弱点となる後方、横方向にも砲台が存在し、下手に近付けば蜂の巣にされる。
「だが数だけ見れば、我々と同じ、私を入れれば一人分有利だ」
まぁ、所詮人間の私なんて、戦力に数えられるハズも無いのだけれど。
言うだけならば無料(タダ)だ、戦場に行く前の鼓舞で戦果が期待出来るのならば、何度でも言おう。
「私とホリはポイントAにて待機する、ハク、トクの両名は√Aより進行、チハは√Bだ、留意すべきはこの重戦車のみ、後は作戦通り、問題は無いな?」
「……はい」
「えぇ」
「……ん」
「はい」
全員の返事を聞き届け、私は肩に肩撃ち式多目的強襲兵器を持つ。
バックパックも背負い、最後に弾帯やベルト、ポーチを確認し準備完了。
アサルトライフルの類は、結局持ってくる事が出来なかった。
正直に言えば、持つ手が無いし、弾薬分とライフル本体を担いで持っていくには余りにも重すぎたのだ。
爆薬や各種地雷、肩撃ち式多目的強襲兵器だけでもかなりの重量となる。
それに、ライフル程度で倒せる程、連中は柔くない。
奴らにとっては文字通り『豆鉄砲』でしか無いのだから。
車両に揺られて何れ程の時間が経過したか。
車内に会話は無く、どこか絡みつくような雰囲気だけが漂っていた。
皆が緊張し、張り詰めている。
彼女達の作戦報告書は何度も目を通した。
この基地に配属してから、彼女達が任務成功を上に報告した事は一度もない。
その全てが尽く失敗に終わっているのだ。
そして、今度もその二の舞になるのではという不安が、確実にある。
ここで何か声を掛けるべきなのだろう。
だが、私とて陸上懴車との実戦に出るのは初めてなのだ。
演習は腐るほどしたし、実戦に出ても冷静に事に当たれる自信はある。
しかし、肝心の彼女達に掛ける言葉は見つからなかった。
そうこうしている内に、作戦区域へと到達。
私達は廃墟の中、その外れで降車した。
「……よし、作戦通りだ、私達は旧JRタワーに待機、お前達を支援、指揮する、ホリ、追加装甲の具合は?」
「…問題ありません」
「OKだ、各員、いつでも連絡が取れる様に無線のスイッチは切るなよ、それでは、作戦開始」
そして、皆が解散する寸前に、その背に向けて呟いた。
「皆………死ぬなよ」
ホリの手を引きながら、注意しつつタワーへと侵入。
内部は瓦礫と埃に塗れており、内部の非常階段は幸いにして原型を保っていた。
そこから、最上階辺りまで黙々と階段を登る。
「……あの、笹津大尉」
途中、ホリが私の手に引かれながら、声を上げた。
「……何だホリ、今は作戦行動中だ、敵に声が聞こえたらどうする」
「…すみません、でも、どうしても聞いておきたくて」
ホリの、どこか真剣でな声色に「何だ」と返した。
「笹津大尉は、どうして、戦場に立とうと思ったのですか……?」
タイルの床がパキ、と音を鳴らした。
二人が歩く音と、私のバックパックが擦れる音だけが聞こえる。
重量に悲鳴を上げる足を動かしながら、私は答えた。
「…それが、最善だと判断したからだ」
「勝つ為、ですか」
「あぁ」
そう答えると、ホリは小さく「そうです、よね」と言って、それっきり黙った。
嫌な沈黙と言うのだろうか。
いや、本来戦場で言葉を話す事は、敵に察知される可能性を生み出す。
こんな声の通りやすい場所では尚更。
だが、どうしても居心地の悪い、もとい、半ば彼女の心情が分かってしまうが故に、自分でも馬鹿だと思いながら、もう一度口を開いた。
「………私は、仲間だと思っている」
その言葉を聞いたホリが、背後で顔を上げた気配があった。
それでも、何となく気恥ずかしい私は、背後を振り返る事無く続けた。
「過去の将軍がどうだったかなど、関係ない、私は、お前達が仲間だと思っているから、勝ちたい、死なせたくない、そう思う」
我ながら、何とも恥ずかしい事を言っているのだと理解している。
それでも、これは本心であった。
丁度、擦れた文字が見えた。
白いペンキで、大分昔に書かれていたのだろう、32Fという文字が見えた。
32階だ、この辺りで良いだろう。
「ほら、こっちだ、行くぞ…」
私は誤魔化す様にホリの手を引き、32階のフロアへと足を進めた。
その後ろで、ホリがどういう顔をしているかも見ずに。
「笹津大尉、あの……」
「何だ、まだあるのか…何だ?」
「………ありがとう、ございます」
その感謝の言葉が、無性に小っ恥ずかしくて「…あぁ」とぶっきらぼうに返事をしたまま、足を進めた。
無線つけっぱなのにね!
というか未だ戦闘書けてないよヤバイヨ!(´・ω・`)