「ハッ、何で私がこの様な前線で……しかも、こんな『欠陥品』の部隊を指揮しなくちゃならないのだ!?」
「ん~? 何だね、この部屋はぁ、こんな部屋で仕事をしろと言うのかい、君達はァ?」
「俺は、此処に来るべきでは無かった、そう確信したよ、このジャンク共が」
「不味いんだよ! こんなモノを食わせるのか此処は!? クソが、役立たずめッ!」
「こんな時代遅れの戦車で戦えなどと、上層部も冗談が上手い……」
「おいおい、時代遅れに片腕の無い戦車、片足の戦車に目の見えない戦車………鉄屑の集まりじゃないか」
「ちっ、火力馬鹿かよ、当たらなければ意味ねぇだろうがよ!?」
「この作戦が失敗したのは僕の指揮のせいじゃないッ! 正規部隊なら楽勝だった筈だッ! お前らのせいだッ! お前らがぁッ!」
「奇襲作戦で先陣切って吹き飛ばされた挙句、片足を欠損か、本当にジャンクだな」
「正面から突っ込めよ? お前、ノロイ上に硬いし、良い的だ、後は他の奴で掃討すれば良いだろう?」
「私としては、君の様な鉄屑は早急に処分した方が良いと思うがね」
「ん、何だ、欠損? 修理不可? そうか、ならば君は不要だ、早急に此処を立ち去れ」
「仲間を庇って腕を一本失くしたんだって? 馬鹿だよねぇ、お前、ホント馬鹿、屑の上に馬鹿とか救いようがねぇわ」
「有り難く思いたまえ、君達は本来、私の崇高な指揮に従う事は許されなかった、しかし、今回は特別だ」
「作戦は完璧だ、故にお前たちは黙って俺に従えば良い、簡単だろう? 鉄屑でも理解出来る筈だ」
「クソッ! 何で砲撃を外した!? 言った筈だぞ、一撃で仕留めろとッ! 射程外だろうが何だろうが、出来なきゃ意味ねぇだろうがよぉォ!?」
「私が……負ける? 有り得ない、有り得ない筈だッ、私の作戦は完璧だったのだッ!」
「前の部隊で囮にされた挙句、集中砲火の中スナイプされて失明か、勇敢だが無謀だな、無能だよ君は、英雄にでもなったつもりか?」
「前線の基地に連絡して、君達を部隊にねじ込んだ、後は奮戦して戦果を寄越せ」
「火力も貧弱! 機動力も底辺! 回避だけ高くても囮にしか使えないではないか!」
「この際、『一体』位撃破されても良いよねぇ、別にタダの欠陥品だし、勝てれば犠牲とか関係無いよ」
「悪いが、欠陥品と仲良く出来る程、我々人間は暇では無い、分かったか鉄屑共」
「えへ…………あの、笹津大尉」
目の前のハクが、パンを千切る手を止めて、突然話しかけてきた。
その顔は、どこか嬉しそうだ。
「ん、何だ?」
パンを飲み込んで返事をする、すると彼女は微笑みながら手のひらのパンを見せた。
「美味しい、ですね」
その言葉にどんな意味が篭っているのか。
その時の私は言葉通りに受け取り、まぁ、パンなんてどこでも同じだろ、と言う言葉を飲み込んで。
「…あぁ、そうだな」
そう言って頷いた。
「………ねぇ、トク」
「…………何かしら」
「…………」
「…………」
「……あの人は、大丈夫かもしれないよ」
「………チハ」
「…何?」
「貴方は、信じるの?」
「……うん」
「………」
「……信じたい、って…思う」
「…願望じゃないの」
「…そう、だね」
「………」
「…信じ、られない?」
「………」
「………」
「私は……」
「……うん」
「……私だって、信じたいとは、思う」
「………」
「……けど、きっと、出来ないわ…過去、私たちの受けてきた言葉」
「忘れた訳では、無いでしょう」
「……うん」
「……もう、本当に嫌なの」
「………」
「……勝手に期待して、勝手に裏切られて」
「…優しいなら、尚更かな?」
「…えぇ」
「……そっか」
「だって……」
「私達は、『欠陥品』だもの……」
ホリとハクの二人と食事を摂った後、私は執務室に篭った。
訓練で大凡の短所長所をこの目で見た後は、それをどれだけ活かした作戦が練られるかの勝負。
そういう訓練を士官学校で受けてきたのだ。
今活用せずに、何処で活かせというのか。
「トクとハクは近距離、チハは中距離、ホリは遠距離として、陣形は………」
実際に戦闘を行うにしても、どんな場所でも自身の力を発揮できるベースとなる戦略。
それを必死になって考えた。
回避力の高いトクとハクを前衛に、中距離でチハに遊撃させ敵の視線を集める。
そこから長距離のロングレンジ砲撃で一気に敵を殲滅する策。
逆に、装甲の厚く攻撃力のあるホリを前衛にして、敵の攻撃を集中させる。
そこからハク、チハ、トクが敵に接近し、一気に殲滅する奇襲作戦。
地形や敵の戦力、天候や味方の状態も考慮しなければならないが、ベースとなる策は幾つあっても困らない。
考え得る限りの策を全て書き出して、次々に重ねた。
どれだけの時間をそうして過ごしていたのか。
控えめなノックの音に意識を現実に戻すと、いつの間にか外は夕暮れになっていた。
「入れ」
「……失礼します」
入ってきたのは、トク。
彼女は一つ礼をすると、口を開いた。
「笹津大尉、先程前線の達子基地から連絡がありました」
「何……?」
前線基地からの連絡、まさか戦況に変化があったのかと一瞬冷や汗が流れるが、トクに手渡された一枚の紙によって、それは杞憂に変わる。
「この番号に至急連絡が欲しいと、どうやら達子基地の将軍がお話がしたいとの事で」
紙を受け取ると、数字の羅列が目に入った。
恐らく将軍直通の番号だろう。
「…向こうの将軍がか」
「はい」
一体何の用件か。
トクには「ありがとう、下がって良い」と伝え、退出したのを確認した後、通信機を手に取った。
渡された番号を入力し、数コール。
お偉いさんと話すときは、自然と喉が渇き出す。
それも、同じ立ち位置に居るとは言え、向こうは自分より何階級も上の天上人だ。
僅かに心拍数の上がった胸を軽く叩きながら、その瞬間を待った。
そして、コール音が途切れる。
「こちら、達子基地将軍、宮田至剛少将だ」
電話に出たのは、思っていたよりは若い声。
いや、実際はそうでは無いのだろう。
だが、階級の割には存外に若い、そんな印象を抱かせる様な声だった。
「こちら、相楽基地将軍、笹津将臣大尉であります」
「……あぁ、君が、話は聞いているよ」
「災難だったね」と言葉を掛けられ、何と答えるべきか迷い、「いえ」と無難な返事しか出来なかった。
「前回の山下少佐から、一ヶ月程か? 君の資料は中央から送られている、優秀な士官だと聞いているよ」
「光栄です」
「今回の着任、不満かもしれないが……私達は君に期待している、優秀だからこそ相楽基地を任されたと思って欲しい」
「はい」
本当にそうなのか、そう疑問に思ったが、口には出さない。
一体用件は何だ、こんな事を言う為に態々(わざわざ)連絡して来たと言う事はあるまい。
そう思っていると「それで、これが本題なのだが」と向こうが切り出した。
「先程、玄二中将から要請があった、君の部隊をE四地区に派遣して欲しいと」
父さん?
一瞬、その名前に言葉を失いかけたが、「何故」よりも先に、別の言葉が口を飛び出した。
「是非、行かせてくださいッ!」
自分でも驚く程に早く、そして力強く、そう言い切っていた。
言ってから、何をしているんだ私はと、我を取り戻す。
「……随分と、元気だな」
「…すみません、失礼しました」
「いや」と言ってから、咳払い。
恥ずかしさから、私は口を噤んだ。
「E四地区は旧札幌だ、前線の中でも殆ど敵勢力の影響を受けていない、恐らく戦闘が起きたとして小規模なものだろう、後程地形の詳細な情報を送る」
「はッ、ありがとうございます」
「……一応、今回の任務は哨戒任務と言う事になるが、無理はするな、功を焦って将軍を辞した先任を、私は少なくとも五人見てきたからな」
それに、と続けて将軍は言葉を紡いだ。
「こう言っては何だが、『欠陥品』の部隊は戦力としては不十分だ、優秀な君を早々に失いたくはない」
その言葉に、一瞬、かっと頭の片隅が熱くなった。
僅かに通信機を握る手に力が入り、ミシッと軋んだ音がしたが、唇を噛んで耐えた。
「………ご忠告感謝します、ですが」
冷静に、頭の中に冷水をぶかっける様に。
一度息を飲み込んでから、はっきりと口にだした。
「私の部隊、『彼女達』ならば十二分な戦力になり得ると、本官は確信しております」
「君は何を…」そう声が聞こえたが、聞こえないフリをして「失礼します」と通話を切った。
切った後に、あぁ、これはとても失礼だなと、少し後悔。
上官に対して、あの態度。
しかも大尉程度が少将相手に、階級が違い過ぎて、思わず乾いた笑いが込み上げてきた。
士官学校の頃にこんな事をすれば、下手すれば懲罰房、そうで無くとも腕立て百回は逃れられないだろう。
「やっちまった……」
そう口にするが、反対に、口元の緩みは直らなかった。
それは何故だろうと、独りでに考えるが、答えは出ず。
「よし、初戦だ、気合を入れて行こう」
取り敢えず、目の前にある事を着実にこなして行こう。
そういう結論に至った。
「私の部隊、『彼女達』ならば十二分な戦力になり得ると、本官は確信しております」
「…………」
執務室の前に座り込んで、上官の通話を盗み聞き。
自分自身でも、一体何をしているのかと思いたくなる。
それでも、今、私の心臓が痛い程に悲鳴を上げているのは、きっと嬉しさから。
「………」
座り込んだまま、体育座りで足に顔を埋める。
義足の片足は、顔を埋めても冷たい。
体温の暖かさがあるのは、片方だけ。
「…私達の事、道具扱い、しないんだ」
鉄屑、ジャンク、ゴミ。
使えない道具というのは、そういう事だと言うのに。
「………」
信じたいと思う。
だけど。
「…………怖いなぁ」
私はきっと、臆病者だから。
会話文多すぎ、すみません。
そろそろ戦闘パートだと思います。(`・ω・´)