戦車これくしょん~欠陥品の少女達~   作:トクサン

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歩み寄って

 

 

 機動訓練、敵主砲の回避を主とした訓練は、凡そ私の予想した通りになった。

被弾数が多い順に、ホリ、チハ、ハク、トク。

模擬弾だが、衝撃は本物なので、集中砲火を受ける姿は見ていられなかった。

棒立ちのまま砲火を受けるホリの姿に、思わずストップを掛けた位だ。

 

 唯一予想が裏切られたのは、トクだろう、彼女はホリに並んで被弾数が多いだろうと予測した。

しかし、その予想は良い意味で裏切られる。

彼女は、途轍もなく回避が上手かった。

 

 

「トク、準備は良いか?」

 

「はい」

 

「では、機動訓練を開始する」

 

 その声と同時に、三方向の砲台が回頭、その砲身をトクに向けた。

砲撃は全て、ランダムに設定されている。

 

 一発、砲台が火を噴きトクに迫った。

片方の足が義足であるトクは、機動力と言う点に於いて圧倒的に不利。

装甲もホリの様に重厚では無い以上、中止もあるかと思っていたが、彼女はその砲撃を紙一重で回避した。

 

「何っ」

 

 僅か半歩、彼女はそれだけで砲弾を躱してみせた。

一瞬、マグレかと思ったが、次に砲撃が放たれても、彼女のすぐ真横を通過するだけで掠りもしない。

明らかに回避している。

それも、決して素早い動きと言う訳でも無く、寧ろ緩慢な動きと言って良い。

まるで砲弾が何処に飛んでくるのか、分かるかの様に。

私の頭に、彼女が執務室から出て行く時の後ろ姿が浮かび上がった。 

彼女の回避が、その動きと類似して見えたからだ。

 

 

「訓練終了、トク、戻れ」

 

「……はい」

 

 結果、一分の砲撃で被弾は0。

ハクの3発被弾を抜いて、トップに。

他の三人はこの回避能力の高さを元から知っていたのか、特にリアクションらしいリアクションを見せない。

 

 私は資料の事を思い出しながら、成る程と思っていた。

確かに機動力と言う観点で見れば、彼女は火力と並んで最も低い部類に入るだろう。

しかし、回避力だけで言うのなら抜きん出て高い。

機動と回避が全くの別物である事を、私は実感した。

 

 

 その後、機動訓練を終了し、実践を模した一対一を行った。

砲台を搭載した模擬戦車を一台、それと正面対決して撃破すると言ったもの。

車両は中戦車を模してある。

装甲、機動力、火力共にバランスの良い戦車だ。

 

 ハクは苦戦したものの、何とか撃破に成功、性能を考えれば十分だろう、被弾無し。

 

 チハは砲撃で戦車の進路を妨害しながら接近し、確実に命中する距離で砲撃に成功、その際に一度被弾したが小破に留まる。

 

 トクは回避に専念しながら着実に接近、射程距離に捉えると同時に砲撃を叩き込んで撃破、被弾はしなかったが少々時間が掛かった。

 

 ホリはじっとその場から動かず、敵の砲撃を受けながら正面から撃破、被弾数四。

 

 それぞれの戦闘スタイルが現れた一戦だった。

これが見れただけで、今回訓練を見せて貰った甲斐があったと言うもの。

思った以上に、彼女達は戦える。

そう確信した。

訓練を終了した四人が私の前に並び、どこか不安そうな面持ちで私を見ている。

一度、咳払いをすると正面から彼女たちを見渡した。

 

「訓練ご苦労、今日はお前達の訓練を見れて良かった、今日はもう十分だ、分野別の訓練は後日行う」

 

 そう前置きしてから、息を吸い込み、至極真面目な表情で言い切った。

 

「私は、お前達は私が思っていた以上に戦える、そう確信したよ」

 

 言葉を聞き、一拍。

四人が一斉に「えっ」と言う表情浮かべ、固まった。

言葉が無い。

誰も何も話さず、私は少々の焦りから口を開いた。

 

「……何だ、鳩が豆鉄砲を食らった様な顔をして」

 

 焦り六割、照れ隠し二割、自分でも良くわからない感情二割。

彼女達は呆然とした表情のあと、それぞれ別の顔を見せた。

 

ハクは、嬉しそうに、でもどこか泣き出しそうな表情。

チハは、唇を噛んで、微笑んで居る様な、辛そうにしている様な、そんな表情。

トクは、俯いて、眉間に皺を寄せたまま口を結んでいる、酷く悩んでいる様な表情。

ホリは、悲しそうに、でも少しだけ嬉しそうに、微笑んでいた。

 

「………兎に角、訓練ご苦労だった、各自、今日は自由にして良い、解散だ」

 

 それだけぶっきらぼうに言い放ち、踵を返した。

私としては、彼女たちの長所を十二分に生かした策を活かして、さっさと功績を挙げたいのだ。

今から、執務室に缶詰だろう。

後頭部に視線をひしひしと感じたが、気付かぬフリをした。

 

 そして、執務室に向かおうとして、腹が鳴る。

 

「………」

 

 そう言えば、朝飯を食っていなかったと思い出した。

訓練だデータだと、朝からバタバタしていて、飯どころでは無かったのだ。

 

 そう意識すると、更に腹が鳴った。

こうなっては、空腹が思考の邪魔をするだろう、良い策など思いつく筈もない。

腹が減っては何とやら。

行き先を変更、方向転換。

執務室では無く、食度へ向かおうとした所。

 

 その先には、ハクが立っていた。

 

「…え、と、その、笹津大尉、あの、朝ごはん…」

 

 もじもじする様に、でも、どこか泣き出しそうな顔をして、それから笑って。

 

「ご一緒、しませんか?」

 

 彼女は私を見上げながら、そう言った。

その背後から、ホリが来る。

 

「私達も、まだなんです………ご一緒に、どうですか?」

 

 彼女もそう言う。

悲しそうな色を、微笑みの中に混ぜながら。

 

 今の腹の鳴る音、聞かれていたか?

 

 恥ずかしさから、頬を掻いて、軍帽を深く被り直し、遠くにある格納庫を指さした。

 

「……装備を取り外したら、食堂に来い」

 

 そう言うと、ハクがわぁっと、花咲いた様に笑って。

 

 ホリが悲しさの見えない微笑みを見せた。

 

 直視出来なくて、「先に行ってる、早く来い」と背を向けた。

背後から「はい!」と言う声を聞き、足を食堂に向ける。

まぁ、頭を使う前にブドウ糖を摂取しても、良いだろう。

そう自分に言い聞かせた後で、彼女たちの分の配膳もしてやるかと、腹をさすりながら考えた。

 





 もっと、こう、バババババッ! って書けるようになりたいですね。
基本プロットも何もありませんし、行き当たりばったりですけど、頑張って更新して行きますよ!(`・ω・´)

 なんか、終わりが見えなくて、もしかしたらとんでもなく長くなるかも……。

 四月入学ですし……三月前半には完結したいなぁ(´・ω・`)

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