チハの数値は、予想以上だった。
静止砲撃に限った話ではあるが、肩の火砲はスナイプも可能に思える。
最終的な記録は4,400m、有効弾ならば3,000ml後半と言った所だろう。
腕での砲撃では命中率が低いが、恐らくこの四人の中では高水準と言える。
「次、トク」
チハの記録を確認し、入れ替わる様にトクが砲撃位置へと着く。
「………」
彼女の顔色はあまり良くない。
「…距離1,000からだ、行けるな?」
「……はい」
ゆっくりと、右腕に換装された主砲を構える。
彼女の主砲は一式四十七粍戦車砲、正直他の主砲と比較すると大きく劣る性能となっている。
だが、現状の戦力を知る為にはどうしてもデータが必要なのだ。
この際、出来の善し悪しでどうこう、と言う事は無い。
「…今回はデータを取るだけだ、気楽にやれとは言えんが………肩の力を抜け」
「っ……はい」
返事は返ってくるが、変わらず、その表情はどこか不安気。
恐らく心情的には、低い数値を出せば、欠陥品として怒鳴られるか、殴られるか……そうされると思っているのだろう。
そうされて来たのだ、前の将軍達に。
その事を考えると、自然と眉間に皺が寄った。
何か口にしようとするが、言葉は上手く出てこない、何か言った所で立場が邪魔をする。
無性にそれが、腹立った。
それを隠すように軍帽を深く被り直し、「訓練開始」と口にする。
「ハッ!」
轟音が鳴り、砲撃が開始される。
火砲が火を噴き、砲弾が目標目掛けて飛来した。
そして、着弾。
「……有効弾確認、次、1,200m」
分かっていた事だが…。
「最終記録、2,200mか……」
お世辞にも、良い記録とは言えない。
正直な話、火力、命中力共に貧弱と言える、それで機動特化ならまだ納得も出来るが、彼女の場合、それも期待出来ない。
「……………」
見ているこちらが辛くなる程、彼女は顔を青くして体を震わせる。
心なしか他の三人も何か恐怖しているような、そんな顔をして佇んでいた。
明らかに怯えている。
まるで刷り込みの様だと、独りでに思った。
一つ、息を吐き出して口を開く。
「悪くない、次、ホリ」
瞬間、その言葉を聞いたトクが、ばっと、顔を上げて私を見た。
突然の事に思わず驚きそうになるが、表情は崩さずに仏頂面を貫いた。
「………どうした」
「……いえ」
そして、信じられないと言う顔のまま、一礼してホリと交代する。
最後に何度か私を横目に見て、その度困惑した様な顔をした。
他の三人も、明らかに動揺している。
一体、過去の将軍達は彼女達にどう接していたのか。
それ程に酷かったのか。
その過去を垣間見る度に、私の眉間に皺が寄った。
「ホリ、一度砲撃をした後、誤差修正を私が口頭で伝える、出来る限りで良い、一人でやってみろ」
「了解しました」
ホリは膝を着いて砲撃の体勢に入ると、右腕に換装された主砲を構えた。
他の三人と比べると、明らかに大きい。
試製十糎戦車砲、初速900m/秒、距離1,000mで150mmを貫通する主砲。
威力射程共に、四人の中で頭二つ分は抜きん出ている。
命中すれば、恐らく重戦車だろうが正面から撃破し得る威力。
……あくまで、命中すればだが。
私は最初、目の見えないホリの補助を他の誰かに頼もうと思ったが、思い直した。
目は見えないが、あくまでもこれは現状のデータを取るためだ。
命中率等も、彼女自身の数値で無ければならない。
「では、訓練開始」
言い終わるや否や、轟音が耳を貫いた。
重低音が腹に響き、鼓膜を強く叩く。
「くっ」
思わず身を竦ませ、同時に着弾の音。
双眼鏡で素早く確認すると、目標から大きく外れた位置に着弾していた。
「命中せず、誤差修正、右に十八」
着弾した地面が大き抉れており、破壊力の大きさを物語っている。
「はい」
続けて主砲が火を噴き、またもや強い重低音が体をごと揺さぶる。
とんでもないな、そう思った。
大口径の主砲は、音すらも桁が違う。
「命中せず、誤差修正、右に三」
「はい」
三度目。
轟音、砲弾が飛び、着弾。
「……有効弾確認、次、1,200m」
「凄まじいな……」
私は思わずそう呟いた。
目が見えず、目標を目視出来ない為、命中率こそ低いものの、火力そのものは素晴らしいの一言に尽きる。
最終記録は9,800m、有効弾でも8,000は期待出来る。
やはり、主力となるのはホリだろう。
うまい具合に、このホリを活用する事。
それがこの隊で戦う為の、唯一の方法。
「よし、次に機動訓練に入る、三機の敵懴車に包囲されたと言う状況下での訓練だ、自動砲台がお前達を狙う、一分耐えて見せろ」
「はい」