戦車これくしょん~欠陥品の少女達~   作:トクサン

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思考

 

 

 挨拶を終え、皆を解散させた後。

私は独りで執務室の中、頭を抱えた。

 

 どうすれば良いのか、と。

 

 ここでの最高責任者は、私、笹津となる。

つまりは、どう動こうが、私の判断次第となるのだ。

 

 最終目標は、ただ一つ。

 

 内陸に呼び戻され、トップエリートとしての道を、再度歩み出す事。

それに必要な功績を、この限られた戦力……戦車を用いて上げる事が現状の目標だ。

だが、それが恐ろしく困難である事を、先程知ったばかりだった。

彼女たちの去った後、私は戦車の資料を読み漁った。

そして、読めば読むほど、自分の目標達成は困難である事を知った。

 

 ハク、八九式中戦車。

これは日本初の国産製式戦車として生産された戦車であり、性能は察せる。

だが、五体満足なだけマシだと思うべきだろう、問題は他なのだ。

 

 トク、特三式内火艇。

水陸両用戦車、しかし機動力は大幅に削がれた走れぬ戦車。

水陸両用だろうが何だろうが、機動力の無い薄装甲の戦車など的(まと)に等しい。

 

 チハ、九七式中戦車。

こいつはまだ、マシな方だろう。

腕が無くて火力が低下しようが、ある程度の運用は可能であると記録されている。

だが、やはり五体満足の戦車と比較すれば火力低下が著しい。

チハがこの基地に居る理由は、そういう事だ。

 

 最後にホリ、試製五式砲戦車。

最も残念なのが、このホリだろう。

圧倒的な火力を持つ真打、だがその実、目が見えない事により狙いを定める事が困難とある。

どんなに威力の高い砲撃だろうと、当たらなければ何の意味もない。

つまりは、そう、ただデカくて硬い的。

そういう事になってしまう。

 

 

 まともな、戦力、この場合きちんと戦力と数えられるのはハクとチハ位だろう。

一応トクも戦えない訳では無いが、火力がある訳でもないし、とても戦力とは数えられなかった。

 

「………せめて、ホリが使えればな」

 

 そう呟き、背もたれに寄りかかる。

圧倒的な火力と言うのは、それだけで魅力となる。

最悪動けなくても、固定砲台として活用出来ればチハやハクを囮にして狙い撃つ事も可能だっただろう。

しかし、目が見えなくてはそれも不可能。

 

まさに『欠陥品』だ。

 

「………罵っても、何も変わらない」

 

 息を吐き出して、茶を口に含む。

微妙な苦味が、まるで自分を責めている様な気がした。

茶を飲み干すと、くぅ、と腹が鳴った。

そう言えば、朝方内陸の基地を出た時以降、何も口にしていない。

昼も小さなロッゲンブロートヒェン (ドイツの小型パン、ロッゲンとは小麦の事) を一つ食べただけだ。

腹も減るだろう。

窓の外を見てやれば、夕暮れだった空も沈み始めている。

 

 少し早いかもしれないが、夕食にしても問題無いだろう。

 

 私は椅子から立ち上がると、デスクの上に置いた軍帽を被り、執務室を後にした。

そして、適当に廊下を歩きながら、食堂の場所を頭に思い浮かべる。

しかし、おぼろげな輪郭が出てくるだけで、場所の特定は叶わなかった。

もっと資料を読み込んでおくべきだったと後悔し、人に聞けば良いかと考え直す。

だが、元々人が少ないのか、廊下では誰ともすれ違う事が無かった。

 

 さて、どうしたものかと頭を悩ませた時、「あの」と背後から声。

渡りに船とはこの事かと感謝しながら振り向けば、そこには私と同じ位の背丈をした女が居た。

女だと分かったのは、大きな膨らみが二つ、胸の布を押し上げていたから。

下心は無い、本当に。

 

「将……笹津、大尉、です、よね?」

 

 そう不安げに口にするのは、ホリ。

目を包帯で隠した戦車。

 

「……ホリか、何故私だと分かった」

 

「…足音と、匂いが」

 

 そんなもので判別がつくのかと、少しだけ驚いた。

 

「何処に、向かわれているので?」

 

「……いや、少々腹が減ってな、食堂に向かっていた」

 

 そう言うと、どこか困惑した様な雰囲気で、ホリは言い難そうに口を開いた。

 

 

「そちらは、私達、戦車の宿舎、です」

 

 

「…………………そうか」

 

 

 沈黙。

 

 

 ごほんと、咳払い。

別に、誤魔化そうとか、そういう訳では無い。

頬を掻きながら「ホリ」と名を呼んだ。

 

「済まないが、食堂まで案内してくれないか、どうも、施設の把握が完全では無かったらしい」

 

 そう言うと、ホリは少し、ほんの少しだけ頬を緩ませて、頷いた。

 

「………えぇ、良いですよ」

 

 




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