ハイスクールD×D 赤腕のイッセー   作:nasigorenn

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今回は一誠、出ません。


8話 彼がいぬ間に

 教会の地下にて、レイナーレ達はその反応に気付き驚愕した。

 

「なっ!? ドーナシークの反応が消えたわ!」

「マジっすか!? おっさんってかなり強いのに!」

「あれほどの使い手が消されるとは!」

 

彼女達が驚くのも無理は無い。

何せ堕天使を倒したのが神器を持っているとは言え、ただの人間にやられたというのだから。

余程強い神器出なければ有り得ない。

特にドーナシークの力はレイナーレの部下の内で一番強いのだ。

それがこうも易々とやられると誰が思おうか。

同胞をやられたことにカラワーナは怒りを顕わにする。

 

「堕天使を倒す人間だと? そのような存在、絶対に許せない。レイナーレ様、お願いします。私にドーナシークの仇を討たせていただきたい。人間如きに負けた奴の失態も許せた物ではありませんが、それ以上に同胞がやられたのに黙っていることなど私には出来ません。どうか、報復を」

 

怒るカラワーナに対し、ミッテルトは寧ろ引け気味であった。

 

「ウチは寧ろ、もうちょっかい出さない方がいいと思うんですけど。おっさんをやるくらいだし、下手に怒らせたらウチ等の方がピンチになるかも」

 

ミッテルトの反応にカラワーナは更に怒りで凄まじい形相をする。

その表情にミッテルトは若干怯えてしまった。

 

「貴様、それでも堕天使か! 下等な人間に同胞がやられたというのだぞ! それが許せなくないというのか、この腑抜けめ!」

「そ、そんなこと言ったって~」

 

騒ぎ立てるカラワーナとミッテルトに対し、レイナーレは静かに口を開いた。

 

「カラワーナ………報復は後回しよ!」

「なっ!? レイナーレ様まで!」

 

堕天使なら下等な人間にやられたなどという不名誉は絶対にあってはならない。

堕天使の名誉もためにも一誠は抹殺しなければいけないのに、それを後回しにするとレイナーレは言い出した。そのことがカラワーナには信じられなかった。

何よりも堕天使としての誇りを大切にしているレイナーレがそれを後回しにするというのだから。

 

「貴方が憤るのも良く分かるわ。だけど今は大事な作戦の前なのよ。下手に手を出してかき回されても困るし、それにドーナシークを倒す程の力の持ち主なのなら、貴方達が行っても無事では済まないわ。グレモリーと戦うかも知れない時に戦力が低下するのは好ましくない。だから、あの男に報復するのは例の作戦が終わった後よ。いい、報復は絶対にするわ。でも、その前に目的を果たすことの方が重要なの。だから……今は我慢しなさい、カラワーナ」

「ぐっ……わ、わかりました」

 

レイナーレに説得され、カラワーナは仕方なく引き下がる。

感情ではまだ納得が出来ないカラワーナだが、確かに作戦が重要であることも分かっている。故に堪えることにした。

レイナーレはカラワーナが堪えてくれたことに少しホッとしつつ、座っていたソファから立ち上がり少し歩く。

その表情は憂いに満ちていた。

 

「人間如きに負けるなんて駄目な堕天使だったわね、ドーナシーク。でも、貴方の犠牲は無駄にはしないわ。必ずや、あの神器……『聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)』を手に入れ、貴方の仇は討ってあげる。だからそれまで見守っていて頂戴」

 

そう虚空に告げると、カラワーナとミッテルトに向き合うレイナーレ。

 

「二人とも、時は近いわ。近日中にアーシアから抜き取るわよ」

「はい!」

「は~い」

 

レイナーレの顔には、凄惨な笑みが浮かべられていた。

彼女達は動き出す。欲望と悪意を持って、聖なる乙女を汚さんがために。

 

 

 

 駒王学園の旧校舎、オカルト研究会の部室にて、リアス達は集まり会議を開いていた。会議の内容はここ最近の町での不穏な動きについてである。

リアスが部長として議題を上げる。

 

「ここ最近、町で妙に不穏な気配を感じるわ。明らかに余所者の、それも堕天使の気配がね。奴等はきっと何か企んでる。そうでなければグレモリーの管轄地に侵入してくる訳がないもの。奴等の目的が何なのか気になるのよ。下手をすれば戦争の火種になりかねない、だからこそ早めに対処したいの」

 

リアスの説明を聞いて眷属達は皆頷く。

現在、悪魔、堕天使、天使の三大勢力の戦争は小康状態に落ち着いている。

それは過去の大戦に於いて全陣営とも被害が甚大であり、継続不可能に陥ったからである。

あまりに酷すぎる被害に三勢力は他勢力を削るよりも自陣の安定に重きを置いた。

それが何百年と続き、現在の小康状態に至る。今の世代ではもうそれが当たり前であり、少なくとも徹底抗戦を唱える若手世代はいない。

皆、この平和な状態を望んでいるのだ。その平和をこの堕天使達は下手をすれば壊しかねない。だからこそ、リアスは早く対処することを望んだ。

何より、堕天使が自分の庭を彷徨いていることが我慢ならないのだ。

 

「皆、何か町で可笑しな物を見なかったかしら。何でもいいわ、些細なことでもいいの」

 

リアスの問いかけに対し、眷属の三人は全員手を上げた。

リアスはそれを見て笑みを深めると、自分の腹心とも言える親友の名をまず呼んだ。

 

「朱乃、まず貴方から」

「はい、部長」

 

名指しされた姫島 朱乃は微笑みながら話し始めた。

 

「つい最近ですが、結界が張られた形跡がありました。力の残滓を感じるに、悪魔ではないかと思われます。たぶん部長の仰る堕天使かと」

「そう、確かに魔術に詳しい貴方が言うのならそうね。結界を張るような出来事があったということね」

 

リアスは朱乃から聞いた話について早速考え始める。

結界は文字通り、阻む物。人目を避けて何かをしていたということだ。

その話を聞いて、木場 祐斗が何か思うことがあったらしく手を上げた。

 

「祐斗、何かあるの?」

「はい部長。副部長の言っていた件ですが、実はそのことでご報告したいことが」

「いいわ、言いなさい」

「はい。実はその結界が張られていたとき、その場所付近に僕はいました。買い物の途中だったのですが。僕が結界が張られていることに気付いたのは力ではなくて、音でしたけど」

「音?」

「ええ、音です。周りは何もない住宅街だったのに、まるで砲弾が炸裂したかのような大きな音が聞こえたんです。それで気になって辺りを調べて見た結果、こんな物が」

 

祐斗は懐から取りだした物をリアスに見せると、リアスは意味深い顔をした。

それは黒曜石のように黒い鳥の羽である。

 

「これは……堕天使の羽ね」

「そうです。それが分かったからこそ更に調べたら、僕はそこで見つけたんです………堕天使の死体を」

 

それを聞いたリアスの顔が驚きに染まった。

 

「堕天使の死体……ですって!? それは本当なの!」

「はい。たぶん………男の堕天使だと」

 

リアスに聞かれた祐斗はここで歯切れ悪く答えた。そのことがリアスには気になった。

 

「たぶんってどういうこと?」

「はい。実は………死体というより、もう肉片といった感じでしたので性別の判断がし辛い状態でしたので。見つけた腕の筋肉の付き方から男と判断しました。死体は見つかると不味いので僕が処理しましたが」

 

それを聞いたリアスは更に思考を巡らせる。

二人の話を聞いた限りだと、堕天使が何者かと戦うために結界を張った。だが返り討ちに遭い死んだ。

つまり、この町に侵入した堕天使は自分達悪魔以外の何かと戦い敗れたということ。

それは堕天使を塵殺するくらい強力な力を持った存在だということ。

リアスが知る限り、そんな力を持った存在は一人しか知らない。

 

兵藤 一誠。

 

リアスが知る限り、上級悪魔に匹敵する程の力を持った……人間。

もしかしたら彼が戦ったのかもしれない。

すると彼が何故戦ったのかということになってくるのだが、結界を張ったのが堕天使である以上考えられるのは正当防衛といったところだろうか。それにしては過剰すぎではあるのだが。

そのことも気にはなってくるが、それは堕天使の目的とやらと少しずれて来ている気がする。あの力の一端を感じたリアス達だから分かるが、何かを企てるのに邪魔になりそうな存在だから消そうとしたと考えるのが普通だ。

となれば、そこから考えられるのは堕天使がこの町で何かを行おうとしていて、それの障害になりそうな者を排除しようとした。そう答えが出る。

邪魔されたくないからの排除。悪魔にはばれないようコソコソと動き廻っているつもりなのに、一誠には普通に仕掛けてきた。そこから察するに、組織には見つかりたくないということ。

だが、ここからは流石に分からなくなる。材料が足らなさすぎるのが原因だ。

だからこそ、少しでも情報を手に入れたいリアスは最後に塔城 小猫の意見を聞くことにした。

 

「小猫、貴方は何かあるかしら」

 

小猫はリアスに話しかけられると、あまり表情を動かさずに答えた。

 

「はい。私が知っていることがこの話を関係あるかはわかりませんが」

「何でもいいわ。些細なことでも良いの」

「では。この間、和菓子を買いにお店に行ったんですけど、お店の人から少し変わった話を聞きました」

「変わった話?」

 

リアスが神妙な顔をすると、小猫も少し不思議そうに話す。

 

「何でも、その日にお店の人が見たそうです……シスターを」

「? それはまた妙な話ね。この町に教会はないわ。正確には廃教会ならあるけど。本当にシスターだったの?」

「聞いた限りですが、そうかと」

 

教会が無い町にシスターというのは可笑しな話だ。

それもリアス達が管理している悪魔の管理地にシスターが来ると言うんだから、その異常性は計り知れない。

更に小猫は追加の情報を入れてきた。

 

「後、これは使い魔のシロから聞いた話ですが、公園で怪我をした子供の怪我を不思議な力で治した女性がいたそうです。服装はシスターの服だったそうで」

「不思議な力……治癒魔術か、もしくは……何かしらの効力を持った神器かしらね」

 

これらの情報を考えると、面白い事実が浮かび上がってくる。

リアスは子猫の話を統合して何となくだが分かってきたことがいくつかある。

堕天使とシスターが見られ始めたのは最近の話で、更にはシスターは神器持ちか何かしらの異能の力を持っていると思われること。

そのシスターが居ること自体が可笑しい。教会はとっくの昔廃墟とかしている。それに関しては悪魔側で警戒していることもあり、徹底しているはずなのだ。だというのに、教会にシスター。どうも臭って仕方ない。

それらを考えると、目的は分からないが、隠れ家くらいは憶測出来る。

つまり……堕天使の居場所。

リアスはそれに行き着き、不敵な笑みで皆を見回す。

 

「わかったわ。目的までは分からないけど、少なくとも居場所は判明したわ。堕天使はきっとその教会に居るはずよ。それさえわかれればどうとでもなる。みんな、近日中に教会に出向いて捕まえるわよ!」

 

「「「はい!」」」

 

 こうして堕天使、悪魔双方とも行動を決めて動き始めた。

片方は欲望のままに、もう片方はプライドを込めて。

両者が近日中にぶつかるのは……必然だろう。


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