ハイスクールD×D 赤腕のイッセー 作:nasigorenn
空腹のあまり生き倒れていた所を金髪美少女のシスターに助けられた一誠。
そのシスター……アーシア・アルジェントはこの度、駒王町の教会に赴任することになったのだが、慣れない異国の地ということもあって迷っていた。
そのことを聞いた一誠はせっかくだから教会まで案内することにした。
そして教会の少し前まで案内した後の帰り道。
一誠は一人の男と出会った。
名はドーナシークという『堕天使』だ。
その男は自らをそう名乗り、そして……一誠を殺すと言ってきた。
それに応じ一誠は神器を装着し、そして……激突した。
「ぬぉおおおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
裂帛の気迫が籠もった叫びを上げながらドーナシークが手から光りを発すると、その光は形を変えて槍の形状をとる。
その槍を構えながら一誠に向かって突進した。
その速度は通常では有り得ない速度であり、一般人なら反応することも出来ないだろう。
それに対し、一誠はそのまま左腕を振るい迎え撃つ。
槍と左拳が激突すると、まるで爆発したかのような轟音が辺りに響き渡った。
もし結界を張っていなければ警察沙汰では済まない大惨事だと思われただろう。
そのまま槍を払い、一誠から距離を取るドーナシーク。その顔は笑みこそ浮かべてはいるが、冷や汗を掻いていた。
「まさか……ただの人間がこの私の槍を壊すとは……」
ドーナシークの目線の先にある槍、その穂先には罅が入っていた。
その事実にドーナシークは驚愕する。
聞いてはいたが、所詮は人間と高を括っていたかもしれない。神器を持っていようとも人間如きには負けるはずないと。
その認識が如何に愚かなのかということを思い知らされた。
「おいおい、この程度で驚いてるのか? だったら……つまんねぇなぁ!」
ドーナシークが驚いている間に、今度は一誠が仕掛ける。
地面を殴りつけアスファルトを粉砕しながら飛び上がると、
「いっくぜぇえええぇえええぇえええええええええええええええええええええ!!」
咆吼を上げながら空中で身体を独楽のように回転させながらドーナシークに殴りかかった。
その拳の速さにドーナシークは意識を思考の海から脱し、咄嗟に光の槍を使って防御する。
拳を受け止める槍の柄。先ほどのぶつかり合いから考えれば防御は出来る……はずであった。
だが、現実は違っていた。
「なっ!? ぐぉおぉおおおぉおおおぉおおおおおおおお!!」
拳を受け止めた柄は砕け、突き進んだ拳はドーナシークの身体にめり込むと共に内包する破壊の力を発揮した。
人間ではまず出せない威力……いや、出してはいけないと言うべきか。最早人の領域を超えた威力がドーナシークに炸裂し、肋骨をへし折り内臓を潰す。
一誠がそのまま左腕を振り抜くと、ドーナシークの身体は吹き飛び電信柱に激突。
電信柱を砕き、そのまま民家へと突っ込んでいくドーナシーク。その動きが止まると同時に、電信柱が倒れ辺りに破砕音を轟かす。
「がはっ、ぐぅっ………な、何なんだ、この力は………」
崩壊した民家から這い出たドーナシークはよろつきながらも立ち上がる。
その表情にあるのは困惑と、得体の知れない物への恐怖だ。
それを察してなのか、一誠は獰猛な笑みをドーナシークに向けた。
「どうしたよ、堕天使? そんなことで吹っ飛んでるようじゃあ、俺を殺すなんて出来ねぇぞ。それとも……口だけか、『鴉(カラス)』?」
「何っ!? 貴様ぁっ!」
一誠に挑発されて激怒するドーナシーク。
人間という『下等』な存在に押されているという状況にかなり焦っているというのに、さらに見下されたのだ。堕天使としては我慢ならないものがある。
「貴様ぁああぁあああああああ! ただではすまさん!!」
受けた屈辱を激情に変え、ドーナシークは光の槍を一誠に向かって投げつける。
それも一本ではない。手から光を発すると、即座に槍に変化させ連続で投げ続ける。
その怒濤の攻撃は、人間の身で受ければ跡形もなく消滅するだろう。
過剰とも言える投擲された槍に対し、一誠は不敵な笑みを浮かべたままゆっくりと前へ進む。
「塵一つ残らず消え去れぇええええええぇえええぇえええええええええええええええええええええええええええ!!」
ドーナシークの怒りが込められた槍が一誠に降りかかる。
その槍の群れに向かって一誠は……吠えた。
「らぁああぁあああああぁぁああああぁあああぁああああぁああああああああああ!!」
獣が如き咆吼を上げ、破壊を秘めた豪腕を槍に向かって振るう。
その赤き腕は槍に激突すると共に、槍を木っ端微塵に粉砕していった。
「その程度かよ、堕天使さんよぉ! もうちったぁ根性見せてみろよ! なぁ、おい!」
一誠の叫びにドーナシークの身体が震える。
それは恐怖による震え。
恐れてしまったのだ。ドーナシークは、目の前の神器を持った『ただの人間』に。
此方の全力の攻撃をまるで埃を払うかのように叩き潰す目の前の男に、誰が恐怖を感じずにはいられようか。
もうドーナシークの目には、一誠は人間には映らない。
堕天使をも退ける、人間以外のナニカ。
それはただ、恐怖以外何も感じさせない。
「う、うわぁあああぁああぁああああぁああああぁあああぁああああああああぁぁあああああぁぁあああああああぁあああ!!」
恥も外見もなく叫び、一誠に向かって光の槍を投げつけるドーナシーク。
ただ、目の前のナニカから逃げ出したい、その一心で攻撃し続ける。
先ほどと同じか、それ以上の数の光の槍が一誠へ襲い掛かっていく。
一誠はそれを見て獰猛で凄惨な笑みを浮かべたまま歩を進めていく。
今度は拳も振るわない。だが、左腕の拳から機械的な音声が流れた。
『explosion』
その音声により、一誠の身体が仄かに赤く光るオーラに包まれる。
光の槍はそのまま一誠に殺到するが、一誠に触れた途端に霧散した。
その光景を見たドーナシークは信じられないものを見た表情をし、それを否定するかの如く光の槍を投げ続ける。
「死ね! 死ねぇええっ! 消えろぉおおぉおおぉおおぉおおぉおおぉおおぉおおぉおお!!」
嵐の如く投槍が一誠へと飛んで行くが、それは最早意味を成さない。
触れた先から槍は消滅し、一誠は確実にドーナシークへの距離を縮めていく。
その表情が変わらずに凄惨にして獰猛な笑み。それは獲物を狙う肉食獣を彷彿とさせる。
その瞳が、ドーナシークを捕らえて放さない。
「ひっ! あっ、かはっ……」
恐怖のあまり呼吸すらままならなくなるドーナシーク。
それを嘲るかのように一誠は嗤った。
「案外悪くなかったぜぇ、あんた。だが……この程度じゃぁ、俺を満足させられなかったなぁ。だからもう……こいつでっ! 終わりだぁあああぁああぁああああぁあああああああぁああああぁあああぁあああ!!」
一誠はドーナシークにそう叫ぶと、再び地面を殴りつけ、破砕した粉塵を巻き込みながら身体を回転させる。
高速回転しながら向かってくる一誠にドーナシークは持てる全ての力をかけて、自分の身体の何倍もある巨大な槍を両手で作り出した。
「がぁあああぁあぁぁああぁあああああぁあああぁあああぁああああああああああああ!!」
絶叫しながら一誠に向かってドーナシークは槍を投げつけた。
そのあまりの大きさと込められた力により、槍の周りの建物や構造物が破壊されていく。
「らぁあああぁああぁああぁああぁあああぁあああぁあああああああ!!」
その巨大な槍に向かって一誠は左拳で殴り付けた。
激突する槍と拳。その激突音は結界に包まれたこの空間そのものを揺るがす程に凄まじい。
ぶつかり合っている部分では紫電と火花が散り合っている。
そして勝ったのは………。
「俺の……勝ちだぁああぁあああぁあぁあああぁあああぁああぁああっ!!」
一誠の咆吼と共に槍の穂先から石突きまで罅割れ、粉々に砕け散った。
その拳の威力は留まることをせず、そのままドーナシークの胸を直撃し、心臓を貫いて貫通。そのまま威力の余波で肉体が弾け飛んだ。
断末魔は上がらない。
声を上げる前に、ドーナシークは肉片へと変わってしまったのだから。
それを見終わった後、一誠は神器を解除する。
主を失った結界は徐々に解除されていき、人の気配が辺りから感じられるようになって来た。
「……………まぁ、悪くはなかったよ、おっさん」
一誠はさっきまでドーナシークがいた所に向かってそう言うと、家に向かって帰り始めた。