ハイスクールD×D 赤腕のイッセー   作:nasigorenn

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これで取りあえず完結です。


彼は異世界の彼と出会う その21

 イッセーの目が覚めた後、リアス達は実に甲斐甲斐しく彼の看病を行った。

目が覚めたとはいえ、まだ身体の調子は本調子ではない。故に身体を動かすことも困難だったので、しばらくイッセーは寝たままであった。

そんな彼は寝たままの状態でその話を聞かされた。

 

「そうっすか……アイツ、俺が目覚める前に帰っちゃたんですか……」

「えぇ、そうなの。あの時は私達もあなたが目覚めたことで一杯一杯だったから気付かなくて。あの後少しして彼等にお礼を言おうとしたらアザゼルが来て、それで帰ったって聞かされたのよ」

 

イッセーにそう語るリアス。その表情は恩人に礼を言えなかった事への申し訳なさが表れている。

彼等……平行世界の兵藤 一誠とその仲間、そして同じく平行世界の白龍皇。

その者達がいたからこそ、こうしてイッセーは無事だったと言える。それだけでなく、彼等が居なかったらアーシアも失っていただろう。その恩義は計り知れないものがあり、リアス達は感謝の念が絶えない。

最初はその圧倒的な力の前に恐怖しか感じなかったが、今にして思えば彼等の人間味は自分達の周りには居ないタイプで、それ故に刺激を与えて貰った。恐かったが楽しかったと思える。

だからこそ口惜しい。せめてちゃんとお礼は言いたかった。

だが、彼等はそれを良しとはしなかったのだろう。元より恩を着せるタイプではないということは短い付き合いでも分かりきっている。

きっとリアスがイッセーやアーシアのことでお礼を言えば、あの男はこう答えるだろう。

 

『別にそんなつもりはねぇからんなこと言うなよ。俺はただ、暴れたいから暴れただけさ。テメェのしたいことをして礼を言われる覚えはねぇ』

 

そう言ってお礼を受け取らない。

そういう男なのだ。だからこそ、彼等は言われる前に帰ったのだと思う。

感謝の礼を言わせてもらえないことに不満を感じるが、何となく彼等らしいと、そう思った。

だからこそ、リアスは苦笑する。しょうがないと言わんばかりに。

それを聞いたイッセーはそうかと納得した様子で笑った。

 

「あいつ、好き勝手に言って帰ったのか……あ~あ、何かむかつくぜ。こうも言われっぱなしで反論も出来ないんじゃなぁ」

「好き勝手言われたって、何を?」

 

リアスはイッセーの言葉を聞いて不思議そうに問いかける。

二人が話している所は何度か見たが、何の事かと不思議に思ったのだ。思い当たる節があまりない。

その問いにイッセーは奇妙な表情をする。

真剣で真面目なような、それでいて何処か呆れて吹っ切れたような、達観したような、そんな表情だ。そんな表情を浮かべながら彼はリアスに苦笑して答えた。

 

「夢……っていうにはあまりにも生々しいし、痛かったですけど、アイツに夢の中で怒られたんですよ。『イジイジいじけてるんじゃねぇ! 決めたんなら何を捨ててでも突き進め』って」

 

それを聞いてリアスはあの時のことを思い出す。

イッセーが未だに目覚めない時に、一誠が彼の精神を叩き起こすと言って行った事を。

その内容までは詳しく知らなかっただけに、リアスは興味本位でイッセーに聞く。

 

「その夢で……彼はどうしていたの?」

 

そう聞かれた途端、イッセーの顔は赤くなっていた。

それは己の恥ずかしさを認めたが故の羞恥。今にして思えば自分が如何にみっともない真似をしていたのかが良く分かるのだ。

それでも主に問われたからには答えるのが下僕の責務。故にイッセーは気恥ずかしそうに答えた。

 

「その、あの時の俺はアーシアが死んだって思ってて。それで自暴自棄になって絶望していたんですよ。自分はいつも駄目で、大切な時に何も出来ない無力な奴だって」

「そんなことないわ! イッセーはいつも私達を助けてくれたじゃない。いくら自分の事でも、そんな風に言うのは許さないわよ。もっと胸を張りなさい」

 

リアスの少し叱るような声にイッセーは苦笑し軽く首を横に振る。

 

「部長にそう言ってもらえるのは嬉しいですけど、それでも俺は駄目駄目ですよ。アーシアの時も部長の時もそうでしたからね。それで苦しくて悲しくて憎くて、どうしようもなくて。そんな時にアイツは来たんです。それで俺を一喝して胸ぐらを掴んで持ち上げて怒られました。何時までいじけてるんだって。でも、俺はアーシアを失ったことをその程度の言葉で片付けられるのが許せなくて、それでアイツを殴ったんですよ。それでもアイツは一切揺るがなかった。それどころか頭突きされましたよ。あれ、本当に痛かったなぁ。正直頭が叩き潰されたのかと思いましたよ」

 

そう聞かされリアスは一誠に何をしてるのよ、と内心突っ込んだ。精神世界で頭突きをするというのはどうなのだろうか。どうあっても目を覚ます方法としては些か乱暴にしか思えない。

 

「それで俺は思いっきり言われちゃったんです。アーシアを助けられなかったのは俺の所為だって」

「っ!? そんなことないわ! アレはシャルバがッ…」

「いいえ、そうじゃないんです。あの時、俺がアイツみたいに強かったら、アーシアをあんな目に遭わせる事もなかった。それに部長の時だってライザーの眷属達をもっと早く倒せて部長を助けにいけました。アイツならきっと、そのくらい朝飯前だろうから」

 

イッセーは目を細めて思い出すようにそう語る。確かにそれは事実であり、イッセーは彼の力に憧れを抱いた。

 

「だから言われたんです、自業自得だって。それで俺、我慢出来なくてキレちゃって……。『もう一生懸命頑張ったのにこれ以上どうすればいいんだ』て。そうしたら更に怒られましたよ。『本当に精一杯ってのは限界を常に超え続けること』だって。アイツ、俺に死ぬ気でやれじゃなくて、死んでも殺れって言ったんです。何となくですけど、分かります。アイツが言いたいことが何なのか」

「イッセー……」

 

リアスは何か悟ったようなイッセーを見て、少し寂しいような誇らしいような、そんな気持ちになった。イッセーが目覚める前と後では何か成長したような感じがして嬉しく思う反面、自分が彼を成長させられなかった事が少し悔しい。

そう思いながら彼女はイッセーに微笑んだ。

微笑まれた彼は何やら気恥ずかしさから顔を赤くし笑い返す。

そんな二人の間に流れるのは暖かな雰囲気だ。傍から見たら男女の雰囲気かもしれない。実に良い雰囲気と言えよう。

そんな雰囲気を割って入るかのように、部屋の外で声がした。

 

「イッセーさぁ~~~~~~ん、もうすぐ御夕飯ができますよ~~~~~!」

 

その声にハッとする二人。内心リアスは良い雰囲気を壊された気がして少しむくれる。

対してイッセーはその声の主であるアーシアに何かを決め込んだ笑みを浮かべてリアスに話しかけた。

 

「部長、だから俺も……アイツみたいにはいきませんけど、それでも頑張って貫こうと思います。俺が決めたこの思いを貫くために」

 

そう話しかけたイッセーについつい見惚れてしまいリアス。その時のイッセーの顔は確かに立派な男だった。

それを認めるのが気恥ずかしかったのか、彼女はイッセーに向かって微笑みつつ意地悪なことを言った。

 

「だったらまず、イッセーのエッチな所を直さないとね。彼はその点、一切そういうのがなかったし」

「そ、そんな~、部長~~~~~~」

 

そんな情けない彼の声を聞きつつ、リアスは思う。

確かに彼は強かった。でも、私のイッセーもまた、こんなに格好良いのだから、頑張って欲しいと。

こうして平行世界の客人に触れ、各自は様々な成長を見せていくようになった。

 

 

 平行世界から帰った一誠、久遠、ヴァーリの三人。

転移したのは人目の付かない廃墟の中。そして彼等は転移し終えると共に動き出す。

 

「次に会うときは…………」

 

ヴァーリがそう言い彼等に背を向ける。元より仲が良い訳ではない。久遠とは問題無いが、一誠相手にそういったことをするような気は起きない。故に彼は背を向けて立ち去り始める。

対して一誠はニヤリと獰猛な笑みを浮かべつつ、ヴァーリに返事を返す。

 

「あぁ、次は思いっきり殺ってやるよ」

 

そう返し彼も背を向ける。

語ることなどない。互いのためだけの敵に対し、贈るものは言葉ではない。己の拳のみだ。

故に彼等は立ち去る。

互いにその力を高め、次の再会の時にはその成果をぶつけ合い、その決着を付けるために。

 

「そう言いながら、どうせ直ぐに顔つき会わせそうな気がするけどなぁ」

「そう言うなよ。俺だって何となくそう思ってんだからよぉ。アイツは兎も角、アザゼルの野郎が何かしら手を回してそうだ」

 

久遠の茶化しを聞いて少し呆れた感じに彼は返す。

そして共に廃墟を出ると、そのまま一誠は自宅へと帰る。

久遠は久遠で用があると言うことで別れ、彼は一人でマンションへと歩を進めた。

今回の旅行は彼にとって、まぁまぁ楽しめた。あくまでまぁまぁであり、それでもヴァーリとの戦いに比べれば歓喜はしない。

それに平行世界の自分が如何に違うのかを見れたし、女にだらしないことも良く分かった。だが、それと同時に女に優しいことも分かった。

まぁ、土産話には事欠かないだろう。

そう思いながら彼はマンションの一室にたどり着くと、扉をあけた。

 

「お帰りなさい、イッセーさんッ!!」

 

開けた途端に始めるような歓喜とともにかけられた声と笑顔。

それを見て、一誠は彼女に自分らしい笑みを浮かべて返した。

 

「あぁ、ただいまだ………アーシア」

 

こうして彼の赤き暴君は自分の世界へと帰還した。


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