ハイスクールD×D 赤腕のイッセー   作:nasigorenn

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次回あたりまでイッセーは目覚めません。


彼は異世界の彼と出会う その19

 脅威は去ったと言えよう。

イッセーは取りあえず元の姿へと戻ったし、襲撃してきた敵も全て死んだ。

アーシアも無事だったし、結果から言えば大成功であり、万々歳と言えるはず。

だというのに、この場に居る皆の気持ちはまったく喜べない。

何せ……それまで以上の脅威が目の前で猛威を振るっているのだから。

 

「貴様という奴はァアァアアアアアアアアアアアア! その力で次元の壁を打ち壊したのを忘れたのか!」

「お前のせいで危うく俺達全員消し飛びかけた! 何してんの! 馬鹿なの死ぬの?」

「うるせぇよ! ただここ最近溜まってたもんをぶっ放しただけだろ!」

「そんなフラストレーションに巻き込まれて死にかける身になってみろ、このドアホッ! 八つ当たりすんなよ、このボケッ!」

 

一誠が放った極限の一撃の余波に巻き込まれたせいで危うく死にかけたリアス達と久遠、それにヴァーリ。正直な所、ヴァーリは死なないし久遠も死ぬほど危険ではなかったが、あの場で二人が庇わなければ間違いなくリアス達は一瞬で消し飛んでいただろう。そのことに関し、リアス達はもう理解の範疇を超えてしまったために反応出来なかった。だから彼女達から苦情は出ない。何せ理解出来ないのだから。分かるのは、たった一人の『人間』によって世界の一部が滅せられたという事実のみ。

他に人が居ないのならば、これ以上の問題は無い。だが、ここにはそのことに対し、実に文句を言える者が二人も居るのだ。

故に二人はキレ、こうして一誠を追いかけ回しているのである。

ヴァーリがキレて叫びを上げつつ、瞬時に間合いを詰めて拳を振るい、久遠が一誠の動きを鈍らせるよう結界を張りつつ舌戦を持ってして怒りをぶつける。

この二人から怒られ、一誠は自分は悪くないと主張し二人の攻撃を防ぎつつも反撃する。

その結果、大地が衝撃で砕け大気が震える。

ヴァーリの拳は鋭く大地を穿ち、一誠の拳は悉く粉砕する。そして久遠も珍しく結界を攻撃に回したりして一誠を押し潰そうとしたり捕縛したりと、様々な術を仕掛けていく。

結果…………イッセーとシャルバが暴れ回っていた以上の破壊が撒き起こっていた。

神殿は最初の一誠の一撃で七割方消し飛び、その後はイッセーの不完全な覇龍の暴走で残り二割も崩れ落ち、神殿の体を成さない。

それだけでも酷いのに、一誠が放った極限の拳の余波によって最後の一割………いや、それどころか大地その物も消し飛んだため、マイナス十一割とでも言おうか。それぐらいの酷い破壊が行われたのだ。

すでに大地は更地ではすまない状態であり、土地としてどう形容して良いのか分からない状態。だというのに、そこから先に更にその張本人とそれに匹敵する者、そして人間では有り得ない猛者によって大地は無残な姿に変えられているのだ。

もう生命は住めないんじゃないだろうか………それぐらい目の前の破壊の爪痕は酷かった。

勿論、一誠もヴァーリも久遠も本気ではない。

言葉にすれば単純であり、やり過ぎだと言いたいだけ。

しかし、それだけでは久遠とヴァーリの怒りは収まらない。理由は酷いし幼稚なものだが、それでもこの怒りをぶつけられずには居られない。

その結果、大地がもう大地として機能しなくなったとしても、二人は止まらないだろう。ぶちまけてスッキリしたいのである。

そしてそれを止められる者などいない。

例え魔王や神であろうとも、こんな幼稚な八つ当たりを止められはしない。

止めようとすれば、下手をすれば一瞬で消し飛ばされるかもしれないのだから。

 しかし、その破壊も少しして収まりを見せ始めた。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ………」

「俺はまだ病み上がりの身だぞ。何故こんなに疲れなければならない」

「テメェ等が勝手に喰って掛かるからだろうが、クソ! あぁ~、疲れた、腹減ってきた」

 

何やら疲れたらしく、三人がクレーターのそこで倒れていた。

久遠は息切れを起こしてぐったりし、ヴァーリは少し冷静に戻ったらしく如何に自分が幼稚な事をしたのかと恥い、一誠はやれやれだと疲れた様子で空腹を訴える。

特に一誠とヴァーリは神器を解いており、普通の姿で地面に横たわっていた。

それだけを見れば青春の一幕に見えるかもしれないが、その前に三人が引き起こした大規模な破壊を思えばそのようなそんなことは冗談でも思えない。

そんな風に疲れ切った三名だが、その視線は三人とも空のある一点を見ていた。

そこは何もない、冥界のくすんだ紫色をした空が広がっている。何もないというのに、三人は確かにそれを見ていた。

そして三人の言葉を代弁するように、ヴァーリがそれに向かって声をかける。

 

「それで………いつまで隠れて覗き見るつもりだ?」

 

その声に反応してなのか、リアス達では気付かない程の上空からそれは降りてきた。

真っ白い純白の鎧を纏い、神々しい翼を広げた男がそこには居た。

その姿は彼等にとって見慣れている姿。それこそ、ヴァーリには実に馴染み深い姿だ。

 

「この世界の俺(白龍皇)か」

 

そう、その男が纏っているのは白龍皇の光翼、その禁手だ。つまりこの男は『この世界の白龍皇』ということ。

彼はヴァーリの言葉を受けて、感心したように頷く。

 

「その通りだ。しかし、噂に聞いていたが……まさか平行世界の自分が見られるとは思わなかった」

 

イッセーと比べてそこまで驚いている様子は見られない。どうやら一誠達の話は事前に調べていたようだ。

そんなこの世界のヴァーリに対し、一誠は目を向けるだけ、久遠も二人のやり取りを見るのみ。ヴァーリは軽く睨み付けると、続きを話し始める。

 

「それで此方の貴様が何用だ? 強者の気に触れ誘われたか?」

 

龍に関わる者は得てして戦いを求める。それ故なのか、強者の気に誘われやすい。

この場合強者というのはヴァーリ達のこと。つまり自分達と戦うのかと遠回しに聞いているのだ。

その問いかけに対し、彼は違うと軽く首を振る。

 

「それも魅力的ではあるが、答えはNOだ。俺はライバルの気配に不穏な物を感じたので、少し様子を見に来たんだよ。それで見てみれば不完全な覇龍と化し暴走。止めるべきかと思ったんだが……それは杞憂としか言いようが無かったようだがね」

 

ヴァーリ達を見ながら彼はそう答える。

確かにイッセーの気配が可笑しなことになっていることに気付き、その様子を見に来た。そしてイッセーを……死にかけになっているライバルを救おうかと悩んだところ、平行世界のヴァーリが現れたのだ。

後は皆が知っている通り、超絶的な力で一方的にイッセーをねじ伏せた。その光景を見て、自分は不要だと判断したのだろう。

 

「それに……悔しいが、今の俺ではそちらの二人にはどうやっても敵わないだろう。その力は俺が知る限り、『D×D』に最も近い。いや、それで全力ではないというのならば、それ以上だ。そのような化け物相手に敵う人物など、この世界にいるかどうか」

 

悔しいと言う割には嬉しそうに語る彼。

彼自身、最終目標は決めているが、その指針としての方向性が少しばかり決めあぐねていた。そこにヴァーリが現れたのだ。自分の目指す先にいる『白龍神皇』を。

それを目の当たりに出来たのだから、その興奮は凄まじい。自分が強くなるにはどうすれば良いのかの具体例が見れたのだ。それが見れればその先にいくためにどうすれば良いのかが少しでも分かる。

自分も『ヴァーリ』のように強くなれるのだと、確信出来る。

だからこそ、悔しいが彼は満たされていた。

 

「だからこそ、戦わない。だが、いずれ其方よりも強くなってみせる。『D×D』を超え、『真なる白龍神皇』へとなる為に」

 

そう語る彼。その信念は言葉からでも充分に伝わり、ヴァーリは軽く笑いつつ答える。

 

「悪くない信念だ。ならばやってみせろ…その信念の元に、それを貫き成してみろ。だがな………俺とて負ける気はない。何せ未だにそこにいる奴との決着が付いていないのでな」

「其方はライバルに恵まれているようだな。確かに、あの破壊を見せつけられた後なら尚のことそう感じさせられる。其方に負けぬよう、俺も研鑽するよ。だが、俺のライバルも捨てたものではない。意外性と爆発力は群を抜いているし、度胸もある。後は純粋に戦いを楽しめるようになれればもっと強くなるさ、きっとな」

 

そう言うと、彼は上空へと再び飛び上がりあっという間に見えなくなった。

その姿を見送りつつ、ヴァーリは目を瞑る。

 

「こっちのお前さんはどうだよ?」

 

一誠のからかう様な問いかけに、ヴァーリは愉快そうに笑う。

 

「まぁ、悪くはないだろう」

 

そう答え、そのまま地面に身を任せるヴァーリ。少しは土産話が出来たようだ。

 その後、アザゼルやサーゼクス達がリアス達を心配し駆けつけたが、目の前に広がった光景に言葉を失っていた。

 

 

 

 そんな冥界での大惨事ではすまない大惨事の後、一誠と久遠はヴァーリも連れて人間界に戻っている。

本来ヴァーリが来ているのならもう帰るだけのはずなのだが、その前に少し気がかりがあってまだ帰らずにいた。

それは………この世界の兵藤 一誠ことイッセーが未だに目を覚まさないことだ。

無理矢理覇龍になったためなのか、その影響なのか、イッセーは身体こそ元に戻っても意識が戻らない。

それに関し、リアス達は心底心配し、イッセーに四六時中くっつき看病している。

呼吸はあるし脈もある。だというのに、目を覚まさない。

それがまるで一生目覚めないかのように感じられ、彼女達はもの凄く不安なのだろう。

そんな彼女達と違い、大人であるアザゼルは対処するべく一誠に話しかける。

 

「なぁ、コイツは予想だが……あいつの寿命が極端に減ったからじゃないのか? 覇龍は使用者の寿命を激減させるって話だったよな。お前さん等は別らしいけど」

 

本来の覇龍ではそうなる。

此方の世界のヴァーリでもそれは同じだからこそ、使用は控えている。ただし、この一誠とヴァーリに限っては別であり、『覇龍以上に元が強い』ので寿命が減ることはない。その事実から基づけば、二人とも最早ただの化け物だ。

その問いに対し、一誠は何やら思いついたことがあるらしく、それに答える。

 

「まぁ、確かにそれもあるけどよぉ……それだけじゃねぇなぁ。あの野郎………未だに『うじうじといじけて』やがる」

「いじける?」

 

その言葉に疑問を感じるアザゼル。意識がない者がいじけるというのはどういうことなのか。

それの答えを一誠はアザゼルが聞き返す前に答えた。

 

「ドライグ、俺をあいつの精神世界に送れるか?」

『多分可能だろう。何せ同じ人物なのだ、魂の波長も同じはず。故に彼方の相棒の精神世界に相棒を送ることも問題は無い』

「上等だ」

 

そして一誠はいつの間にか皆の注目が集まる中、獣のような笑みを浮かべ、殺気を放ちながら答える。

 

「あの野郎の精神世界に入って野郎を叩き起こす! そんでもって二度といじけることが出来ないようにそのひねくれた精神を叩き直してやるよ」

 

それを聞いて皆は………。

 

一誠が起きる可能性を喜ぶよりも一誠が壊れないか心配になって絶句した。

 

ただし…………久遠はそれを聞いて爆笑し、ヴァーリも愉快そうに笑った。


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