ハイスクールD×D 赤腕のイッセー   作:nasigorenn

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やっと本編らしくなってきましたよ。


6話 彼は出会う

 少女は今、目の前の事態にどう判断すれば良いのか判断が付かなかった。

とある事情から祖国、教会を追放された信心深い少女はそれでも信じる神のため、堕天使にそそのかされ、騙されていることも知らずに日本に来た。

神の教えを信じ、人々を救う信徒として。

そこで紹介された駒王町の教会に赴任することになり向かっていたのだが、慣れない異国の地と、慣れない日本語のせいで迷子になっていた。

道に迷っている不安と戦いながら彷徨っている所で彼女は出会った。

 

地面で倒れている男に。

 

見た限り自分と同じ歳の男で、制服を着ていることから学生だと言うことが窺える。

周りに人はおらず、助けを呼ぶ手段を持たない少女は急いでその男へと駆け寄る。

怪我をしているのなら少女の『異能』の力で助けられるかもしれないし、そうでなくとも善人な少女が目の前で倒れている人を助けないという選択肢は存在しなかった。

 

「ア、アノ……ダイジョウブ……デスカ?」

 

少女が慣れない片言の日本語で話しかけるも、男からの返答はない。

そこで少女は意識がないのか、何処を怪我しているのかを確認すべく男を仰向けにする。

すると男が腹を苦しそうに押さえていることに気付き、腹痛で苦しんでいると判断した。

 

「オナカ、イタイデスネ。イマ、タスケテアゲマス……」

 

相手を安心させるよう、心からの優しさを込めてその男の腹に手を添える。

そして全ての怪我を治す神秘の力を使おうとした途端………。

 

ぐぅるぅるぅるるるぅるるるるるるるぅるぅうるぅるるううるううう~!

 

獣の叫び越えのような音がその男の腹から鳴った。

腹が鳴るという現象は二種類のパターンがある。腸内の活動が何かしら変化し痛みを発する腹痛か………空腹による胃腸内の活動の活発化。

そして少年は、

 

「……………腹………減った………」

 

後者であった。

要は少女の目の前で倒れている少年は行き倒れだったということ。

その事実に気付いた少女は安堵すると共に、持ってきていたトランクから昼食用に用意していたサンドウィッチを取り出した。

 

「ア、アノ……タベマス?」

 

少女は少しおっかなびっくりにサンドウィッチを少年に差し出す。

次の瞬間、サンドウィッチの香りを嗅ぎ取った少年は目を見開くとその瞳に野生の輝きを宿し、目の前に差し出された獲物(サンドウィッチ)に喰らい付いた。

 

「キャッ!?」

 

手から凄い形相でサンドウィッチをかすめ取られた少女は驚き声を出してしまう。

獲物を手に入れた少年はそれこそ、貪るかのようにサンドウィッチを喰らう。

とても人の食べ方ではない、まさに獣のような食べ方。行儀なんて欠片もない、人としてはどうかと思う行為。

そのくせパンカス一つ零さずに食べる姿はある意味凄い。

少年は少女から受け取ったサンドウィッチを平らげる。その食べっぷりに少し笑ってしまった少女は更にもう一切れ差し出す。

 

「モ、モット……タベマスカ?」

 

少年は差し出されたサンドウィッチを無言で奪い取ると、先ほどよりかは穏やかに喰らい始めた。

 そのやり取りが少し続き、少女の昼食が残り一切れになった所で少年はやっと止まった。

まだ空腹を感じてはいるようだが、取りあえず危機的状況からは脱却したらしい。

少年は腹をさすりながら少女に面と向かって礼を言う。

 

「いや、本当に助かったぜ。マジでな」

「イエ、ソンナ……」

 

礼を言われ照れる少女に、その少年は言葉を聞いて目の前の少女が外国の人間であることを知る。

 

「あれ? あんたここら辺の人間じゃねぇな。どこから?」

「ア、ハイ! ワタシ、ヨーロッパカラキマシタ」

 

少年はその言葉に軽く頷くが、実際にそこまで深くは考えていなかった。

ただ外国という認識くらいしか持たなかったのは、少年の頭がそこまで良くないからだ。

だが、それでも話を聞いてくれる少年のことを少女は嬉しく思った。

 

「へぇ~、そうなのか? 旅行か?」

「イエ、エット………フニンデス。コノマチ、キョウカイ、フニン」

 

片言の日本語だが、それでも充分に意味の通る言葉。

少年はそれを聞いて少し驚いた。

 

「あんた、日本語上手いな」

「ハ、ハイ! ガンバッテ、ベンキョウ、シマシタ」

「すげぇなぁ。そうか、教会にねぇ」

 

少年は感心すると共に、少女の服装を見て納得した。

黒い慎ましやかな僧衣、それは神の信徒であるシスターの証明である。

すると少女は先ほどとは一転し、困った顔をした。

 

「デスガ……マイゴデス。コマッテマス」

「マイゴ……あぁ、迷子か。てことは、あんた迷ってるのか」

「ハイ……」

 

道に迷っていることを恥ずかしそうに語る少女に、少年は少し考えた後に口を開いた。

 

「だったら、案内してやるよ。せっかく来たんだしな」

 

そして少年は少女を教会まで案内することにした。

 

 

 教会まで案内する間に、少女はまだ言っていなかったことを少年に言うことにした。

 

「ア、アノ……ワタシ、アーシア・アルジェント、イイマス」

「ん? あぁ、あんたの名前か。随分と律儀なんだな。名乗られたからにはこっちも返さねぇとなぁ。俺の名は一誠……まぁ、ただの一誠だ」

 

会ったばかりの人間に名前を明かすというのは、中々に出来ることではない。

それを平然と純粋な笑顔でする辺り、少女……アーシアは本当に優しく純粋な少女なのだろう。

 

「イッセイ?……イッセー……サン……」

 

アーシアは少年、一誠の名を刻みつけるように小さく繰り返し呟く。

そして心に刻み込むと、イッセーサンと呼び始めた。

アーシアは一誠の名を呼び親しみを感じながら話しかけていると、あることを思い出した。

 

「ナンデ、イッセーサン、タオレテタ、デスカ?」

 

そう、そもそもなんであのように生き倒れていたのか、そのことがアーシアには不思議だった。

アーシアが聞いた限りの話では、日本は裕福な国で飢餓に苦しむようなことはそこまでないと。だというのに実際に来てみたら目の前に行き倒れた一誠を見つけたのだから驚くのも無理は無い。聞いた話と違うのだから。

聞かれた一誠は少し気まずそうにした後に、短く答えた。

 

「金欠だ。えっと……No money(ノウ マネー)」

 

英語で今更答えたのは漢字だと難しいかと思ったからであり、決して恰好付けたかったからではない。頭の悪い一誠でもこれぐらいは何とか出来る。

一誠の答えを聞いてアーシアは少し悲しそうな顔をする。

 

「ニホン、ユウフク、コマラナイキキマシタ」

「それは一部の奴だけだろ。何処の国だろうが金がなくて困ってる奴なんてごまんといる。俺は常に金欠だしな」

 

一誠は苦笑しながらそう答える。

だが、ここで一誠は少し嘘をついた。

正確に言えば、一誠は数日前まで困ることなどない大金を手に入れていた。

はぐれ悪魔、バイザーの討伐料である500万円。

この高校生には破格の金額を手に入れたイッセーは、その殆どを自分が世話になっていた孤児院『白夜園』に寄付している。

それはいつものことだが、立て続けに来た討伐依頼の御蔭で少しは一誠にも回す余裕が出来ていた。だからこそ、普段はしないちょっとした贅沢をしていたわけだが、ここで変な欲が出てきてしまった。

せっかく贅沢が出来るのだから、孤児院の子供にお菓子を買ってあげよう。

そう思ってしまったのだ。孤児院にいる子供は皆一誠より歳下の少年少女達。一誠からすれば血のつながりはないが、弟と妹達なのである。

ここで兄貴らしい行動を見せたいなどと思った一誠は洋菓子店に入ってケーキを買うことにした。だが、洋菓子とは得てして高額な物。

その値段を人数分で計算した結果、明らかに赤字になることは見えていた。

だが、一誠はそれでも購入に踏み切った。

そして買ったケーキを孤児院の皆に振る舞うと、皆嬉々としてそれを喜んだ。

 

『ありがとう、一誠兄ちゃん!』

 

その感謝の声が嬉しかった一誠はそれで正解だと思った。

だが、心は充実しても財布は空虚となり、結果、ここ最近ロクに食べていないという事態に。そして空腹がピークになり、道端で倒れていたというわけなのだ。

それを言うわけにはいかないことから一誠は苦笑するしかなかった。

アーシアは苦笑する一誠を見て世の非情さに心を痛ませつつ、会話を続けながら歩く。

異国での心細さも不思議と消えていて、初めて同年代の異性と話すことに恥ずかしがりつつも嬉しかった。

そして二人は歩くこと十数分、丘の上に立つ教会を見上げていた。

 

「あそこがこの街で唯一の教会だよ。まぁ、今は誰も居なくて廃墟みてぇなもんだけどな。また再開でもすんのかねぇ」

「ハイ。ワタシ、ソノタメ、キマシタ」

 

元気よくそう答えるアーシアに一誠はそうなのかと返事を返す。

ここまで来れば後は一本道であり、迷うことはない。

アーシアは一誠に向き合うと、頭をペコリと下げた。

 

「アリガトウゴザイマス。タスカリマシタ」

 

心からの感謝に一誠はムズ痒い様な感覚を感じ、頬を掻きながら少しそっぽを向く。

 

「別に礼を言われるようなことじゃねぇよ。寧ろこっちが助けられたんだしな」

 

そして一誠は思い出したかのようにアーシアに言う。

 

「そうだ。こいつが礼代わりになるかはわからねぇが、あんたが困ったときは声をかけてくれ。助けてやるからさ」

「ハイ! アリガトウゴザイマス」

 

一誠はそうアーシアに言って別れを言うと、アーシアは一誠の姿が見えなくなるまで手を振っていた。

 こうして少女は少年と出会った。

 

 

 

 その帰り道、財布の中は変わらず寂しいが心は満更ではない様子の一誠。

だが、次に現れた者によってその充実感は失われる。

 

「貴様が『兵藤 一誠』で間違いないか?」

「あん?」

 

曲がり角を曲がると、スーツ姿の男がいた。

その男を見た途端、一誠の眉がつり上がる。

何故なら、その気配が人間ではなく、その上此方の名を呼んできたからである。

男は一誠の雰囲気がより鋭くなったことを察し、ニヤリと笑った。

 

「あんた、誰だ?」

 

その言葉が何処の何方かではなく、何用だという意味なのかを、男は勿論理解している。だからこそ、こう答えた。

 

「私の名はドーナシーク。既に察していると思うが……堕天使だ。そして我が上司の命により、障害になり得る貴様を処分する」

「へぇ~、そいつは随分と物騒な話だ」

「それに我が上司は貴様にかなり侮辱されたようなのでな。そのことを後悔させよとの命だ。まぁ、こっちはどうでもいいが」

 

互いの空間の密度が増していく。

殺気と殺気がぶつかり合い、辺りが軋むような感じがし始める。

 

「私としてはその上司が恐れる力、試してみたいと思っている」

「へぇ~、そいつは……嫌いじゃねぇなぁ」

 

気が付けば辺りは結界が張られていて人一人居ない。

それを本能で察した一誠は好戦的な笑みを浮かべてドーナシークを見る。

そして……。

 

「では、行くぞ人間っ!!」

「来いよ、堕天使っ!!」

 

 赤き腕と光の槍が激突した。


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