ハイスクールD×D 赤腕のイッセー 作:nasigorenn
突如現れた赤と白に驚愕する周り。
それは平行世界の一誠と同じ世界から来た白龍皇。その者はリアス達が見た事の無い姿で現れ、そして暴走するイッセーを一撃で吹っ飛ばした。
「ぐるがぁああっっがあぁぁああぁあああああっぁあああアアアアアアアアアアッッッッッッッ!!!!」
自身が吹き飛ばされ倒れたことに驚くと共に怒りを燃やすイッセー。悲しみで暴走している化け物だが、それでも怒りやプライドのようなものがあるらしい。
故にイッセーは怒り狂う。全てを壊したいと、目に映る全てを滅したいと。そうでなければ耐えられない。
『アーシアを失った』
その悲しみがあまりにも強すぎるから、もう彼にはそのどうしようもない憤怒を叩き着ける以外何も出来ない。
もう本能で動いているようなものであり、それ故に彼は暴れる。
「オォオォォオオオォオオォオオオオオォオオオオォオォオオオオオオオッッッッッッッッッ!!!!」
怒りの咆吼を上げながら、力の限り暴れる。
強靱な尾は辺りを薙ぎ払い、その巨腕は地面を粉砕する。その雄叫びは聞く者を恐怖させ、溢れるオーラは触れた物を片っ端から消滅さえていく。
それはもう、ただの破壊だ。破壊という現象そのものの象徴のようにリアス達には見えた。
そしてその強大にして怒りだけが爆発した腕は、全てを壊しながら目の前で対峙するヴァーリへと振るわれた。
『あっ!?』
その光景に皆の声が出かけた。
何せ目の前で起こっているのは、あの一誠に負けず劣らずの暴威なのだ。それをサイズ的に小さいヴァーリが受けたらどうなるか? そんなものは常識的に考えて分かりきっている。
だからこそ、これから起きるであろう悲劇に目を瞑りかけた。
しかし………彼等はその目を見開くことになる。
ヴァーリは避ける事が出来なかったのか、その巨大で強大な豪腕を叩き着けられてしまった。その激突音は凄まじく、まるで隕石が地表に激突したかのように空間を震わせた。
だが………その腕は振り切れなかった。
普通に考えれば抵抗なく振り切れるはず。ぶつけられた対象が吹き飛ぶのか弾け飛ぶのかのどちらかの結果だけが残るはず。
だというのに、その腕はヴァーリが居たところでピタリと止まっていた。
「………………なんだ、これは?」
自分の腕が止まり、まるで氷のように冷ややかな声がかけられたことに戸惑いを見せるイッセー。
その声はリアス達にも何故か聞こえ、彼女達は皆唖然とする。
一体何が起こったのか? その事実を前にして、彼女達は理解出来なかった。
何せ………ヴァーリは防御も何も一際せず、その腕を受け止めていたのだから。
そう、彼は何もしていない。そのまま構えることもせず、浮遊していた場所から一切動かずにいた。その身だけで叩き着けられた腕を止めたのだ。
大地を粉砕する破壊の巨腕。それを防御も無しに受け止めて、それでいてダメージを負った様子が一切無い。
そんな『可笑しい』ことを理解出来るわけがないのだ。
そんな周りに対しヴァーリは静かに、しかしはっきりとイッセーに言う。
「貴様は何をしたんだ?」
「グゥルッ!」
まるで何がしたかったのか分からないと言った感じにヴァーリは問いかける。
その声ははっきりとしており、まるで何もされていないかのように感じる。
そんな様子に更にイッセーは戸惑う様子を見せ、そして自分の行った結果を認めないというかのように、更にその巨腕をヴァーリへと叩き着けた。
「がぁあぁあああァアアアァアアアアアアアアァアアアアアアアアアッッッッッッッッッ!!!!」
憤怒の咆吼を上げながらイッセーはその巨腕を繰り出す。
何度も何度も大地を粉砕する威力をヴァーリへと叩き着け、ヴァーリに激突する度に激突の轟音が轟く。
そして最後に両手を組み合わせ、ヴァーリへと向かって振り下ろした。
それが激突した瞬間、あまりの威力に衝撃波が走りイッセーの周りの瓦礫を吹き飛ばしていく。
それは彼の暴威の化身に引けを取らない威力だった。
しかし………それ程の威力を受けても尚、白は顕在する。
ヴァーリにぶつかった腕はそこで止まり、彼はそれを防御も無しに受け止めていた。
そしてこれらの流れをもってやっとヴァーリはそれが何なのか理解した。
「あぁ、そういうことか。つまり貴様は俺に攻撃をしたと、そういうことか」
ヴァーリはそうかそうかと言った感じに軽く頷き、そして……………。
「馬鹿にしているのか」
まるで世界が凍り付くようなゾッとする殺気を噴き出した。
それは殺気によって精製された極寒。リアス達は遠目で見ているというのに、その魂をも凍てつかせる殺気に震え上がった。
その冷気は我を忘れて暴走しているイッセーでさえ止めるほどに凄まじい。
イッセーはまるで怯える獣のように少し後ろに退いてしまう。本能が目の前に居る男を怖れたのだ。
そんな殺気を放ったヴァーリは、呆れと怒りが籠もったような声で話しかける。
「平行世界とは言え兵藤 一誠なのだから、どれほどの力かと思えば……この程度か。覇龍が不完全とは言え、この程度か…………巫山戯るな!」
まるで刃を突き付けられたような殺気を向けられ、本能が怯みをみせるイッセー。
身体のサイズは圧倒的にイッセーの方が上だというのに、その恐ろしさはヴァーリの方が格段に上だ。
ヴァーリは更に怒りを込めて言う。
「あの男は、俺が知る兵藤 一誠という男は、このような腑抜けた拳など振るわない! 赤き龍の帝王の名にはあまりにもふさわしくない程の暴威こそがあの男だ。世界の違いがここまで違うとはな……正直失望したぞ」
がっかりだと言わんばかりの声を出すヴァーリ。
何せ世界は違えど同じ兵藤 一誠の、不完全とは言え覇龍と戦えるのだ。確かに一誠に比べれば弱いのは分かりきっているとはいえ、多少は楽しみたかった。
だが、そのお眼鏡にイッセーは適わなかったのだ。大地を砕き破壊を撒き散らす赤き暴龍でも、この男を満足させるのは至らない。
そう言われても言葉を理解出来るほどの理性はない。しかし、それでも見下されたことが我慢出来なかったのか、イッセーは怒り咆吼を上げる。
大気を震わせる叫びを上げると共に、辺りへと閃緑色の魔力弾が無差別に撒き散らかれ、辺りを破壊する。
その弾雨の威力も凄まじく、リアス達は巻き込まれないよう急いで結界を全力で張った。
そんな危険な雨の中、ヴァーリは何事もなく浮遊する。
身体に激突する弾はそのまま弾が耐えきれずに霧散していく。
当たった箇所に目を向けヴァーリは呆れながら、まるで教師が駄目な生徒にものを教えるかの如く口を開いた。
「まったくなっていない。いいか………攻撃とは………こういうものだ!!」
そう告げた瞬間、イッセーの目の前からヴァーリが消えた。
それはリアス達も同じであり、彼女達もヴァーリの姿を見失う。
彼が何処に行ったのか? その答えは大気が炸裂するような轟音と共に現れた。
その轟音と共に、
イッセーの右腕が弾け飛んだ。
まるで何かにむしり取られたかのように、千切れ飛んで少し離れた地面へと血肉が叩き着けられた音と共に落下した。
その右腕は酷く損傷しており、もう右腕の形をしていない。すでに肉塊といっても良い。それぐらい滅茶苦茶になっていた。
千切れた腕の断面から血が噴き出すイッセー。その腕の先には、先程消えたヴァーリが浮かんでいた。
「この程度の攻撃と千切れるとはな……脆過ぎる。あの男ならこの程度、余裕で反撃してきただろう。それで同じ赤龍帝の男か」
深い失望と共に吐き出される言葉は、リアス達が聞いても心を抉り出されるほどに痛いものであった。もしイッセーに理性があったのなら、二度と立ち上がれないかもしれない。
自身の右腕が亡くなったことで走った激痛に悲鳴を上げながら、イッセーは怒り任せにヴァーリに残った左腕で殴りかかる。
しかし、今度は当たらない。
その前にヴァーリの姿が消えたからだ。
「遅い」
その呟きと共に、イッセーの身体の各所が弾け飛ぶ。
まるで銃弾の雨に晒されているかのように、イッセーの身体は弾けながら壊れていく。
その攻撃の正体は何てことはない。
ただヴァーリが手加減してイッセーへ接近しては一撃を繰り出すだけ。ヒットアンドウェイを繰り出しているだけだが、あまりにも速過ぎて見切ることが出来ない者ではヴァーリの姿は捉えられず、イッセーの身体が弾けているようににしか見えない。
身体がボロボロになっていくイッセー。その痛みは凄まじいようで、上がる悲鳴はあまりにも痛ましい。
既にこれだけでも力の差は歴然であり、イッセーが敵うとは思えない。しかし、それでもイッセーの暴走は止まらない。
激痛を堪え、憤怒に染まった咆吼を上げながら更にヴァーリへとイッセーは襲い掛かる。
「オォオォオォオォオオオオオォオオオォオオォオオォオオオオォオオオッッッッ!!」
『Divide!』
人工的な音声と共に、ヴァーリにとって馴染み深い力が発動された。
それを受けて身体から力が抜けた感じを受けるヴァーリ。それに少し驚いたようで、目を少しだけ見開く。
それはリアス達も同じであり、あの状態で白龍皇の力を使えるなんて思わなかったのだ。
この世界のイッセーだけが成した事。それはこの世界のヴァーリから白龍皇の半減の力を奪ったことだ。三大勢力和平の時の激闘の際、砕けたヴァーリの鎧から出た青い宝玉を掴むと、イッセーはそれを無理矢理ドライグの中に取り込んだ。本来相反する者同士の力を一緒にするというのは、かなり危険だ。事実、イッセーはそれでかなりの激痛と苦しみを味わった。しかし、それでも彼はそれを成したのだ。故にイッセーは赤龍帝なのに『半減』を使えるようになった。
倍化と半減を両方とも使えるというのはある意味反則染みている。
しかし…………。
「身の程を知れ」
ヴァーリのその言葉と共に、イッセーの翼が弾けて千切れ飛んだ。
その激痛に悶えるイッセー。その呻きを聞きながらヴァーリは告げる。
「『半減』の力を使える事は驚いたが、その使い方がなっていない。『半減』は相手の力を半分にし、その奪った半分を自分のものにするというものだ。自身のキャパシティを考えずに使えば、それは溢れ出し器を破壊するだけ。貴様のような半端な覇龍如きに俺の力を受け止めきれるわけないだろう」
力を半分にされたというのに、ヴァーリはまったく弱った様子を見せない。悠然とイッセーの前に佇み、見下す。
「他者から奪った力を満足に使えないのに使いその為体……醜いな。それが貴様の今の全力か?」
その問いかけに帰ってくるのは怒り狂った叫び。
そのまま口からイッセーは砲撃をヴァーリに向かって吐き出した。それはイッセーのドラゴンショットよりも格段に上の威力を持つ。
その砲撃を前に、ヴァーリもまた翼を広げて迎え撃つ。
二対四枚からなる翼を神々しく輝かせ、ヴァーリはイッセーに向かって片腕を構えた。
「そのような温い砲撃で倒せるなどと思うな」
そして腕から魔法陣が展開され放たれる砲撃。
それはイッセーが放ったものと同じ位の太さを持つものであり、互いの砲撃がぶつかり合った。
一瞬だけ拮抗し、その後は一気にヴァーリの砲撃によってイッセーの砲撃は飲み込まれていく。
そして砲撃はイッセーの左腕を飲み込み、塵一つ残さずに消滅させた。
両腕を失い叫ぶイッセー。そんなイッセーにヴァーリは怒りと呆れを持って話しかける。
「全てが中途半端なものばかり。貴様………殺る気があるのか?」
その問いかけと共に膨れ上がるのは怒気。想像した以上に不甲斐ない平行世界の宿敵への軟弱さにヴァーリは怒る。
何だこれは? この弱いのが赤龍帝だと? 巫山戯るなと、彼は激怒する。
それは兵藤 一誠を認めているからこそ、許せない心の現れ。世界は違えどあの一誠と同じ存在なのだから、もっと強く無ければいけないと。若干無茶振りだが、ヴァーリにそれを言った所で聞くわけがない。
その蔑みを聞いてなのか、イッセーは怒りの咆吼を上げながらヴァーリを睨み付ける。
そして彼は武器という武器を失い、残った最後の手段に移る。
胸の装甲が開き、中から大きな宝玉が現れた。その宝玉は閃緑色に輝き、人工的な音声と共にその輝きを増していく。
それは覇龍が持ちし最大火力。放てば全てを消滅させると言われているほどに強力な力。それを放とうというのだ。
この現状、イッセーはそうすることでしかヴァーリを倒す手立てがないのでそれは仕方ない事なのかも知れない。例え暴走していて気付かずにリアス達を巻き込み殺したとしても。
そんなイッセーに対し、ヴァーリは軽蔑の眼差しを向ける。
「先程から様子を見てみれば、ただ中途半端に暴れるばかり。まったくもってなっていない。貴様は何がしたいのだ? 話は聞いたが、だからといって同情する余地など無い。貴様が大切にしていた女が殺されたと思ったのはまぁいい。しかしだ、その後はその事実に目を背けてただ暴走して暴れている。俺には貴様がしていることが、ただの餓鬼の癇癪にしか見えない。そのような信念の執念も無き腑抜けに殺される程、俺は甘くない。貴様も男なら見せてみろ、意地というものを!」
そう言うと共に、此方も力を溜め込む。
神々しく輝く翼と身体。そこから感じられるのは魔王ですら超える力の本流。
そこから放たれるのは、きっと一誠同様に『世界を殺す』一撃だ。
互いの力の昂ぶりを感じながらリアス達は顔を青ざめさせた。
それは自分達が巻き込まれかねないのもそうだが、それ以上にイッセーが死んでしまうかもしれないと思うからだ。もう暴走したイッセーを止められないとは思わない。あのヴァーリを前にすれば、寧ろ止められない方が可笑しいと思う。傍から見てもその強さは魔王級、いや、それ以上だろう。不敬かもしれないが、リアスは自身の兄であるサーゼクスですら勝てるか分からないと思ったくらいだ。
それぐらいその力は凄まじい。
そんな力の高まりを前にして、久遠は疲れた様な顔で皆に叱咤を入れる。
「おい、全員急いで俺の後ろに回れ! 結界を全力で張るから、少しでも離れたら塵一つ残らず消滅するぞ! くっそ~、あの人、本当に手加減すんのかよ!」
その言葉にリアス達は急いで久遠の後ろへと回った。
その避難が終わる瞬間と同時に両者は動く。
倍化を何重にも行ったイッセーは胸の宝玉は溢れんばかりに光を放ち、そしてそれをヴァーリに向けて放った。
『ロンギヌス・スマッシャーッッッッッ!!』
それは破壊の濁流。全てを巻き込み消滅させる死の流れ。巨大なそれは避ける事など出来ない。神を滅するにふさわしい光の濁流、それは余波だけで大地を消滅させながらヴァーリに向かって飛んで行く。
確かにアレなら如何にヴァーリとて無傷ではすまないだろう。
そうリアス達は思った。
だが、それでも………その認識は甘かった。
彼女達は理解していない。
たかが『不完全の覇龍』と、『覇龍のその先の進化体』の差というものを。
それは彼の龍神達に匹敵する者なのだから。
「その程度で『神滅』を語るな、餓鬼! 見せてやろう、真の『神を滅する力』を。なぁ、アルビオン!」
『あぁ、相棒! 本物の差を見せつけてやる』
そしてそれは放たれた。
それは砲撃ではない。ただの魔力が込められた手刀だ。
ただし、その力は万物を切り裂く。物質を、空間を、霊気や魔力、それらの力、存在そのものを、その世界全てを斬り捨てる超絶的な斬撃だ。
「ハァアァアァァアアァアアァアアァアッッッッッ、『白龍閃滅斬ッッ!!』」
その斬撃はそのまま光の濁流へと飛んでいき…………。
切り裂いた。
そう、拮抗することもなく、触れた瞬間に抵抗なくすっぱりと砲撃を切り裂いたのだ。
斬られた濁流はその後の余波だけでかき消され消滅していく。
そして斬撃はその発射元であるイッセーの胸の宝玉を切り裂いた。
「ッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ………………!?!?」
声にならない断末魔を上げ、イッセーの身体は地面へと崩れ落ちた。
その光景にリアス達は涙を流しながらイッセーの元へと駈けだしていく。
そんな彼女達に聞こえるようにヴァーリは告げる。
「落ち着け、殺してはいない。あんな醜く弱い奴相手に全力など使わん。勿論手加減してあるから死んではいないが、しばらくは動けないだろう。今の内に何とかしろ」
そう告げると、一誠の方に顔を向けるヴァーリ。
その表情は鎧に包まれていて分からない。だが、この時…………。
彼の顔は久遠と同じく、真っ青に変わっていた。
そして急いでイッセーやリアス達を守るように防御結界を張る二人。そのタイミングはコンビを組んでも良いくらい良かった。
それを張り終えると同時に、
『世界は断末魔に近い悲鳴を上げた』
こんな事をやらかすのはアイツしかいません