ハイスクールD×D 赤腕のイッセー   作:nasigorenn

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イッセー終了のお知らせかもしれませんね(笑)


彼は異世界の彼と出会う その16

 別に……音が聞こえた訳ではない。それに声があるわけがない。

しかし、皆にはそれでも聞こえたのだ。感じたのだ。それは確かに鳴動したものであり、叫びだった。

 

世界という名の生物の悲鳴を………。

 

 

 

「何、これ………」

 

そう洩らしたのは誰だっただろうか? リアスだったかもしれないし、朱乃だったかもしれない。または祐斗かもしれないしゼノヴィアや小猫、ギャスパーかもしれない。そして口にこそ出さないが、シャルバもまた同じことを思っただろう。

それは彼等が聞いた事の無いものだった。

いや、そんなものを聞くことなど普通まずないだろう。

それは聞くはずのないもの。聞いた事があるというのなら、それは世界が崩壊するのを見た事がある者か、もしくは………。

 

「あぁ、やっぱりこうなったか。あまり派手にやってこっちが帰れなくなるようなことはするなよ、イッセー」

 

それが出来ることを知っている久遠だけである。

その悲鳴のような世界の鳴動の後、それは現れた。

シャルバと覇龍と化したイッセー、その両者を挟んだ上空の空に『罅』が入った。

揶揄でもなんでもない、そのままの意味。車に搭載されている強化ガラスに拳銃の弾が撃ち込まれたかのように、空は巨大な『罅』が入った。

そしてそれはそれでは収まらず、罅を拡大させていくと共に、空が粉砕した。

空間が砕け散り、そこから除くのは漆黒の空間。何も見えない虚無。

しかし、そこから飛び出して来たのは三つの人影。

一つ、意識を失っているのかぐったりとした様子でゆっくりと地面へと落ちていく金髪の少女。それはシャルバによって殺されたはずのアーシアであった。何かしらの力が働いているのか、彼女は地面に降りるとそのまま倒れた。

二つ、それはリアス達は一度見ているもの。遠目から見ただけでもはっきりとわかる圧倒的な殺気と威圧感。それは暴力の化身であり、全てのものを悉く打ち砕く拳。

真っ赤な色をした、人形がから少し離れた存在。猫背は獣の俊敏さを感じさせ、強靱な尾は恐竜を連想させる。肥大化した拳は超絶的な破壊を生み出し、破壊の限りを尽くす。

 

『覇龍進化、赤龍暴帝の重鎧殻』

 

平行世界の赤龍帝の最強にして最凶たる暴威の現れである。

三つ、それは初めて見るものだった。

それまでの光景が嘘だと思えるような程の清廉として気配を感じさせるそれは、純白だった。穢れ無き白。鋭角な部分が所々見受けられ、此方は人型であった。特筆すべきは、その美しい翼だろう二対四枚からなる翼はじつに神々しく、場違いなまでに美しい。その身に纏うのは神聖なオーラ。全てを怖れさせ平伏させる圧倒的な雰囲気が確かにあった。

その姿を周りの者達はしらない。知っているのは彼だけだ。

それを見た彼は何とも言えない顔で洩らす。

 

「あれ、何であの人が来ちゃうかねぇ。こりゃマジでヤバイかも……」

 

彼が知るそれの名は、

 

『覇龍進化、白龍神皇の閃光鎧』

 

平行世界において、最凶の暴威たる男の宿敵にして最強の白龍皇だ。

 

 

 

 

 空が砕ける少し前、一誠はアーシアと共に漆黒の闇が広がる世界へと飛ばされていた。

原因は既にはっきりしている。シャルバが放ったあの攻撃だ。しかし、それを受けてどうしてこうなっているのか分からない一誠は苛立ちながら叫ぶ。

 

「一体こいつはどういうことだよ! 此処は何処だ!」

 

叫んだ所で答えは返ってこない。腕の中にいるアーシアは気を失ったようでぐったりとしていた。

現状が分からず苛立ちを見せる一誠に相棒であるドライグが答える。

 

『落ち着け、相棒。ここは次元の狭間だ』

「次元の狭間?」

 

脳筋故にそういった知識がまったくない一誠は理解出来ないようでポカンとした顔になる。見えているのかは分からないが、そんな一誠に対してドライグは呆れたような感じで説明を始めた。

 

『次元の狭間というのは、文字通り次元と次元の間にある空間のことだ。この場合、人間が住む世界と冥界との間の空間と言って良い。世界は直に繋がっている訳ではないと言うことだ』

 

実際はもっと複雑な関係なのだろうが、簡潔に言えばそのようなものだろう。そう言われ、何となくだが理解する一誠。彼の認識では精々壁と壁の間にある隙間程度にしか認識していないだろうが、今はそれだけで良い。

 

『先程小娘に攻撃を仕掛けてきた男が次元の狭間にオレ達を転送したようだ。あの攻撃も攻撃ではなく強制転移の類なのだろう』

「ちっ、嘗めた真似してくれやがる!」

 

攻撃ではなく転移、つまりは邪魔故に退かしたということが気に喰わない一誠。相手は殺すという殺意などない。邪魔だったからその場から除外したということが、一誠にとって嘗められたように感じた。

 

『大方脱出など出来ないと踏んだのだろう。この空間はそのままいればいずれは消滅を引き起こすらしいからな』

 

それを聞いて額に青筋を浮かび上がらせる一誠。ここまで馬鹿にされたことはそうはないだろう。当たり前だが、別にシャルバは一誠を狙ったわけではないので、完全なとばっちりだが。

しかし、これで現状は理解出来た。次にどう行動するかを考えなければならないのだが、いつもはこういうときに何かしらアイデアをくれる久遠がいないので、脳筋主義の一誠では特に考え付くこともない。

ドライグは案があるにはあるが、それは下手をすると次元の狭間その物が壊れかねないので今はまだ言わない。

故に手詰まりの二人。アーシアは未だに気絶中なので正直役に立たない。

さて、どうするかと普段使わない頭を使い段々と苛立ちを募らせていく一誠。ドライグはそんな一誠にそろそろ言うべきかと悩んでいると、それは現れた。

二人の目の前の空間に突如、光り輝く魔法陣が展開されたのだ。

 

「なっ!?」

 

それを見て警戒をする一誠。既に神器は出しているので、直ぐに殴れるようにするだけだが、それでも充分通常なら脅威と言えよう。

しかし、一誠は目の前の魔法陣から現れてきたものを見て、その程度では甘いと認識させられた。

目の前の魔法陣から現れたのは、彼が嫌と言うほど良く知っている『白』。

それを見て一誠は驚きはしたが、それ以上にニヤリと笑った。

 

「どうしてテメェがここにいるんだよ。確かアザゼルの話じゃあと一週間くらいは寝込んでるって話だったはずだぜ……えぇ、ヴァーリ!」

 

そう言われ、白は……ヴァーリは極致の姿である覇龍の姿のまま答える。

 

「オレはアザゼルに貴様等を迎えに行くよう言われただけだ。確かにまだ本調子ではないとはいえ、あのまま寝ていられるわけがない。直ぐにでも貴様とは殺り合いたいがな。リハビリがてらアザゼルに言われて貴様等を回収しにきたわけだが、どうしてこんなややこしい場所にいる」

 

ヴァーリにそう言われ、一誠は答える気はないと言った感じに無視する。それに当然怒りを感じるヴァーリだが、このままでは話が進まないとドライグが代わりに説明した。

そして何故こうなったのかを聞いて、ヴァーリは鎧越しでも分かるくらい呆れた声を出した。

 

「不意打ちを食らって此処まで飛ばされたわけか……とんだ道化だな」

「うるせぇよ!」

 

馬鹿にされて怒る一誠。久遠に馬鹿にされるのと違って、ヴァーリ相手では苛立ちも一塩に凄い。

このままいがみ合えば、きっとこの次元の狭間が『大変な事』になることは目に見えている。故に二人が闘争心を燃え上がらせる前にドライグがヴァーリと彼の中にいるアルビオンに話しかける。

 

『このままここに居てもしょうがない。脱出したいが、何か方法はないか? オレはあるにはあるが、出来れば相棒にそれをして貰いたくない。最悪、この狭間が全て崩壊しかねないのでな』

「はぁ? あるなら言えよ、ドライグ!」

 

話さなかったことを責める一誠だが、ドライグの忌諱していることを分かっているヴァーリとアルビオンはその答えを返す。

 

「俺の転移は俺単体用だ。貴様は勿論、そこで気を失っている女も運べない。いや、今回はアザゼルから特殊な転移装置を預かっているから貴様とあの男くらいなら元の世界へは返せる。しかし、そうではないのだろう」

『ドライグ、貴様が考えていることは分かる。しかし、我等の使い手は共にこのような考えの持ち主だ。便利な方法はない。結果、貴様が言い辛そうにしている方法しかあるまい。勿論、俺だって出来ればやられたくはない。しかし。この場から貴様等が居た平行世界へ戻るためにはそうする以外あるまい』

『そうか……やはりそれ以外無いか………』

 

二人の意見を聞き、軽く溜息を吐くドライグ。

結局のところ、白龍皇だろうと脳筋なのは変わらないということらしい。

仕方ないと言った感じにドライグは一誠に話しかけた。

 

『相棒、覇龍進化で全開の力を込めてこの空間を破壊しろ。そうすれば壊した先にある冥界に戻れるはずだ。いいか、全力でだぞ。容赦無く躊躇なく、徹底的に打ち砕け』

「あいよ!」

 

やっと聞けた答えに清々したのか、威勢良く返事を返す一誠。

そしてやることが決まったのなら、あとは実行するだけだと言わんばかりに力を解放した。

 

『我、目覚めるは覇の理を神より奪いし二天龍なり。無限を嗤い、夢幻を憂う。我、赤き龍の覇王と成りて、汝を紅蓮の煉獄に沈めよう』

 

それを聞けばこの後どうなるかなど分かりきっているだろう。

一誠はをそれを言い終えるとニヤリと獰猛な笑みを浮かべる。

 

『覇龍進化』

 

そして一次元の狭間は『赤』に染まった。

それが収まれば、その場に居るのは赤き暴君だ。

一誠は拳を構えると共に、力を高めていく。それに呼応するかのように赤く輝きを増していき、闇であるはずの次元の狭間は赤に照らされていた。

 

「ヴァーリ、向こうについても茶髪のロン毛野郎に手ぇだすなよ! あの野郎は俺を嘗め腐りやがってくれて、俺を激しくむかつかせた! 野郎には俺が喧嘩を売ってやる!」

「別にいいだろう。元より、あの後の貴様とやり合っても同じ結果になるだけだしな」

「あぁ、いいぜ! 今のままじゃ前殺りあったのと変わらねぇからなぁ!」

 

一誠の鎧が輝きを増し、両腕と胸の宝玉が閃緑色に輝きを増していく。

その際にずっと聞こえる倍化の音。それが幾度とな続き、遂に一誠は動いた。

その先には何もない。しかし、確かに彼は『それ』に向かって拳を振るったのだ。

 

「『ロンギヌスゥゥゥッッッッブリッドォォオオォオォオォオオォオオォオオォオオォオオォオオッ!!!!』」

 

 

 

 

 そして現在の状況が出来上がる。

一誠は大地を砕きながら着地すると、辺りを見回して軽く首を傾げた。

何せ妙にでかいドラゴンがそこに居たから。

あんなものいたっけ? といった感じにそれを見て居ると、ドライグがその正体を言い当てた。

 

『あれはこの世界の兵藤 一誠か。あの姿、あれは覇龍だ』

「はぁ、何でアイツが覇龍になんてなってるんだよ。しかもアレ………」

 

既に正体がはっきりしたところでイッセーの現状を察した一誠。それは同じ覇龍を使える者としては一目瞭然らしく、降り立ったヴァーリもまた言った。

 

「あれがこの世界の兵藤 一誠か。しかし……何と無様な姿なんだ。あの覇龍、不完全で醜くさえある」

『大方暴走しているのだろう。未熟な気配を感じる』

 

そんな辛口な評価をしたところで聞く者はいない。それよりも世界を砕いてきた一誠達にリアス達は驚きの声を上げた。その内容の殆どはアーシアが無事であったことへの喜びだが、ヴァーリが現れた事への驚きと警戒もあった。

それらに対し、ヴァーリは普通に答える。

 

「俺は平行世界のヴァーリだ。そこに居る最凶の赤龍帝の宿敵さ」

 

平行世界のヴァーリだということを理解したリアス達であったが、その姿を見て顔を青ざめさせる。何せ此方も見た事無い姿。一誠という存在を見れば、それがどのようなものかは直ぐに考え付く。

だからなのか、考えるのを放棄して現在も暴走しているイッセーの方に思考を傾けると共に、どうしてイッセーが暴走して覇龍を使ったのかを一誠達に語った。

一応念の為だが、これ以上彼等に迷惑をかける訳にはいかない。しかし、事情くらいは知っておいたほうが良いという判断だ。

取りあえず、一誠が暴走したのはアーシアが殺されたと思ったからであり、そのアーシアが無事だったのだからそのことを知らせればイッセーは元に戻るのではないかと考える。

それを伝えようとするが、あの暴走したイッセーには下手には近づけない。その高濃度の魔力は触れただけで此方が蒸発してしまうくらいに危険だからだ。

それでどうにかしようと考えるのだが、それは一誠達の言葉で凍り付いた。

 

「ヴァーリ、テメェはあそこでちんけにいじけてるクソ野郎を押さえろ。あぁ、勿論殺すなよ。半殺しにしていじけてる野郎を引っ張り出して目が覚めるまで殴ってやれよ」

「貴様からの指図は受けん!………と言いたいが、あんな姿でも一応は覇龍。なら、錆落としには丁度良い相手だ」

 

そして二人は動き出す。

ヴァーリは途轍もない速度で一気に間合いを詰めると、イッセーの目の前に現れた。

 

「貴様に怨みはない。しかし、此方とて病み上がりの身だ。故にそのリハビリに付き合って貰うぞ!」

 

その声と共にイッセーの身体は吹き飛んだ。周りの皆からは巨体が小さなヴァーリの一撃で軽々しく吹っ飛ばされているようにしか見えないだろう。

ヴァーリがイッセーを吹き飛ばしている時、一誠は覇龍を解くといつもの馴染みの動作で地面から飛び上がる。そして呆気にとられているシャルバの目の前に飛び出した。

 

「よう、久しぶりだなぁ。さっきは良くもやってくれたなぁ、おい! テメェに嘗められるのは癪だからよぉ、喧嘩を売ってやるよ。テメェは激しく俺をむかつかせてくれた。だから喧嘩だ! 喧嘩をやってやるよ!」

「なっ!? ガッ!」

 

その叫びと共に、シャルバの顎に拳が叩き着けられた。

その衝撃で現実に戻されるシャルバ。砕けかけた顎から湧き出る血で咽せながらも何とか体勢を整え一誠から離れた。

 

「き、貴様、一体どうやって次元の狭間から……それにその姿は何だ? 何故解いた……」

 

そんなシャルバを見ながら一誠は彼に笑いかける。肉食獣の如き、殺意に溢れた笑みだ。

 

「ただテメェをボコっただけじゃ今までと変わらねぇ。テメェ如きに禁手なんて使ってたら『野郎』に勝てねぇ。それにテメェは俺を嘗め腐りやがった。だからテメェは………このままボコってやる!!」

 

 

 

 そんな両者を見て凍り付くリアス達。

そんな中、久遠はこれから酷い目に遭うであろう二名に手を合わせていた。

 


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