ハイスクールD×D 赤腕のイッセー   作:nasigorenn

62 / 73
新年あけましておめでとうございます。
そしてこの作品は相も変わらず通常運航ですね(笑)


彼は異世界の彼と出会う その10

 ヴァーリ・ルシファー。

 

その名は彼等にとって実に大きな意味を持つ。

今世の白龍皇であり、アザゼルにとっては今まで世話を見てきた息子のような存在。そして何よりも先代ルシファーの血を引く逸材。

その実力は上級悪魔すら軽々と凌駕し、魔王にすら届くかもしれないほどに凄まじい。本人の好戦的な性格もあってその伸びしろはかなり大きく、まだまだその成長は止まらない。この世界のイッセーが歴代最弱の赤龍帝と言われているのに対し、この男は血筋と共に『歴代最強の白龍皇』と言われている。

そんな人物の名を異世界の人物から聞かされ、周りは当然驚いた。

いや、彼が言っている『ヴァーリ』がこの場にい者達の知っているヴァーリ・ルシファーでないことは知っている。何せ世界が違うのだから。

だが、それでもやはり驚かずにはいられないのだ。

 

「ヴァーリ……それは勿論、ヴァーリ・ルシファーのことだよなぁ」

 

皆が驚き固まってる中、アザゼルが念の為に確認を取る。

その言葉に対し、一誠は勿論頷いた。

 

「あぁ、そうだよ。確かアイツ、そんな名字だったか? まぁ、名字が何であれ、アイツがオレのぶちのめしたいヴァーリであることに変わりはねぇ」

「やはりそうか……世界が変われどアイツの行動は変わらないってことか……」

 

一誠の反応からやはりそうかと少し嘆くアザゼル。

彼等の知るヴァーリはコカビエルの暴走に介入した後、三大会談に於いて禍の団へと寝返り、イッセーと戦った。

その理由も単純で、和平を結ばれると戦えることが減るから。安定する三大勢力よりも禍の団の方が戦闘狂である自分には性に合っていると。

未だに敵対しているヴァーリに対し、皆思うところがあるのだろう。

アザゼルは少し嘆き、サーゼクスは旧ルシファーの血族であることに思うところがあり、ミカエルは白龍皇が赤龍帝と争い合うことを危惧する。両者の戦いは危険過ぎるからだ。

そして何より、この世界に於いてライバルであるイッセーは彼の話を聞いて怒りを燃やす。

 

「あの野郎、やっぱり裏切ってるのか! くっそ~、俺の時も父さん達を殺すとか脅してきたけど、そっちでも同じかよ!」

 

彼からすれば、自分の大切な仲間の命を自分と戦いたいが故に脅かす危険な存在。その怒りは仲間のリアス達にもよく伝わって来て、その通りだと頷く。彼女達も同じように、ヴァーリという存在には危惧を抱いているのだ。

しかし、その言葉を聞いてそれまで聞いていた久遠は不思議そうな顔をした。

 

「え、何? こっちであの人、何かしたのかい?」

「どうにも愉快そうな話じゃねぇか」

 

久遠の言葉に一誠も笑いながらそう言う。

久遠は此方との違いを不思議に思い、一誠は此方の宿敵も愉快そうなことをしているようだと面白がっているようだ

それを聞いてそれまで深刻そうな顔をしていた面々が少し呆気にとられた。

この少し怒気と嘆きが混じり合った空気の中で、そんな気の抜けたことを平然と言うとは思わなかったから。そのせいか、室内は妙な雰囲気に満たされていく。

それに耐えきれなかったリアスが一誠に問いかけた。

 

「ねぇ……その口ぶりだとアナタ達の方は違うの?」

 

その言葉に周りも同じように問いかけてきた。

どうにもお互いにすれ違いが起こっているようで、逆に問いかけられている久遠達は何やら面白そうだと笑い始める。

そして聞かれた事に対し、久遠は話を纏めて答えることにした。

 

「つまりこっちのヴァーリ・ルシファーは三大勢力を裏切って禍の団で只今絶賛暴れ中ってことかい?」

「えぇ、そうよ」

「アイツ、自分が強い奴と戦えるんだったら世界がどうなったって良いって言うんだぜ……冗談じゃねぇよ! もしそうなっちまったら、魅力的なおっぱいがなくなっちまうじゃねぇか!!」

「イッセー先輩、最低です」

 

場違いに怒りを燃やすイッセーに、それにジト目で突っ込みを入れる小猫。

そんな二人を見てリアスは仕方ない子ねぇと暖かな目を向け、他の眷属も似たような感じだ。流石に魔王達トップの者達はそれに流されずに久遠と一誠の方に目を向けたままだが。

そんな視線の中、久遠は答える。

 

「こっちのヴァーリ・ルシファーは裏切ってないからね~。こっちとは少し違ってるってことだと思うけどさ」

「え、マジかよ!」

 

その言葉にイッセーは驚きの声を上げる。

彼からすれば、ヴァーリという男は戦えるんだったら何だってするようなタイプだ。現にあの時、力が弱い自分を焚き付けるために両親のことで脅迫をかけてきた。それだけに留まらず、その場にいる仲間達にもその力を振るっても良いと脅してきたのだ。

そんな危険な存在が裏切っていないというのは少し驚く。

 

「もしかしてそっちには禍の団がないとか?」

「いいや、確かにこっちと同じように襲撃を仕掛けてきたよ、連中は」

 

もしもの可能性を思い付き程度で問いかけるイッセーだが、それは久遠によって普通に答えられた。

ではどうして裏切っていないのかと誰もが考えさせられる。それに対しての答えは久遠ではなく、一誠から答えられる。

 

「別に野郎に誘いがなかったわけじゃねぇらしい。あれでも一応は旧ルシファーってなぁ。だがまぁ、野郎のお眼鏡には敵わなかったってだけだよ。それに何より、禍の団の馬鹿共は『俺等の邪魔』をしやがった。そいつは一等許されねぇ事だったんでな。だから裏切る以前にぶっ潰したんだよ」

「『俺達の邪魔』? それって三大勢力の和平のことか?」

「いや、そんなくだらねぇもんじゃねぇよ」

 

一誠の言葉に、では何故だと思う周り。

そんな疑問を浮かべる周りに久遠は可笑しかったのか笑ってしまう。

別に周りが可笑しかったからではない。一誠の物言いがあまりにも馬鹿らしいからこそ、笑ってしまったのだ。

 

「おいおい、そりゃお前さんにとってだろうが。あの会談は世界的な出来事なんだぜ。いいかい、皆様方。こいつはさ、あの白龍皇との喧嘩の日程が決められるって時に邪魔されたのが気に喰わなかったんだよ」

「何、それ………」

 

三大会談は歴史的な出来事と言っても過言ではないくらい重要な事。だというのに、異世界の一誠はそれを下らないという。そのことに驚きもあったが、それ以上に会談で話された内容が彼女達には気になった。特に久遠が口にした『喧嘩の日程』というのは、あまりに穏やかな日程ではない。

それが分かってるからこそ、久遠は笑いながら言う。

 

「俺等の世界じゃ既にコイツとあの白龍皇は顔見知りなんだよ。俺も詳しくはしらないけど、どうやらガキの頃に冥界で一回ヤりあったらしい。それ以来、互いに宿敵として意識しあってんのさ、この二人は。それで再び再会したのがコカビエルの時。その時に殺る気満々だったんだが、暴れたらそれこそ学園が吹っ飛ぶの比じゃないっていうんでそこでは取りあえず互いに拳を収めたんだ。それで再び出会って殺る気満々な二人を危惧して、三大勢力の和平と共に二人の喧嘩の場所や日時について話し合うことになってたんだよ二人が暴れても被害が少ない冥界でいつやるのかってのを具体的に話し合おうってさ」

「何でそんなことになるのよ………」

 

聞いててあまりの酷さにげんなりするリアス。

まさか三大勢力が和平と結ぶと共に一番最初に話し合う議題がたった二人の男の喧嘩の準備というのだから可笑しいものである。

それに、此方のイッセーならまずそんな話にならないだろうということがリアス達には分かっているので、その分驚きは大きい。伊達にロキを鏖殺しただけはあるかもしれない。

そんなことを考えているリアス達に久遠は続きを話す。

 

「それでやっと話が纏まると思って双方ワクワクしてたときに禍の団が襲来。それでブチ切れた二人は襲撃をかけてきた禍の団をたった二人だけで文字通り『全滅』させたってわけさ。この馬鹿の邪魔をするとおっかない目に遭うってのがしみじみ伝わってくる出来事だったよ。その時に誘われてたってことをカテレア・レヴィアタンの口から聞いたけど、あのおにーさん、かなり怒っててね。『奴と……オレの唯一の『敵』との戦いだ。待ちに待った……悪魔からすれば一瞬といって良い程短いのかもしれないだろうが、それでも待ち遠しかった。それがやっと実現する! それさえ叶えば、後の事などどうでも良い。奴と戦えることが約束された今、その話を邪魔したお前等に寝返る理由などないのさ』って啖呵切ってその場でカテレアを瞬殺。そのまま二人で全滅するまで暴れ回った御蔭で学園の敷地中に原型を留めない死体が溢れて、学園は殆ど吹っ飛んだよ。そのせいで一週間は休校になったんだから笑えるけどね」

 

そんなことを笑いながら話す久遠だが、リアス達からすれば笑えない。

あの途轍もなく大変な目にあった襲撃を、目の前にいる一誠とそちら世界のヴァーリはたった二人で皆殺しにしたというのだらか。恐すぎて笑いすら出てこなくなる。しかもその理由が『喧嘩を邪魔された』からというのだから、まるで過去の二天龍の再来としか思えない。その逆鱗に触れた結果がそれというのだから尚更。正直向こうの禍の団達が可哀想でならない。

そんな感情と恐怖に駆られつつも、皆は理解していく。

つまり、平行世界のヴァーリは裏切りはしていないが、此方の世界のヴァーリ以上に危険だということを。

そして一番気になるのは、やはりこの世界でライバルとされるイッセーだ。

 

「なぁ、それで結局……戦ったのか?」

「「「「「「「!?」」」」」」」

 

その問いに周りの全員が固唾を飲んだ。

コレまでの話を聞いていれば、如何に一誠がヴァーリを意識しているのかが分かる。そして此方の世界以上に猛威を振るっていることも。

何より、そんな強大な力を有するヴァーリが、目の前にいるロキを鏖殺した一誠と戦ったのかというのは、気になって仕方ない事だと言えよう。

その言葉をかけた途端、一誠が不機嫌そうな顔になる。

まるでふてくされているかのような、そんな顔だ。

 

「……チッ……」

 

軽い舌打ちに周りが震える。

そんな一誠に対し、答えたのは彼の中のドライグと久遠だった。

 

『残念なことに引き分けだ』

「あぁ、戦ったよ、こいつ等は。冥界にある深い樹海の一部の荒野でね。その結果が引き分け。だからこいつはぶすっとしてるわけだよ」

「そ、そうか……」

 

どことなく安心したイッセー。やはり平行世界でも自分はまだヴァーリと決着がついていないということに、少し焦り気味だった彼は安堵した。

しかし……それは次に久遠が言った言葉で凍り付いた。

 

「その引き分けの結果が冥界の地図の一部の書き換えだったんだから面倒なことだよ。こいつ等、殺り合ったら地形は変えるわ山は全部吹き飛ばすわ、巨大なクレーターを作るわでとんでもなかったんだよ。挙げ句が冥界のその樹海の消滅。辺り一面を広大な荒野へと変えちまったんだ」

 

「………はぁっ!?」

 

その言葉にやはり驚く皆。

いくら強い悪魔や堕天使が戦っても、そんな地図の書き換えが必要になるようなことには早々ならない。それこそ、魔王クラスの者達でなければまず有り得ない。

それをまるで笑い話のように話す久遠。そして不機嫌そうにしている一誠。彼のドライグは楽しかったようで声こそ上機嫌だが、それでも悔しそうだ。

 

『相棒の全力でいったというのに、奴も至っていたというのだからなぁ。俺が生きていた頃以上の激戦に心躍ったが、それでも勝てなかったのは悔しくもある』

「まさか向こうさんも覇龍のその先に至ってたってのは驚きだったな。何だっけ……そうそう、確か『覇龍進化、白龍神皇の閃光鎧』だったか。あの能力も殆ど反則気味だったしな」

 

「なっ!?」

「「「「「「「えぇええええぇええええええええええええええええ!?」」」」」」

 

ドライグと久遠の会話に更に驚く周り。

向こうの世界の一誠がそうであるように、また向こうの世界のヴァーリも似たような進化をしていることを知ったからだ。

 

『あの能力は奴の半減の能力の拡大だ。空間の半減、それを自身の前の空間にかけることで距離を縮め、一瞬にして最高速度で相手の目の前に現れる。自身の高速化と合わされば、まさに閃光の如き……いや、光速すら超えた神速の攻撃だったなアレは』

「それに加えて元々の魔力からの広範囲殲滅砲撃も凄かったな。あれは防ぐのに苦労したよ。そんな物騒なのがぶつかれば、危うく世界が崩壊するかと思ったくらいだ」

『実際に世界が悲鳴を上げていたからな』

 

じっと聞く周りだが、その能力に戦いていた。

確かにヴァーリが空間を半減出来る事は知っている。だが、あれはかなり危険な技であり、早々に使える物でも無いということをイッセー達はアザゼルから聞かされていた。

それがまさか、そんな絶技になっているとは思わなかった。

この技に関して言えば、確かにイッセーも自分の神器の特質を考えさせられるものがあった。

そんな中、次に聞かされた事には全員がゾッとした。

それは彼女達が今まで見た事もない光景。異形の戦いは基本、そのような接戦にはならないからだ。

 

「挙げ句はアレだろ。全身血まみれで鎧も全部ぶっ壊れて砕けて死にかけで、それでもこいつ等止まらないからなぁ。いつ死んでもおかしくないって状態なのに、こいつらそのままド突き合い始めたんだよ。互いの腕へし折って、血を地面に撒き散らせながらふらついてさ。はっきり言って馬鹿らしいとも思えるくらいの馬鹿っぷりだったよ。でもまぁ……」

『あぁ、そうだな』

 

そして二人は同時に口にした。

 

『「男の意地を見せて貰った」』

 

その言葉にケッと毒づく一誠。心なしか耳が紅くなっていたかもしれない。

それは彼等にとって男の意地を見せつけられた最高の出来事。

しかし、それを理解出来ない者には悲惨極まりない殺し合いにしか聞こえない。

だからだろうか…………。

 

 

この場にいる全員は言葉を失った。

 

 

そして理解した。

コレが、この凶暴性こそが、目の前に居る平行世界の兵藤 一誠なのだと。

そして願わくば、そんなことには自分達の一誠がならないことをリアス達は深く願った。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。