ハイスクールD×D 赤腕のイッセー 作:nasigorenn
この世界の兵藤 一誠宅にしばらく逗留することになった一誠と久遠。
そんな二人だが、最初にその家を見て同時に声を上げた。
「うぉっ、凄くでけぇ!?」
「こりゃ偉い金が掛かってやがんな。まったく、ウチの相棒とは生活水準が違い過ぎる」
その言葉を聞いてリアスはそうなのかと首を傾げたが、そもそもこの上級貴族様の家系は現代日本の金銭感覚からかけ離れすぎているため、彼女はそう思わなくても他の一般常識を持っている眷属達は皆同意する。
そして気になったのは、当然こちら側のイッセー。同じ存在である一誠が自分とは違った暮らしをしていることに興味が湧いたのだ。
だからこそ家に入って客間で朱乃に茶を淹れてもらい、リアス達は二人から平行世界の話を聞くことにした。
「さっき言ってたけど、俺とアンタの家が違うってどういうこと何だ?」
イッセーの疑問に対し、答えたのは聞かれた当人ではなく久遠であった。
「あぁ、そいつは単純な事だよ。コイツが住んでるのは此処じゃなくて、向こうの商店街の先にあるオンボロアパートの一室なんだからよ」
その言葉にイッセーは驚いた。
(え、それってみるタンが住んでるアパートじゃぁ………)
彼が知っているその場所には、彼の魔法少女に憧れる漢がいる。
イッセーはそれが気になったが、今はそれより別の事を聞きたかった。
「あれ、父さんと母さんは?」
そう、同じ兵藤 一誠なら両親もいるはずなのだ。
何せ同じ存在で同じ名字なのだから。
だが、それを聞かれた一誠は何やら無関心というか、どうでも良さそうな感じで答えてきた。
「あぁ、両親? そんなもんいねぇよ。こっちは気がついた時から孤児院暮らしだ。つい一年前くらいにやっと一人暮らしさせてもらえるようになったんだよ」
そう答える一誠に此方のイッセーは衝撃を受けてしまう。
両親が居るのが当たり前になっている彼にとって、同じ存在である一誠が両親がいないというのは驚きであった。
しかも孤児院暮らしとなると、何とも気まずい。
アーシアも似たようなものだが、この日本でそれというのはそれはそれで結構珍しい。
だからなのか、イッセーは途端に謝ってしまう。
「ご、ごめん、無神経なこと聞いて?」
まぁ、世間では不躾な質問として通るだろうこの問い。しかし、それをされた一誠は本当に意味が理解出来ないといった様子でイッセーに反応を示す。
「別に無神経でも何でも無いだろ、その通りの事実だしよ。元からいねぇ奴の事なんて気にしたこともねぇよ」
あっけからんにそう答える一誠。そんな一誠にイッセーは何とも言えない気分になるが、久遠は腹を抱えて笑っていた。
「別に気に病む必要なんてこれっぽっちもねぇよ。この馬鹿は見た事もない奴の事なんて気にも掛けねぇからね。寧ろそう言ったセンチな言葉なんて一番縁遠いから、いくらでも聞いてくれよ」
如何に馬鹿にした発言に周りは少しばかり引く。
仮にもロキ相手に一人で大立ち回りをしでかした人物だ。そんな危険過ぎる相手にこうも失礼なことを言える物だと彼女達は久遠を見て思う。
それに同意したわけではないが、そこまで文句を言わない一誠。彼からしたら、久遠とのやり取りなど日常茶飯事であり失礼もクソもへったくれもない。
故にイッセーは気にしつつも、更に一誠に話しかけていく。
「そういえばどうやって神器に目覚めたんだ? 俺の時は……」
そして二人にとって初めて聞くこの世界のイッセーの成り立ち。堕天使に騙されて殺され、そこからリアスによって転生させられて悪魔となって生き返ったことなどをイッセーは当時のことを思い出して苦虫を噛み潰したような顔で語る。
そんなイッセーに対し、一誠は説明するのも面倒臭さそうな顔で答え始めた。
「神器の目覚めた時…ねぇ。もうガキの頃だったからそこまで覚えてねぇけど……確か一人で居たところをはぐれ悪魔に襲われたんだっけか? それで必死にみっともなく逃げまくってたところで覚醒して、その後は思いっきりぶっ飛ばしてやったんだったよなぁ、確か。んで、それからは神器使って裏の仕事請け負って金稼いでた」
「金?」
「あぁ、孤児院はずっと貧乏なんでね。俺が稼ごうとその時決めたんだよ。一回の仕事で最低でも100万。内容ははぐれを殺したり上の連中の尻ぬぐいだったり、ペットのコカトリスを取り押さえることだったり……まぁ、色々さ」
そんなことをどうでもよさそうな顔で語る一誠。
彼の頭の中では実に面倒だった仕事の数々が思い出されている。
「俺とは目覚めた経緯もその後もまったく違うなぁ」
イッセーはそんな感想を洩らした。自分はあんな事があって今のようになったが、平行世界の自分はそうではなかったのだろう。襲われたという結果は一緒だが、その後は違っていた。自分は無残に殺され、彼は見事に生き残った。
それが生まれ育った環境に寄るものなのか、イッセーは考えさせられる。
そんなイッセーを見て、リアスは一誠に問いかける。
「堕天使レイナーレ。この名前に覚えは?」
この人物こそ、この世界の兵藤 一誠の始まり。
悪魔として転生する切っ掛けになった者であり、同じ神器を持っているのなら、平行世界であろうと狙われても可笑しくない。
だからこそ、リアスは聞きたかった。
この世界のイッセーと、目の前に居る平行世界の一誠のその違いを、その境界線を……。
その名を問われ、一誠はというと………。
「堕天使レイナーレ……あぁ~、何だ……聞き覚えはあるようなないような……」
実に曖昧に考え込んでいた。
この男、既に終わった事でその上印象に残らない人物のことはとことん忘れるタイプなのである。
そんな一誠に対し、イッセーは少しばかり大仰に聞き返した。彼にとって、この人物との邂逅はとても重要な事だったから。
「春先に告白されなかったのかよ! 俺にとって、あれは初めての……」
「イッセー……」
言っていて当時のことを思い出しているのだろう。少しばかり苦しそうにイッセーは言う。その表情を見てリアス達はイッセーのことが心配になった。当時の苦すぎる思い出など思い出しても良い事など何もないのだから。
そんなイッセーに対し、一誠は………。
「告白?…………あぁ~、何か思い出してきた。確か知らねぇ学校の制服着た女に話しかけられたっけ。でもあんとき、俺は玉子の特売セールで急いでたから速攻で断って突っ走ったんだっけ。あんときスーパーに行ったら、あのクソババアが調子扱いてたもんだからぶっ飛ばして横取りしたんだっけか? あれは爽快だったなぁ」
まったく的外れなことを思い出していた。
それを聞いていたイッセー達もガクッと落ちてしまう。
何せ告白という事実はあったのに、それは彼にとってスーパーの特売セールよりも下に見られていたのだから。確かにあれは兵藤 一誠にとって一つの分け目だった。それが世界が違うとは言え、こうも酷くあしらわれているなどと、一体誰が思おうか?
そしてそれまで黙っていた久遠は此処に来て爆笑し始めた。
「あっはっはっはっは! いやぁ~、悪い悪い。この馬鹿がまったく覚えてねぇ上に、しかもあの女に告白されてたのかよ。それをセール優先で振るとか、お前………ぷっ」
「うっせぇよ、久遠! そう言うって事はお前は知ってるんだろうなぁ」
爆笑して腹を抱えながら悶える久遠に一誠は噛み付く。
そんな久遠は改めて笑いを堪えながらイッセー達に語り始める。当然、一誠に思い出させるように。
「レイナーレってのは、確かこの町に潜伏してた堕天使だろ。それでアーシアちゃんの神器を狙ってた。違うか?」
「いや、合ってる」
久遠の言葉にイッセーは同意する。それがもっともな根幹なのだから。
「あん時、俺達はアザゼル総督から依頼されてたんだよ。『レイナーレを生け捕りにしろ』ってね。あんた達はならもう分かってると思うけど、アレは戦争の火種になりかねないからなぁ。だからそれを気にして総督様が俺等に回したってわけ。堕天使を動かしたんじゃ同じ事だからね。俺等みたいなフリーは使い勝手がいいんだよ」
「あ、あ~……何となく思い出してきた。あん時は少し焦ったよなぁ。その話が来る前に部下のおっさんぶっ殺しちまって」
「あぁ、まったくだ。お前がまさか先走ってるなんて思わなかったからなぁ。もしあの依頼内容が『全員捕縛しろ』だったら今頃俺等の信用は地に落ちてるところだ」
当時のことを思い出して呆れ返る久遠。
そんな物騒な話を聞かされてリアス達は何とも言えない顔になる。
そんなリアス達の様子を笑いながら久遠は続けた。
「それであん時にお前が思いっきりぶっ飛ばしたのがレイナーレだよ。あん時、アーシアちゃんが居なかったら死んでたぞ、アレ。もし死なせたらお小言じゃすまねぇんだから、もうちっとは力加減を覚えておけよ。ま、お前に言った所で意味ねぇけどな」
「あぁ、あれか!? あんまりにも退屈だったもんだからすっかり忘れてた。そういやあの女、そんな名前だったっけか」
やっと思い出したようで納得した一誠。それ程までに彼はレイナーレのことを忘れていた。
そんな反応を示す一誠にイッセーは複雑そうな顔になる。
自分にとっての重要な分かれ道が、同じ存在でも世界が違うだけでこうもちがうのかと思ったからだ。
だからこそ、皆納得する。レイナーレを倒せば、確かにイッセーが悪魔に転生することなど無かったのだから。
逆に言えば、イッセーの話を聞いていた一誠は実につまらなさそうだ。
世界が違うが同じ自分のはずなのに、どうして目の前に居る奴はそんなにも『弱い』のか? それが一誠には不思議だった。恵まれた環境か、もしくはまったく感じられない殺る気の無さか?
その正体は取りあえず、一誠はその後の話に耳を傾けることにした。
それからはこの世界でイッセー達が体験したことを聞かれていく一誠と久遠。
リアスの結婚騒動然り、コカビエルの事然り。
それらの事に対し、一誠は決まって答えることは一緒だった。
『何であれ、殺りあったぜ』
そう、世界が変わり事象が変わってあったはずの因果がなくなっても、どういう訳か一誠はこの世界のイッセー達が経験したことと同じ事をしていた。
違うと言えば、どの話でも一誠は決まって暴れており、一対一でその猛者達を叩き潰していることだろう。
イッセーはそのことを聞いて少し羨ましく思う。
ライザー戦では片腕を犠牲にしての不完全なバランスブレイクに普通では考えられない奇手を持って何とか辛勝したし、コカビエル戦では結局倒せなかった。
だからこそ、イッセーは一誠の事が羨ましく思う。
一体どこでこうも違っているのか? それが分かれば自分はより皆を守れるように強くなれるのかと。
そして少しばかり話が物騒なものばかりになってきたので、ここでイッセーは少し空気を和らげることにした。
「あ、そういえば……あんた、おっぱい好きか! 男だったら大好きだよな、おっぱい。向こうの世界じゃ部長のおっぱいも朱乃さんのおっぱいも拝めなかったんだろ? だったらこの際思いっきり拝んでいったらどうだ!」
実に彼らしい言葉に、急にそんな話題を出されたリアス達は困った顔をしてしまう。
「もう、イッセーはぁ……」
仕方ない子ねぇと苦笑するリアス。
「まぁ、少し話がいつもと違った感じですし、こういう風なのはイッセーくんらしいですわ」
ニコニコと笑う朱乃。
「先輩らしいですけど、最低です」
ジト目で睨む小猫。
「むぅ~、私だって頑張ります!」
「私の胸は大きさこそ負けているが、それ以外なら負ける気は無い!」
張り合うアーシアとゼノヴィア。
「イッセーくんらしいのかな?」
苦笑しつつ疑問に思う祐斗。
「先輩、やっぱり凄いです!」
そんなイッセーに尊敬の念を向けるギャスパー。
そんな実に彼らしくどうしようもなく救いようもなく馬鹿らしい話に対し、一誠が取った反応は………。
「はぁ、おっぱい? お前、頭沸いてるんじゃねぇのか?」
実に兵藤 一誠を知る者達からすれば有り得ない程きつい返しだった。