ハイスクールD×D 赤腕のイッセー   作:nasigorenn

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これで二人の行く先が決まります。


彼は異世界の彼と出会う その5

 実に面倒なことになったとリアスは頭が痛くてしょうがない。

何せこの珍妙極まりない事態を自分達の王達に報告しなければならないのだから。

それはソーナも一緒であり、二人して頭を痛めていた。

これがただの報告で済むのなら問題は無いが、自分達がしたことを言えばロキと戦い窮地に追いやられ、結局何も出来ずに殺され掛けただけなのだから何と報告して良いのやら。挙げ句はこの平行世界の迷い人によって元凶足るロキが完膚なきまでに滅ばされたなんて報告をしなければならないのだから、頭痛が酷くなるのも致し方ない。

それでも彼女達は誇りある上級悪魔として、その任を全うするのであった。

 

 

 

 

「おぉ、無事だったか!」

 

彼等の本拠地である城に転移した途端、その姿を見たアザゼルが心配した様子を見せつつそう皆に声をかけた。

それと共に彼等の魔王達や北欧の主神オーディン、それに大天使ミカエルなどがリアス達の元へと歩み寄っていく。

その姿に帰ってこられたことへの安堵とトップ達の目の前に立つ事への緊張感でリアス達は萎縮する。

そして報告に移る前に、それまでの疲れを癒すようにサーゼクスが皆に言おうとしたのだが、その前にあることに気付いた。

いや、気付かねば可笑しいのだ。

 

「む、リアス……あの者達は一体誰だい?」

 

サーゼクスの目に映ったのは、二人の人間であった。一人はサーゼクスの視線に気付き軽く会釈をする『普通で何も感じられない』人間。もう一人は人間の気配はするが、並々ならない力を滲ませている。ただ、前に立つ人間のせいなのか、その顔はまったく見えない。

すくなくとも、この作戦が始まる前にいた者たちではないし、サーゼクスが知る限りそんな知り合いがリアス達にいない。そして寧ろ、この冥界に『ただの人間』がいることに警戒心を顕わにし始めていた。何も力が感じられないということが、その警戒心に拍車を掛ける。

問われたリアスはと言えば、当然の如く頬を引き攣らせていた。

言い辛そうにしつつも、それでも言わねばと決意を固める。

 

「そ、その、お兄様、あの二人は………」

 

しかし、リアスの決意は物の見事に打ち砕かれた。

 

「ど~も、魔王、サーゼクス・ルシファー様。私の名は久遠。まぁ、今はしがない平行世界の迷い人って奴ですよ。そしてこいつが………」

 

その何も感じられない人間こと久遠は、サーゼクスに向かって営業スマイルで軽く自己紹介を始め、そしてその後ろにいる人物をサーゼクス達皆が見えるように移動した。

 

「「「「「「「!?!?」」」」」」

 

久遠の後ろにいた人物の姿を見て驚愕する周り。

そんな周りの様子が面白かったのか、久遠はニヤリと笑いつつ、続きを話した。

 

「私達の世界の『赤龍帝』、兵藤 一誠です」

「あぁ~なんだ……まぁ、そのよろしくか?」

 

久遠に紹介された人物……兵藤 一誠は面倒臭そうな、やる気のなさそうな声を周りにかける。

しかし、皆はそれどころではない。

 

「な、何で目の前に赤龍帝が………」

「リアスの隣にも彼がいるのに……彼が二人……」

「偽物……って感じじゃねぇなぁ。さっき言ってた言葉にも関係があるようだし」

 

一誠と久遠の姿を見て、トップ達は困惑しつつも話し合う。

その様子にリアスとソーナはやはりと頭が痛くなるのを感じていた。

そして予想通りと言うべきか、そんな彼女達に各陣営のトップが揃って顔を向けた。

 

「すまない、リアス。休ませてあげたいが……この状況に対しての報告を今すぐにしてもらわないといけなさそうだ」

「疲れてるところ悪いが、今すぐにして貰わなくちゃならねぇ」

「これは一体どういうことなのかを」

 

トップの者達の視線を一遍に浴びて、リアスとソーナは本当に疲れた溜息を吐いた。

 

 

 

 

「何っ!? つまりロキを倒したのは彼等だというのか!!」

「ミョルニルを使わずに拳で叩き潰したとな!?」

「あの世界の鳴動は彼が引き起こしたということですか?」

「その話、嘘偽りはマジでないんだよなぁ。だとしたら、流石にヤバすぎるぞ、おい……」

 

洗いざらい全ての経緯を報告したリアスとソーナ。

そして彼女達の報告を受けて、やはりと言うべきかサーゼクス達は驚愕した。

誰だって平行世界の人物が現れたなどと言われても信じられないものだ。だが、実際にそのことを報告したリアス達を疑うわけにもいかない。

何より、目の前にまったく同じ存在が二人いるのだから疑うにしても無理がある。

リアスに頼まれイッセー……つまりこちら側のリアスの眷属である兵藤 一誠は久遠の隣に実に面倒臭そうな雰囲気を発しているもう一人の自分の隣に立っていた。

その二人を見れば双子のようにそっくりだ。顔の造形や身体の体型など、実にそのまま同じである。

まぁ、強いて違いを挙げるのなら、まず目つき。此方のイッセーと比べ、平行世界の一誠は目つきが悪い。そして身体の筋肉。どちらも鍛えられている身体だが、平行世界の一誠の身体はより絞り込まれていた。

何よりも身に纏う雰囲気が違う。イッセーは彼を知っている皆がいつも感じている悪魔の気配と少しばかりエッチなことが好きな年相応な青年。対して平行世界のイッセーは、やる気がなさそうだがその実まったく隙がなく、見ている者に獣のような雰囲気を感じさせる人間といった感じだ。

悪魔と人間の違いはあれど、その存在は限りなく近い。

だが、それをそのまま信じられるわけもなく、アザゼルは二人の一誠に声をかけた。

 

「だったら二人で神器を出してくれ。そうすりゃその与太話も信じられる」

 

その言葉に賛同の意を表すトップ達。

その視線を受けてイッセーは萎縮しつつも左腕を前に出した。

 

「来い、赤龍帝の籠手!」

 

その声と共にイッセーに展開される赤い籠手。それを見つつ、久遠は一誠に声をかけた。

 

「つーわけで出せってよ。面倒臭がるなよ」

「わかってるっての」

 

実に面倒臭そうにそう言うと、一誠もまた籠手を展開した。

そして皆の前に現れる、まったく同じ形をした『神殺しの神器』。

唯一無二の存在が二つあるという非常事態をこの場で見て、如何に異形の王たる彼等であっても認めざる得なかった。

 

「目の前にそれを見たら、君達の言うことを認めざる得ないね」

 

サーゼクスが困惑を隠せないが、それでも認めざる得ないと言った感じにそう言うと、周りも同じような反応を示す。

 

「ご理解どうも」

 

その様子を見て久遠は明らかに作り笑顔でそう言った。

彼からしてみれば、こんな風に驚かれているというのは見ていて面白いようだ。

 

「あぁ~、面倒くせぇ。しかも腹減ってきたし………はぁ、財布の中身はかわらねぇか……」

 

対して一誠は実に面倒臭そうであり、空腹を感じつつ自分の財布の中を覗いて深い溜息を吐いていた。その背中にはこの世界のイッセーにはない切実な哀愁を感じさせる。

実にマイペースである。

平行世界とは言え、この場には各勢力のトップが集まっているのだ。そんな普通なら壮大な威厳に身を竦めるものだが、まったく二人にはその気配がない。本当に人間なのか疑わしいとリアス達は思ったが、そもそもロキを一方的に叩き潰した『人間』がただの人間であるはずがないと考え治した。直さなければ思考が停止しそうだからだ。

そんなリアス達など気にしない一誠と久遠。この二人のことを認めることにしたサーゼクス達は、改めて二人に問いかける。

 

「証拠も揃っている以上、君達が平行世界の存在だと認めよう。それでなんだが……どうしてこの世界に来たんだい?」

 

まさか侵略しに来たのではないだろうかなど考える輩もいるようだが、その理由を聞いているリアス達は呆れ返るしかない。

そして聞かれた当人達もまた、同じように答えることに多少の飽きを感じつつも答える。

 

「認めて貰えて嬉しいです。では、何故俺達がこの世界に来たのか? それは……」

 

勿体ぶった言い方をする久遠。

そんな久遠にいい加減空腹で苛立って来た一誠が横から割って入った。

 

「一々勿体ぶって遊んでるんじゃねぇよ、久遠。簡単に言やぁ事故だよ。いや、事故なのかもわからねぇけどよ。向こうでアザゼルの野郎が実験に付き合えって言ってきて、その報酬が2000万。こっちはやる気はなかったってのに、久遠の野郎が金がねぇって受けやがったんだよ。挙げ句はアーシアまで抱き込みやがって。そのせいでオレはこうして仕事で実験に付き合わされたってわけだけどよ。飛ばされてみれば煙いは何わ、挙げ句はいきなり犬っコロに襲われるはで踏んだり蹴ったりだ。そいつを吹っ飛ばしたら上空でそいつの飼い主がケンカを売って来たんでリハビリ代わりに買って殺ったんだよ」

 

実に彼らしい言い分に横から入られた久遠は呆れつつも笑う。

だが、その言葉を理解出来るのはこの場で久遠と事前に聞いたリアス達くらいだろう。だからこそ、久遠は一誠の言葉を分かりやすいように翻訳する。

 

「まぁ、コイツの言ってることは主観的過ぎて分かり辛いんで俺からちゃんとした説明を。事の発端は俺達の世界のアザゼル総督が平行世界への転移実験を俺達に持ちかけたことです。俺等はそういった『お偉いさん』の依頼を受けて仕事をする立場なので、向こうじゃそれなりに顔が知られているんですよ。それで依頼の報酬が2000万円。それをちょっとしたことで『リハビリ休養中』だったコイツが渋ってたんですけど、正直コイツと連んでる俺としては収入が二週間もないのは生活苦なんですよ。何で無理言ってその仕事を受けたんです。その結果、あのような場所に転送され、戦闘に巻き込まれたんですよ」

 

その説明を受けてやっと理解したトップの者達は納得すると共に、アザゼルに向けてジト目を向ける。

 

「いや、オレじゃねぇから! いくら何でもその目はあんまりだろ」

 

抗議の声を上げるアザゼル。

皆それは分かっているのだが、それでも向けてしまうのはアザゼルがマッドサイエンティスト染みているからだろう。一誠達が言っていた実験も、この男ならやりかねないと。

そんな雰囲気になりつつも、サーゼクスは話を戻すことにした。

 

「つまり、君達は其方の世界のアザゼルに実験に付き合う依頼をされ、それを引き受けて転送された結果、あの戦闘に巻き込まれたということかい」

「はい、その通りです」

 

サーゼクスの言葉に素直に頷く久遠。

 

「つまり、君達は何か目的があって此方の世界に来たわけではないんだね」

「えぇ、総督の転移実験の披見体として飛ばされただけです。あ、勿論此方の世界に干渉する気はありませんよ。既にちょっとばかしやらかしましたけど」

 

苦笑する久遠に一誠は退屈そうに欠伸をする。

その様子はあまりにも不敬であり、リアス達は気が気では無かった。

 

「帰る手立てはちゃんと在りますし。一応総督曰く、二週間経てば自動で元の世界に転送されるそうです。なのでご心配には及びません。要は二週間の旅行とでも思っていただければ」

「そうか。だが、流石に君達をそのまま放っておくわけにもいかないな」

 

その言葉にリアス達は勿論、久遠にも緊張が走る。

彼の言い分ももっともだ。幾ら本人に意思がなかろうと、そんな神を一方的に討ち滅ぼす力を有している存在を監視も成しに放って置けるわけがない。

その真意がどうなのかを探るべく、一誠がサーゼクスにふっかけようとするも彼はその前に笑みを浮かべながら一誠と久遠に話しかけた。

 

「よろしければだが、二週間をリアス達と過ごしてはどうだろうか? 逗留先も決めていないようだし、下手に出歩くより見知っている土地の方が色々と過ごしやすいと思う。自分で言っては何だが、人間界のイッセー君の家は小さいながらも数多くの人が住んでいる。今更客人が二人増えても変わらないはずだ」

 

その言葉にリアス達は目を剝いた。

何せ彼女達にとって愛しのイッセーとの愛の巣(笑)に存在こそ同じだが別人とその友人が転がり込むというのだから。

ここで流石に駄目だとは、幾ら魔王の身内でも言えない。ちゃんとした監視も意味もあるのだから。

 

「それに、その平行世界の話は私達も興味深い。だが、流石にこんなに堅苦しい場所では楽しめないので、彼の家ならリラックスして聞けそうだ。あそこは身分や立場も関係無く安らげるからね」

 

そう言って笑うサーゼクスだが、リアス達は思いっきり否定したかった。

ただ両親が魔王だとしらないだけで打ち解けた結果であり、魔王の彼を知っている者なら皆畏れ多いと恐々としている。

まぁ、サーゼクス曰く、自分の身分を気にせずに遊びに行ける場所なのだとか。

その話を聞いた一誠と久遠は、よく寄るラーメン屋を思い出していた。あれも彼方の世界のトップがよく来ていたものだ。

つまり、世界は変わろうと重責を負う者は得てして変わらないということだ。

来られる側としては勘弁願いたいこの申し出を久遠と一誠はどうするのか? その視線が集まる中、彼等は口を開いた。

 

「その申し出は有り難い。是非受けさせて貰います」

「早く話終わらせて飯にいこうぜ。勿論、久遠の奢りでな」

「おい、いきなり何言ってんだ。こっちだって金欠なんだから金なんてねぇよ」

「はぁ、ふざけんな! こっちの財布を見てみろよ。下に振ったって20円しか出てこねぇんだよ! 奢れ、この野郎」

「何でそんなにねぇんだよ、万年金欠野郎! 絶対に奢らねぇぞ!」

 

そのまま額をぶつけ合わせ言い争いを始める二人。

そんな二人の様子にサーゼクスや他のトップは肝がでかいと笑った。

 こうして一誠と久遠は人間界にあるこの世界の兵藤 一誠の家に転がり込むこととなった。現在は夏休みで両親が旅行でいないため、丁度良いらしい。

それは良いのだが、当人達であるリアス達は正直また気が飛びかけていた。

どうやら、この夏休みを機に愛しのイッセーとの距離を詰めることは出来そうにない。


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