ハイスクールD×D 赤腕のイッセー   作:nasigorenn

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やっと邂逅した二人ですが、まだまだ比べるのは早そうです。


彼は異世界の彼と出会う その4

 リアス達は再び驚愕していた。

それというのも、目の前に彼女達が恋する『兵藤 一誠』が二人居るからだ。

片方は駒王学園の制服姿だが、あちこちがボロボロで血の跡がくっきりと付いている。本人自身はまったく痛みはないのか、目の前で起こっている事実に困惑しているようだ。

そしてもう片方、それはつい先程までリアス達が束になっても敵わなかった北欧の悪神ロキをたった一人で、それも圧倒的というには酷すぎて一方的に蹂躙し殲滅した一誠が立っていた。彼は目の前にいるもう一人の自分を見て何とも言い辛そうな微妙な顔になっていた。

 

「何で俺がもう一人いるんだよ! お前、一体何なんだ!?」

 

ボロボロの方の一誠は目の前の自分に向かって困惑を隠そうとせずに警戒する。

そんな一誠に対し、此方の一誠はどうするべきかと少し考えているようだ。

まさかいきなり『此方の世界の兵藤 一誠』に会うと思っていなかったのだ。それまでリアスの前で思いっきり暴れていた一誠だが、その目はケンカをふっかけてきたロキ以外には向いていなかったので彼女達には一切気付いていなかった。

だからこそ、こうしてマジマジと同じ姿をした自分を見て、何を言って良いのか分からないようだ。

ここでもう少し頭が回るのならそれなりに言も立つのだが、この男にそういった役割は期待できそうにないということは、あのアーシアでさえ分かりきっていることである。

故に何か言おうにも言葉が浮かばず、それが不審に見えたのかリアス達もやっと思考を追いつかせ警戒を顕わにし始めた。

 

「あなた、一体何者なの! 何故イッセーと同じ姿を!」

「それにその神器、それはイッセー君の赤龍帝の籠手と同じ物? でも、それなら一体どうして……ロンギヌスは一つしか存在しないはず……」

「イッセー先輩と同じ匂い……でも、貴方からは悪魔の気配がしません……」

「あの姿、あれはイッセーの禁手じゃなかった。あれは一体……」

 

いくら彼女達でも、自分達の『兵藤 一誠』がどちらなのかはこうして見比べれば分からなくもないらしい。

その証拠としては、未だに困惑している一誠の服が一つ。その破かれ穿かれた服の部分は、皆が見て居る前でフェンリルに嚙まれた痕だということ。

そしてもう一つは、あの悪神を暴虐的な力で圧殺したもう片方の一誠の姿。あれは彼女達の見た事のない姿であった。

だからこそ、どちらが彼女達の知っている兵藤 一誠なのかというのは比べてみれば良く分かる。それにロキも言っていたが、確かに向こうの一誠からは人間の気配が感じられるのだから、間違えようもないのであった。

冷静になればどちらが彼女達にとって本物なのか? それははっきりとわかり、同時に『偽物』に対して警戒心を顕わにするのも当然のことである。

そんな警戒心を向けられた一誠は、どうにも面倒な気持ちになっていた。

この状況を彼なりに説明するのなら、それはたった一行で済む。

 

面倒事に巻き込まれた。

 

自分から面倒事を起こすのはやぶさかではないが、巻き込まれたというのはあまり好かない。

それを解決しようにも自分の頭では考えるだけ無駄であり、それらを解決するもっとも単純で簡潔な手段をいうものを彼は二つしか持っていない。

 

逃げるか……全部ぶん殴るのか。

 

その二択だけが一誠の選択肢。

厄介な揉め事を解決するのはこの二つしか有り得ない。逃げて関わらないか、厄介な連中を『全部』叩き潰して厄介事そのものを無くすか。

故に彼はそのどちらかを選ぼうとする。

人数は多いが、言っては悪いが全員コカビエルより強そうには思えない。

そんな連中を相手にしたところで『面白そう』ではない。だからこそ、一誠はもう片方を選択しようとしたのだが、その前に『腐れ縁』の相棒が周りに聞こえるように声をかけた。

 

「はいはい、そこまでだご両人。おいイッセー、もうちっとは説明出来るような頭を持とうぜ、このアホ野郎」

 

両者の間に流れる妙な雰囲気は、見た感じが普通過ぎて逆に違和感を感じさせる青年……久遠の手を叩く音で散っていく。

また突然現れた久遠に警戒を更に強めるリアス達だが、先程助けて貰ったこともあって攻撃を行うということはしなかった。

そしてアホ呼ばわりされた一誠は凄く不機嫌そうな顔で久遠に喰って掛かる。

 

「おい、いきなりアホ野郎呼ばわりはどういうことだよ、クソ野郎」

「そのままの意味だろ。お前、あのままほっとけば全員ぶっ飛ばすか面倒になるのが嫌なんでケツまくる所だったろうが。まずは話し合いをするのが基本だろ。それすらしねぇ奴をアホと呼んで何が悪い。アーシアちゃんが知ったら悲しむぞ~、『イッセーさんがご迷惑をかけてすみません』ってなぁ」

「アーシアを出汁にするんじゃねぇよ。しかもアイツはいつから俺の親になったんだっての」

「似たようなもんだろ。こんなお前じゃどっちが保護者なのかわからねぇよ」

「んだと!」

 

そして久遠と一誠は額をかち合わせる。

それは彼等にとっていつもの行動だが、初めて見るリアス達とイッセー達には急に仲違いを始めたようにしか見えず、余計に困惑してしまう。

止めようにもどのような言葉をかければ良いのかわからず、リアス達は二人の様子を見ていることしか出来ない。

そして少ししてやっと落ち着き始めたのか、引き下がった一誠の代わりに久遠が前に出た。その表情は営業時に使っている笑顔であり、見ている相手に良い印象を持たせる物だ。だが、この場では逆に不気味にしか見えない。

 

「まぁ、そう警戒しないでくれないか。こっちはまず手を出されなきゃ出さないってのを約束するからさ。それに、助けてやった相手を今更害する理由はないしね」

 

その言葉に少しむっとするリアスだが、言っていることは確かなので少しだけ警戒を解く。勿論未だに全ては解かないが。

その様子を見て久遠は軽く頷いた。

 

「OKOK、理解していただけるのは有り難い。此方もあまり刺激されるとアイツがまた暴れそうなんでね。其方もアイツには暴れて貰いたくないでしょう」

 

一誠を軽く指差しながら呆れたような物言いでリアスにそう言う久遠。そんな久遠の言葉にリアスは表情に出さないようにするが、顔から血の気が引いていくのを隠せない。

もう一度あの一誠が暴れたら? あの絶対の暴力を直に向けられたら? 彼女達では5分と持たずに全員殺されてしまうだろう。

絶対に敵わない力の差を見せつけられ、彼女達に為す術はない。故にこのお願いという名の『強制』を彼女達は聞き入れざる得ない。

だが、それでも意地を振るい立たせてリアスは久遠に問う。

 

「それで……あなた達は何者なの?」

 

リアスの問いを受けて、久遠はニコリと笑いながら自己紹介を始めた。

 

「何というか、もう一回知ってる人に紹介するのは微妙な気分だな。まぁ、向こうは知ってないんだし、紹介しても損にはならねぇだろ。ってことで、俺の名前は久遠。んであっちで目つきの悪い野郎が兵藤 一誠だ」

 

その言葉にリアス達は当然反応する。

 

「嘘つかないで! あなたの名前はわかったけど、イッセーはこっちにいるあの子だけよ。同じ同姓同名だとしても、あそこまでそっくりなわけないじゃない。その彼は何者なのよ!」

 

その言葉に久遠はわざとらしく手を上げて答えた。

 

「そう言われてもねぇ、こっちも同じ兵藤 一誠なんだがね。寧ろ俺からすれば、そっちの奴こそ『偽物』じゃないのか。俺が知ってる限り、たかだかフェンリル如きにやられる雑魚が兵藤 一誠だとは思えねぇよ。俺が知ってる奴は頭はアレだが腕はピカイチだ。それこそ、魔王だって敵わないくらいになぁ」

 

その言葉にリアスはかぁっと顔を赤くして怒りを顕わにする。

自分達の頂点である魔王を馬鹿にされたのは勿論、可愛い下僕であるイッセーを偽物呼ばわりされたのだ。いくら敵わないとしても許せたものではない。

それはソーナも同じようなものであり、魔王より強いなどと宣うことは許せそうにない。例え本当に実力がそうであってもだ。

そんな上級悪魔二人にその眷属達の視線を浴びて、久遠は実に愉快そうに笑う。

嘲笑うかのように、からかうかのように。

そしてどこまでしようかと考えた所で、それまで成り行きを任せていた一誠は久遠に呆れ帰った声で話しかけた。

 

「そこまでにしておけよ、久遠。弄り概があるからって遊びすぎだっての。このまま弄られちゃ連中と話が進まねぇだろ、このトンマ」

「そう言うなよ。だってこんな機会、早々ねぇんだから少しくらい楽しんだってバチはあたらねぇだろ」

 

少し険呑な雰囲気になりつつあったが、一誠の言葉で本当に面白そうに笑う久遠。

そんな久遠の笑い声にそれまで高まっていた怒気が急にしぼんでいくのを感じたリアス達は呆気にとられてしまう。

それが尚ツボに入ったのか、爆笑し始める久遠。釣られて一誠も可笑しかったのか笑ってしまい、何やら馬鹿にされたような気がしてこちら側のイッセーが二人に向かって叫んだ。

 

「おい、いきなり笑い出して何なんだよ、お前等!! 馬鹿にしてるのか!」

 

それを聞いた二人は軽く手を前に出して悪い悪いと謝る。

その何気ない仕草に馬鹿にしている訳ではないとイッセーは理解し、納得のいかない顔で二人を睨んだ。

 

「悪かったからそんな睨むなよ。こっちとしちゃちょっと面白くてよ」

「そうそう、申し訳無い。少しばかり思うところあってって奴だ。見過ごしてくれると有り難い」

 

そう言って二人は謝ると、改めて久遠は『自己紹介』を始めた。

 

「では改めて……俺の名は久遠。まぁ、見ての通り『ただの人間』だ。んで、そっちが兵藤 一誠。ただの人間……にしちゃぶっ飛びすぎて化け物としか言いようがねぇけどな」

「誰が化け物だ、誰が! 毎回禄でもねぇ仕事ばかり持ってくるお前の何処が『ただの人間』だよ。その気になればアザゼルの野郎の攻撃だって軽く防ぐだろうが」

 

その言葉にぎょっとするリアス達だが、この紹介では先程とまったく変わらない。

彼女達にとって『兵藤 一誠』はこの場にいる唯一無二の存在なのだから。

故に当然抗議を出そうするが、その前に久遠の言葉が遮った。

 

「そして……俺達は『この世界』のモンじゃない。所謂平行世界の旅人って奴だ」

 

ニヤリと笑みを深めながらそう告げる久遠に、その言葉を聞いたリアス達は当然正気を疑った。

目の前にいる男は一体何を言っているのやら。普通なら誰もがそう思い馬鹿にしただろう。

だが、リアス達はそれが出来なかった。久遠の言葉には確かな自信が見えたからだ。

そうでなくとも、その言葉には納得させる根拠に近いものがある。

あれだけの力の持ち主が一切知られていないというのは可笑しなものであり、人間だというのなら三大勢力のいずれかが必ず目を付けているはずなのだから。

しかし、知られていない。誰も目の前にいる人間のことを知らないのだから。

だが、認めたくないとリアスは久遠に問う。

 

「そんな絵空事を信じろと? 証拠も何もないのに?」

 

その言葉に久遠は笑う。

何せリアスが考えていることが見透かせるからだ。

彼女は認めたがってはいないが、それでも認めるに足る充分な証拠を既に知っているのだから。

 

「証拠なら既に見てるだろ? 同じ『兵藤 一誠』っていう証拠をよ。見ただろ……『赤龍帝の籠手』を。あれはこの世に唯一無二の神器だぜ。それがこの場に二つある。いくらアザゼル総督でもロンギヌスの複製は出来ねぇよ。なら、答えは単純だろ。一つしか無いはずの物がこの場に二つあるってことは、そのもう一つは『この世界』ではない別のところから来たって考えるのが妥当だろうさ」

 

そう語る久遠の言葉にリアスは納得せざる得なかった。

彼が言っていることは確かだと。一誠と瓜二つの容姿、悪魔か人間かということの気配の違いはあれど、小猫曰く匂いは同じ。そして全く同じではなかったが、確かに彼女達から見て向こう側にいる一誠も同じ『赤龍帝の籠手』の使い手。それらの情報から、もっとも信憑性が高いのはそれしか有り得ない。

神器の中でもロンギヌスは複製不可の唯一無二の存在。それが二つある以上、その言葉は信じるに値する。

その事実に皆が気付き、向こうのイッセーは信じられないような目を震える指先と共に一誠に向けた。

 

「あ、あんたが、平行世界の俺………」

 

その言葉に一誠は何とも言えない表情で答えた。

 

「どうやらそうらしい。目の前に同じ面の奴がいるってのは不思議なもんだ」

 

その事実を受け止めると共に、リアス達はどうしてこの場にそんな存在がいるのかが気になり、当然聞くことにした。

 

「そんな存在が何であの場所に……」

 

様々な思惑があるのかと危惧しての問いに対し、久遠は実に困ったような声で笑いながら答えた。

 

「別に何かしようと思ってこんな所に来たわけじゃないよ。アザゼル総督の実験を受ける依頼を受けて転送されたら、たまたま運悪くこんな所に飛ばされて目の前に襲いかかって来たフェンリルにウチの一誠が食い付いて暴れたってだけだよ」

「あのクソ総督、何が安全だよ。初っ端からこっちは訳のわかんねぇ冥界に飛ばされるわ、あの犬っころにケンカ売られるわで散々だ」

「その割に楽しそうに暴れてただろうが」

「そりゃ売られたケンカを買ったんだ。暴れなきゃ損だろ」

 

そう言い合いながら笑い合う二人にリアスは頭痛がして仕方なくなってきた。

この二人の言葉から察するに、どうも彼等の言う平行世界のアザゼルが何かしらの理由で二人を此方に転送した。そして飛ばされた二人が出てきた場所が此処で、たまたま運悪く飛びかかってきたフェンリルを迎え撃って、それがケンカを売られたと判断した一誠がケンカを買い、そしてロキもろともぶっ飛ばしたと。

そんな行き当たりばったりであんな大規模で超絶的な破壊を見せつけたのだ。

常識外にも程がある。

そんな彼女に更に久遠は爆弾を実に良い笑顔で投げかけた。

 

「そういうわけで、俺等を魔王様んところに連れて行ってくれないか。詳しく話す必要があるだろ……色々なぁ」

 

その言葉にリアスのそれまであった疲れが極まり、意識が吹っ飛んだ。

 

 


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