ハイスクールD×D 赤腕のイッセー   作:nasigorenn

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今回はとある作品が少しだけ出たりしますよ。


アーシアのドキドキデート その2

 一誠と出掛けられることに喜ぶアーシア。

別に一緒なら何処でも良いと思っていたが、まさか近場のスーパーマーケットに連れてこられるとは思わなかった。

何でこんな所に連れてこられたのか不思議そうに思うアーシアは、取りあえず一誠に話しかける。

 

「あの、お食事の材料のお買い物ですか?」

 

こんな所に来る理由などそれ以外ないだろうと思いそう問うアーシア。そんなアーシアに一誠はニヤリと笑みを浮かべながら返事を返す。

 

「まぁ、そうだよ。ここで今日は欲しいもんが売ってるんだ。そいつが欲しいんだよ」

「そうなんですか」

 

一誠の様子から何か欲しい商品が販売するのだと察するアーシア。

それが普通の買い物だと疑わない彼女は、そのまま一誠の手を引きつつ店に向かって歩き始めた。

 

「それでは、行きましょう! イッセーさんがそう言うということは、きっと人気の品物なんでしょうね。急がないと売り切れちゃいます」

「やる気があるのは結構だ。期待してるぜ、アーシア」

「はい、頑張ります!」

 

そんなアーシアに一誠は満足そうな顔をすると、アーシアに連れられて一緒に店内へと向かって行く。

そう、彼女はまだ知らない。中が途轍もない修羅場と化していることに。

 そして店内に入った瞬間、普段から温厚な彼女でも分かるくらい店内は異常な雰囲気で満たされていた。

 

「イ、イッセーさん、あの、何だか様子が……」

 

この異常な雰囲気にアーシアは身体を震わせる。

まるで目の前に刃物を突き付けられているような、そんな恐怖がわき上がってきた。その正体を彼女は以前から知っている。

それは殺気だ。

読んで字の如く、殺す気のことである。少なくとも、このような場で出ていて良いようなものではない。何故そんな物に満たされているのかが分からず、彼女は一誠の腕にギュッと抱きついてきた。

通常時であれば恥じらい急いで手を離すが、この恐い空気の中では寧ろ一誠にくっついていないと心がへし折られそうだからだ。

そんなアーシアを見て一誠は少し笑うと、頭をポンポンと軽く叩く。

 

「そんなに怖がんなよ。別に殺られるわけじゃねぇって。ただ、ここにいる奴等が全員『敵』ってのは否定しねぇけどなぁ」

「て、敵……ですか?」

 

一誠に頭を優しく触られたことで少しは恐くなくなったのか返事を返すアーシア。それで緊張が少し解れ、今の自分の状態に気付き顔が赤くなっていく。

今のアーシアは一誠に恋人のようにくっついているのだから。

だが、そんな甘い雰囲気などこの場には無意味。それは空気の揺れる感覚を感じた一誠の凄みのある笑みが証明している。

 

「そろそろ時間か…………いくぜ、アーシア。まずは一頑張りだ」

「へ? は、はい!」

 

そのままズンズンと店の奥の方に歩く一誠。アーシアは一誠の手に引かれ、怖がりつつもドキドキしながら共に歩いて行く。

そして一誠が歩みを止めたのは、精肉が販売されている所である。

そこまで共についてきたアーシアは、その場に流れるより濃くなった殺気に身を竦めた。

 

「あ、あの、イッセーさん、何でこんなに皆さん恐いんですか?」

 

若干怖さから涙目になっているアーシア。正直に言えば無理もない。今、この場を満たしている殺気は、それこそ一誠が『仕事』をしている時の感じられるそれと同じくらい濃密なのだから。常人では耐えきれないだろう。

そんな殺気にまみれた雰囲気の中、一誠は凄みを増した笑みで前を見据えていた。

その視線の先に映るのは、とある台車を引きながら此方に向かって歩いてくる店員だ。その台車には何やら高級そうな肉のパックが乗せられている。

そして店員がその場所に着くと、大きな声で叫んだ。

 

「今から特別大サービス! 肉の日の大特価、国産和牛ステーキ肉、300グラムで300円の販売を始めます! お一人様一パック、全部で十点のみの早い者勝ちです、是非どうぞ、お買い得でぇええぇええええす!!」

 

その叫びと共に一誠は動く。アーシアを挽き擦りながら一気に駈け出し叫んだ。

 

「行くぜ、アーシア! この戦場で勝ちによぉおおぉおおおおおぉおお!!」

「え、え、ええぇえええぇええぇえぇええぇえぇえええぇええええ!!」

 

引き摺られるというより足が地に着かないまま引っ張られたアーシアは悲鳴に近い声を上げる。

だが、そんなか弱い彼女の悲鳴は周りの敵……もとい、家庭を支える主婦のおばさま方によってかき消された。

 

「「「「「「おぉおぉおぉおぉおぉぉぉおおぉおお、その肉は私のもんだぁあぁっぁあぁあっぁあぁあっぁあぁあああああああ!!!!」」」」」

 

自分の性別である女を捨てたかのような恥じらいの欠片もない雄叫び。それはまさに肉食獣のように獰猛で、怒れる草食動物のような突進をもって上げられる。

アーシアの目にそれは人間のようには見えなかった。

ただ、人ではない『ナニカ』にしか見えなかった。良くも悪くも、悪魔達が一誠の暴力を見て同じ感想を抱くのと同じ気持になったのだ。こんなお手軽に身近な場所でそんな感情を抱いた彼女は、人の可能性を見ると共に人の欲にまみれた部分を見た気分になった。

そして群がる主婦達。普通に考えれば10名様などあっという間になくなるだろう。だが、誰一人として肉のパックを掴む者はいなかった。

 

「「「「「ぐあぁあぁあぁあぁあぁあぁああっぁああぁああぁああああ!!!!」」」」」

 

そんな叫びと共に先頭に群がっていた主婦が、一気に吹き飛んだ。

 

「えぇぇえぇぇぇええぇええぇええぇえぇぇえぇぇえええぇえええぇええ!!」

 

そんな事態にアーシアは更に驚きの声を上げる。

何で日常生活の場であるここで、一誠が戦うかのように人が吹き飛ぶのか、彼女は驚きで開いた口が塞がらなくなりそうになった。

勿論一誠に引っ張られているこの状態なので、犯人は一誠ではない。

一誠は吹き飛ばされて壁やら床やらに叩き付けられていく主婦達を見て笑みを深めると、そのブースの前で足を止めた。

 

「やっぱりいやがったか………ババァッ!!」

「この耳障りな声は……やっぱりアンタか、坊主!!」

 

一誠の目の前に立っているのは、周りと比較しても明らかに分かる巨体をした一人の女性。年の頃合いは50代に差し掛かろうかという壮年だが、その身から溢れ出す覇気は人のそれでは無い。巨体というのもあってか、間近で見たアーシアには巨大な山のように見えた。

 

「あ、あの、イッセーさん、この方は……」

 

取りあえずそう聞くアーシアに、一誠は目の前の女性から目を離さずにアーシアに答える。

 

「あぁ、このババァはこの界隈じゃ有名な迷惑な奴だよ。誰が呼んだか知らねぇが、人呼んで『駒王町の小覇王』。俺からすれば、毎回特売の度に邪魔しやがるクソババァにしかすぎねぇよ」

 

一誠はそう言いながら軽く拳を構える。

その行為にアーシアは止めようとした。

当然当たり前だ。何せ一誠の拳は異形の者達でさえ叩き伏せるのだから、一般人に手加減して振るったとしても無事では済まない。

だが、彼を止められる訳も無く、一誠の拳は見事にその巨体へと突き刺さった。

しかし、その女性は顔色一つ変えずに一誠の方に顔を向けてニヤリと笑う。

 

「アンタ、女に暴力を振るうなって教わらなかったのかい? それもあたしの胸を触るだなんて、随分としたセクハラしてくれるじゃないか」

「えぇえぇえぇえええぇえぇえええええええええええ!!」

 

その異常事態にもう何度目になるか分からない驚愕の声をあげるアーシア。

女性の胸を触れた事よりも、一誠の拳を受けて平然としているその女性に驚いたのだ。きっとこの光景を見ていたらリアス達など開いた口が塞がらなくなっていただろう。それぐらい衝撃的だった。

そしてセクハラだと言われた一誠は恥じることなく吐き捨てるように返す。

 

「おいおい、あんたみてぇな化け物に女なんて性別が付けられるわけねぇだろ、ババァ。そう見られてぇんだったら、そこを退いて俺に肉を寄越しな。そうすりゃぁ少しは女として認識してやるよ」

「はぁっ、こんな所に女の子連れてるガキに言われたくないし認められようとも思わないね。欲しければ……あたしを倒してその手で奪い取りな!」

 

とてもスーパーでやっているようなやり取りではない。

その間にも女性の陣取っている場所に迫る主婦達だが、その女性の豪腕が振るわれると共に皆吹き飛ばされていく。

アーシアはそんな様子にどうして良いか分からず戸惑い、一誠はアーシアに言葉をかけると共に女性に向かって叫びながら飛びかかった。

 

「上等だババァッ! アーシア、このババァは俺が相手してるからその間に肉頼んだぜ! 二つ持って行って『連れがいるので』って言えば大丈夫だからよ!」

 

一誠の指示を受け、取りあえず動き出すアーシア。

当然その女性の豪腕がアーシアを狙うが、その腕は一誠によって床に叩き付けられ止まる。

そして始まる激戦。その余波だけで周りの主婦は吹き飛び、あっという間に辺りは死屍累々の山が出来上がっていた。

そんな嵐を余所にアーシアは急ぎ足で肉のパックを二つ掴み、店員に言われた通りに話す。

 

「あの、あそこにいる男の人が、わ、私の……家族なので、彼の分も合わせて2パックですけど、大丈夫ですか」

 

言いながら顔を赤らめるアーシア。

乙女心としてはそこで一誠のことを恋人と言いたい所だが、恥ずかしくて家族と言ってしまう。まぁ、事実として一誠とは家族なのは事実なので、間違ってはいない。

アーシアに大丈夫か聞かれた店員は営業スマイルを浮かべながら大丈夫だと答えた。

それはよかったと安心するアーシアだが、逆に落ち着き過ぎている店員に心配になって話しかける。

 

「あの、大丈夫なんでしょうか……この状態……」

 

勿論アーシアの言う状態というのは、この目の前に広がる惨状だ。

普通に考えてどう見ても警察沙汰にしか見えない。そんな異常事態だというのに、店員は変わらない笑顔で丁寧に答えてくれた。

 

「たぶん平気でしょう。当店では良くある光景ですので問題はありません。特売日に集まる主婦の方々や、夕方のお弁当の半額を買いに来る学生の方々などはとても当店を利用して下さるので、当店としても喜ばしいですから。それにお客様は気付いていないようですが、向こうの方を見て下さい。ちゃんと店員がガードを引いておりますので、他のお客様のご迷惑にはならないようにしてますから」

 

店員の言う通りに言われた場所を見ると、確かに他の店員がガードを退いて被害が出ないようにしていた。

それを見たアーシアは、店員に同情の念と共に慰労の言葉を贈った。

 

「ご苦労さまです。凄く大変ですね」

「えぇ、もう慣れましたので……」

 

もう目が笑ってない店員にアーシアは可哀想だと思いながらも一誠に向かって戦果を叫ぶ。

この状態を少しでも押さえるためには誰かがそれを示す必要があったから。

 

「イッセーさん、やりました~~~~~! ちゃんとお肉2パック貰えました~~~~~~!」

 

アーシアの声と共に、それまで戦っていた二人の決着も付いたようだ。

床に店内が揺れるんじゃないかというくらいの衝撃と共に沈む駒王の小覇王。そして立っている一誠は、アーシアに向かって実に嬉しそうな笑みを浮かべた。

 

「良くやった、アーシア! これで今夜はステーキだぜ!」

 

それはもう無邪気な子供のように笑う一誠。

そんな一誠のに胸をときめかせつつ、アーシアは一誠の元に向かうと共にその場を後にした。

 その後もウィンナーの詰め込みセールや他の特売などを二人は熟して手に入れていくが、最初の激戦以降はそこまで衝撃的ではなくアーシアもすっかり慣れて普通に買い物をするようになっていた。

こうしてスーパーの買い出しは終わったが、アーシアは何だか凄いものを見たとこの事を忘れることはないだろうと思った。

そして二人は今度、商店街へと歩いて行った。

その行く先にアーシアは少し心配になったが、今度こそ安全で健全な買い物が出来るだろうと願わずにはいられなかった。

願うなら、一誠と恋人のような買い物が出来る事を望みながら。

 


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