ハイスクールD×D 赤腕のイッセー 作:nasigorenn
でも頑張りますので、応援していただければ嬉しいです。
出来れば、感想も気楽に書いて下さい。
レイナーレからの告白から数日が経ったが、一誠は告白されたことをすっかりと忘れていた。
偽りとは言え女性の告白を覚えていないというのは男としてどうかと思うが、それをこの男に求めるのはそもそもの間違いとしか言いようが無い。
一誠からすれば特売に急ぐ前に立ちはだかった些細な障害くらいにしか思っていないのだから、本当にレイナーレは報われないだろう。
彼にとって日々の生活こそが必死であり、先程のような思春期特有の青春なんてものを感じている余裕が本当にないのだ。
鈍感だとか、唐変木だとか、そんな話ではない。
一誠は『そういったもの』は全て自分とは縁がないものであり関わる気もない、そういう物であると考えている。
だからレイナーレの告白を、路傍の石程度にしか思っていない。つまり気にも留めていない。
そんなことに考えを裂くことなど、一誠がする訳が無いのであった。
そんな一誠だが、現在は街の郊外にある廃墟の前に立っていた。その隣には久遠の姿もある。
「また討伐依頼が来るとは、ついてるねぇ~。そう思わないか、イッセー」
「まぁ、確かにそうだな。討伐とかは報酬が良いし単純にぶっ殺せば良いだけだから楽で助かる」
二人が夜遅く、こんな寂れた廃墟に来ているのは勿論仕事である。
その日の昼頃、屋上にて空腹をドライグとの会話で紛らわせていた一誠に久遠が楽しそうな笑顔で仕事を持ってきたのだ。
数日前に一パック98円の特売卵を手に入れて喜んでいた一誠ではあるが、そんな一パックの卵がそれのみで数日間も長続きするわけもなく、昨夜の晩には全て使い切ってしまった。
そのため、再び食糧無しの状態になった一誠にとって、その話は渡りに船であったのだ。
上機嫌な久遠はそのまま一誠に今回の仕事の内容に付いて話す。
「今回の仕事は前回同様はぐれ悪魔の討伐。報酬は500万とかなり高めだ」
「ってことはそれなりにヤれるってことなんだろ?」
「勿論だ。じゃなきゃそんな金はこねぇよ」
一誠は何も報酬が高ければ何でも受けると言うわけではない。
彼が仕事を受ける基準は、報酬とその危険度、それと自分の納得がいくかどうかだ。
納得がいかなければ、例え一億であろうと受けない。
最終的に一番大切なのは、自分の『力』を存分に振るえるかどうか。そのことに尽きる。
「本来ならグレモリーの姫さんとこに行く所だったんだが、意外に難しかったみたいなんでな。大公がビビって俺の所に持ってきたってわけだ。王様の身内に傷一つでも付けようモンなら、そいつの人生はお先真っ暗だからなぁ」
その話に関して一誠は特に思うことはない。
一誠にとって耳にタコが出来るくらい毎回聞いている話だからである。
寧ろこの街に侵入してきたはぐれ悪魔は専ら一誠が全て片しているのだから、毎回似たような理由を延々と聞かされは辟易してしまう。
「はぐれの名はバイザーっていう女悪魔らしい。ただ聞いた話じゃ、暴走してもうその原型は殆ど残ってねぇってさ」
「そうかい。まぁ、誰であろうと容赦無くぶちのめすまでだ」
一誠の戦意の籠もった返事に久遠は満足そうに笑う。
これも二人のいつものやり取り。とてもこれから命掛けの仕事をしに行くような感じみは見えない。
「そういうことで、イッセー……任せたぜ!」
「あぁっ!」
気合いを入れて一誠は返事を久遠に返すと、そのまま左腕を胸の前に持って行き自分の異能(力)を発現させる。
「ブゥゥゥッステッッドォッギアッッッッッ!!」
その叫びと共に一誠の左腕は手甲を纏いその形を変えていく。
その輝きが収まると、そこには赤い鎧に包まれた左腕が現れた。
その左腕そ装着された籠手こそ、一誠の神器、『ブーステッドギア』である。
この形態はその力の片鱗にしか過ぎないのだが。ブーステッドギアを展開した一誠はそのまま地面に向かって拳を振るう。
拳が地面に激突した瞬間、爆発したかのような衝撃と轟音が轟き、一誠の身体を廃墟へ向かって飛ばしていく。
これは一誠がよく使う移動方であり、地面などを殴りつける反動で跳んでいる。その方が徒歩よりも速く移動出来るからである。
一誠はそのまま廃墟の壁まで飛んで行く。
だが、そこにあるのは壁であり空中で移動する術を持たない一誠では壁に叩き付けられてしまう。
一誠は跳んだまま左腕を上げると、
「あぁああああああああああああああっぁぁぁあああああああああああぁぁぁ!!」
咆吼を上げながら左拳を壁に向かって叩き付けた。
それにより大きな音を立てて壁は粉砕され、そのまま廃墟内に一誠は侵入する。
通常であればこんな入り方をすれば相手に気付かれるものだが、そこは気にしない。
一誠は隠密行動で何かをしに来たわけではないのだから。
そのまま中に侵入して辺りを見渡す一誠。
辺りは暗く何も見えない。だが、確かに……その気配は感じた。
それを証明するように、一誠に妖しい声がかけられる。
『良い匂いがするなぁ。美味しそうだわぁ。苦いのかな? 甘いのかな?』
声の先を振り返ると、暗闇の中に裸の女性が立っていた。
美しい黒髪に大きな乳房、くびれた腰は雄を魅了して止まないであろう。ただ一つ可笑しなことがあるとすれば、それは上半身から下が見えないことだろうか。
暗闇の所為で見え辛いだけなのかもしれないが。
思春期の男なら目が釘付けになる光景に、一誠は特に感情を浮かべることなく問いかける。
「なぁ、あんた。バイザーって名前で合ってるのか?」
その問いに女性はしばし沈黙した後、返事の代わりに全身を表した。
本来ならば下半身があるであろう場所は、そこから歪で巨大な異形の肉体となっていた。
女性の上半身はその肉体の頭に当たる部分になっていたのだ。
バイザーはその異形の身体を使い、一誠へ襲い掛かる。
『何故その名を知っているっ! さては貴様、エクソシストだなぁああぁあぁああああああああぁあああぁあああぁあああ!』
悪魔を狩る人間とは基本的に悪魔払い(エクソシスト)しかいない。
だからこそ、バイザーは自分を滅ぼしに来たエクソシストだと一誠を判断した。
そうでなければ、バイザーの名を知ることなどないのだから。
最早元の原型から離れ理性が壊れつつあるバイザーにそういった判断がついたことに若干驚く一誠であるが、それだけだ。
叩き潰すことに変わりは無いのだから、多少頭が回ろうと関係無い。
巨大な足が振り下ろされ、一誠を踏みつぶす。
その威力はは凄まじく、一誠が立っていた場所から数メートルに渡り廃墟の床が粉砕された。
どう考えても致命傷。人間なら即座に原型の残らない肉塊になっていただろう。だが……。
「何だよ……この程度で500万? おいおい、冗談だろ」
バイザーの足下から笑い声が聞こえてきた。
それは落胆の声。期待が裏切られて残念でしかたない、そんな声である。
『何っ!?』
声が聞こえたことでバイザーが驚愕する。
例え悪魔払いを生業とする人間でも、その防御力は人間のそれとあまり変わらない。
だから、この一撃を喰らえば、いくらエクソシストであろうと死んでいるはずなのだ。
それなのに生きている。それどころか、笑ってすらいるというのだから驚かざる得ない。
バイザーは焦りながらその笑い声を消そうと床を粉砕した足に力を込める。
だが、足は少しも動かない。
「こんなつまんねぇ仕事を回しやがって。久遠に後でラーメンでも奢って貰わなきゃ割に合わねぇよ」
それどころかバイザーの足は徐々に上へと押し上げられていく。
その足の下には、左腕で足を防いでいる一誠がいた。
あの踏みつけに対し、一誠は何気ない仕草で左腕を上に出し防御。
その衝撃が一誠を駆け巡るが、大したダメージもなくそのまま床にめり込んでいった。そこから這う出つつバイザーの足を押し上げていったのだ。
その事実に危険だとバイザーの本能が警告を発する。
だが……もう遅い。
「そういうわけだ。手前ぇはとっとと潰れろっ!」
一誠の咆吼と共に、踏んづけていたバイザーの足は根元から千切れ飛んだ。
少し宙を舞った後に、ぐちゃりと音を立てて床に落ちてきた。
その音を聞いて、バイザーはやっと自分の足が千切れたことに気付いた。
「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!?」
途端に走った激痛に声にならない悲鳴を上げるバイザー。
その咆吼は廃墟を揺さぶり聞く者全てに恐怖を与える。
一誠は悲鳴を聞きながらニヤリと獰猛に笑うと、更に地面を左手で殴りつける。
再び粉砕される床。そして反動でバイザーに向かって一誠は跳ぶ。
「もう一本もらったぁあぁああああぁああああああああああああああああああ!!」
破壊の本能を向き出しにした咆吼を上げながら空中で身体を捻り回転する一誠。
その遠心力を加算した拳がバイザーの無事なもう片方の足に吸い込まれるように入る。
拳はそのままバイザーの肉を潰し、骨を砕き、皮を千切り裂く。
一誠が拳を振り切ると、もう一本の足も本体から千切られ、床に倒れた。
足を失ったバイザーは立つことが出来なくなり床を壊しながら倒れ込む。そこをすかさず一誠は近づき、左腕を振りかぶる。
「らぁあぁあぁああああぁああああああああああああああああ!!」
思いっきり振るった左拳がバイザーの身体を捕らえる。
拳がめり込み、体内の肉を潰していく感触が伝わってくる。
その感触に笑みを深めながら一誠は拳を振り抜き、バイザーの巨体を廃墟の壁へと吹っ飛ばした。
壁に突っ込み破壊するバイザー。その目はつい先程の殺気立った目ではなくなっていた。
生命の危機に晒され、ただひたすら恐怖する。
侮っていた人間にこうも一方的にやられるとは思っていなかった。
屈辱。
だが、それ以上に生命の危機に恐怖した。
この男から逃げたいと。戦う以前の問題だと。
先程まで驕っていたことを吐いていた口から、今度は命乞いの言葉を吐こうとする。
だが、その言葉を吐く前に一誠の攻撃は止まらない。
ブーステッドギアが装着された左腕は勿論、何も装着していない右腕でも殴りかかる。
双方ともその威力は凄まじく、バイザーは抵抗すら許されずに殴られる続ける。
肉が弾け、骨が砕ける。巨腕が折れ曲がり、血を噴出させながら千切れ飛ぶ。
その身体はもう元の原型を残さない。赤黒い血を噴き出し、肉は腫れ上がり、砕けた骨が飛び出す。
最早虫の息となったバイザーは縋るように一誠に残っている千切れかけの頭の部分の手を伸ばす。その人形も最早ボロボロであり、大きな乳房は破裂して無くなっており、両手は千切れ飛んでいた。
一誠はそんなバイザーを見て、無慈悲に拳を振り上げる。
「こいつで終わりだ。ジッとしてれば痛くは……ねぇええええええぇええぇええええええええええええええぇえええぇえええ!!」
振るわれた拳がバイザーの顔に入り、その弩級の威力でバイザーの身体を纏めて弾け飛ばした。
ミンチの様になり四方に散ったバイザー。もうその場にバイザーは居なくなり、残ったのは正体不明の血肉のみ。
「これで終わりか……つまんねぇな」
そう呟き一誠は帰ろうとする。
だが、そこで残っていた廃墟の扉が開かれ中から何者かが飛び出した。
「待ちなさい!」
稟と通った美しい声。
その声に一誠が振り向いた先には、紅い髪をした長髪の女が部屋に入ってきた。
この地の管理者であるリアス・グレモリーである。
それ以外にも駒王学園の有名人が幾人も入って来た。
リアス・グレモリーと双璧を成す二大お姉様、姫島 朱乃。
一誠と同じ学年で女子生徒の注目の的、貴公子と名高い木場 祐斗。
一学年で可愛らしいマスコットとして有名な塔城 小猫。
計四人、駒王学園ではその名を知らぬ者はいない有名人達である。
勿論、ただの有名人ではなく、全員悪魔ということも一誠は知っている。
リアスは一誠を警戒しつつも声をかける。
「さっきのはぐれ悪魔をやったのはあなたよね?」
質問の形を取っているが、それは事実確認の意味を成さない。確定していることを聞いただけである。
その問いに一誠は軽く答える。
「だったら……どうする?」
一誠を注意深く見ていたリアスはそこで気付いた。
暗かろうが、悪魔の視力なら闇夜も昼間同然に見える。
その視力が捕らえたのは二つ。
一つ、着ている服が駒王学園の制服だということ。
顔はうつぶせているので見えないが、確かに駒王学園の生徒であろうということ。
二つ、その血に汚れていた左腕に装着されていた籠手が『赤い』ことに。
つまり……。
「あなた……『赤腕』ね」
やっと探していた人物を見つけられたということ。
その問いに対し一誠はやれやれをいった様子で両手を挙げる。
「誰かが勝手に付けた奴だろ、そいつは。自分から名乗った記憶はねぇよ」
「あら、そうなの。この二つ名、凄く有名だからてっきり気に入ってるのかと思ったわ」
挑発するかのように笑うリアスに、一誠は止めてくれと言わんばかりに手を振る。
その様子を見つつ、リアスは本題を話し始める。
「私の名はリアス・グレモリー。グレモリー家の命の元、この地を管理している者よ。さっそくで悪いんだけど、貴方にはこれ以上こういった化け物の相手をするのを止めて貰いたいのよ。それは私達の仕事だから、取られ続けていると私の面目に関わるの。わかる?」
その返答に一誠はくっくっく、と笑いを押し殺しながら答えた。
「断る。何せこいつは稼ぎが良いし、何より思いっきり暴れられる。そいつを取られるのはこっちだってきついからなぁ。文句があるんなら俺じゃなくて、俺に仕事を仲介してる奴か、仕事を頼んだ依頼人にでも言ってくれ」
拒絶の意をはっきりと示す一誠。
笑っている理由は、この茶番に付き合っていて笑いを堪える我慢が出来なかったからだ。
「そう、なら……しかたないわね」
一誠の反応にリアスは交渉が決裂したことを悟る。
交渉が失敗すれば、後することは一つしか無い。
「どうするんだ、俺を?」
「聞いてもらえないなら……力尽くで聞かせるしかないじゃない、祐斗ッ!」
「はい、部長!」
リアスの命の元、後ろに控えていた木場 祐斗が常識では計れない程の速度で飛び出す。
それが木場 祐斗が与えられた役割の駒『騎士(ナイト)』の特性……高速移動である。
だが、祐斗が一誠に虚空から出現させた剣で斬り掛かるよりも早く、一誠は動いていた。
「なら、逃げさせて貰うぜっ!!」
左腕を力一杯振り上げ、床に向かって殴りつける。
その瞬間、爆発するかのように爆ぜる床。
打撃の反動を利用して一誠は祐斗よりも早く廃墟の天井へと飛び上がっていた。
そのまま天井を突き破り、更に外の外壁にもう一撃加えて廃墟から離脱する。
その一連の動作を見ていたリアス達は呆気にとられたが、急いで気を取り直した。
「祐斗、今から追いかけられる?」
「すみません、部長。たぶん無理です。彼は僕より速いです。きっと今から追いかけても逃げられてしまいます」
申し訳無いと謝る祐斗にリアスは少しばかり肩を落とす。
別に祐斗に落胆したわけではなく、リアスの配下一速い祐斗が追いつけなければ、だれも追いつけないと分かっているからだ。
探していた人物に逃げられたことでへこむリアスは改めて辺りを見渡すが、凄惨な有様になっていた。無事な床は一つも無く、壁は彼方此方倒壊し至る所に血肉が飛び散っていた。
正常な人間なら正気を失う光景が広がっている。
そんな中、リアスは砕け巨大なクレーターが出来上がっている床にある物を見つけた。
それに近づき拾いあげる。
「これは………生徒手帳?」
そのまま中身を開くと、彼女は先程の気落ちした顔から一転し不敵な笑みを浮かべ始めた。
「へぇ、そうなの……『兵藤 一誠』かぁ」
その名を呟きながら彼女は廃墟から眷属と共に去って行く。
その胸に落ちていた手帳を抱きしめながら。