ハイスクールD×D 赤腕のイッセー   作:nasigorenn

49 / 73
これで久遠との出会いは終わりです。


久遠という男について その2

 彼がその男のこと意識し調べた。

男の名は一誠。名字はありはするが名乗るようなことはせず、ここ数年前から裏街道で仕事を始めているらしい。

その強さは若いなりに目を惹くものがあり、ここ最近頭角を現したルーキーとして周囲の期待がかけられていた。

だが、本人はそのようなことは一切気にすることなく、高額で危険度の高い仕事を率先して受けては熟している。その成功率はほぼ100パーセント。ただし、被害を度外視そなければならないほどに破壊を撒き散らす。

そのため同業者からは憎まれ口を叩かれているようだが、嘗めてかかった者は全員『悲惨』の一言に尽きる目に遭わせられ、故に危険人物としても名が通っていた。

 

曰く、キレさせたら何をしでかすか分からない奴だと。

 

周りからの評価を聞けば力に取り憑かれたような人間にしか聞こえない。

それだけなら兄と一緒だが、彼……久遠には少しばかり引っかかっていることがあり、兄のように同じ愚か者だとは思えなかった。

だからこそ、彼はこの一誠という男をより綿密に調べることにした。

得意である様々な術を用いて最上級悪魔でさえ気付かないほどの隠行の術を行使し、その男を尾けることにしたのだ。

そして知った。

裏では力を用いて猛威を振るい、向かう敵全てを粉砕する危険人物だが、表では自分が暮らしている孤児院で年長者として子供達の世話を焼いているということを。

孤児院の経営は危うく、それを彼が手に入れた金でどうにかしているという実情を。

裏では暴君、表では苦労人。

暴力と優しさ。その反面しあう物を抱えながらも両立している。

その二面性があまりにも久遠には可笑しく見え、彼の兄とは全く違う人間だということが良く分かった。

見ていてハラハラさせつつも飽きない。それが一誠を尾けていて分かったこと。

だが、久遠にとって、この男はそれに収まるような存在ではなかった。

一誠を尾けて何日か経った頃の事。

裏路地を突き進んでいた一誠は途中で足を止めた。

周りには何もなく、何故足を止めたのかは分からない。何か落ちていたんだろうかと思った久遠だが、次に発せられた言葉とゾクりとくるような殺気を浴びせられそうではない事に気付かされた。

 

「………テメェ、何時まで尾けてやがる」

「っ!?」

 

一誠は振り返りながら虚空に向かって殺気を放ちながらそう言う。その視線の先には久遠がいた。

勿論、最高の隠行術で姿形は勿論、気配さえ感じさせないはずなのだ。如何に優れた魔術師だろうと魔王と同等の力を持つ悪魔だろうと気付けるものではない。

だというのに、一誠はそれに気付いた。

その怒りの籠もった瞳は完全に久遠を捕らえていた。

まさかバレると思わなかった久遠は驚き、それを新鮮に感じ笑みを浮かべながら姿を現した。

 

「おいおい、まさかこんなに早くバレるとは思わなかったよ」

 

まるで空間を歪め、空いた虚空から姿を現す久遠。

周りから見れば目を剝いて驚愕し恐怖するような不気味さを醸し出しながら姿を顕した。

そんな久遠に対し、一誠は驚く事もせずに睨み付ける。

 

「いつからも何も、つい数日前から付きまといやがって。手ぇ出してくるんだったら容赦無くぶん殴ろうと思ってたんだが、何もしてこねぇ! だから放っておいたが……何もしねぇで付きまとっているだけと来やがった。テメェ、何が狙いだよ!」

「へぇ~、こりゃマジで驚いた。アンタ、本当に人間か? 俺の隠行はそれこそ、魔王でも気付かれないと自負してたんだがね」

「テメェからはくせぇ臭いがすんだよ。キナくせぇペテン野郎の臭いがなぁ」

 

一誠の物言いに素直に驚き感心する久遠。

一誠が久遠に気付いたのは、一誠の磨き上げられた第六感が久遠の存在を感じ取ったかららしい。

人間ではまず有り得ないようなことを平気で無意識に行う一誠。

そんな一誠に久遠は更に笑みを深めた。

目の前の男はただの『力を振るう者(馬鹿)』ではないらしい。

しかも久遠のことをペテン師だと言ってのけた。表立って力を発揮せず、裏側からばれないように力を使う久遠は、見る人から見れば力がまったくないようにみせるペテン師のように感じられるだろう。それを一目で言い当てたのだ。

久遠という男が途轍もない程に力を持った存在だと。

だからこそ、久遠は更に一誠という人間を知るためにわざと発破をかける。

この男をもっと知るために。

 

「いや、何。最近裏で随分と調子こいてヤリまくってる奴がいるって聞いたんでね。どんな奴か見てみようと思ったんだよ」

 

ニヤリと意地悪そうな笑みを浮かべる久遠。

対して一誠は自分が測られていることを察しつつ、口元を歪めて笑いながら久遠に問いかけた。

 

「で、あんたから見て俺はどうなんだい?」

「まだ全部見たわけじゃないけど……少しがっかりしたよ。かなり周りの奴等が騒いでるからどんな奴かと思ったが……この程度か」

 

実際にそんなことは思っていないが、この挑発を受けて一誠が向かってくるということは分かっている。だからこそ、久遠は態とらしく呆れて見せた。明らかに一誠を怒らせるために。

そして当然、この短気な男が挑発に乗らないということはない。

 

「へぇ~、そうかい。そりゃまた随分と上から見下してくれやがる。そんな口叩くんだ。かなり自信があるんだろうなぁ、えぇっ!!」

 

もう完全に戦る気な一誠。そんな一誠に久遠は更に笑みを深めると、実に愉快そうに笑いながら答えた。

 

「なら見せてみろよ。お前さんの力って奴をよ」

「上等ッ!!」

 

久遠の挑発に一誠は咆えることで答えると、その力の象徴たる赤き籠手を左腕に展開した。

 

「いっくぜぇぇぇえぇえええぇええええ! 赤龍帝の籠手ッ!!(ブーステッド・ギア)」

 

そして地面にその赤い左拳を叩き着けると、その途端に地面に大きなクレーターが出来上がり、一誠の身体は弾丸の様に久遠に向かって真っ直ぐと弾け飛んだ。

その加速を充分に乗せた拳を一誠は叫びながら久遠に向かって振りかぶった。

 

「おおおぉおおぉおおぉおおぉおおぉおおぉおぉおおおおおぉおおおおお!!」

 

目の前に向かってくる一誠を見て、久遠はニヤリと笑いながら結界と防御陣を張る。それは幾重にも重なり合い、互いに互いが支え合うようにして組み込まれた彼独自の楯。その防御は彼の兄の術を一切通さなかった。

 

「来いよ! そいつを待ってた!」

 

そして一誠の赤い拳と久遠の楯がぶつかった瞬間、周りに向かって発生した衝撃が走り壁を破壊していく。

 

「ぐっぅうぅううううううううぅうううううううううう!!」

 

拮抗する拳と楯。

一誠はその壁を壊さんと唸り、久遠は笑いながらも拳から伝わってくる感触に内心で冷や汗を掻く。

 

(おいおい、これは上級悪魔の攻撃でさえ完璧に防げるんだぞ。しかも兄貴でさえ敗れなかったもんだってのに、一撃でそいつを超えて俺の手に力を入れさせるとか……どんだけヤバイんだ、コイツッ!!)

 

そして一誠は弾かれるように後ろに下がり、久遠も少し身を引いた。

自慢の拳が防がれたことに不満を隠そうとせず舌打ちをする一誠。久遠は表情に出さないように不敵な笑みを浮かべつつも、掌から感じるヒリヒリとした感触に心を震わせる。

 

「どうした、お前さんの自慢の拳はその程度かよ」

「そういうテメェは一撃もしかけねぇくせに良く言うぜ。むかつく余裕か?」

 

互いに挑発し合い、集中を乱そうとするが二人は感情を揺さぶられることはない。

 

「俺は防御が専門でね、攻撃はからっきしなんだ。そんな奴に防がれたなんて、癪かい?」

「いいや、そいつは結構だ。だったらテメェのそのご自慢の楯、ぶっ壊させてもらうぜ!」

「やってみろよ、そのご自慢の拳(笑)でな」

「抜かせよっ!」

 

そして再び拳を久遠に向かって振るう一誠。

勿論久遠の楯はそれでも破けない。

だが、久遠は内心で高揚感を感じていた。

今まで感じていた退屈が今はまったく感じられない。少しでも力を抜こうものなら、その拳は即座に自慢の楯を打ち砕くだろうことが容易に想像出来た。

今まで絶対に安全であったはずの自分が今、脅威に晒されている。

それが久遠には堪らなく興奮させた。

今までに無い、初めての感情。初めての焦り。初めて恐怖。

それは久遠の心を占め、歓喜すら湧き上がらせていた。

掌は気付かれないようにしているが、既に皮膚は裂け始め血がにじみ出す。

その痛みが尚も久遠の心を刺激し、一誠に期待が籠もっていく。

初めてあった、自分の退屈を吹き飛ばせる奴。それは、自分の最高の楯を破れる奴でなくてはならない。

そして遂にその可能性を持つ者が現れたのだ。

だからこそ、久遠の心は躍った。

 

「おいおい、もっと来いよ! 俺の楯をぶっ壊すんだろ・ だったら見せてくれよ、その本気って奴をよぉ」

 

段々と上がってくる一誠の拳の威力に期待を高めつつ、もっと打ち込んでこいと煽る久遠。

一誠はその煽りを受けて、何かを決め込んだような顔をした。

 

「いいぜ……だったらぶち込んでやるよ! 俺の、とっておきって奴をよぉ!!」

 

そして一誠の身体から赤いオーラが吹き荒れた。

 

「ドライグ、ぶっ放すぞ!」

『おぉっ!』

 

その叫びと共に左腕の宝玉が光り輝き始める。そして鳴り出すは、人工的な音声。

 

『Boost、Boost、Boost!』

 

その音声と共に籠手は輝きを増し、一誠は攻撃的な笑みを浮かべて地面を殴り付けた。

 

「いっくぜぇぇえぇえぇえぇええええぇええぇえぇえぇええええええ!!」

 

飛び上がると、身体から吹き荒れるオーラがまるで推進力のように一誠の身体を加速させていく。

そして一誠は身体を回転させながら叫んだ。

 

「ドラグゥゥウウゥウウウウ、ブリッドォオォォオォオォオオオオオオオオ!!」

 

赤い流星と化した一誠はそのまま久遠へと突撃する。

そのあまりの迫力に久遠は目を見開き、自分が出せる術の中でも最高位の物を幾つも使い、それこそ兄の攻撃を余裕で防いだ物なんかとは比べものにならないくらい強固で絶対的な楯を作り出した。

 

「おぉおおぉおおぉおぉおおおぉおおおおぉおおおぉおおおおおおおお!!」

 

無意識に久遠は咆吼を上げていた。

目の前に迫る、今までに無い超絶的な威力の攻撃を前にして彼は興奮し叫びながら構える。

そして激突した瞬間、轟音が轟き空気が震え上がった。

火花を散らせながら互いにせめぎ合う拳と楯。

久遠が今まで出して来た中で、最強の防御を誇る楯。だが、その最強の楯でさえ………。

 

「オォオォオォオォオォオオォオォオォオオオオオオオォオオオオオオオッ!! やっぶれろぉおぉおおぉおおぉおおぉおぉおおぉおおお!!」

 

一誠の叫びと共に、砕け散った。

そして突き進んだ拳は久遠の手を逸れて背後にあった壁にぶつかり、壁を倒壊させると共に止まった。

 

「よぉ、どうだい? ご自慢の楯、ぶち破ってやったぜ!」

 

一誠は久遠に振り返りながらそう言う。

久遠はと言えば、耐えきれなかった威力の残滓で手を血で真っ赤に染めながら地面に大の字で倒れていた。

だが、その表情は苦しみや悔しさといったものを感じさせない。

 

「………っ……くっくっく………あっははっはは!! いやぁ~、参った参った! まさかこうも見事にぶち破られるとは思わなかったぜ! 流石は『赤腕』ってところかアンタ、最高だよ!」

 

寧ろ楽しくて嬉しくてたまらなく久遠は笑い出した。

その様子に一誠は怪訝そうな顔をしながら久遠の元に歩いて行く。

もう戦う意思はないということを感じ取ったのか、殺気は消えていた。

そして一誠を見て、久遠は腹の底から笑うと共に、一誠に話しかけた。

 

「なぁ、あんた、俺と組まないか! 俺はこれでも仲介屋なんだよ。だからあんたが退屈しないようなとびきり面白い仕事を持ってきてやるよ」

 

それに対し、一誠はつまらなさそうな顔で久遠の真意を問う。

今まで一誠と組もうと言い出す者達は多かったが、その多くは一誠が若いことを利用して騙し、利益だけをかすめ取ろうとする者達ばかりだった。だからこそ、一誠は誰とも組まず、一人で仕事を請け負ってきたのだ。

だが、久遠の答えはそのどれとも違う答えだった。

 

「何で誘うかって? そりゃあ決まってんだろ! あんたと組めば、きっと退屈しそうにねぇからだよ」

 

その答えを受けて、あまりの堂々とした物言いに一誠は笑った。

 こうして久遠と一誠は組むことを決め、その後は共に仕事を熟す相棒となっていく。

それから始まった腐れ縁は今も続き、彼等はまた仕事をするのだろう。

これが久遠が一誠と組んだ始まり。

 これ以降、久遠は色々な理由で退屈するようなことはなくなった。

 




次は珍しく、一誠とアーシアの話を書こうと思います。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。